『卑弥呼』第148話「動き」
『ビッグコミックオリジナル』2025年5月5日号掲載分の感想です。前回は、日下(ヒノモト)国の吉備津彦(キビツヒコ)が、宍門(アナト)国の豊浦(トヨラ)で山社(ヤマト)連合軍が上陸したところで全滅させようと考えていたのに、山社の日見子(ヒミコ)であるヤノハがその策に乗らなかったため、自分は日見子と勝手に勝負して勝手に負けたのだ、と自嘲したところで終了しました。今回は、遼東半島の襄平で、ヤノハとは旧知の何(ハウ)がゴリと会っている場面から始まります。ゴリは1年間かけて、公孫淵から預かった書簡をヤノハに届け、ヤノハからの書状を公孫淵に届けるため襄平に戻ってきたわけです。ヤノハは公孫淵宛の書状で、「半年以内に2000名を派兵し、残りの48000名は確実に2年以内に送る」と嘘を述べていました。その話をゴリから聞いた何は、その嘘は無駄になった、公孫淵は魏からの独立を諦めたようだ、と残念そうに言います。公孫淵は謀叛が発覚しそうになって、呉から来た3人の使者を斬首し、魏に送ったようだ、というわけです。その話を何から聞いたゴリは、納得したように頷きます。ヤノハの予測が当たった、というわけです。殺された呉の3人が引き連れていた1万人の兵はどうしたのか、とゴリに問われた何は、なぜか大人しく撤退した、と返答します。主君が殺されて戦わなかったのは妙ではないか、とゴリに指摘された何は、疑問を抱いたようです。何によると、斬首された呉の使者の名は張弥(チョウヤ)と許晏(キョアン)と賀達(ガタツ)ですが、この3人の顔を見たことがあるか、とゴリに問われた何は、重要人物なので見たことはない、と答えます。ゴリは、ヤノハとのやり取りを回想します。ヤノハは、公孫淵が魏を欺くため、呉の使者を斬首する、と予測していましたが、公孫淵が魏から独立するためには、呉からの援護が不可欠なのに、呉を怒らせるようなことをするだろうか、とゴリは疑問に思っていました。呉の3人の使者の顔を見たか、ヤノハに問われたゴリは、公孫淵にとって重要人物なので、見るわけがない、と答えます。するとヤノハは、同じ城塞内の人でも見たことがないのに、魏の皇帝や大司馬(国防長官)が3人の顔を知らないのは当然なので、別人の首でも魏には気づかれないはずで、自分ならば、科人の孫か、独立に異を唱える重臣の首を、呉の3将軍と偽って魏に差し出す、とゴリに説明します。この話をゴリから聞いた何は、賈範(カハン)と綸直(リンチョク)と李の3人が公孫淵の独立策に反対していたが、最近顔を見ない、と気づきます。
山社では、ミマト将軍など重臣が、日下国の動きをヤノハに説明していました。日下は金砂(カナスナ)国の邑々から大勢の民を拉致し、日下に連行しており、日下の吉備津彦(キビツヒコ)の意図が何なのか、ミマト将軍に問われたヤノハは、日下にもう一つの出雲を造るつもりなのだろう、と推測します。サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)以来、日下国の謀事は壮大かつ天才的で、日下は占領した民の記憶、つまり神話すら書き換えようとしており、おそらく、九州から追われたサヌ王が日下を侵略したさいに、日下に元々いた神を天照様の子もしくは孫と偽って、神話に組み込んだのだろう、というわけです。つまり、出雲も同じで、大穴牟遅神(オオアナムヂノカミ)を須佐之男(スサノオ)様の義理の息子とでもするのではないか、というわけです。山社が日下との戦いに敗れたら、何を強いられると思うか、とミマト将軍の息子であるミマアキに問われたヤノハは、同じ神々を信じているので、改竄した神話を信じるよう強制するだろうし、あるいは山社の民も連行され、日下に山社が造られることになるかもしれない、とヤノハ推測します。暈(クマ)国の状況をヤノハから問われたイクメは、暈国全土は完全に復興し、民は大夫である鞠智彦(ククチヒコ)に絶大な信を置いている、と答えます。ヤノハは、鞠智彦が後継ぎを迎えて本当に優しくなったようだ、と考えます。ミマアキによると、その取り子(養子)が、民の幸せを一番に考えてほしい、と鞠智彦に進言したそうです。ミマト将軍の娘であるイクメによると、暈の民はもとより戦人まで、鞠智彦の取り子は将来、日見彦(ヒミヒコ)となる逸材と囁き合っているそうです。その取り子が民に慕われていることを知ったヤノハは、その子の力で鞠智彦から野心を削ぎ取ってほしい、と考えます。
襄平では、ゴリが何に、ヤノハがどう動くよう指示したのか、尋ねます。何はヤノハから、襄平の近くにいる有力な官吏を探すよう、指示されていましたが、あくまでも公孫一族に批判的な人物を選ぶよう、念押しされていました。何は当初、洛陽に行って魏の皇帝に直接謁見するよう指示されていましたが、後でヤノハから密かに別の指示を受けたわけです。つまり、いきなり魏の皇帝に謁見するのではなく、皇帝の信頼が厚い人物を頼るわけです。何はすでにその人物の目星もつけており、それは毌丘倹でした。毌丘倹は襄平の隣の遼隧(リョウスイ)県に駐屯した、次期幽州刺史です。
加羅(伽耶、朝鮮半島)の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)では、トメ将軍がトモとともに、ヒホコから借りた馬で騎乗の訓練をしていました。中土(中華地域のことでしょう)の戦人は馬上で槍や剣を自在に使いこなすそうなので、倭人も騎乗を習得しなければならないわけです。トモは穂波(ホミ)国の重臣の息子で、父親は日下と通じていましたが、息子は穂波国のヲカ王、さらには山社連合の盟主としての日見子(ヤノハ)に忠誠を誓っているようで、ミマアキの親友です。ヒホコは、現在は吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)と呼ばれている目達(メタ)国のスイショウ王より駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)を命じられた一族で、勒島で邑長を務めています。ヒホコはトメ将軍の指示で、倭軍の200艘の舟を、韓(朝鮮半島)本土の目立たない港に隠していました。ヒホコは、ヤノハからの指示に従って、現在は公孫一族の支配下にある帯方郡の太守に目星をつけていました。公孫一族の支配下の人物を信用できるのか、トメ将軍は疑問に思いますが、それは現実の力関係によるもので、魏の皇帝から公孫一族に代々託された領地は遼東郡のみだ、とヒホコは説明します。公孫淵は呉の将軍3人を斬首した手柄で、楽浪郡の太守も兼任することになりましたが、魏に認められた公孫淵の管轄地は依然として遼東郡と楽浪郡のみで、帯方郡は異なるわけです。帯方郡の太守は、公孫淵の力による領土拡大に激怒しており、魏の皇帝には何度も、公孫一族に謀叛の兆しがある、と上奏していました。ヒホコから話を聞き、トメ将軍はその帯方郡の太守に賭けることを決断します。ヒホコは、その帯方郡の太守が劉昕であることをトメ将軍に伝えます。
山社では、ミマアキがヤノハに、なぜ中土に送った戦人の中に自分が加えられなかったのか、訪ねていました。この中土への派遣軍の総大将は那(ナ)国のトメ将軍で、副官はオオヒコと穂波国のトモなので、今からでも自分を加羅に送って欲しい、とミマアキはヤノハに願い出ます。するとヤノハはミマアキに、近いうちに中土に渡ってもらうが、それは戦人としてではなく、別のもっと重い役目だ、と伝えます。ヤノハがミマアキに、魏と公孫淵の戦が終わる前に中土に使者を派遣するが、以前言ったように、ミマアキには使節の中心になってもらう、と伝えるところで今回は終了です。
今回は、魏への遣使のためのヤノハの思惑がかなり明かされました。ヤノハが遼東郡に派遣した2000名の兵士がどのような役割を果たすのか、まだ明かされていませんが、基本方針は伝えつつも、信頼するトメ将軍に現地で臨機応変に対応してもらうつもりなのでしょうか。毌丘倹や劉昕など、魏の人物も具体的に言及されるようになり、いよいよ本作の山場の一つであろう魏への遣使が近づいてきたようですから、ヤノハが公孫淵をどう陥れるのかも含めて楽しみです。司馬懿はまず間違いなく登場するでしょうから、どのような人物として描かれるのかも気になるところです。
注目されるのは、ヤノハが日下の特徴として、占領地に自分たちの神話を押しつけ、書き換えことを挙げている点です。現在の記紀の内容からは、日下が最終的に山社連合を征服した、という展開になることも予想されます。一方で、四道将軍の一人である吉備津彦命は、本作では日下の王族である吉備津彦として登場しており、その出自は『日本書紀』の系図通りの設定のようですが、四道将軍の一人である大彦命を想起させるオオヒコは山社の軍人です。また、ミマアキの名は、崇神天皇、つまり御間城入彦五十瓊殖天皇を想起させます。そのため本作では、日下が山社連合を征服する、といった単純な展開にはならず、暈国が後の熊襲ならば、日下と山社連合の統合によって、すでに本作でも描かれている纏向遺跡と思われる地帯に壮大な都が築かれ、暈国を除いた倭国の統一が実現することになるのかもしれません。
鞠智彦が迎えた養子とは、ヤノハとその弟であるチカラオ(ナツハ)との間の息子で、そのことを知らずにヤノハを深く恨んでいるヤエト(ニニギ)でしょうから、この設定が本作終盤では大きな意味を有することになりそうで、注目しています。倭国内は、山社連合と暈国と日下連合の三国鼎立状態といった感じで、これは大陸が『三国志』の時代であることから着想を得た設定なのかもしれません。大陸の三国のうち、本作で最も詳しく描かれるのが魏であることは間違いありませんが、呉は公孫淵と深く関わっていますし、鞠智彦は呉への使者派遣も考えており(第118話)、呉の紀年銘の銅鏡が兵庫県宝塚市の安倉高塚古墳で発見されているだけに、呉もやや詳しく描かれるかもしれず、この点も注目しています。ますます壮大な話になってきて、今後の展開もたいへん楽しみですが、残念ながら次号は休載のようです。最近は休載が増えてきた感もあり、まだ完結までかなり時間を要しそうなだけに、やや心配ではあります。
山社では、ミマト将軍など重臣が、日下国の動きをヤノハに説明していました。日下は金砂(カナスナ)国の邑々から大勢の民を拉致し、日下に連行しており、日下の吉備津彦(キビツヒコ)の意図が何なのか、ミマト将軍に問われたヤノハは、日下にもう一つの出雲を造るつもりなのだろう、と推測します。サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)以来、日下国の謀事は壮大かつ天才的で、日下は占領した民の記憶、つまり神話すら書き換えようとしており、おそらく、九州から追われたサヌ王が日下を侵略したさいに、日下に元々いた神を天照様の子もしくは孫と偽って、神話に組み込んだのだろう、というわけです。つまり、出雲も同じで、大穴牟遅神(オオアナムヂノカミ)を須佐之男(スサノオ)様の義理の息子とでもするのではないか、というわけです。山社が日下との戦いに敗れたら、何を強いられると思うか、とミマト将軍の息子であるミマアキに問われたヤノハは、同じ神々を信じているので、改竄した神話を信じるよう強制するだろうし、あるいは山社の民も連行され、日下に山社が造られることになるかもしれない、とヤノハ推測します。暈(クマ)国の状況をヤノハから問われたイクメは、暈国全土は完全に復興し、民は大夫である鞠智彦(ククチヒコ)に絶大な信を置いている、と答えます。ヤノハは、鞠智彦が後継ぎを迎えて本当に優しくなったようだ、と考えます。ミマアキによると、その取り子(養子)が、民の幸せを一番に考えてほしい、と鞠智彦に進言したそうです。ミマト将軍の娘であるイクメによると、暈の民はもとより戦人まで、鞠智彦の取り子は将来、日見彦(ヒミヒコ)となる逸材と囁き合っているそうです。その取り子が民に慕われていることを知ったヤノハは、その子の力で鞠智彦から野心を削ぎ取ってほしい、と考えます。
襄平では、ゴリが何に、ヤノハがどう動くよう指示したのか、尋ねます。何はヤノハから、襄平の近くにいる有力な官吏を探すよう、指示されていましたが、あくまでも公孫一族に批判的な人物を選ぶよう、念押しされていました。何は当初、洛陽に行って魏の皇帝に直接謁見するよう指示されていましたが、後でヤノハから密かに別の指示を受けたわけです。つまり、いきなり魏の皇帝に謁見するのではなく、皇帝の信頼が厚い人物を頼るわけです。何はすでにその人物の目星もつけており、それは毌丘倹でした。毌丘倹は襄平の隣の遼隧(リョウスイ)県に駐屯した、次期幽州刺史です。
加羅(伽耶、朝鮮半島)の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)では、トメ将軍がトモとともに、ヒホコから借りた馬で騎乗の訓練をしていました。中土(中華地域のことでしょう)の戦人は馬上で槍や剣を自在に使いこなすそうなので、倭人も騎乗を習得しなければならないわけです。トモは穂波(ホミ)国の重臣の息子で、父親は日下と通じていましたが、息子は穂波国のヲカ王、さらには山社連合の盟主としての日見子(ヤノハ)に忠誠を誓っているようで、ミマアキの親友です。ヒホコは、現在は吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)と呼ばれている目達(メタ)国のスイショウ王より駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)を命じられた一族で、勒島で邑長を務めています。ヒホコはトメ将軍の指示で、倭軍の200艘の舟を、韓(朝鮮半島)本土の目立たない港に隠していました。ヒホコは、ヤノハからの指示に従って、現在は公孫一族の支配下にある帯方郡の太守に目星をつけていました。公孫一族の支配下の人物を信用できるのか、トメ将軍は疑問に思いますが、それは現実の力関係によるもので、魏の皇帝から公孫一族に代々託された領地は遼東郡のみだ、とヒホコは説明します。公孫淵は呉の将軍3人を斬首した手柄で、楽浪郡の太守も兼任することになりましたが、魏に認められた公孫淵の管轄地は依然として遼東郡と楽浪郡のみで、帯方郡は異なるわけです。帯方郡の太守は、公孫淵の力による領土拡大に激怒しており、魏の皇帝には何度も、公孫一族に謀叛の兆しがある、と上奏していました。ヒホコから話を聞き、トメ将軍はその帯方郡の太守に賭けることを決断します。ヒホコは、その帯方郡の太守が劉昕であることをトメ将軍に伝えます。
山社では、ミマアキがヤノハに、なぜ中土に送った戦人の中に自分が加えられなかったのか、訪ねていました。この中土への派遣軍の総大将は那(ナ)国のトメ将軍で、副官はオオヒコと穂波国のトモなので、今からでも自分を加羅に送って欲しい、とミマアキはヤノハに願い出ます。するとヤノハはミマアキに、近いうちに中土に渡ってもらうが、それは戦人としてではなく、別のもっと重い役目だ、と伝えます。ヤノハがミマアキに、魏と公孫淵の戦が終わる前に中土に使者を派遣するが、以前言ったように、ミマアキには使節の中心になってもらう、と伝えるところで今回は終了です。
今回は、魏への遣使のためのヤノハの思惑がかなり明かされました。ヤノハが遼東郡に派遣した2000名の兵士がどのような役割を果たすのか、まだ明かされていませんが、基本方針は伝えつつも、信頼するトメ将軍に現地で臨機応変に対応してもらうつもりなのでしょうか。毌丘倹や劉昕など、魏の人物も具体的に言及されるようになり、いよいよ本作の山場の一つであろう魏への遣使が近づいてきたようですから、ヤノハが公孫淵をどう陥れるのかも含めて楽しみです。司馬懿はまず間違いなく登場するでしょうから、どのような人物として描かれるのかも気になるところです。
注目されるのは、ヤノハが日下の特徴として、占領地に自分たちの神話を押しつけ、書き換えことを挙げている点です。現在の記紀の内容からは、日下が最終的に山社連合を征服した、という展開になることも予想されます。一方で、四道将軍の一人である吉備津彦命は、本作では日下の王族である吉備津彦として登場しており、その出自は『日本書紀』の系図通りの設定のようですが、四道将軍の一人である大彦命を想起させるオオヒコは山社の軍人です。また、ミマアキの名は、崇神天皇、つまり御間城入彦五十瓊殖天皇を想起させます。そのため本作では、日下が山社連合を征服する、といった単純な展開にはならず、暈国が後の熊襲ならば、日下と山社連合の統合によって、すでに本作でも描かれている纏向遺跡と思われる地帯に壮大な都が築かれ、暈国を除いた倭国の統一が実現することになるのかもしれません。
鞠智彦が迎えた養子とは、ヤノハとその弟であるチカラオ(ナツハ)との間の息子で、そのことを知らずにヤノハを深く恨んでいるヤエト(ニニギ)でしょうから、この設定が本作終盤では大きな意味を有することになりそうで、注目しています。倭国内は、山社連合と暈国と日下連合の三国鼎立状態といった感じで、これは大陸が『三国志』の時代であることから着想を得た設定なのかもしれません。大陸の三国のうち、本作で最も詳しく描かれるのが魏であることは間違いありませんが、呉は公孫淵と深く関わっていますし、鞠智彦は呉への使者派遣も考えており(第118話)、呉の紀年銘の銅鏡が兵庫県宝塚市の安倉高塚古墳で発見されているだけに、呉もやや詳しく描かれるかもしれず、この点も注目しています。ますます壮大な話になってきて、今後の展開もたいへん楽しみですが、残念ながら次号は休載のようです。最近は休載が増えてきた感もあり、まだ完結までかなり時間を要しそうなだけに、やや心配ではあります。
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