ブルガリアの初期現生人類の年代

 ヒト進化研究ヨーロッパ協会第14回総会で、ブルガリアで発見された初期現生人類(Homo sapiens)の年代に関する研究(Higham et al., 2024)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P82)。ブルガリアのコザーニカ(Kozarnika)遺跡は、ヨーロッパの下部旧石器時代と中部旧石器時代と上部旧石器時代にまたがる重要な深さ約6mの考古学的層序です。その後期には、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)が支配するヨーロッパから、現生人類のみが存在するヨーロッパへの移行が記録されています。この移行の過程は、ヨーロッパにおける人類の拡散と消滅と置換の時系列を理解するうえでたいへん重要です。

 この研究は、人為的に改変された骨や人工遺物やヒト遺骸の標本抽出を通じて、コザーニカ遺跡の堅牢な年代層状を構築するため、37点の新たなAMS(accelerator mass spectrometry、加速器質量分析法)放射性炭素年代を取得しました。とくに地質学的第6/7層の居住のIUP(Initial Upper Paleolithic、初期上部旧石器)期の年代測定に焦点が当てられたのは、現生人類集団の初期拡散と関連しているかもしれないからです。

 さまざまな測定の包含もしくは除外を検証するため、一連の結果のベイズモデルが構築されました。KDE(Kernel Density Estimate、カーネル密度推定)モデル手法を用いて、結果全体が記入され、他地域の遺跡と比較されました。KDEモデルから、コザーニカ遺跡におけるヒトの居住の後期は異なる5期間から構成され、その年代は50000~26000年前頃である、と示されます。第6/7層期の範囲は較正年代で48500~44050年前頃で、おそらくは較正年代で49960年前頃に始まる、と分かりました。

 同じ環境内で発見された現生人類の歯1点により間接的に証明されているように、この時点で最も可能性の高い居住者は現生人類と考えられます。しかし、コザーニカ遺跡から得られた石器の証拠には、いくつかのルヴァロワ(Levallois)断片が含まれており、それ以前の中部旧石器時代の痕跡です。こうした異なる伝統の石器の混在は混層を表している可能性があり、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類の両方による交互の訪問があったかもしれません。

 21万年前頃となるギリシアのアピディマ(Apidima)洞窟から得られた証拠(関連記事)を除けば、コザーニカは、現生人類の存在の証拠を含む、過去10万年間のヨーロッパ東部で発見された最古級の遺跡です。ネアンデルタール人の存在はじっさいには、コザーニカ洞窟における最古級のコザーニカン(Kozarnikan)インダストリーの始まりによって終わり、較正年代で43130~41490年前頃(95.4%の確率)にまでわたるかもしれず、類似したインダストリーのヨーロッパの他の遺跡と同様にひじょうに古そうです。堆積物DNA手法の適用は、中部旧石器時代が終わり、早期の上部旧石器時代が始まったこの重要な期間に存在したヒトについての、さらなる証拠の解明に役立つかもしれません。


参考文献:
Higham T. et al.(2024): AMS dating reveals early presence of Homo sapiens at the Kozarnika site (Bulgaria) 45-50,000 years ago. The 14th Annual ESHE Meeting.

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