ホモ・フロレシエンシスの骨盤形態の比較

 ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の骨盤形態と他の人類との比較について、先月(2025年3月)20日~23日にかけてアメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア市で開催された第94回アメリカ生物学会(旧称はアメリカ自然人類学会)総会で報告されました(Lewton et al., 2025)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P99)。ホモ・フロレシエンシスは、インドネシア領フローレス島で発見された後期更新世の人類遺骸群を表しており、その直接的な祖先集団もしくは祖先集団ときわめて近縁な集団を表していると考えられる、70万年前頃の人類遺骸も発見されています(関連記事)。

 現在のインドネシア東部の後期更新世の小柄な人類種であるホモ・フロレシエンシスの発見の20年前の発表以降、系統発生や食性や脳の大きさや頭蓋後方(首から下)の機能的形態を含めて、その古生物学的側面についておびただしい研究がありました。しかし、その骨盤と歩行運動への影響に関する研究は、比較的少なかったです。この研究は、微細CT(computed tomography、計算断層写真術)走査な由来するデータおよび広範な鮮新世~更新世の人類の状況内な位置づけられるデータを用いて、ホモ・フロレシエンシスの模式標本であるLB1の骨盤の最初の包括的な形態計測分析を提示します。

 ヒトとアフリカの類人猿と25点の化石人類の骨盤の標本で、この研究は直線と角度のある骨盤の形質を定量化し、腸骨フレアおよび腸骨下部長など、ホモ・フロレシエンシスの歩行運動への機能的洞察を提供するはずである特徴に焦点を当てます。形態計測および相対成長的仮説が、クルスカル・ワリス(Kruskal-Wallis)検定と主成分分析(principal component analysis、略してPCA)と最小二乗回帰を用いて統合されました。単変量解析では、LB1のすべての骨盤の特徴(座骨の長さを除きます)は現代人が示す差異の範囲内に収まる、と論証されます。多変量解析では、LB1はアウストラロピテクス属とホモ属との間に位置するものの、更新世のホモ属標本であるKNM-ER 3228(ケニアで発見された195万年前頃の寛骨)およびKNM-WT 15000(ケニアで発見された160万~150万年前頃の全身骨格)に最も近い、と明らかになります。

 LB1の骨盤はアウストラロピテクス属との類似性を示しますが、本論文の結果から、LB1は以前の記載よりヒト的であることを示唆します。ホモ・フロレシエンシスの頭蓋後方(首から下)における祖先的形質と派生的形質の混合は機能的推測を難しくしていますが、骨盤のみの結果から、ホモ・フロレシエンシスにおける二足歩行のヒト的な形態は除外されません。ホモ・フロレシエンシスの起源というか系統樹における位置づけについて、アウストラロピテクス属に近い系統の人類から進化したのか、アジア南東部のホモ・エレクトス(Homo erectus)から進化したのか、議論が続いており、この問題の決着にはまだ時間がかかりそうです。


参考文献:
Lewton P. et al.(2025): Functional implications of comparative morphology of the pelvis of Homo floresiensis. The 94th Annual Meeting of the AAPA.
https://doi.org/10.1002/ajpa.70031

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