大相撲春場所千秋楽

 今場所の注目は何と言っても新横綱の豊昇龍関でしたが、豊昇龍関は9日目まで5不振で、10日目から休場となりました。これまで大横綱でも新横綱の場所では苦戦する傾向にあるので、豊昇龍関が新横綱で迎える次の春場所にて優勝する可能性はそこまで高くない、と予想していましたが(関連記事)、それにしてもせめて二桁は勝ってもらいたかったものです。ただ、千代の富士関でさえ新横綱の場所では途中休場、しかも3日目から休場でしたので、豊昇龍関には来場所での巻き返しを期待しています。豊昇龍関の負け越しは2021年九州場所以来で、おそらく現役力士では最長となる継続中の勝ち越し記録だったと思いますが、まだ20代半ばなので、今後5年間は、毎場所10勝以上の成績を残してもらいたいものです。

 初の角番となる琴櫻関は、先場所からずっとどこかを痛めているのか、あるいは精神的な問題が大きいのか、先場所の不調をずっと引きずっており、先場所もそうだったように、時に強い相撲を見せるので、精神的な問題の方が大きいのでしょうか。琴櫻関は苦しい流れの中で、13日目に勝ち越しを決めましたが、14日目と千秋楽は負けて8勝7敗で場所を終えました。琴櫻関は先場所と今場所こそ不振でしたが、先々場所は14勝1敗で優勝したわけですから、状態を立て直せば巻き返す可能性は充分あるでしょう。とはいえ、横綱昇進についてはまったく楽観できそうにありませんが。

 優勝争いは、高安関が横綱と大関全員に勝って、10日目の時点で単独首位に立ち、マラソンの伊藤国光選手と同じく、なぜか優勝経験のない実力者の高安関にとって初優勝の好機ではあるものの、終盤の勝負弱さと、霧島関や阿炎関や尊富士関など残っている対戦相手を考えると、失速の可能性もある、と懸念していました。じっさい、11日目には霧島関に完敗で、今場所も優勝できないのかな、と思いましたが、12日目と13日目は勝ち、内容もよかったので今場所こそ優勝できるかな、と思ったら、勝てば優勝が決まる可能性もあった14日目に初対戦となる美ノ海関に負け、やはり高安関は優勝できないのか、と落胆した相撲愛好者は多かったでしょう。

 千秋楽は、3敗の大の里関と高安関に、4敗の時疾風関と安青錦関と美ノ海関にも優勝の可能性が残る大混戦となりました。まず、高安関が阿炎関と対戦し、阿炎関の変化にも対応できるほど体はよく動いており、上手出し投げで勝ち、この時点で4敗での優勝はなくなりました。続いて、時疾風関が勝ち越しのかかった霧島関と対戦し、今場所不調とはいえ、やはり霧島関の地力が優っており、霧島関が寄りきって勝ち、勝ち越しを決めました。霧島関は今場所前に首を痛めたそうで不振でしたが、大関に復帰できる可能性は充分あるように思います。新入幕の安青錦関は、すでに負け越しが決まっているものの勝てば三役残留の可能性もある王鵬関と対戦し、王鵬関の圧力にも押されず切り返しで勝ち、千秋楽に21歳になったばかりでこの活躍ですから、そのうち大関に昇進することも期待されます。美ノ海関は二桁勝利のかかった大栄翔関と対戦し、押し出して勝ち、意外なむ結果となりました。大関を目指す大栄翔関にとっては、二桁が勝っておきたかったところです。大栄翔関が来場所大関に昇進するとしたら、13勝以上か、12勝での優勝が必要になるでしょう。大の里関は結びの一番で琴櫻関と対戦し、落ち着いた相撲で圧倒し、寄り切って勝ち、高安関と大の里関の優勝決定戦となりました。優勝決定戦では、大の里関が右を差せなかったものの、圧力をかけて前に出て、高安関が苦し紛れに投げに出たところを、送り出しで勝ち、3回目の優勝を果たしました。

 大関3場所目となる大の里関は、研究されている以上の対策ができていないのではないか、と場所前には不安でしたが、今場所は成長が見られ、阿炎関との一番など、先場所までなら崩れているようなところで耐えたり、土俵際の詰めの甘さが先場所よりも改善されていたりと、中盤までは全体的に好調だったように思います。しかし、後半には相撲内容が悪くなり、負けた一番はとくにそうですが、先場所までのような脆さも見せ、攻めきれない時に引いてしまう悪癖があるので、横綱昇進にはさらに上の段階にまで達する必要があるな、と改めて思いました。とはいえ、14日目と千秋楽は、すでに2回優勝している経験のためか、落ち着いていたように思います。大の里関は来場所、横綱昇進に挑むことになりますが、13勝以上での優勝か、14勝での優勝同点もしくは次点が求められそうで、優勝同点もしくは次点ならば、相撲内容も厳しく問われるでしょう。先場所から大の里関を応援しているので、優勝は嬉しく、来場所後には横綱に昇進してもらいたいものですが、一方で、高安関の優勝を一度は見たい、との想いもあります。多くの相撲愛好者も、高安関の優勝を一度は見たいのではないでしょうか。

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