前期完新世の海水準上昇

　前期完新世の海水準上昇に関する研究（Hijma et al., 2025）が公表されました。前期完新世の最終退氷期の最終段階における相対的な海水準上昇の速度は、温暖化する気候下での将来の氷の融解と海水準変動を理解する上で重要となります。こうした速度についてのデータは乏しく、これが、前期完新世の全球海水準上昇に対する北アメリカ大陸と南極の氷床の相対的寄与に関する知見を制限しています。

　本論文は、北海（ドッガーランド）の88カ所の海水準データ点（13700～6200年前頃）に基づく、前期完新世の海水準曲線を提示します。ユーラシア氷床の融解により引き起こされた地域的な氷河性地殻均衡のパターンを取り除いた後に残った海水準の信号は、海水準上昇の2段階の加速を浮き彫りにしています。北アメリカ大陸と南極の氷床を起源とする融解水が、10300年前頃と8300年前頃に最大値を有しており、速度が8 mm yr−1と9 mm yr−1の間にある、この2段階を駆動しました。

　本論文は、11000～3000年前頃の全球の平均海水準上昇が37.7 m（2σ範囲で29.3～42.2 m）に達することを示しており、これによって、氷床復元に基づく全球平均海水準上昇の見積もりとこれまで限定的だった前期完新世の海水準データの間に存在した不整合が解決しました。北海のデータセットは、時間空間的な範囲が広いため、北アメリカ大陸と南極の氷床の後期退氷のパターンと速度に重要な制約を与えており、これによって気候変動に対する地球システムの応答についての理解が深まります。完新世初期における農耕牧畜の開始や人類の移動など、人類進化史の観点でも注目される研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


気候科学：北海の泥炭が明らかにした前期完新世の全球海水準上昇

気候科学：前期完新世の全球海水準上昇

　今回、北海における海水準指標の密なネットワークを用いて、完新世における2段階の急速な海水準上昇が明らかにされ、その速度は共に現在の速度の約3倍以上であったことが示されている。


参考文献：
Hijma MP. et al.(2025): Global sea-level rise in the early Holocene revealed from North Sea peats. Nature, 639, 8055, 652–657.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08769-7