大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回「『青楼美人』の見る夢は」

 今回は、瀬川(花の井)の身請けへと至る過程での蔦屋重三郎の試行錯誤が、重三郎と瀬川との関係を背景に描かれました。重三郎はここまで、育ってきた吉原を再び繁栄させ、女郎をはじめとして吉原で働く人々を幸せにしたい、との動機から試行錯誤しており、版元への本格参入を目指しているのもそのためです。そこには、瀬川への想いもあるわけですが、瀬川はけっきょく盲目の大富豪である鳥山検校に身請けされ、両想いの重三郎と瀬川は結ばれず、悲恋に終わっています。瀬川は今後も登場するようなので、両想いの幼馴染であり、吉原改革の同志とも言える重三郎と瀬川の関係も、これで終わりではなく、さらに山場があるのかもしれず、注目しています。

 重三郎の版元への本格的な参入は依然として地本問屋に阻まれており、その中心人物が鶴屋喜右衛門と西村屋与八と鱗形屋孫兵衛ですが、いずれも曲者といった感じで、重三郎が他の版元とどのような関係を築いていくのかも、本作の見どころの一つになりそうです。吉原では、駿河屋市右衛門などは地本問屋との絶縁を宣言しましたが、地本問屋との関係が深く、今回初登場となった若木屋与八など、地本問屋との関係を断ちたくない有力者もおり、次回はこの対立が描かれるようですし、重三郎もこの状況がまずいと考えており、どう話が動くのか、注目しています。

 今回、『青楼美人合姿鏡』の刊行によって、重三郎はさらに名を挙げ、『青楼美人合姿鏡』も売れそうだと予感させる展開になっていましたが、鶴屋喜右衛門は、『青楼美人合姿鏡』が売れない、と考えており、重三郎の版元への参入は、やはり順調にはいかないようです。才覚と行動力のある主人公が、強敵相手に挫折しつつ、やがて乗り越えていくのは、創作の王道の一類型でもあります。この点で、本作は娯楽創作として工夫されているように思いますが、視聴率が低迷しているのは、『鬼平犯科帳』で馴染みのある時代ではあるものの(作中の現時点では、『鬼平犯科帳』の少し前の時代と言うべきかもしれませんが)、吉原と出版業の馴染みが薄いからでしょう。本作の出来はかなりよいと考えていますので、視聴率も上向いてもらいたいものです。

 今回、政治場面はやや長く描かれました。田安賢丸(松平定信)は妹の種姫を将軍の徳川家治の養子とするよう工作し、姫を世継ぎの徳川家基の妻とするよう、家治に認めさせます。本作では、家は基が田沼意次を嫌っており、田沼一派の排斥を目論んでいます。家基は若くして急死しますが、これが本作では意次と一橋治済の陰謀として描かれることになるのかもしれません。意次は反田沼派の将軍を阻止し、治済は実子を将軍後継者に送り込むことで、利害は一致します。その後の意次と松平定信の運命を考えると、一橋治済は本作において政治面の黒幕であり最終的な勝者と位置づけられるのかもしれません。吉原を中心とした江戸市中と幕府政治の中枢は、これまで直接的な関係が薄く、平賀源内を通じて辛うじてつながっている感がありましたが、今回は初回以来久しぶりに重三郎と意次が直接的に関わり、今後はそうした場面も増えてくるのか、注目しています。

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