『サイエンスZERO』「最新報告 古代DNAで迫る 日本人の来た道」
国立科学博物館特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」で、石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡で発見された27000年前頃の男性人類遺骸(4号人骨、白保4号)のゲノム解析に成功した、と紹介されていたので、たいへん注目していましたが(関連記事)、NHK教育テレビの『サイエンスZERO』で取り上げられると知り(公式サイト)、視聴しました。国立科学博物館特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」の図録以上の情報が公開されるのか、注目していましたが、DNAの抽出および解析技術は図録よりもずっと詳しく解説されており、これはよかったと思います。
白保4号のゲノム解析結果を解説したのは神澤秀明氏で、国立科学博物館特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」にはNHKが深く関わっているようですから、解説の人選も的確なのでしょう。白保4号と現代日本人の遺伝的な共通性は数%と神澤氏が説明すると、司会の井上咲楽氏が、白保4号(により表される集団)が日本人の祖先なのか、と神澤氏に尋ねましたが、神澤氏は、祖先とは断定できないものの、つながりがある可能性は考えられる、と答えていました。ここは専門家らしく、一般向けの番組でも慎重な回答になっており、よかったと思います。
神澤氏は具体的なゲノム解析についても、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)で調べた、とやや詳しく解説していました。白保4号のDNAデータから20万ヶ所のSNPが得られたことは、図録でも言及されていましたが、神澤氏も改めて指摘していました。現代人のゲノム解析では通常、124万ヶ所のSNPが分析対象となりますが、古代人では通常、そこまで高品質なデータは得られず、白保4号は北緯24度と比較的低緯度の石垣島で発見された27000年前頃の個体ですから、やはり快挙だと思います。
白保4号は「縄文人」の遺伝的構成の約半分と密接に関連する集団を表している、と図録では解説されていましたが、この番組でも改めて、その点が指摘されていました。つまり、「縄文人」の遺伝的構成要素の約半分は、白保4号によって表される集団とは異なる集団に由来するわけです。その異なる集団について図録では、アジア北東部の古代人集団と推測されていましたが、この番組でも、2022年にノーベル生理学・医学賞を授与された(関連記事)スヴァンテ・ペーボ(Svante Pääbo)氏が改めて、「縄文人」はアジア北東部の古代人と遺伝的に関連している、と指摘していました。
では、具体的にはどのアジア北東部の古代人なのか、気になるところですが、図録でもこの番組でも明らかにされておらず、残念でした。まあ、古代ゲノムデータが得られているアジア北東部古代人となると、現時点ではかなり限定されており、北京の南西56km にある田園洞窟(Tianyuan Cave)で発見された、現代人の主要な祖先ではなさそうな男性個体(田園洞個体)的な集団(Mao et al., 2021)か、アジア北東部の現代人の主要な祖先集団と比較的近縁な19000年前頃のアムール川流域の個体(Mao et al., 2021)でしょうか。また、白保4号はその発見場所から、アジア東部南方の古代人との関係も注目されます。
縄文時代のイヌのゲノム解析も取り上げられており、その査読前論文(Terai et al., 2023)について以前Twitterで言及したこともありましたが、まだ学術誌で刊行されていないようです。この研究によると、縄文時代のイヌのゲノム解析から、「縄文犬」は独特な系統で、ニホンオオカミ系統からの遺伝的影響を9.5%ほど受け、「縄文犬」関連祖先系統は現代のイヌの主要な祖先系統の一部になっている、と推定されていました。イヌの起源については世界的に関心が高いようなので、こちらの研究も注目されます。この番組では、期待したような新情報は提示されませんでしたが、一般向けとして内容は良質だったと思います。新情報については、そのうち放送されるだろう国立科学博物館特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」関連のNHKスペシャルで明かされることを期待しています。
参考文献:
Mao X. et al.(2021): The deep population history of northern East Asia from the Late Pleistocene to the Holocene. Cell, 184, 12, 3256–3266.E13.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.04.040
関連記事
Terai Y. et al.(2023): Genome analysis of the Jomon dogs reveals the oldest domestic dog lineage in Eastern Eurasia. bioRxiv.
https://doi.org/10.1101/2023.09.29.560089
白保4号のゲノム解析結果を解説したのは神澤秀明氏で、国立科学博物館特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」にはNHKが深く関わっているようですから、解説の人選も的確なのでしょう。白保4号と現代日本人の遺伝的な共通性は数%と神澤氏が説明すると、司会の井上咲楽氏が、白保4号(により表される集団)が日本人の祖先なのか、と神澤氏に尋ねましたが、神澤氏は、祖先とは断定できないものの、つながりがある可能性は考えられる、と答えていました。ここは専門家らしく、一般向けの番組でも慎重な回答になっており、よかったと思います。
神澤氏は具体的なゲノム解析についても、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)で調べた、とやや詳しく解説していました。白保4号のDNAデータから20万ヶ所のSNPが得られたことは、図録でも言及されていましたが、神澤氏も改めて指摘していました。現代人のゲノム解析では通常、124万ヶ所のSNPが分析対象となりますが、古代人では通常、そこまで高品質なデータは得られず、白保4号は北緯24度と比較的低緯度の石垣島で発見された27000年前頃の個体ですから、やはり快挙だと思います。
白保4号は「縄文人」の遺伝的構成の約半分と密接に関連する集団を表している、と図録では解説されていましたが、この番組でも改めて、その点が指摘されていました。つまり、「縄文人」の遺伝的構成要素の約半分は、白保4号によって表される集団とは異なる集団に由来するわけです。その異なる集団について図録では、アジア北東部の古代人集団と推測されていましたが、この番組でも、2022年にノーベル生理学・医学賞を授与された(関連記事)スヴァンテ・ペーボ(Svante Pääbo)氏が改めて、「縄文人」はアジア北東部の古代人と遺伝的に関連している、と指摘していました。
では、具体的にはどのアジア北東部の古代人なのか、気になるところですが、図録でもこの番組でも明らかにされておらず、残念でした。まあ、古代ゲノムデータが得られているアジア北東部古代人となると、現時点ではかなり限定されており、北京の南西56km にある田園洞窟(Tianyuan Cave)で発見された、現代人の主要な祖先ではなさそうな男性個体(田園洞個体)的な集団(Mao et al., 2021)か、アジア北東部の現代人の主要な祖先集団と比較的近縁な19000年前頃のアムール川流域の個体(Mao et al., 2021)でしょうか。また、白保4号はその発見場所から、アジア東部南方の古代人との関係も注目されます。
縄文時代のイヌのゲノム解析も取り上げられており、その査読前論文(Terai et al., 2023)について以前Twitterで言及したこともありましたが、まだ学術誌で刊行されていないようです。この研究によると、縄文時代のイヌのゲノム解析から、「縄文犬」は独特な系統で、ニホンオオカミ系統からの遺伝的影響を9.5%ほど受け、「縄文犬」関連祖先系統は現代のイヌの主要な祖先系統の一部になっている、と推定されていました。イヌの起源については世界的に関心が高いようなので、こちらの研究も注目されます。この番組では、期待したような新情報は提示されませんでしたが、一般向けとして内容は良質だったと思います。新情報については、そのうち放送されるだろう国立科学博物館特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」関連のNHKスペシャルで明かされることを期待しています。
参考文献:
Mao X. et al.(2021): The deep population history of northern East Asia from the Late Pleistocene to the Holocene. Cell, 184, 12, 3256–3266.E13.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.04.040
関連記事
Terai Y. et al.(2023): Genome analysis of the Jomon dogs reveals the oldest domestic dog lineage in Eastern Eurasia. bioRxiv.
https://doi.org/10.1101/2023.09.29.560089
この記事へのコメント
そのうち放送されるだろう、「古代DNA ―日本人のきた道―」関連のNHKスペシャルで、白保4号についてかなり情報が明かされるのではないか、と期待しています。