コイサン人の複雑な人口史

 アフリカ南部のコイサン人(Khoe-San、略してKS)の複雑な人口史について、先月(2025年3月)20日~23日にかけてアメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア市で開催された第94回アメリカ生物学会(旧称はアメリカ自然人類学会)総会で報告されました(Edington et al., 2025)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P46)。

 現在の南アフリカ共和国の人口の遺伝的多様性は、ヨーロッパの植民地化とオランダの東インド奴隷貿易によって大きく形成されてきました。先行研究はコイサン人の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)における勾配を示してきており、ケープタウンから遠い個体ほどより高い割合のコイサン人祖先系統を有しています。しかし、この勾配に沿ったコイサン人(KS)集団とコイサン人の子孫(Khoe-San descendent、略してKSD)集団との間の遺伝的つながりは、依然としてよく理解されていません。この研究は、ケープタウン外のKSとKSDの集団間の関係と、この植民の中心地からの植民地拡大のゲノムの影響を特徴づけます。

 この研究では、イルミナ(Illumina)社のH3アフリカ配列を用いて、高い割合のKSの祖先系統を有する827個体が標本抽出され、約200万ヶ所のSNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)にわたってこの827個体が遺伝子型決定されました。MOSAICを用いて、混合時期が推定され、南カラハリ砂漠とリフタスフェルト(Richtersveld)の集団において8~12世代前からヨーロッパ人との混合が見つかり、これはそうした地域におけるヨーロッパ人の最初の恒久的入植と一致します。SPRUCEを用いて、この地域全体で共有されている同祖対立遺伝子(identity-by-descent、略してIBD)への環境および地理的要因の影響も調べられました。その結果、最高温度と平均降水量がKSとKSDの集団における有効移動率の差異の33%を説明する、と分かりました。さらに人口史を調べるために、祖先系統固有の有効人口規模(asIBDNe)が推定され、IBD網を用いて、KSとKSDの集団間の遺伝的多様性および関係が評価されました。これらの結果は、コイサン人集団がケープから強制退去されたパターンと一致し、KSとKSDの遺伝的構造へのヨーロッパ人の植民かの持続的影響を浮き彫りにします。


参考文献:
Edington S. et al.(2025): Investigating the complex demographic history of Khoe-San descendent populations in South Africa. The 94th Annual Meeting of the AAPA.
https://doi.org/10.1002/ajpa.70031

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