チベット高原の古代のウイルスのゲノム
チベット高原の古代のウイルスのゲノムを報告した研究(Zhong et al., 2025)が公表されました。氷河は、微生物を含めて、気候と生態系に関する時系列情報を保管しており、その氷を採取することで、これらの微生物群集の多様性に影響を与える要因を、数百年から数千年の期間にわたって評価する機会が得られます。長期間にわたる生態系の変化を評価できることは、進行中の気候変動に微生物群集がどのように適応していくのか、理解する基準の確立に役立ちます。しかし、保存されたウイルスおよびその古気候とのつながりに関する長期的な生態系ゲノム動態もしくは生物地理は、まだ調査されていません。
本論文はメタゲノムを用いて、チベット高原のグリヤ氷河(Guliya Glacier)から得られた氷床コアに保存されていた、過去41000年以上にわたる寒冷と温暖の3回の周期にまたがる、9期間からウイルスのゲノムを再構築しました。約1705の種水準のウイルスの操作分類単位のゲノムが回収されました。ウイルス群は寒冷な気候条件と温暖な気候条件では大きく異なっており、最も明確なウイルス群は最終氷期から完新世の大きな気候移行期の11500年前頃に観察されました。
ウイルスと宿主の相互作用のコンピュータで計算された(in silico)分析は、一般的な支配的氷河系統であるフラボバクテリア科(Flavobacterium)への持続的に高いウイルスの選択圧と、極限状況下での宿主の適応およびウイルスの適合性に寄与するかもしれない、共同因子とビタミンの代謝における歴史的な豊かさを明らかにします。生物地理学的分析では、グリヤ氷河のウイルス操作分類単位は世界中のデータセット、おもにチベット高原のメタゲノムと重複している、と示され、経時的なグリヤ氷河に保存されたウイルスの地域的関連が示唆されます。
本論文では、ウイルス群における寒冷から温暖の変動は、さまざまな温度の枠組み下で異なるウイルス源および/もしくは環境選択に起因するかもしれない、と示されます。ウイルスは人類(に限らず生物)にとっての選択圧となり、さらには内在性ウイルス配列で見られるように、人類のゲノムに直接的影響を及ぼすこともあります。ウイルスは人類の進化と拡散に大きな影響を及ぼしてきたと考えられるので、古代のウイルスのゲノムの再構築は、人類進化史の観点からも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ウイルス学:古代ウイルスは気候の変動に適応した
チベット高原の氷床コアから、過去4万1000年間にわたって9つの期間で保存されていたウイルスゲノムを復元を報告する論文が、Nature Geoscienceに掲載される。この発見により、ウイルス群集の構成が気候変動に伴って変化したことが示され、過去の環境変化が微生物生態系にどのような影響を与えたかを理解する手がかりとなる可能性がある。
氷河の氷は、ウイルスやバクテリアなどの微生物を保存することができ、この氷を採取することで、これらの微生物群集の多様性に影響を与える要因を、数百年から数千年の期間にわたって評価する機会が得られる。長期間にわたる生態系の変化を評価できることは、進行中の気候変動に微生物群集がどのように適応していくかを理解するためのベースライン値を確立するのに役立つ。
Zhi-Ping Zhongらは、チベット高原のグリヤ氷河(Guliya Glacier)から掘削された長さ310メートルの氷床コアに保存されていたウイルスを特定するために、DNA抽出とメタゲノム法を用いた。著者らは、最も古いもので少なくとも4万1000年前の最終氷河期まで遡る、9つの異なる期間の氷のサンプルについてゲノム解析を行った。著者らは、1705種のウイルス分類単位のゲノムを復元した。寒冷期と温暖期では、ウイルス群集が異なっていることが示され、最も顕著な群集は、約1万1500年前の最終氷期と完新世の間の気候の移行期に確認された。 さらに分析を進めた結果、極端な環境下でウイルスが生き延びるために、豊富な代謝を発達させた可能性があることが示唆された。
著者らは、氷床コアのウイルス群集の変化は、別の地理的発生源から吹き込まれたウイルスによる可能性があると提案している。同様に、氷の中の環境条件に適応できる特定のウイルスのみが生き延びたことに起因する変異もあると考えられる。
参考文献:
Zhong ZP. et al.(2024): Glacier-preserved Tibetan Plateau viral community probably linked to warm–cold climate variations. Nature Geoscience, 17, 9, 912–919.
https://doi.org/10.1038/s41561-024-01508-z
本論文はメタゲノムを用いて、チベット高原のグリヤ氷河(Guliya Glacier)から得られた氷床コアに保存されていた、過去41000年以上にわたる寒冷と温暖の3回の周期にまたがる、9期間からウイルスのゲノムを再構築しました。約1705の種水準のウイルスの操作分類単位のゲノムが回収されました。ウイルス群は寒冷な気候条件と温暖な気候条件では大きく異なっており、最も明確なウイルス群は最終氷期から完新世の大きな気候移行期の11500年前頃に観察されました。
ウイルスと宿主の相互作用のコンピュータで計算された(in silico)分析は、一般的な支配的氷河系統であるフラボバクテリア科(Flavobacterium)への持続的に高いウイルスの選択圧と、極限状況下での宿主の適応およびウイルスの適合性に寄与するかもしれない、共同因子とビタミンの代謝における歴史的な豊かさを明らかにします。生物地理学的分析では、グリヤ氷河のウイルス操作分類単位は世界中のデータセット、おもにチベット高原のメタゲノムと重複している、と示され、経時的なグリヤ氷河に保存されたウイルスの地域的関連が示唆されます。
本論文では、ウイルス群における寒冷から温暖の変動は、さまざまな温度の枠組み下で異なるウイルス源および/もしくは環境選択に起因するかもしれない、と示されます。ウイルスは人類(に限らず生物)にとっての選択圧となり、さらには内在性ウイルス配列で見られるように、人類のゲノムに直接的影響を及ぼすこともあります。ウイルスは人類の進化と拡散に大きな影響を及ぼしてきたと考えられるので、古代のウイルスのゲノムの再構築は、人類進化史の観点からも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
ウイルス学:古代ウイルスは気候の変動に適応した
チベット高原の氷床コアから、過去4万1000年間にわたって9つの期間で保存されていたウイルスゲノムを復元を報告する論文が、Nature Geoscienceに掲載される。この発見により、ウイルス群集の構成が気候変動に伴って変化したことが示され、過去の環境変化が微生物生態系にどのような影響を与えたかを理解する手がかりとなる可能性がある。
氷河の氷は、ウイルスやバクテリアなどの微生物を保存することができ、この氷を採取することで、これらの微生物群集の多様性に影響を与える要因を、数百年から数千年の期間にわたって評価する機会が得られる。長期間にわたる生態系の変化を評価できることは、進行中の気候変動に微生物群集がどのように適応していくかを理解するためのベースライン値を確立するのに役立つ。
Zhi-Ping Zhongらは、チベット高原のグリヤ氷河(Guliya Glacier)から掘削された長さ310メートルの氷床コアに保存されていたウイルスを特定するために、DNA抽出とメタゲノム法を用いた。著者らは、最も古いもので少なくとも4万1000年前の最終氷河期まで遡る、9つの異なる期間の氷のサンプルについてゲノム解析を行った。著者らは、1705種のウイルス分類単位のゲノムを復元した。寒冷期と温暖期では、ウイルス群集が異なっていることが示され、最も顕著な群集は、約1万1500年前の最終氷期と完新世の間の気候の移行期に確認された。 さらに分析を進めた結果、極端な環境下でウイルスが生き延びるために、豊富な代謝を発達させた可能性があることが示唆された。
著者らは、氷床コアのウイルス群集の変化は、別の地理的発生源から吹き込まれたウイルスによる可能性があると提案している。同様に、氷の中の環境条件に適応できる特定のウイルスのみが生き延びたことに起因する変異もあると考えられる。
参考文献:
Zhong ZP. et al.(2024): Glacier-preserved Tibetan Plateau viral community probably linked to warm–cold climate variations. Nature Geoscience, 17, 9, 912–919.
https://doi.org/10.1038/s41561-024-01508-z
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