鳥類の頭蓋と脳の進化

 鳥類の頭蓋と脳の進化に関する研究(Chiappe et al., 2024)が公表されました。現生鳥類(クラウン群鳥類)に特有の頭蓋や脳の起源は、中生代の三次元的な化石が不足しているため、解明が進んでいません。本論文は、ブラジルで発見された、保存状態がきわめて良好な後期白亜紀の新属新種の化石種ナヴァオルニス・ヘスティアエ(Navaornis hestiae)について報告します。ナヴァオルニス・ヘスティアエの頭蓋に歯はなく、眼窩が大きくて、アーチ状の頭蓋はクラウン群鳥類の状態に酷似していますが、系統解析の結果、ナヴァオルニス・ヘスティアエは中生代のステム群鳥類のきわめて多様なクレード(単系統群)であるエナンティオルニス類に位置づけられました。

 ナヴァオルニス・ヘスティアエの頭蓋は、全体的な形状が定量的にはクラウン群鳥類のものと区別がつかないものの、おもに上顎骨からなる吻、不動性の口蓋、双弓類型の側頭部構造、小さな小脳、わずかに拡大した終脳など、多数の祖先形質を維持していました。また、こうした古い神経頭蓋形質は、クラウン群鳥類に近い脳の屈曲度や、形状は多くのクラウン群鳥類のものに類似しているものの、サイズはそれより著しく大きい骨迷路と組み合わさっていました。

 総じて、エナンティオルニス類の頭蓋の新しい形状は、クラウン群鳥類とエナンティオルニス類という、最後の共通祖先が1億3000万年以上前までさかのぼる2つの分類群の間の前例のない類似度を示しています。エナンティオルニス類は、系統発生的に始祖鳥(Archaeopteryx)よりもクラウン群に近いステム群鳥類の頭蓋および頭蓋内の詳細な形態に関して、長く探し求められていた手掛かりをもたらすとともに、現生鳥類に特有の神経構造がいつ、どのように形成されたのかを明らかにしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です(引用1および引用2)です。


古生物学:鳥類の脳の進化

 今から8,000万年前に現在のブラジルに生息していた、保存状態の良い新種の鳥類化石が、鳥類の頭蓋骨と脳の進化について新たな知見をもたらす。この標本は、鳥類の系統樹上で始祖鳥(Archaeopteryx;最も初期の鳥類の1種)と現生鳥類の中間に位置し、現生鳥類と古代の鳥類の特徴を併せ持っている。この発見は、今週発行のNature に掲載される。

 現生鳥類は、新鳥亜綱(Neornithes)と呼ばれるクレードに属するが、恐竜の時代にはもう一つのクレードが存在していた。エナンティオルニス類(enantiornithines)は、現生鳥類の適応放散と並行する初期の鳥類の非常に多様なグループであり、白亜紀の終わりに絶滅した。エナンティオルニス類の完全な頭蓋骨が保存された化石はほとんど発見されておらず、鳥類神経解剖学の進化に関する理解には大きなギャップが残されていた。

 ブラジル後期白亜紀(約8,000万年前)のNavaornis hestiaeと呼ばれるムクドリほどの大きさのエナンティオルニス類の完全かつ歪みのない頭蓋骨が、Luis ChiappeとGuillermo Navalónらによって報告された。頭蓋骨は骨格と結合しており、保存状態が非常に良いため、脳の復元が可能であり、始祖鳥に見られる古代の特徴と現代の特徴の組み合わせが明らかになった。原始的な脳の特徴としては、小さな小脳(運動と平衡感覚に関与する脳の一部)および、若干拡張された大脳(または終脳、脳の最も大きな部分で、高次認知を司る)が含まれる。また、現生鳥類との類似点としては、歯がないこと、大きな目、および背が高く、球形の頭蓋骨があげられる。この発見により、鳥類の神経解剖学的特徴がどのように進化してきたのか、その時期と順序が明らかになる、と著者らは結論づけている。


進化学:ブラジルの白亜紀の鳥類化石から得られた鳥類の頭蓋と脳の進化に関する情報

Cover Story:鳥類の頭の始まり:保存状態が良好な頭蓋化石がもたらした、古代の鳥類の脳に関する洞察

 表紙は、約8000万年前に生息していた古代の鳥類であるNavaornis hestiaeの想像図である。この種は、ブラジルで発見された化石に基づいて、今回L ChiappeとG Navalónたちにより記載報告されたもので、最古の鳥類の一種である始祖鳥(Archaeopteryx)と現生種とをつなぐものである。Navaornisの頭蓋化石は保存状態が極めて良好であったため、脳を復元することができ、古い祖先的形質と現代的な特徴の両方が明らかになった。そして著者たちは、鳥類の神経構造において数々の特徴が出現した時期や順序を明らかにする上でNavaornisが役立つと指摘している。



参考文献:
Chiappe MC. et al.(2024): Cretaceous bird from Brazil informs the evolution of the avian skull and brain. Nature, 635, 8038, 376–381.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08114-4

この記事へのコメント