哺乳類の外耳の進化

 哺乳類の外耳(耳介)の進化に関する研究(Thiruppathy et al., 2025)が公表されました。進化の過程で新しい構造がどのように出現するかは、生物学における古くからの関心事です。その一例が、哺乳類の中耳の小さな骨が祖先の魚類の下顎骨からどのように生じたのか、ということです。対照的に、哺乳類の別の新機軸である外耳の進化的起源については、それが化石にほとんど残らない非鉱物化弾性軟骨によって支持されていることもあり、まだ明らかにされていません。外耳が、新規変異(de novo変異、親の生殖細胞もしくは受精卵や早期の胚で起きた変異)で出現したのか、それとも祖先的な発生プログラムの再利用によって生じたのかは、これまで不明でした。

 本論文は、外耳の遺伝子調節プログラムが、その初期の形成とその後の弾性軟骨の発達の両方において、魚類および両生類の鰓のものと同じであることを示します。ヒトの外耳とゼブラフィッシュの鰓の比較単一核マルチオミクス解析によって、保存された遺伝子発現と、共通の転写因子結合モチーフに富むエンハンサーと推定されるものが明らかになりました。これは、ヒト外耳のエンハンサーが魚類の鰓で、また、魚類の鰓のエンハンサーがマウス外耳で、それぞれ種を超えて活性を示すことに表れています。

 さらに、カブトガニの軟骨性書鰓の単一細胞マルチオミクス解析では、DLX(distal-less homeobox、ディスタルレス・ホメオボックス)を介した脊椎動物の鰓のプログラムと共通の発生プログラムが明らかになり、書鰓のディスタルレスエンハンサーは、ゼブラフィッシュの鰓で発現を引き起こしました。本論文は、無脊椎動物の鰓のプログラムの複数の要素が脊椎動物で再利用されて、最初に鰓が、次いで外耳が生み出された、と提案します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:鰓の遺伝子調節プログラムの転用による外耳の進化

進化学:哺乳類の外耳の起源は魚類の鰓にあり

 外耳(耳介)は哺乳類に特有の構造である。その進化的起源は謎であったが、今回、外耳に見られる一種の弾性軟骨が、魚類の鰓にも認められる遺伝子調節プログラムに従って発生することが示され、この組織の起源が共通であることが示唆された。



参考文献:
Thiruppathy M. et al.(2025): Repurposing of a gill gene regulatory program for outer-ear evolution. Nature, 639, 8055, 682–690.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08577-5

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