大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第5回「蔦に唐丸因果の蔓」

 今回は、唐丸を中心に話が展開しました。唐丸は初回冒頭の明和の大火で蔦屋重三郎と知り合い、その後は重三郎の弟分のようにともに蔦屋で働いていたので、重要人物であることは明らかでしょう。私は初回の時点で、唐丸は喜多川歌麿だと確信し、前回、唐丸が絵の才能を見せたことで、作中ではまだ明示されていないものの、唐丸は歌麿なのだ、と改めて考えていました。ただ、インターネット上の反応では、東洲斎写楽との予想も多いようで、葛飾北斎との予想も見かけました。言われてみると、上述のように、そもそも作中ではまだ唐丸が歌麿とは明示されていませんし、歌麿は出自が曖昧で、生年も確定していないくらいですが、推定生年の下限でも、作中の現時点で子役が演じるには微妙な年齢のようなので、唐丸が歌麿ではない可能性も考えるようになりました。

 その意味で、唐丸について詳しく描かれそうな今回は注目していましたが、唐丸の正体の全容はまでは描かれず、謎が残りました。どうも、唐丸は盗賊の一味で、奉公先の店の金を盗み、発覚して(しそうになって)は逃亡を繰り返していたように思われます。それが嫌になり、明和の大火のさいには、もう死んでもよいと自暴自棄になり、放火したか、火事の原因を起こし、火事を前に立ち尽くしていたところ、重三郎に救われたのではないか、と推測しています。唐丸は気のいい重三郎を信頼し、今度は生まれ変わって真面目に奉公していたところ、かつての盗賊仲間である浪人風の男性に見つかり、重三郎に正体を知られたくないと焦って、短絡的な行動に走った感があります。唐丸は、重三郎を裏切ってしまいながら、やはり重三郎への恩義は強かったようで、盗賊仲間の男性を突き飛ばして自らも川に落ち、男性の死亡は描かれましたが、唐丸の生死は不明です。これで唐丸が退場となるのか、生き延びて再登場するのか、まだ確定していませんが、唐丸の扱いの大きさから、再登場はほぼ間違いないと思います。

 そこで問題となるのが、唐丸は誰なのか、ということですが、唐丸を謎の絵師として売り出したい、との重三郎の構想は、写楽であることを想起させます。ただ、唐丸をまず鈴木春信の再来として売り出したい、とも重三郎は語っており、唐丸役の少年の顔が、歌麿役としてすでに発表されている染谷将太氏と似た系統に見えるので、唐丸はやはり歌麿なのかな、と思います。また、鳥山石燕の配役がすでに発表されていますが、歌麿には小さい頃から目をかけていた、と公表されているので、唐丸は鳥山石燕に助けられ、絵の修行を積み、重三郎と再会し、喜多川歌麿として大成することになるのかもしれません。あるいは、本作では歌麿=写楽説が採用されるのか、もしくは歌麿が写楽でなくとも、歌麿が写楽に深く関わるのか、写楽の売り出しに重三郎がこの時の思いつきを使うのかもしれませんが、唐丸が歌麿でも写楽でもない可能性も、一応は想定しておくべきでしょうか。ネットで検索したところ、唐丸は「唐丸が後の写楽か北斎か歌麿かって盛り上がってるけど、ひょっとしたら誰でもなくて、蔦重はずっといろんな絵師をプロデュースしながら唐丸を追憶してる、失った者は二度と戻ってこないって話も森下脚本ならありそうと思って目が覚めました」との見解もあり、重三郎は唐丸の幻影を追いかけながら、歌麿や写楽などさまざまな絵師を世に送り出していくのかもしれません。唐丸に関して謎解き要素が強くなったので、この点でも楽しめそうです。

 重三郎が版元として大成する過程は、本作の主題とも言えるだけに丁寧に描かれており、今回は須原屋市兵衛が初登場となります。須原屋市兵衛は大物で度量のある人物のようで、重三郎にとっての案内人的役割を担うのでしょうか。重三郎は、前回自分を嵌めた鱗形屋孫兵衛との提携も決断しており、重三郎の度量の大きさも窺えます。重三郎の才覚と行動力と度量の大きさから、版元としての後の成功も説得力のある展開になりそうで、期待されます。ここまで、主人公の重三郎がその才覚と行動力で主体的に動く展開となっており、この点も本作の魅力となっています。重三郎の今後の人生を考えると、この作風は終盤まで変わらないでしょうから、本作の今後の展開にも大いに期待できそうです。

 今回、政治場面の描写は短く、田沼意次と平賀源内のやりとりがありましたが、源内は、重三郎と江戸幕府中枢とをつなぐ意味でも、本作前半の重要人物と位置づけられそうです。源内との会話から、本作の田沼意次は開明的で現実的な大政治家として描かれている、と改めて思いました。今回の意次と源内のやりとりは、さすがに両者の先見の明を誇張しすぎとも思いますが、娯楽時代劇としては有でしょうか。源内の山師的側面も描かれましたが、田沼時代にはそうした人物が跋扈していたようで(関連記事)、ある意味では活気のある時代とも言えるのでしょう。

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