カガノミハチ『アド・アストラ スキピオとハンニバル』全13巻(集英社)
漫画に詳しくなく、近年では面白そうな作品を検索することもほぼなくなったので、2018年に完結した本作の存在すら長く知りませんでした。昨年(2024年)本作を知り、電子書籍で全13巻を読みました。本作は第二次ポエニ戦争を描いており、ハンニバルとスキピオ(大スキピオ)の二人が主人公です。冒頭では第一次ポエニ戦争の終結が描かれ、ハンニバルはまだ子供ですが、すでに才能を周囲に見せており、それ以上に「感情がない」ことで父親(ハミルカル・バルカ)からも怖れられている存在です。
本作のハンニバルは「怪物」で、ハンニバルに匹敵するローマ側の唯一の人物がスキピオとされていますが、ハンニバルが序盤から完成された「怪物」であるのに対して、スキピオは当初、才能の片鱗を見せながら、未熟なところも少なくはなく、カンナエの戦いなどでハンニバルに度々負け、ハンニバルから学ぶことで成長していきます。上述のように本作の主人公はスキピオとハンニバルですが、全体的にはスキピオの成長譚としての性格が強く、その意味ではスキピオ寄りの構成になっている印象を受けました。
ポエニ戦争について詳しくないため、本作の描写のどこまでが創作なのか、確信があるわけではありませんが、ザマの戦いの前にスキピオとハンニバルが対面したり、スキピオがシラクサで身分を偽ってアルキメデスに接触したことなどは、さすがに創作でしょうか。それらも含めて歴史上の有名人との絡みや友情など、娯楽歴史漫画として工夫されているところがあり、全体的に楽しんで読み進められました。人物造形も、主要人物がきょくたんに単純化されておらず、敗将についても、浅慮や驕りは確かに強調されているものの、それにとどまらない深みも描かれていることが多く、創作として深みもあります。
カトーや後にヌミディア王となるマシニッサといった、第三次ポエニ戦争の勃発直前もしくは直後まで生きた長命の人物の若い頃の描写も楽しみの一つになっており、カトーの方は作中で重要な役割を担っていませんが、平凡な人物が社会規範と意志の力で大物に成長したことを窺わせるような描写で、登場場面はほとんどありませんが、興味深い人物造形でした。マシニッサは作中でも重要人物で、長命で晩年まで精力的だったらしいことから、「怪物」的で強かな人物との印象を抱いていましたが、本作における若き日のマシニッサは、そうした人物に成長することを強く予感させる人物造形でした。
本作がどこまで描いているのか、事前には知らずに読み進めましたが、少なくともザマの戦いまでは描かれるだろう、と予想しており、じっさいザマの戦いが終盤の山場となりました。ザマの戦いの後もハンニバルとスキピオは生き続けるものの、その後の人生が幸福だったとは言い難いので、ザマの戦いの後が描かれるのかも気になっていましたが、スキピオもハンニバルも不遇な中での最期が描かれました。それでも、スキピオの方は妻や仲間に見守られながらの最期だったのに対して、ハンニバルは追跡されての服毒自殺で、もの悲しさもあります。主人公のスキピオとハンニバルはもちろん、登場人物の個性がよく描かれており、楽しめました。作者の長編作は検索しても他に見つかりませんでしたが、できれば歴史ものの長編を再び描いてもらいたいものです。
本作のハンニバルは「怪物」で、ハンニバルに匹敵するローマ側の唯一の人物がスキピオとされていますが、ハンニバルが序盤から完成された「怪物」であるのに対して、スキピオは当初、才能の片鱗を見せながら、未熟なところも少なくはなく、カンナエの戦いなどでハンニバルに度々負け、ハンニバルから学ぶことで成長していきます。上述のように本作の主人公はスキピオとハンニバルですが、全体的にはスキピオの成長譚としての性格が強く、その意味ではスキピオ寄りの構成になっている印象を受けました。
ポエニ戦争について詳しくないため、本作の描写のどこまでが創作なのか、確信があるわけではありませんが、ザマの戦いの前にスキピオとハンニバルが対面したり、スキピオがシラクサで身分を偽ってアルキメデスに接触したことなどは、さすがに創作でしょうか。それらも含めて歴史上の有名人との絡みや友情など、娯楽歴史漫画として工夫されているところがあり、全体的に楽しんで読み進められました。人物造形も、主要人物がきょくたんに単純化されておらず、敗将についても、浅慮や驕りは確かに強調されているものの、それにとどまらない深みも描かれていることが多く、創作として深みもあります。
カトーや後にヌミディア王となるマシニッサといった、第三次ポエニ戦争の勃発直前もしくは直後まで生きた長命の人物の若い頃の描写も楽しみの一つになっており、カトーの方は作中で重要な役割を担っていませんが、平凡な人物が社会規範と意志の力で大物に成長したことを窺わせるような描写で、登場場面はほとんどありませんが、興味深い人物造形でした。マシニッサは作中でも重要人物で、長命で晩年まで精力的だったらしいことから、「怪物」的で強かな人物との印象を抱いていましたが、本作における若き日のマシニッサは、そうした人物に成長することを強く予感させる人物造形でした。
本作がどこまで描いているのか、事前には知らずに読み進めましたが、少なくともザマの戦いまでは描かれるだろう、と予想しており、じっさいザマの戦いが終盤の山場となりました。ザマの戦いの後もハンニバルとスキピオは生き続けるものの、その後の人生が幸福だったとは言い難いので、ザマの戦いの後が描かれるのかも気になっていましたが、スキピオもハンニバルも不遇な中での最期が描かれました。それでも、スキピオの方は妻や仲間に見守られながらの最期だったのに対して、ハンニバルは追跡されての服毒自殺で、もの悲しさもあります。主人公のスキピオとハンニバルはもちろん、登場人物の個性がよく描かれており、楽しめました。作者の長編作は検索しても他に見つかりませんでしたが、できれば歴史ものの長編を再び描いてもらいたいものです。
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