大相撲初場所千秋楽

 琴櫻関と豊昇龍関の横綱昇進とともに、2場所連続で休場していた横綱の照ノ富士関の進退にも注目していましたが、照ノ富士関は初日に負け、2日目と3日目は苦戦しつつも勝ったものの、4日目に負けて5日目から休場となり、その晩に引退すると報道されました。横綱昇進時から、照ノ富士関が横綱を長く務めるのは難しいだろう、と予想していた相撲愛好者は私も含めて多かったでしょうが、休場が多かったとはいえ、横綱在位期間は21場所となり、通算10回、横綱としては6回優勝したわけですから、見事だと思います。本当はもっと早く引退したかったのではないか、とも思いますが、年寄株取得の問題とともに、一人横綱だったことで引退しにくい状況にあったのかもしれません。大関から序二段にまで陥落し、そこから横綱にまで昇進したわけですから、大相撲史上最大の復活と言うべきで、この経験は親方として活かされるでしょうし、同じ伊勢ヶ濱部屋の力士に慕われているようですから、優れた指導者になるのではないか、と期待されます。

 横綱昇進のかかった琴櫻関と豊昇龍関は明暗がはっきり分かれ、琴櫻関は初日こそ勝ったものの、2日目から5連敗となり、場所前の報道から、豊昇龍関は好調なのに対して、琴櫻関はあまり調子がよくなさそうと思われたので、横綱昇進は厳しいかな、とは思っていたものの、予想外の不振でした。琴櫻関は体がどこか悪いのではないか、と懸念していましたが、今場所好調の王鵬関に勝つなど存在感も示し、終盤には序盤よりも調子がよかったように見えたので、腰などの状態が悪かったとしても、それ以上に、横綱昇進の重圧が大きかったのでしょうか。しかし、今場所好調の王鵬関に勝つなど立ち直りかけたように見えた琴櫻関は終盤に崩れて5勝10敗と大きく負け越してしまい、しかも終盤は負け方がひじょうに悪かったので、来場所の角番脱出も危ぶまれます。状態が戻れば、角番脱出はほぼ間違いないとは思いますが。

 豊昇龍関は場所前の報道通り好調で、5日目に苦手としている熱海富士関に負けたものの、7日目までは1敗で、このまま優勝して横綱に昇進するのかと思ったら、8日目には最近負けていない正代関、9日目にはこれまで負けたことのない平戸海関に続けて負け、今場所の優勝の可能性は残っているものの、いかに正代関が元大関とはいえ、平幕に3敗したことや、仮に12勝3敗で優勝しても直近3場所の合計勝利数が大関昇進の目安となる33勝に留まることから、今場所後の横綱昇進は絶望的になった、と私は考えました。ただ、その後で豊昇龍関が立て直してきたこともあり、八角理事長は横綱昇進の可能性を否定しませんでした。豊昇龍関は先々場所やっと千秋楽に勝ち越しを決めましたが、先々場所でせめて10勝だったならば、横綱不在になったこともあり、甘い基準ながら12勝3敗でも優勝ならば横綱昇進でよいかな、と13日目終了時点では考えていました。

 優勝争いは、金峰山関が9連勝で単独首位に立つ意外な展開となり、金峰山関は10日目に阿炎関に負けたものの、11日目には大関の大の里関に勝ち、単独首位で12日目を迎えました。金峰山関は新入幕となった2年前(2023)の春場所では11勝4敗で、大器かと思ったら、その後は意外と伸び悩み、先場所は十両に陥落していたくらいですが、十両で優勝して1場所で幕内に復帰しての快進撃でした。金峰山関は12日目に豊昇龍関と対戦して負けたものの、13日目には琴櫻関を圧倒し、さすがに優勝は難しそうと思っていましたが、そうした見方を改めねばならないかな、と思わせるような相撲内容でした。

 14日目を迎えた時点で、優勝争いは2敗の金峰山関と3敗の豊昇龍関および王鵬関に絞られました。千秋楽は、まず金峰山関と王鵬関が対戦し、金峰山関が突いていって押し込んだものの、上手くいなして逆に押し込んでいき、押し出しで勝って決定戦に持ち込みました。豊昇龍関は結びの一番で琴櫻関と対戦し、琴櫻関の終盤の状態があまりにも悪かったので、豊昇龍関が圧勝するだろう、と予想していたところ、やや苦戦した感もあるものの豊昇龍関が勝ち、さすがに緊張していたのかもしれません。これで、2022年九州場所以来の巴戦となりました。巴戦では、力関係からも経験からも豊昇龍関がまず間違いなく勝つだろうな、と予想していました。まず金峰山関と豊昇龍関が対戦し、豊昇龍関が上手を取られたものの中に入って寄り切って勝ち、続いて王鵬関と対戦してやや苦戦しながらも勝ち、2回目の優勝を果たしました。

 横綱不在になったこともあり、これで豊昇龍関が横綱に昇進しそうですが(臨時理事会の招集は決まりましたが、横綱審議委員会が豊昇龍関を横綱に推薦しない可能性も一応は残っています)、上述のように、もう1場所待つべきではないか、と思います。かつて大関の小錦関が1991年夏場所から1992年春場所にかけて、14勝(優勝同点)→12勝→11勝→13勝(優勝)→12勝→13勝(優勝)でも横綱に昇進できず、豊昇龍関の直近6場所の成績が11勝→10勝→9勝→8勝→13勝→12勝(優勝)だったことを考えると、いかに横綱不在になったとはいえ、これで豊昇龍関が横綱に昇進するのには、釈然としないところもあります。豊昇龍関は先場所から強引な投げに頼ることが少なくなり、攻めていく相撲内容に変わってきたので、この点では横綱に昇進しても期待できそうですが、まだ14勝以上の経験がなく、横綱に相応しい成績を残していくには物足りなさもあるように思うので、今後さらなる精進が必要でしょう。王鵬関は昨年(2024年)力をつけてきたように思われ、来場所の新三役はほぼ確定的となりましたが、直ちに大関に昇進できるだけの力はまだないように思います。

 大関として2場所目大の里関は、対応力と修正力に優れているので、新大関の先場所から巻き返してくるのかと思ったら、勝ち越したものの10勝5敗で終わり、存在感を示せませんでした。しかも、押し込まれると引く悪癖が出るなど、今場所は全体的に相撲内容が悪く、対戦相手による研究以上の対応ができていない印象を受けました。これでは、大関の地位はそれなりの期間維持できても、横綱昇進は難しそうだな、と考えを改めつつあります。ただ、これまで、大の里関にはかなり期待していたものの、熱心に応援していたわけではありませんでしたが、大の里関について知っていて当然のはずのことに今場所中やっと気づき(関連記事)、これからは大の里関を第一に応援することに決めました。一昨年(2023年)夏場所に、番付発表後に初日を迎えるまでに逸ノ城関が、6日目に栃ノ心関が引退を発表してから、とくに熱心に応援する力士がいなくなり、あえて言えば、今場所惜しくも敢闘賞を逃したものの、40代での勝ち越しを決めた玉鷲関を最も応援していましたが、これからは大の里関を熱心に応援する分、最近はやや客観的に見ていた大相撲で、また一喜一憂することになりそうです。これも相撲の典型的な楽しみ方と言えるでしょうし、私の相撲観戦歴でもその方が長くなります。大の里関には来場所の巻き返しのみならず、年内の横綱昇進を期待しています。

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