大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第19回「鱗の置き土産」

 今回は、序盤の重要人物だった鱗形屋孫兵衛と蔦屋重三郎の和解が描かれました。部外者から見ると、鱗形屋孫兵衛は重三郎にとって愛憎相半ばするというか、むしろ罠にはめられて以降はほぼ憎悪の対象になるのではないか、とも思えますが、本作の重三郎は器の大きいところがあり、孫兵衛を深く恨んでいる様子がありません。孫兵衛は鱗形屋を畳むことにして、版権やお抱え作家的存在である恋川春町(倉橋格)の行先も、重三郎抜きに決められていきます。

 恋川春町は鶴屋喜右衛門のお抱えと決まりますが、春町は鶴屋から作風が古いと言われています。重三郎は吉原の有力者から春町を引き抜けないか、と提案されますが、春町は孫兵衛から重三郎の悪評を聞いているためか、重三郎を敵視していることは、すでに第12回で描かれていました。そんな春町と重三郎を結びつけたのは孫兵衛で、孫兵衛の重三郎への印象を変えたのは須原屋市兵衛でした。こうしたこれまでの人間関係の描写を踏まえて、新たな展開につながっていくところは構成がしっかりとしているな、と改めて思います。孫兵衛は死んだわけではないので、瀬以(花の井、五代目瀬川)とともに再登場を期待しています。

 注目されるのは、絵は(修行を積めば)上手くなるが、絵には「味」があり、それは天分かもしれない、との喜多川歌麿(捨吉、唐丸)の発言です。本作で東洲斎写楽がどのように描かれるのか、まだ予想が難しいところですが、本作の写楽は、絵が抜群に上手いわけではないものの、「味」がある絵を描くのかもしれません。幕閣政治では、将軍の徳川家治が、自分の嫡男だった家基の死を含めて一橋治済が怪しいことに気づいており、徳川吉宗の後継問題から続く因縁を断ち切ろう、と決断したところも注目されます。一橋治済の人物像の全容はまだ描かれておらず、これまでの作風からは、単なる権勢欲で自分に都合の悪い人物を次々と殺害しているわけではない、と予想していますが、どうなるでしょうか。

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