雄マウスの攻撃性

 雄マウスの攻撃性に関する研究(Dai et al., 2025)が公表されました。本論文は、雄マウスの攻撃の発生におけるドーパミンの役割を明らかにしています。攻撃の調節におけるドーパミンの役割は、多くの研究で支持されていますが、その正確な神経機構は未解明です。本論文は、腹側被蓋野(ventral tegmental area、略してVTA)のドーパミン作動性細胞が、雄マウスの攻撃を経験依存的な様式で両方向性に調節していることを示します。

 VTAのドーパミン作動性細胞は、攻撃経験の少ない個体では強い影響を及ぼしますが、攻撃経験の豊富な個体では影響を及ぼさなくなりました。また、VTAでドーパミン合成を阻害すると、攻撃未経験マウスでの攻撃の発生は阻止されましたが、攻撃経験豊富な個体の攻撃に変化は見られませんでした。VTAのドーパミンは、攻撃の制御に関わる領域として知られる背外側中隔(dorsal lateral septum、略してdLS)を介して攻撃を調節します。

 攻撃経験の少ない個体では、ドーパミンは局所的な抑制を減弱することで、海馬からdLSへの情報の流れを可能にする、と分かりました。一方で、攻撃経験豊富な個体では、dLSの局所的抑制は自然と弱まっており、ドーパミンがdLS細胞を調節する余地が減っていました。まとめると、これらの知見は、成体雄マウスの攻撃の出現におけるドーパミンの巧妙な役割を明らかにしています。ヒトの攻撃性と、その進化的基盤の解明についても期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


神経科学:雄の攻撃を経験依存的に調節するドーパミン

神経科学:攻撃の経験値で変わるドーパミンの調節能

 D Linたちは今回、雄マウスの攻撃の発生におけるドーパミンの役割を明らかにしている。攻撃経験の少ない個体は腹側被蓋野(VTA)のドーパミンの影響を強く受けるが、攻撃経験の豊富な個体はドーパミンの影響を受けなくなることが分かった。



参考文献:
Dai B. et al.(2025): Experience-dependent dopamine modulation of male aggression. Nature, 639, 8054, 430–437.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08459-w

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