トマトの甘み

 トマト(Solanum lycopersicum)の甘みに関する研究(Zhang et al., 2024)が公表されました。トマトは糖度が消費者の嗜好と強く相関しており、大抵の消費者は甘い果実を好みます。しかし、糖度は果実の大きさとは逆相関しており、生産者は味の質よりも収量を優先するため、商業品種は全般的に糖度が低くなっています。本論文は、トマトの果実の糖度を制御する2個の遺伝子である、SlCDPK27(calcium-dependent protein kinase 27、別名SlCPK27)およびSlCDPK26(SlCDPK27のパラログ)を特定しました。

 これらの遺伝子は、スクロースシンターゼをリン酸化してその分解を促進することによって、糖ブレーキとして作用します。遺伝子編集によってSlCDPK27やSlCDPK26をノックアウトしたトマトは、グルコースとフルクトースの含有量が最大30%増加し、果実重や収量を損なうことなく、知覚される甘味が増加しました。得られた変異体の種子は数が少なく粒重も劣りますが、正常に発芽することが示されました。今回の知見をまとめると、トマト果実の糖の蓄積を制御する調節機序が明らかになるとともに、大果品種において大きさや収量を犠牲にすることなく糖度を高められる可能性が示されています。

 私は子供の頃からずっとトマトが好きなだけに、今後のトマト生産にも影響するかもしれない点で、この研究には注目しています。私は、トマトの酸味も好きなので、甘いトマトを食べたいとも思うものの、甘みの増加したトマトのみが市場に流通するようだと困りますが、そうした時代が到来するとしても、随分先になるでしょうか。とはいえ、多くの消費者から歓迎されそうな技術革新だけに、甘みの増加したトマトが日本でも市場を席巻する可能性も考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


植物科学:トマトの糖ブレーキを解除すると収量を損なうことなく甘味が増す

植物科学:トマトの糖ブレーキを解除すると収量を損なうことなく甘味が増す

 「あちらを立てればこちらが立たず」というように、農家が好む大玉トマトは甘みが少ない。しかし今回、トマト果実の糖度を下げている遺伝子が発見され、その操作によって、果実重や収量を損なわずにトマトを甘くできることが示された。



参考文献:
Zhang J. et al.(2024): Releasing a sugar brake generates sweeter tomato without yield penalty. Nature, 635, 8039, 647–656.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08186-2

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