『ナショナルジオグラフィック』2025年2月号「謎の「ほかの」人類を探す」

 『ナショナルジオグラフィック』2025年2月号の表題の特集を読みました。まず冒頭で、30万年前頃には現生人類(Homo sapiens)以外の人類が少なくとも6種いた、と指摘されており、その復元模型の写真が掲載されています。この6種の人類とは、ホモ・ナレディ(Homo naledi)、ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)、ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)、ホモ・エレクトス(Homo erectus)、ホモ・ロンギ(Homo longi)、ホモ・ネアンデルターレンシス(Homo neanderthalensis)です。種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)が、ホモ・ロンギである可能性も指摘されています。私にとっては初めて見た復元模型で、新鮮であり、興味深くもありました。

 デニソワ人遺骸と推定される人類遺骸が発見された、ラオスのフアパン(Huà Pan)県に位置するタム・グ・ハオ2(Tam Ngu Hao 2)や、中華人民共和国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県のチベット高原北東端の海抜3280mに位置する白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave)の写真が掲載されていたことも興味深く、『ナショナルジオグラフィック』らしい素晴らしい特集だと思います。なお、タム・グ・ハオとは「コブラ洞窟」という意味です。タム・グ・ハオ2の歯は、形態からデニソワ人と推定され(関連記事)、白石崖溶洞では、夏河下顎骨と呼ばれる16万年以上前の推定年代の右側下顎(この下顎は考古学的発掘で見つかったわけではなく、地元の僧侶が発見し、蘭州大学に寄贈されたので、発見場所について確定的ではありません)がプロテオーム(タンパク質の総体)解析によってデニソワ人系統と明らかになり(関連記事)、その後、同じく白石崖溶洞で発見された夏河2号と呼ばれる48000~32000年前頃の肋骨遠位部も、プロテオーム解析によってデニソワ人系統と示されました(関連記事)。白石崖溶洞では、堆積物からデニソワ人系統のミトコンドリアDNA(mtDNA)が検出されており、中期~後期更新世にデニソワ人が存在したことはほぼ確実と言えるでしょう。

 なお、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)やデニソワ人には現生人類から受け継いだDNA断片はまったく見つかっていない、と指摘されていますが(P39)、ネアンデルタール人のゲノムにおける2.5~3.7%程度の初期現生人類からの影響が示されています(関連記事)。ただ、非アフリカ系現代人の主要な共通祖先である出アフリカ現生人類集団からの遺伝的影響は、ネアンデルタール人でもデニソワ人でもまだ確認されていないとは思います。フランス地中海地域のマンドラン(マンドリン)洞窟(Grotte Mandrin)の解説(P45)には問題があり、ネアンデルタール人が洞窟で最後の焚火の痕跡を残してから1年もしないうちに、現生人類集団がマンドラン洞窟に初めて入り、それは42000年前頃だった、とありますが、じっさいにはこの交替は54000年前頃で、現生人類はその後51700年前頃までマンドラン洞窟を使用し、その後で再びネアンデルタール人がマンドラン洞窟を使用した、と明らかになっています(関連記事)。

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