新たな手法による中世前期ヨーロッパの人口史
新たな手法によって中世前期ヨーロッパの人口史を検証した研究(Speidel et al., 2025)が公表されました。本論文は、新たに開発された「Twigstats」と呼ばれる手法を用いて、中世前期ヨーロッパの人口史を検証しています。この新手法は遺伝的構成の類似した集団間の相互作用をじゅうらいよりも高解像度で推測でき、他の地域や時代、とくに、縄文時代の日本列島の人類集団の時空間的な遺伝的差異や、弥生時代もしくは縄文時代晩期以降にユーラシア東部大陸部から日本列島に到来した人類集団の時空間的な遺伝的差異の検出への適用も期待されます。なお、[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。
●要約
既知でも未知でも多くの歴史的事象が遺伝学的研究の検出閾値を下回ってきたままなのは、微妙な祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の変化の再構築が困難だからです。共有ハプロタイプや稀な多様体[3、4]に基づく手法は検出力を向上させますが、時間軸が明確ではなく、これまで偏りのない祖先系統モデルには採用できませんでした。この研究で開発されたTwigstatsは、時間的に層別化された祖先系統解析の手法で、近い過去の時点の合着(合祖)に焦点を当てることで、人口集団に特異的な浮動によって偏らないまま、統計的検出力を1桁改善できます。この枠組みが、歴史時代のヨーロッパの利用可能な古代人1556個体の全ゲノムに適用されました。高解像度を提供するために、先行するゲノムを用いて、個体水準の祖先系統をモデル化できるようになります。千年紀前半には、スカンジナビア半島関連祖先系統の少なくとも二つの異なる流れが、ヨーロッパの西部と中央部と東部に広がっていたもと観察されます。対照的に、千年紀後半には、祖先系統のパターンはこれらの祖先系統の地域的消滅もしくは大幅な混合を示唆します。スカンジナビア半島では、800年頃の大きな流入が記録され、この頃に、ヴァイキング期の個体群は初期鉄器時代の個体群には見られなかったヨーロッパ中央部と関連する集団の祖先系統を有していました。本論文の調査結果から、時間的に層別化された祖先系統分析は遺伝的歴史についてより高解像度のレンズを提供できる、と示唆されます。
●研究史
古代ゲノムの配列決定は、古代における拡大や移住や混合といった事象を再構築し、および現在のヒトの遺伝的差異へのその影響を理解する能力に、革命をもたらしてきました。しかし、遺伝的祖先系統を用いての歴史の追跡は、とくに、歴史と考古学からの最も豊富な比較情報が存在することの多い歴史時代には、依然として困難です。これは、多くの地理的地域の祖先系統が、現在の手法では統計的に区別できないくらい類似していることが多いからです。一例は紀元前500年頃の鉄器時代開始以降のヨーロッパ北部および中央部で、この期間には、4~6世紀におけるヒトの移住の大規模なパターンの性質や、その地中海世界への影響や、ヴァイキング期(750~1050年頃)におけるヒトの移動のその後のパターンなど、多くの長年にわたる問題が残っています。
最近のいくつかの研究は、これらの期間における高い移動性と遺伝的多様性を記録して、高い移動性にも関わらず安定した人口構造を示唆し[5]、ヴァイキング期スカンジナビア半島[6~8]や中世初期イングランド[3、9]や鉄器時代および中世ポーランド[12]における遺伝的差異を明らかにしてきました。しかし、先行研究は主に現代人のコホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)を用いて、時空間的な祖先系統の変化を調べました。これは、ヨーロッパ中央部と北部の鉄器時代集団の差異が、たとえば、石器時代および青銅器時代ヨーロッパ祖先系統の景観を形成した、より一般的に研究されている狩猟採集民と農耕民と草原地帯牧畜民集団の間の差異[13、14、16]よりも1桁低いからで、そのFₛₜ(fixation index、2集団の遺伝的分化の程度を示す固定指数)は、前者が0.1~0.7%なのに対して、後者は5~9%[13、17]です。現代の人口集団は差異検出のより高い検出力を提供しますが、古代の個体群との遺伝的類似性はその後、つまり古代の個体群の跡の遺伝子流動によって混乱するかもしれません。したがって、最も原則的な手法は、供給源と「外群/参照」人口集団が、モデルを試みる対象のゲノムもしくは集団より古いか、少なくとも同時代である、祖先系統モデルの構築です。しかし、古代ゲノムは、標本規模が数千分の一まで小さく、配列品質が低下することによる、限定的な統計的検出力のため、これは困難でした。
古代DNAデータからの遺伝的歴史および祖先系統モデルの構築は一般的に、f統計に基づいた手法を用います[13、20]。この手法の流行は、より低い品質の古代DNAデータでも分析可能なことや、確証への相対的な堅牢性や、人口ボトルネック(瓶首効果)の存在を含めて偏りのないことへの理論的保証など、多くの好ましい特性に由来します。qpAdm [13]などf統計に由来する手法は、混合事象などの回数や供給源の最も近い代表の特定を含めて、混合モデルの偏りのない適合を可能にする点で唯一のものに近くなっています。しかし、f統計は、標本規模の増加にも関わらず、密接に関連する祖先系統を含む事象の再構築には、常にじゅうぶんな検出力を有しているわけではありません[6、24]。ハプロタイプもしくは組換えによって分解されていないDNAの共有断片を特定する手法は、個々のSNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)標識を用いる場合よりも検出力が高い、と以前には示されてきましたが、この情報は、f統計の利点との組み合わせでは利用できませんでした[6、25]。さらに、利用可能な古代DNAの圧倒的多数は120万SNPパネルに由来しており[27]、全ゲノムショットガンデータで利用可能な50万以上のSNPの分析では、より明確な利点はほとんど論証されてきませんでした。
ハプロタイプ情報を用いる手法の一つは完全な系統樹推定で、これは何千もの現代人と古代人の全ゲノム[32、34]に容易に適用できます。そうした手法は、正の選択[32、37]や人口構造や祖先の地理的位置[34]や変異率の変化の検出力強化への適用に成功してきました。系統樹は、通常は近い過去のハプロタイプ共有もしくは同祖対立遺伝子(identity-by-descent、略してIBD)を含めて、遺伝的祖先系統についての本質的に完全な時間分解情報を含んでいる、と考えることができます。ここでの遺伝的祖先系統は、個体群の遺伝的祖先の完全な収集を指しており、系統樹はこれらがどのようにいつ個体間で共有されるのか、明らかにします。対照的に、稀な多様体の確認やハプロタイプもしくは染色体の塊は、系図で利用可能な情報の部分集合もしくは要約と考えることができます。本論文が提案する手法は「時間的に層別化された祖先系統」と呼ばれ、これは、推定されたゲノム規模の系図(図1a)の使用によってf統計の統計的検出力を数倍高め、この手法は、紀元前500~紀元後1000年頃のヨーロッパ北部および中央部の遺伝的歴史の再構築に適用されます。
●系図は祖先系統のモデル化を改善します
定義上、f統計は、変異が個体間でどう共有されるかによって示唆される、局所的な系図関係の発生を数えます。f統計と局所的な系図との間のこの固有の関係によって、推測された系図で直接的にf統計を計算することが簡単になります。観察された変異でf統計を計算する代わりに、今度はこれらの系図の推定された枝で計算され、その一部は、変異によって直接的に関連づけられていないかもしれないものの、局所的なハプロタイプ構造の解決によって推定されます。
この手法を検証するために、数学的理論が開発され、祖先系統の割合が2通りのf₄統計の単純な比率に制約される、単純な混合モデルが模擬実験されます(図1b)。偏りはありませんが、系図自体で計算されf統計を用いると、混合事象定量化の統計的検出力は大きく改善されない、と分かりました。しかし、理論的予測と模擬実験の両方を通じて、検出力の大きな改善は、近い過去の混合事象に最も情報をもたらす最近の合着への制約による偏りなしに得ることができる、と示されます(図1c・d)。供給源の分岐時期より古い合着は混合事象に関して情報を有しておらず、f統計への無意味な情報を追加するだけと示されます。したがって、これらを除外すると、原則的には偏りを生じさせることなく統計的検出力が増加します。以下は本論文の図1です。
Twigstatsと呼ばれる手法に、遺伝子系統樹の「小枝」を研究するという着想が実装され(図1a)、この手法は模擬実験では、遺伝的歴史のモデルの標本規模と詳細に応じて、最大10倍、あるいはそれ以上の、標準誤差(standard errors、略してs.e.)の減少を論証します。この手法は、混合割合の推定に検出可能な偏りを生じません(図1b~d)。さらに、新しい変異年代で確認された遺伝子型でのf統計の計算は、より低品質なゲノムをより高い品質のゲノムで再構築された系図に移植することを可能にすることによって、柔軟性を追加しながら、多くの事例で、完全な系図を用いたさいに生成される検出力とほぼ同等の検出力が得られる、と論証されます。模擬実験ではさらに、系図に基づくf統計推定値は配列決定およびよそされる大きさの位相変換誤差に対して堅牢である、と確証されます。じっさい、配列誤差はSNPに基づく集団遺伝学的手法に大きく影響するかもしれませんが、誤差は系図で「修正」でき、それは領域の全多様体が考慮に入れられるからです[32]。
先行研究は最近の歴史の代理としての稀な変異の確認を示唆してきましたが[3、4]、本論文では、有効人口規模が人口集団間で異なる場合にこの手法は偏りを生じやすく、完全な時間の限定された系図を用いると、偏らず、またより強力である、と示されます(図1b)。これは、変異がアレル(対立遺伝子)頻度を完全には予測せず、系図に基づく手法が、直近の近い過去の合着を「関連づける」より高頻度の新しい変異の包摂からも検出力を得る、という観察のためです。広く用いられている「染色体染色」手法と、ある標本において染色体断片間で最も近い部位を見つけ、非負制約付き最小二乗法を用いてまとまりをモデル化する、IBDに基づく概念的に同様のモデル化も、供給源集団が混合事象以降に強い浮動を経てきた場合には偏りやすい、と論証されます(図1b)。
次に、さまざまな実証例でTwigstatsの時間制約系図手法が検証されます。まず、対での外群f₃統計[44]を高めて、微細規模の人口構造が定量化され、これが以前に提案された模擬実験の使用を改善する、と論証されます。新石器時代ヨーロッパの刊行されているゲノムに適用すると、SNPデータだけでは昭巣ではない関係である、他の個体と比較しての、アイルランドの巨石建造物に埋葬された個体間の以前に提案された微細規模の構造[45]を再現できます。先史時代のヨーロッパに寄与した主要な3祖先系統、つまり中石器時代狩猟採集民と初期農耕民と草原地帯人口集団のよく研究された事例[13、14、16]について、偏りのない推定値と、すでに充分に検出力のあるqpAdmにおける標準誤差[46]での約20%の改善が得られます。
最後に、Twigstatsは時間の正確な混合と長期の遺伝子流動の競合モデルを解決、もしくは混合時期を制約できます。たとえば、アフリカにおけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と初期現生人類(Homo sapiens)との間の長期の深い構造と遺伝子流動が、6万年前頃の断続的な混合事象と類似する遺伝的パターンを生成するかもしれない、と以前に提案されてきており、これはユーラシア人の祖先へのネアンデルタール人との混合のモデルに疑問を提起しました[49]。しかし、そうした長期の深い下部構造はSNPに基づくf統計を混乱させ、ネアンデルタール人との混合と類似したパターンを生成するでしょうが、本論文の模擬実験では、Twigstatsは近い過去の混合からこの歴史を明確に区別できる、と論証されます。実証的な全ゲノムへのTwigstatsの適用は、深い下部構造のみとは一致しないものの、断続的混合と一致する結果を生成します。
●中世初期ヨーロッパの祖先系統モデル
Twigstats手法が、祖先系統モデルおよび推定割合の検証で、解像度と統計的検出力を効率的に改善する、と論証できたので、中世初期ヨーロッパの歴史が検証されます。千年紀前半には、タキトゥス(Tacitus)やアンミアヌス・マルケリヌス(Ammianus Marcellinus)などローマの歴史家は、ローマ帝国の国境を越えた集団の地理的分布と移動について記載しており、西ローマ帝国の崩壊におけるその潜在的役割を示唆しました。しかし、これらの歴史的に証明された人口統計学的事象の正確な性質と規模、およびその遺伝的影響は問題となってきており、表面上は関わっている多くの集団間で共有されている密接な関係のため、遺伝学的手法では検証困難でした。ローマ帝国の境界からさらに離れた距離では、歴史的記述の不足のため、さほど理解されていません。したがって、Twigstatsにおける時間を制約した祖先系統統計的検出力の改善は、これらの問題の最高の機会を提供します。
中世初期個体群の祖先系統モデルを開発するためにはまず、前期鉄器時代(Early Iron Age、略してEIA)およびローマ期のより古い供給源の祖先系統の広範な特徴づけが必要です。全個体間の対でのクレード(単系統群)検定に基づく階層的UPGMA(unweighted pair group method with arithmetic mean、算術平均での非加重結合法)クラスタ化(まとまめること)を用いて、qpWaveで提案された祖先系統群の単系統群性(ここでの意味は、すべての他の検証集団と対称的に関連しているのかどうか、ということです)が形式的に検証されました。これは、鉄器時代とローマ期のブリテン島(11個体)、ほぼ現在のドイツとオーストリアとフランスのヨーロッパ中央部地域の鉄器時代(10個体)、ローマ期のポルトガル(4個体)、ローマ期のイタリア(10個体)、鉄器時代のリトアニア(5個体)、EIAスカンジナビア半島(スウェーデンとノルウェー、10個体)、青銅器時代とEIAの他のより東方の数集団(25個体)を含む、一連のモデル祖先系統供給源をもたらいしました(図2a)。次に、回転qpAdm手法[54]を用いて、推定供給源のより大きな遺伝子プールからの寄与供給源一式が絞り込まれます。以下は本論文の図2です。
さらに、Twigstatsを用いて計算された外群f₃統計で非媒介変数的MDS(multidimensional scaling、多次元尺度構成法)が実行され、その結果はどのモデル化過程にも依存せず、じゅうらいの外群f₃統計と比較して解像度増加を示しました(図2a・b)。励みになることに、MDSモデルはおもにスカンジナビア半島南部のノルウェーとスウェーデン北部のEIA個体群の分離(巣瀬2a)など、本論文の供給源集団に反映されている地域的な微細規模の遺伝的構造を裏づけており(図2a)、この関係はTwigstatsなしでは検出されません。このMDS分析では、ポルトガルとフランスとドイツとオーストリアとイギリスの広範囲の個体群の密接な類似性が分かります。これはケルト語派圏と関連する地域に相当しており、その密接な遺伝的類似性はそれ以前の拡大に起因する、と仮定されます。疎らな標本抽出によって、ヨーロッパ中央部および他の一部の地域における地域的な祖先系統の差異の完全な範囲の理解は制約されますが、MDSモデルで区別された大陸の祖先系統から、この期間のヨーロッパ全域における大きな祖先系統の差異が比較的よく把握されている、と示唆されます。
●スカンジナビア半島的祖先系統の拡大
ヨーロッパのいくつかの地理的地域にまたがる利用可能な古代DNAデータを用いて時間横断区が組み立てられ、以前に定義されたEIAもしくはローマ鉄器時代供給源でのモデルを用いて、その祖先系統が推測されました。本論文のモデル化は、早ければ1世紀にヨーロッパ全域に出現する、ドイツ北部もしくはスカンジナビア半島に由来する祖先系統がある個体群の、直接的証拠を提供します(図2b・cおよび図3)。以下は本論文の図3です。
現在のポーランドの地域では、本論文の分析は祖先系統のいくつかの明確な変化を示唆していまする第一に、中期~後期青銅器時代(紀元前1500~紀元前1000年頃)には、縄目文土器文化(Corded Ware culture、略してCWC)ともともとは関連づけられていた既存の祖先系統[55]から離れた明確な変化が観察されます。第二に、1~5世紀には、ヴィェルバルク(Wielbark)文化と関連する個体群[5、12]が、先行する青銅器時代集団から離れた追加の強い変化を示し、EIAスカンジナビア半島に起因する75%超の構成要素でのみモデル化できます。とくにより古いヴィェルバルク墓地の複数の個体は、ほぼ100%のEIAスカンジナビア半島と関連する祖先系統を有しています(図2c)。ヴィェルバルク考古学複合体は、南東部のおチェルニャコヴォ(Chernyakhov)文化および2~5世紀に繁栄した歴史的なゲルマン民族集団である初期ゴート人と関連づけられてきました。本論文のモデル化は、おそらくはスカンジナビア半島のゲルマン語派を話していた一部の集団が南方へとバルト海を横断し、紀元後の最初の数世紀にオーデル川とヴィスワ(Vistula)川の間の地域へと拡大した、との見解を裏づけますが、これらの拡大が歴史的なゴート人と具体的に関連づけることができるのかどうかは、まだ議論となっています。さらに、この期間におけるヴィェルバルク文化埋葬のかなりの割合は火葬だったので、他の祖先系統を有する個体の存在の可能性は、そうした個体が火葬のみだった(したがって古代DNA記録では不可視)ならば、拳固密には除外できません。
先行研究は、同じ地域のヴィェルバルク文化関連個体群からその後の中世個体群への祖先系統の連続性を却下できませんでした[12]。Twigstatsの向上した検出力では、れんぞくせいのモデルは強く却下され、先行する鉄器時代もしくは青銅器時代のどの集団でも1供給源モデルは中世の個体群について合理的な適合を提供しません。代わりに、中世ポーランドの個体群の大半は、ローマ鉄器時代リトアニアと関連する祖先系統の混合としてのみモデル化でき、これは、中期~後期青銅器時代ポーランドの個体群の祖先系統(44%、95%信頼区間では36~51%)、ハンガリーのスキタイ人もしくはスロバキアのラ・テーヌ(La Tène)文化個体群(49%、95%信頼区間では41~57%)、可能性がある少数の祖先系統として、コーカサスのサルマティア人と関連する祖先系統の構成要素と類似しています(図2c)。中世ポーランドの12個体のうち4個体(そのうち3個体は後期ヴァイキング期に由来します)は、検出可能なスカンジナビア半島関連祖先系統を有していました。その後の中世ポーランドの個体群で検出された祖先系統の一部は一部の火葬された人口において千年紀後半に存続していたかもしれませんが、それに関係なく、これは中世ポーランドにおける大規模な祖先系統の変容を示しています。将来のデータは、これがこの地域におけるスラブ語派話者集団の影響をどの程度反映しているのか、光を当てることができるでしょう。
現在のスロバキアでは、鉄器時代のラ・テーヌ文化期と関連する個体群は本論文のMDS分析の二つの次元ではハンガリーのスキタイ人に近いようで、ヨーロッパ中央部と東部の祖先系統の混合としてモデル化されます。しかし、スロバキアのゾホル(Zohor)遺跡の50~60歳の女性1個体の1世紀の埋葬はスカンジナビア関連祖先系統のみでモデル化され、スカンジナビア半島EIAと関連する祖先系統がヴィェルバルク考古学複合体の範囲の南西部に出現する証拠を提供します[5](図3b)。その後、スロバキアの中世初期の個体群は部分的なスカンジナビア関連祖先系統を有しており、拡大集団と在来集団との間の統合の証拠を提供します。
近くでは、現在のハンガリーにおいて、ランゴバルド人と関連する6世紀のいくつかの埋葬でスカンジナビア関連祖先系統構成要素が観察されます(ランゴバルド_中世初期1)。これは、ヨーロッパ北西部の現在の集団、つまり1000GP(1000 Genomes Project、1000人ゲノム計画)におけるGBR(British in England and Scotland、イングランドとスコットランドのイギリス人)やCEU(Northern Europeans from Utah、アメリカ合衆国ユタ州のヨーロッパ北部人)やFIN(Finnish in Finland、フィンランドのフィン人)のとの類似性を報告した先行研究[6]と一致しますが、本論文はそれ以前のゲノムを用いてより高解像度で解決できます。これらランゴバルド人の埋葬のいくつかの他の個体(ランゴバルド_中世初期2)はヨーロッパ北部からの検出可能な祖先系統を示さず、代わりに、大陸ヨーロッパ中央部の鉄器時代集団とより密接に関連しており、おそらくはランゴバルド様式で埋葬された地元の人々の子孫を表しています。本論文の結果は、ランゴバルド人は現在のドイツ北部もしくはデンマークの地域に起源があるものの、6世紀までに複数の異なる文化的帰属を組み込み、祖先系統を混合した、との証明と一致しています。ハンガリーの現在の人口集団は、ランゴバルド人の状況の中世初期個体群に祖先系統が由来していないようで、代わりにスキタイ人関連祖先系統とより類似しており、アヴァールやマジャールや他の東方集団のその後の影響[58]と一致します。
ドイツ南部では、おそらくは歴史的なゲルマン語派話者であるバヨヴァリー人と関連する中世初期バイエルンの個体群の遺伝的祖先系統は、鉄器時代ドイツ中央部のそれ以前の集団にのみ祖先系統が由来します。バヨヴァリー人はおそらく5世紀にこの地域に現れましたが[59]、その起源は未解決です。現時点の最良のモデルは、EIAスカンジナビア半島とヨーロッパ中央部に由来する祖先系統との混合を示唆しており、地域的な祖先系統の変化をもたらしたスカンジナビア関連祖先系統の拡大が提案されます(図2cおよび図3c)。
イタリアでは、ヨーロッパ北部および中央部祖先系統の変化の南方への拡大が古代末期までに現れ(4世紀頃)、そこでは先行期間と比較しての祖先系統の明らかな多様化が観察できます(図3d)。しかし、ほぼ100%のスカンジナビア祖先系統を有する個体は、これまで利用可能な標本抽出されたデータでは観察できません。
ブリテン島では、鉄器時代とローマ期の個体群の祖先系統は本論文のMDS分析では緊密なクラスタ(まとまり)を形成し、アイルランドおよびオークニー諸島の利用可能な先行する青銅器時代個体群と比較して変化し、近くに位置しているものの、鉄器時代およびローマ期ヨーロッパ中央部の利用可能な個体群とは異なります。しかし、オーストリアのクロスターノイブルク(Klosterneuburg)の1ヶ所の軍事要塞遺跡から見つかった1~2世紀の2ヶ所の埋葬[5]は、他の集団を除外して、現時点ではブリテン島の鉄器時代もしくはローマ期人口集団と区別できない祖先系統を有しています。一つの選択肢は、この2個体がブリテン島の祖先系統を有していたことで、あるいは、現時点で標本抽出されていないヨーロッパ大陸西部の人口集団が鉄器時代ブリテン島南部と類似した祖先系統を有していたました。
Twigstatsは中世初期イングランドにおける鉄器時代のブリテン島とヨーロッパ北部の祖先系統間の混合のモデル[9]を改善し、時間階層化を用いると、標準誤差はSNPでの9%から4%へと半減します(鉄器時代ブリテン島関連祖先系統の点推定値は、それぞれ80%と79%)。この改善された解像度を用いて、イングランドのヨークのドリッフィールド台地(Driffield Terrace )の剣闘士もしくは兵士の墓地と考えられる遺跡から発見された、2~4世紀頃となるそれ以前のローマ期の個体(6DT3)[60]は、以前には祖先系統の外れ値と特定されましたが[62]、具体的には約25%のEIAスカンジナビア半島関連祖先系統を有していしました(図2c)。これは、スカンジナビア関連祖先系統を有する人々が5世紀の前にすでにブリテン島に存在したことを記録しており、その後で、アングロ・サクソンの移住と関連するかなりの流入がありました[9]。この個体が剣闘士だったのか兵士だったのか、不明確ですが、ヨーロッパ北部の個体群と集団はじっさいも兵士および奴隷化された剣闘士の両方としてローマの資料に記録されています。
ヨーロッパ全域で、スカンジナビア関連祖先系統の南東と南西への各座隊の地域的違いが見られます。現在のポーランドとスロバキアの中世初期集団はスカンジナビア半島EIA集団の一つから特定の祖先系統を有しており、それはEIAにおいておもにスカンジナビア半島北部の個体群とともに見られ、スカンジナビア半島のより南方の他のなおも集団と関連する祖先系統の証拠はありません(図2d)。対照的に、ヨーロッパ南部および西部では、スカンジナビア関連祖先系統は、おそらくドイツのバヨヴァリー人やイタリアのランゴバルド関連埋葬やブリテン島南部の中世初期埋葬の例のようにEIAスカンジナビア半島に由来するか、スカンジナビア半島の特定地域では解決できません。これらの拡大がじっさいに言語と関連しているのならば、このパターンはゲルマン語派の主要な系統と驚くほど一致しており、一方では、ウクライナでゴート人が話していた今では消滅した東ゲルマン語群があり、もう一方では、中世初期に記録されている古英語や古高ドイツ語など西ゲルマン語群があります。
●先ヴァイキング期スカンジナビア半島への流入
EIAスカンジナビア半島(500年以前)で、広範な遺伝的均一性の証拠が見られます。具体的には、デンマークの個体群(100~300年頃)は、スカンジナビア半島の同時代の人々と区別できません(図2c)。しかし、シェラン島(現在のデンマーク)の8世紀(後期鉄器時代/初期ヴァイキング期)においてすでに、遺伝的祖先系統の明らかな変化が観察され、100%EIA祖先系統モデルは却下されます。祖先系統におけるこの変化はデンマークにおいてその後のヴァイキング集団で存続しており、この時期には全集団がヨーロッパ中央部の鉄器時代大陸部集団と関連する祖先系統のさまざまな割合でモデル化されます(図3fおよび図4c)。ヴァイキング期個体群の非媒介変数MDSから、個体間の差異はEIAスカンジナビア半島個体群からヨーロッパ中央部に特徴的な祖先系統にまたがる勾配を形成する、と示唆されます(図4e)。デンマークの祖先系統における観察された変化が、オーストリアやフランスやドイツの鉄器時代供給源集団へのそれ以前に起きたかもしれない未知の遺伝子流動によって混乱する可能性はありませんが、そうした遺伝子流動は正確な祖先系統の割合に影響を及ぼすかもしれません。以下は本論文の図4です。
これらのパターンは祖先系統の北方への拡大と一致しており、それはヴァイキング期に始まり、ユトランド半島やシェラン島やスウェーデン南部へと広がったかもしれません。この祖先系統の地理的起源は、鉄器時代ヨーロッパ中央部の利用可能な標本がまだ少ないので、現時点では解明困難です。この拡大の時期は利用可能な標本によってのみ制約され、この祖先系統はデンマークのコペンハーゲン地域(100~300年頃)[6]や、スウェーデンの南端の1個体(500年前頃)[16]や、スウェーデンのエーランド島のサンドビーボルグ(Sandby Borg)大虐殺遺跡(500年頃)[7]や、おそらくはスウェーデン中央部起源だった現在のエストニアの8世紀半ば頃となるサルメ(Salme)舟の埋葬[6]では観察されません。したがって、この祖先系統の変容は、各特定地域のこれらの個体群の跡のことだった可能性が最も高く、おもに千年紀後半に置きました。
スカンジナビア半島へのこの祖先系統の影響の完全な程度を評価するため、次にヴァイキング期のスカンジナビア半島における個体群の祖先系統の理解が目指されました。先行研究では、この期間のスカンジナビア半島には祖先系統の多様性があった、と示唆されており[6、7]、それは海上の移動性増加のためですが、先行する祖先系統に基づく個体単位の祖先系統推定は報告されていませんでした。各個体の祖先系統が回転qpAdm体系を用いて分析され(図4a)、この手法はTwigstatsで近い過去の合着に限定するとモデルの区別で検出力の増加を示します(Twigstatsで許容された1供給源モデルの80%以上は全SNPを用いての強要された1供給源モデルでもあり、逆の場合を比較すると、17%未満です)。
スカンジナビア半島全域の非局所的祖先系統における地域差が調べられました。デンマークでは、ヴァイキング期の53個体のうち25個体に、その最適に許容されたqpAdmモデルにおいて検出可能なヨーロッパ中央部関連祖先系統(ヨーロッパ中央部.鉄器時代ローマもしくはポルトガル.鉄器時代ローマ)がありました。スウェーデンでは、62個体のうち20個体に検出可能なヨーロッパ中央部関連祖先系統があり、ほぼ完全に南部地域に集中しています(図4a・d)。対照的にノルウェーでは、この祖先系統は24個体のうち2個体でしか観察されず、スカンジナビア半島南部における侵入してきた祖先系統の広範な影響が示唆され、ノルウェーとスウェーデン北部におけるEIAからのより多くの連続性が提案されます(図4a)。全体的に考えると、ヨーロッパ中央部関連祖先系統の証拠を示す個体はおもに、歴史的にデンマーク圏の影響と支配内の地域で観察されます。たとえば現時点では、スベア人(Svear)の地域的勢力の中心だったスウェーデン東部中央では、そうした個体が確認されていません。分布の違いから、ヨーロッパ中央部関連祖先系統は歴史的なイェタール人(Götar)およびデンマーク王国の国境の土地に暮らす集団が支配する地域でより一般的だった、と示唆されるかもしれません。
祖先系統の差異がどの程度個体の生涯の移動性もしくは確立した集団の移動性と一致しているのか、検証するために、祖先系統の肖像を再構築できた23個体に関連するストロンチウム同位体データもある、スウェーデン南東部のエーランド島に焦点が当てられました。歯のエナメル質から得られたストロンチウム同位体データは、個体が成熟まで成長した地域の地質を反映しており、エーランド島とヨーロッパ北部の多くの他地域との間では予測にかなりの違いがあります。109個体におけるストロンチウム同位体比の全範囲は二つの様相を示しており、多数派群は低い比率を、第二の少数派群は地元の動物相の予測範囲外に位置する高い比率を有しています(図4b)。本論文のデータでゲノムが解析されている23個体のうち、ヨーロッパ中央部と関連する祖先系統を100%有している5個体(ブリテン島と関連する祖先系統を有する1個体も含まれます)は全員、多数派のストロンチウム値の一部で、地元で育ったことと一致します。対照的に、安定同位体に基づくとほぼ明らかに地元出身ではない6個体は全員、50%以上のEIAスカンジナビア半島関連する祖先系統を有していますが、完全にスカンジナビア半島関連祖先系統の3個体も、地元の値を有していました。これはヨーロッパ中央部関連祖先系統の存在が一時的な減少ではなく、エーランド島のサンドビーボルグ要塞の大虐殺遺跡の個体群の年代である500年頃以後のある時点で起きた、祖先系統の変換だったことを示唆しておれ、これらの個体は全員、厳密にEIAスカンジナビア半島関連祖先系統を有しています。じっさい、ある仮説では、サンドビーボルグにおける大虐殺は、その後の祖先系統の変化に寄与した人々の移動と関連する紛争を表している、とされていますが、他の仮定的状況の可能性もあり、この仮説の検証には、生体分子および考古学的データのさらなる統合が必要です。
●スカンジナビア半島へのヴァイキング期の移動性
先行研究[6、7]は、ヴァイキング期スカンジナビア半島へのブリテン島と関連する祖先系統の大きな流入を示唆しました。この祖先系統は、その祖先系統が鉄器時代ブリテン島に完全に由来するように見える個体を含めて、一部の個体(ノルウェーの7個体、デンマークの14個体、スウェーデンの14個体)で検出されますが、その全体的な影響は、以前の報告と比較して減少したようです。本論文の分析は、ノルウェー北部における鉄器時代ブリテン島の祖先系統の相対的により大きな影響を示唆しており、スカンジナビア半島南部はおもに大陸部ヨーロッパ中央部祖先系統の影響を受けています(図4d)。本論文では、ブリテン島の祖先系統の推定値が先行研究と比較して減少しているのか、ブリテン島および大陸部ヨーロッパ中央部と関連する祖先系統が区別できなかったからである、と仮定されます。これは、標準的な手法でのこうした密接に関連する供給源を区別する統計的検出力の不足に起因していたり、その後の遺伝子流動(ブリテン島へり遺伝子流動など)に影響を受けた現代人の代理人口集団の使用によってもたらされた潜在的な偏りのためだったりするかもしれません。本論文は、以前に報告された分析[6、7]を再現することによって、これを説明します。
同様に、先行研究[6]では、スウェーデン南部のケルダ(Kärda)などの遺跡の個体がヨーロッパ南部祖先系統を有していた、と示唆されました。本論文のモデルでは、ケルダ遺跡個体群はヨーロッパ中央部関連祖先系統と一致しますが、ヨーロッパ南部供給源と関連する祖先系統をかなりの割合で有している個体はいません。代わりに、スカンジナビア半島の3個体のみにおいて、比較的低い割合でヨーロッパ南部供給源由来の祖先系統が検出されます(図4a)。
興味深いことに、スウェーデン南部、とくにゴットランド島に集中する、ヨーロッパ東部(現在のリトアニアとポーランド)の青銅器時代および鉄器時代供給源の祖先系統が14個体で検出されました(図4a)。これは、以前の遺伝学的研究と一致します[6、7]。この祖先系統は男性個体で多いと分かり、男性に偏った移動性および/もしくは埋葬が示唆されます。最も近い一致は、バルト人と関連するローマ鉄器時代のリトアニア個体のゲノムの傾向があり、これはバルト海全域の移動性と一致するでしょうが、利用可能なゲノムのり地理的代表性が依然として限られていることに要注意です。
●スカンジナビア半島からのヴァイキング期の拡大
伝統的に、今ではヴァイキングの離散と呼ばれることが多い事象に関する歴史的観点は、スカンジナビア半島のさまざまな地域からの人口集団の移動と定住を強調しました。本論文のMDS分析はスカンジナビア半島EIAと関連する混合祖先系統を再び示唆しており、さまざまな局所的混合を示す地域差があります(図4e)。
ブリテン島では、2ヶ所のヴァイキング後期の集団墓地から回収された個体のほとんどは、リッジウェイ丘とドーセット(Dorset)とオクスフォードのセント・ジョンズ・カレッジで特定されており、ヴァイキング期スカンジナビア半島南部で見せられる典型的な祖先系統を示します(図4f)。さらに西方では、フェロー諸島とアイスランドとグリーンランドの北大西洋のヴァイキング期の個体群はスカンジナビア半島由来の祖先系統を有しており、数個体はスカンジナビア半島南部で見られる大陸部ヨーロッパ中央部関連祖先系統(図4f)や、鉄器時代ブリテン島とかなり共有されている祖先系統の兆候を示します。以前の仮説とは対照的に、男性でブリテン島およびアイルランド島と関連する祖先系統の濃縮が見つかり、鉄器時代もしくはローマ期ブリテン島を供給源として含む少なくとも一つの許容モデルがあるのは、男性では17個体のうち15個体、女性では6個体のうち3個体です。しかし、初期イングランドとノルウェーの関連祖先系統間の区別をより明確にする追加の個体群の標本抽出が、この仮説の完全な検証には必要となるでしょう。
ヨーロッパ東部では、ウクライナのヴァイキング期の1ヶ所の埋葬でEIAスカンジナビア半島祖先系統が観察され、これらの祖先系統は現在のロシアのヴァイキング期の埋葬で大きな比率を占めます。ロシア西部のスタラヤ・ラドガ(Staraya Ladoga)遺跡では、EIAスカンジナビア半島関連祖先系統を有する数個体が観察され、少なくとも1個体は年代が11世紀で、鉄器時代ブリテン島と関連する明らかな祖先系統を有しています。したがって、ヴァイキング期にはスカンジナビア半島南部にほぼ限定されていた鉄器時代ヨーロッパ中央部祖先系統の相対的な不足は、これらの個体の起源が、ヴァイキング期の個体群がスウェーデンの中央部/北部もしくはノルウェーと最も類似した祖先系統を示す、スウェーデンの中央部/北部もしくはノルウェーにあるかもしれない、と示唆しています。
●まとめ
本論文の手法であるTwigstatsは、ハプロタイプに基づく手法の検出力の利点を完全に、f統計に適用でき、以前には利用できなかった、混合の偏りがなく時間階層化された分析を可能とする、時間的な枠組みに移植します。本論文では、Twigstatsは祖先系統の割合の微細規模の定量的モデル化を可能として、鉄器時代とローマ期とヴァイキング期においてヨーロッパの北部および中央部に影響する、広範な祖先系統の変化を明らかにする、と論証されました。おそらくはゲルマン語派言語を話しており、千年紀前半にスカンジナビア半島関連祖先系統を有していた個体群の、南方および/もしくは東方への拡大の証拠が明らかになります。この文脈における「スカンジナビア半島関連」は利用可能な古代人のゲノムと関連しているので、これらの過程が、たとえばヨーロッパ北部および中央部の地域から推進された可能性が充分あることに要注意です。これは、ローマのすぐ近くの隣人で高まる傾向にあり、ローマの境界を越えて暮らしていたヨーロッパの共同体への内部の移住の方向に大きな役割を果たしたかもしれない、より大きな富の魅力と一致するかもしれません。その後、遺伝子流動は北方へと向かったようで、鉄器時代ヨーロッパ中央部祖先系統はスカンジナビア半島へと拡大しました。まとめると、本論文の手法は、世界中の新たな高解像度の遺伝的歴史の再構築に使用できます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:古代ヨーロッパの祖先に関する洞察
新たな手法を用いることで、鉄器時代からバイキング時代後期までの北ヨーロッパおよび中央ヨーロッパの遺伝的歴史の高解像度再構築を示す論文が、Nature に掲載される。この手法により、この地域の遺伝的歴史に関するさらなる洞察がもたらされる。
古代ゲノムの分析により、最近の過去からの移住や拡散の出来事を再構築し、それらが今日の遺伝学にどのような影響を与えたかを調査することが可能になる。しかし、異なる家系間の類似性により、現在の方法ではそれらを区別することが難しいため、遺伝学を用いて歴史をたどることは困難である。その一例が、紀元前500年頃の鉄器時代初期からの北ヨーロッパおよび中央ヨーロッパである。紀元後3世紀と4世紀の移住や地中海沿岸の人口への影響、そしてバイキング時代(西暦750年–1050年)の後の移動パターンなど、未解決の問題が数多く残っている。
Leo SpeidelとPontus Skoglundらは、現在の方法よりも正確に時代を超えた遺伝的系譜を再構築できる手法「Twigstats」を開発した。著者らは、この手法をヨーロッパの1,556の古代ゲノムに適用し、紀元前500年から西暦1000年の間のヨーロッパの人口の歴史を推定した。分析の結果、西暦1000年までの前半期には、スカンジナビア系祖先の系統が西、中央、および東ヨーロッパの3地域に2つの流れで広がっていたことが明らかになった。しかし、後半期にはこの系統が地域的に消滅し、他の系統と大幅に混ざり合ったことが示唆された。また、著者らは、西暦800年までに、バイキング時代の個人の多くが中央ヨーロッパのグループからの遺伝的祖先を保有していたことを指摘しているが、これは初期の鉄器時代には観察されなかったことである。
著者らは、自身らの手法により、異なる集団の遺伝的歴史について、より詳細な洞察が得られる可能性があると示唆している。
ゲノミクス:中世初期ヨーロッパの高分解能のゲノム史
Cover Story:北欧の暗号:祖先のつながりが中世初期ヨーロッパのゲノム史を解き明かす
ヒトの祖先系統は多くの地域で比較的似ており、集団間や集団同士を区別するのが難しいため、遺伝的祖先を用いて歴史を遡り、過去の出来事を探ることは困難である。今週号では、L SpeidelとP Skoglundたちが、祖先の微妙な違いを高解像度で再構築できる新たな手法「Twigstats」を報告している。研究チームはこの手法を用いて、中世初期ヨーロッパのゲノム史を調べた。その結果、スカンジナビア系の祖先を持つ2つの流れがヨーロッパ大陸全域に拡大した様子や、ヴァイキング時代(約750~1050年)以前にスカンジナビア内へ拡大した、別の流れを追跡することが可能になった。表紙は、ヴァイキング時代のルーン石に見られる蛇紋岩の彫刻に着想を得たもので、DNAのヌクレオチド(A、T、G、C〔K〕)のエルダーフサルクのルーン文字が描かれている。
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●要約
既知でも未知でも多くの歴史的事象が遺伝学的研究の検出閾値を下回ってきたままなのは、微妙な祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の変化の再構築が困難だからです。共有ハプロタイプや稀な多様体[3、4]に基づく手法は検出力を向上させますが、時間軸が明確ではなく、これまで偏りのない祖先系統モデルには採用できませんでした。この研究で開発されたTwigstatsは、時間的に層別化された祖先系統解析の手法で、近い過去の時点の合着(合祖)に焦点を当てることで、人口集団に特異的な浮動によって偏らないまま、統計的検出力を1桁改善できます。この枠組みが、歴史時代のヨーロッパの利用可能な古代人1556個体の全ゲノムに適用されました。高解像度を提供するために、先行するゲノムを用いて、個体水準の祖先系統をモデル化できるようになります。千年紀前半には、スカンジナビア半島関連祖先系統の少なくとも二つの異なる流れが、ヨーロッパの西部と中央部と東部に広がっていたもと観察されます。対照的に、千年紀後半には、祖先系統のパターンはこれらの祖先系統の地域的消滅もしくは大幅な混合を示唆します。スカンジナビア半島では、800年頃の大きな流入が記録され、この頃に、ヴァイキング期の個体群は初期鉄器時代の個体群には見られなかったヨーロッパ中央部と関連する集団の祖先系統を有していました。本論文の調査結果から、時間的に層別化された祖先系統分析は遺伝的歴史についてより高解像度のレンズを提供できる、と示唆されます。
●研究史
古代ゲノムの配列決定は、古代における拡大や移住や混合といった事象を再構築し、および現在のヒトの遺伝的差異へのその影響を理解する能力に、革命をもたらしてきました。しかし、遺伝的祖先系統を用いての歴史の追跡は、とくに、歴史と考古学からの最も豊富な比較情報が存在することの多い歴史時代には、依然として困難です。これは、多くの地理的地域の祖先系統が、現在の手法では統計的に区別できないくらい類似していることが多いからです。一例は紀元前500年頃の鉄器時代開始以降のヨーロッパ北部および中央部で、この期間には、4~6世紀におけるヒトの移住の大規模なパターンの性質や、その地中海世界への影響や、ヴァイキング期(750~1050年頃)におけるヒトの移動のその後のパターンなど、多くの長年にわたる問題が残っています。
最近のいくつかの研究は、これらの期間における高い移動性と遺伝的多様性を記録して、高い移動性にも関わらず安定した人口構造を示唆し[5]、ヴァイキング期スカンジナビア半島[6~8]や中世初期イングランド[3、9]や鉄器時代および中世ポーランド[12]における遺伝的差異を明らかにしてきました。しかし、先行研究は主に現代人のコホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)を用いて、時空間的な祖先系統の変化を調べました。これは、ヨーロッパ中央部と北部の鉄器時代集団の差異が、たとえば、石器時代および青銅器時代ヨーロッパ祖先系統の景観を形成した、より一般的に研究されている狩猟採集民と農耕民と草原地帯牧畜民集団の間の差異[13、14、16]よりも1桁低いからで、そのFₛₜ(fixation index、2集団の遺伝的分化の程度を示す固定指数)は、前者が0.1~0.7%なのに対して、後者は5~9%[13、17]です。現代の人口集団は差異検出のより高い検出力を提供しますが、古代の個体群との遺伝的類似性はその後、つまり古代の個体群の跡の遺伝子流動によって混乱するかもしれません。したがって、最も原則的な手法は、供給源と「外群/参照」人口集団が、モデルを試みる対象のゲノムもしくは集団より古いか、少なくとも同時代である、祖先系統モデルの構築です。しかし、古代ゲノムは、標本規模が数千分の一まで小さく、配列品質が低下することによる、限定的な統計的検出力のため、これは困難でした。
古代DNAデータからの遺伝的歴史および祖先系統モデルの構築は一般的に、f統計に基づいた手法を用います[13、20]。この手法の流行は、より低い品質の古代DNAデータでも分析可能なことや、確証への相対的な堅牢性や、人口ボトルネック(瓶首効果)の存在を含めて偏りのないことへの理論的保証など、多くの好ましい特性に由来します。qpAdm [13]などf統計に由来する手法は、混合事象などの回数や供給源の最も近い代表の特定を含めて、混合モデルの偏りのない適合を可能にする点で唯一のものに近くなっています。しかし、f統計は、標本規模の増加にも関わらず、密接に関連する祖先系統を含む事象の再構築には、常にじゅうぶんな検出力を有しているわけではありません[6、24]。ハプロタイプもしくは組換えによって分解されていないDNAの共有断片を特定する手法は、個々のSNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)標識を用いる場合よりも検出力が高い、と以前には示されてきましたが、この情報は、f統計の利点との組み合わせでは利用できませんでした[6、25]。さらに、利用可能な古代DNAの圧倒的多数は120万SNPパネルに由来しており[27]、全ゲノムショットガンデータで利用可能な50万以上のSNPの分析では、より明確な利点はほとんど論証されてきませんでした。
ハプロタイプ情報を用いる手法の一つは完全な系統樹推定で、これは何千もの現代人と古代人の全ゲノム[32、34]に容易に適用できます。そうした手法は、正の選択[32、37]や人口構造や祖先の地理的位置[34]や変異率の変化の検出力強化への適用に成功してきました。系統樹は、通常は近い過去のハプロタイプ共有もしくは同祖対立遺伝子(identity-by-descent、略してIBD)を含めて、遺伝的祖先系統についての本質的に完全な時間分解情報を含んでいる、と考えることができます。ここでの遺伝的祖先系統は、個体群の遺伝的祖先の完全な収集を指しており、系統樹はこれらがどのようにいつ個体間で共有されるのか、明らかにします。対照的に、稀な多様体の確認やハプロタイプもしくは染色体の塊は、系図で利用可能な情報の部分集合もしくは要約と考えることができます。本論文が提案する手法は「時間的に層別化された祖先系統」と呼ばれ、これは、推定されたゲノム規模の系図(図1a)の使用によってf統計の統計的検出力を数倍高め、この手法は、紀元前500~紀元後1000年頃のヨーロッパ北部および中央部の遺伝的歴史の再構築に適用されます。
●系図は祖先系統のモデル化を改善します
定義上、f統計は、変異が個体間でどう共有されるかによって示唆される、局所的な系図関係の発生を数えます。f統計と局所的な系図との間のこの固有の関係によって、推測された系図で直接的にf統計を計算することが簡単になります。観察された変異でf統計を計算する代わりに、今度はこれらの系図の推定された枝で計算され、その一部は、変異によって直接的に関連づけられていないかもしれないものの、局所的なハプロタイプ構造の解決によって推定されます。
この手法を検証するために、数学的理論が開発され、祖先系統の割合が2通りのf₄統計の単純な比率に制約される、単純な混合モデルが模擬実験されます(図1b)。偏りはありませんが、系図自体で計算されf統計を用いると、混合事象定量化の統計的検出力は大きく改善されない、と分かりました。しかし、理論的予測と模擬実験の両方を通じて、検出力の大きな改善は、近い過去の混合事象に最も情報をもたらす最近の合着への制約による偏りなしに得ることができる、と示されます(図1c・d)。供給源の分岐時期より古い合着は混合事象に関して情報を有しておらず、f統計への無意味な情報を追加するだけと示されます。したがって、これらを除外すると、原則的には偏りを生じさせることなく統計的検出力が増加します。以下は本論文の図1です。
Twigstatsと呼ばれる手法に、遺伝子系統樹の「小枝」を研究するという着想が実装され(図1a)、この手法は模擬実験では、遺伝的歴史のモデルの標本規模と詳細に応じて、最大10倍、あるいはそれ以上の、標準誤差(standard errors、略してs.e.)の減少を論証します。この手法は、混合割合の推定に検出可能な偏りを生じません(図1b~d)。さらに、新しい変異年代で確認された遺伝子型でのf統計の計算は、より低品質なゲノムをより高い品質のゲノムで再構築された系図に移植することを可能にすることによって、柔軟性を追加しながら、多くの事例で、完全な系図を用いたさいに生成される検出力とほぼ同等の検出力が得られる、と論証されます。模擬実験ではさらに、系図に基づくf統計推定値は配列決定およびよそされる大きさの位相変換誤差に対して堅牢である、と確証されます。じっさい、配列誤差はSNPに基づく集団遺伝学的手法に大きく影響するかもしれませんが、誤差は系図で「修正」でき、それは領域の全多様体が考慮に入れられるからです[32]。
先行研究は最近の歴史の代理としての稀な変異の確認を示唆してきましたが[3、4]、本論文では、有効人口規模が人口集団間で異なる場合にこの手法は偏りを生じやすく、完全な時間の限定された系図を用いると、偏らず、またより強力である、と示されます(図1b)。これは、変異がアレル(対立遺伝子)頻度を完全には予測せず、系図に基づく手法が、直近の近い過去の合着を「関連づける」より高頻度の新しい変異の包摂からも検出力を得る、という観察のためです。広く用いられている「染色体染色」手法と、ある標本において染色体断片間で最も近い部位を見つけ、非負制約付き最小二乗法を用いてまとまりをモデル化する、IBDに基づく概念的に同様のモデル化も、供給源集団が混合事象以降に強い浮動を経てきた場合には偏りやすい、と論証されます(図1b)。
次に、さまざまな実証例でTwigstatsの時間制約系図手法が検証されます。まず、対での外群f₃統計[44]を高めて、微細規模の人口構造が定量化され、これが以前に提案された模擬実験の使用を改善する、と論証されます。新石器時代ヨーロッパの刊行されているゲノムに適用すると、SNPデータだけでは昭巣ではない関係である、他の個体と比較しての、アイルランドの巨石建造物に埋葬された個体間の以前に提案された微細規模の構造[45]を再現できます。先史時代のヨーロッパに寄与した主要な3祖先系統、つまり中石器時代狩猟採集民と初期農耕民と草原地帯人口集団のよく研究された事例[13、14、16]について、偏りのない推定値と、すでに充分に検出力のあるqpAdmにおける標準誤差[46]での約20%の改善が得られます。
最後に、Twigstatsは時間の正確な混合と長期の遺伝子流動の競合モデルを解決、もしくは混合時期を制約できます。たとえば、アフリカにおけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と初期現生人類(Homo sapiens)との間の長期の深い構造と遺伝子流動が、6万年前頃の断続的な混合事象と類似する遺伝的パターンを生成するかもしれない、と以前に提案されてきており、これはユーラシア人の祖先へのネアンデルタール人との混合のモデルに疑問を提起しました[49]。しかし、そうした長期の深い下部構造はSNPに基づくf統計を混乱させ、ネアンデルタール人との混合と類似したパターンを生成するでしょうが、本論文の模擬実験では、Twigstatsは近い過去の混合からこの歴史を明確に区別できる、と論証されます。実証的な全ゲノムへのTwigstatsの適用は、深い下部構造のみとは一致しないものの、断続的混合と一致する結果を生成します。
●中世初期ヨーロッパの祖先系統モデル
Twigstats手法が、祖先系統モデルおよび推定割合の検証で、解像度と統計的検出力を効率的に改善する、と論証できたので、中世初期ヨーロッパの歴史が検証されます。千年紀前半には、タキトゥス(Tacitus)やアンミアヌス・マルケリヌス(Ammianus Marcellinus)などローマの歴史家は、ローマ帝国の国境を越えた集団の地理的分布と移動について記載しており、西ローマ帝国の崩壊におけるその潜在的役割を示唆しました。しかし、これらの歴史的に証明された人口統計学的事象の正確な性質と規模、およびその遺伝的影響は問題となってきており、表面上は関わっている多くの集団間で共有されている密接な関係のため、遺伝学的手法では検証困難でした。ローマ帝国の境界からさらに離れた距離では、歴史的記述の不足のため、さほど理解されていません。したがって、Twigstatsにおける時間を制約した祖先系統統計的検出力の改善は、これらの問題の最高の機会を提供します。
中世初期個体群の祖先系統モデルを開発するためにはまず、前期鉄器時代(Early Iron Age、略してEIA)およびローマ期のより古い供給源の祖先系統の広範な特徴づけが必要です。全個体間の対でのクレード(単系統群)検定に基づく階層的UPGMA(unweighted pair group method with arithmetic mean、算術平均での非加重結合法)クラスタ化(まとまめること)を用いて、qpWaveで提案された祖先系統群の単系統群性(ここでの意味は、すべての他の検証集団と対称的に関連しているのかどうか、ということです)が形式的に検証されました。これは、鉄器時代とローマ期のブリテン島(11個体)、ほぼ現在のドイツとオーストリアとフランスのヨーロッパ中央部地域の鉄器時代(10個体)、ローマ期のポルトガル(4個体)、ローマ期のイタリア(10個体)、鉄器時代のリトアニア(5個体)、EIAスカンジナビア半島(スウェーデンとノルウェー、10個体)、青銅器時代とEIAの他のより東方の数集団(25個体)を含む、一連のモデル祖先系統供給源をもたらいしました(図2a)。次に、回転qpAdm手法[54]を用いて、推定供給源のより大きな遺伝子プールからの寄与供給源一式が絞り込まれます。以下は本論文の図2です。
さらに、Twigstatsを用いて計算された外群f₃統計で非媒介変数的MDS(multidimensional scaling、多次元尺度構成法)が実行され、その結果はどのモデル化過程にも依存せず、じゅうらいの外群f₃統計と比較して解像度増加を示しました(図2a・b)。励みになることに、MDSモデルはおもにスカンジナビア半島南部のノルウェーとスウェーデン北部のEIA個体群の分離(巣瀬2a)など、本論文の供給源集団に反映されている地域的な微細規模の遺伝的構造を裏づけており(図2a)、この関係はTwigstatsなしでは検出されません。このMDS分析では、ポルトガルとフランスとドイツとオーストリアとイギリスの広範囲の個体群の密接な類似性が分かります。これはケルト語派圏と関連する地域に相当しており、その密接な遺伝的類似性はそれ以前の拡大に起因する、と仮定されます。疎らな標本抽出によって、ヨーロッパ中央部および他の一部の地域における地域的な祖先系統の差異の完全な範囲の理解は制約されますが、MDSモデルで区別された大陸の祖先系統から、この期間のヨーロッパ全域における大きな祖先系統の差異が比較的よく把握されている、と示唆されます。
●スカンジナビア半島的祖先系統の拡大
ヨーロッパのいくつかの地理的地域にまたがる利用可能な古代DNAデータを用いて時間横断区が組み立てられ、以前に定義されたEIAもしくはローマ鉄器時代供給源でのモデルを用いて、その祖先系統が推測されました。本論文のモデル化は、早ければ1世紀にヨーロッパ全域に出現する、ドイツ北部もしくはスカンジナビア半島に由来する祖先系統がある個体群の、直接的証拠を提供します(図2b・cおよび図3)。以下は本論文の図3です。
現在のポーランドの地域では、本論文の分析は祖先系統のいくつかの明確な変化を示唆していまする第一に、中期~後期青銅器時代(紀元前1500~紀元前1000年頃)には、縄目文土器文化(Corded Ware culture、略してCWC)ともともとは関連づけられていた既存の祖先系統[55]から離れた明確な変化が観察されます。第二に、1~5世紀には、ヴィェルバルク(Wielbark)文化と関連する個体群[5、12]が、先行する青銅器時代集団から離れた追加の強い変化を示し、EIAスカンジナビア半島に起因する75%超の構成要素でのみモデル化できます。とくにより古いヴィェルバルク墓地の複数の個体は、ほぼ100%のEIAスカンジナビア半島と関連する祖先系統を有しています(図2c)。ヴィェルバルク考古学複合体は、南東部のおチェルニャコヴォ(Chernyakhov)文化および2~5世紀に繁栄した歴史的なゲルマン民族集団である初期ゴート人と関連づけられてきました。本論文のモデル化は、おそらくはスカンジナビア半島のゲルマン語派を話していた一部の集団が南方へとバルト海を横断し、紀元後の最初の数世紀にオーデル川とヴィスワ(Vistula)川の間の地域へと拡大した、との見解を裏づけますが、これらの拡大が歴史的なゴート人と具体的に関連づけることができるのかどうかは、まだ議論となっています。さらに、この期間におけるヴィェルバルク文化埋葬のかなりの割合は火葬だったので、他の祖先系統を有する個体の存在の可能性は、そうした個体が火葬のみだった(したがって古代DNA記録では不可視)ならば、拳固密には除外できません。
先行研究は、同じ地域のヴィェルバルク文化関連個体群からその後の中世個体群への祖先系統の連続性を却下できませんでした[12]。Twigstatsの向上した検出力では、れんぞくせいのモデルは強く却下され、先行する鉄器時代もしくは青銅器時代のどの集団でも1供給源モデルは中世の個体群について合理的な適合を提供しません。代わりに、中世ポーランドの個体群の大半は、ローマ鉄器時代リトアニアと関連する祖先系統の混合としてのみモデル化でき、これは、中期~後期青銅器時代ポーランドの個体群の祖先系統(44%、95%信頼区間では36~51%)、ハンガリーのスキタイ人もしくはスロバキアのラ・テーヌ(La Tène)文化個体群(49%、95%信頼区間では41~57%)、可能性がある少数の祖先系統として、コーカサスのサルマティア人と関連する祖先系統の構成要素と類似しています(図2c)。中世ポーランドの12個体のうち4個体(そのうち3個体は後期ヴァイキング期に由来します)は、検出可能なスカンジナビア半島関連祖先系統を有していました。その後の中世ポーランドの個体群で検出された祖先系統の一部は一部の火葬された人口において千年紀後半に存続していたかもしれませんが、それに関係なく、これは中世ポーランドにおける大規模な祖先系統の変容を示しています。将来のデータは、これがこの地域におけるスラブ語派話者集団の影響をどの程度反映しているのか、光を当てることができるでしょう。
現在のスロバキアでは、鉄器時代のラ・テーヌ文化期と関連する個体群は本論文のMDS分析の二つの次元ではハンガリーのスキタイ人に近いようで、ヨーロッパ中央部と東部の祖先系統の混合としてモデル化されます。しかし、スロバキアのゾホル(Zohor)遺跡の50~60歳の女性1個体の1世紀の埋葬はスカンジナビア関連祖先系統のみでモデル化され、スカンジナビア半島EIAと関連する祖先系統がヴィェルバルク考古学複合体の範囲の南西部に出現する証拠を提供します[5](図3b)。その後、スロバキアの中世初期の個体群は部分的なスカンジナビア関連祖先系統を有しており、拡大集団と在来集団との間の統合の証拠を提供します。
近くでは、現在のハンガリーにおいて、ランゴバルド人と関連する6世紀のいくつかの埋葬でスカンジナビア関連祖先系統構成要素が観察されます(ランゴバルド_中世初期1)。これは、ヨーロッパ北西部の現在の集団、つまり1000GP(1000 Genomes Project、1000人ゲノム計画)におけるGBR(British in England and Scotland、イングランドとスコットランドのイギリス人)やCEU(Northern Europeans from Utah、アメリカ合衆国ユタ州のヨーロッパ北部人)やFIN(Finnish in Finland、フィンランドのフィン人)のとの類似性を報告した先行研究[6]と一致しますが、本論文はそれ以前のゲノムを用いてより高解像度で解決できます。これらランゴバルド人の埋葬のいくつかの他の個体(ランゴバルド_中世初期2)はヨーロッパ北部からの検出可能な祖先系統を示さず、代わりに、大陸ヨーロッパ中央部の鉄器時代集団とより密接に関連しており、おそらくはランゴバルド様式で埋葬された地元の人々の子孫を表しています。本論文の結果は、ランゴバルド人は現在のドイツ北部もしくはデンマークの地域に起源があるものの、6世紀までに複数の異なる文化的帰属を組み込み、祖先系統を混合した、との証明と一致しています。ハンガリーの現在の人口集団は、ランゴバルド人の状況の中世初期個体群に祖先系統が由来していないようで、代わりにスキタイ人関連祖先系統とより類似しており、アヴァールやマジャールや他の東方集団のその後の影響[58]と一致します。
ドイツ南部では、おそらくは歴史的なゲルマン語派話者であるバヨヴァリー人と関連する中世初期バイエルンの個体群の遺伝的祖先系統は、鉄器時代ドイツ中央部のそれ以前の集団にのみ祖先系統が由来します。バヨヴァリー人はおそらく5世紀にこの地域に現れましたが[59]、その起源は未解決です。現時点の最良のモデルは、EIAスカンジナビア半島とヨーロッパ中央部に由来する祖先系統との混合を示唆しており、地域的な祖先系統の変化をもたらしたスカンジナビア関連祖先系統の拡大が提案されます(図2cおよび図3c)。
イタリアでは、ヨーロッパ北部および中央部祖先系統の変化の南方への拡大が古代末期までに現れ(4世紀頃)、そこでは先行期間と比較しての祖先系統の明らかな多様化が観察できます(図3d)。しかし、ほぼ100%のスカンジナビア祖先系統を有する個体は、これまで利用可能な標本抽出されたデータでは観察できません。
ブリテン島では、鉄器時代とローマ期の個体群の祖先系統は本論文のMDS分析では緊密なクラスタ(まとまり)を形成し、アイルランドおよびオークニー諸島の利用可能な先行する青銅器時代個体群と比較して変化し、近くに位置しているものの、鉄器時代およびローマ期ヨーロッパ中央部の利用可能な個体群とは異なります。しかし、オーストリアのクロスターノイブルク(Klosterneuburg)の1ヶ所の軍事要塞遺跡から見つかった1~2世紀の2ヶ所の埋葬[5]は、他の集団を除外して、現時点ではブリテン島の鉄器時代もしくはローマ期人口集団と区別できない祖先系統を有しています。一つの選択肢は、この2個体がブリテン島の祖先系統を有していたことで、あるいは、現時点で標本抽出されていないヨーロッパ大陸西部の人口集団が鉄器時代ブリテン島南部と類似した祖先系統を有していたました。
Twigstatsは中世初期イングランドにおける鉄器時代のブリテン島とヨーロッパ北部の祖先系統間の混合のモデル[9]を改善し、時間階層化を用いると、標準誤差はSNPでの9%から4%へと半減します(鉄器時代ブリテン島関連祖先系統の点推定値は、それぞれ80%と79%)。この改善された解像度を用いて、イングランドのヨークのドリッフィールド台地(Driffield Terrace )の剣闘士もしくは兵士の墓地と考えられる遺跡から発見された、2~4世紀頃となるそれ以前のローマ期の個体(6DT3)[60]は、以前には祖先系統の外れ値と特定されましたが[62]、具体的には約25%のEIAスカンジナビア半島関連祖先系統を有していしました(図2c)。これは、スカンジナビア関連祖先系統を有する人々が5世紀の前にすでにブリテン島に存在したことを記録しており、その後で、アングロ・サクソンの移住と関連するかなりの流入がありました[9]。この個体が剣闘士だったのか兵士だったのか、不明確ですが、ヨーロッパ北部の個体群と集団はじっさいも兵士および奴隷化された剣闘士の両方としてローマの資料に記録されています。
ヨーロッパ全域で、スカンジナビア関連祖先系統の南東と南西への各座隊の地域的違いが見られます。現在のポーランドとスロバキアの中世初期集団はスカンジナビア半島EIA集団の一つから特定の祖先系統を有しており、それはEIAにおいておもにスカンジナビア半島北部の個体群とともに見られ、スカンジナビア半島のより南方の他のなおも集団と関連する祖先系統の証拠はありません(図2d)。対照的に、ヨーロッパ南部および西部では、スカンジナビア関連祖先系統は、おそらくドイツのバヨヴァリー人やイタリアのランゴバルド関連埋葬やブリテン島南部の中世初期埋葬の例のようにEIAスカンジナビア半島に由来するか、スカンジナビア半島の特定地域では解決できません。これらの拡大がじっさいに言語と関連しているのならば、このパターンはゲルマン語派の主要な系統と驚くほど一致しており、一方では、ウクライナでゴート人が話していた今では消滅した東ゲルマン語群があり、もう一方では、中世初期に記録されている古英語や古高ドイツ語など西ゲルマン語群があります。
●先ヴァイキング期スカンジナビア半島への流入
EIAスカンジナビア半島(500年以前)で、広範な遺伝的均一性の証拠が見られます。具体的には、デンマークの個体群(100~300年頃)は、スカンジナビア半島の同時代の人々と区別できません(図2c)。しかし、シェラン島(現在のデンマーク)の8世紀(後期鉄器時代/初期ヴァイキング期)においてすでに、遺伝的祖先系統の明らかな変化が観察され、100%EIA祖先系統モデルは却下されます。祖先系統におけるこの変化はデンマークにおいてその後のヴァイキング集団で存続しており、この時期には全集団がヨーロッパ中央部の鉄器時代大陸部集団と関連する祖先系統のさまざまな割合でモデル化されます(図3fおよび図4c)。ヴァイキング期個体群の非媒介変数MDSから、個体間の差異はEIAスカンジナビア半島個体群からヨーロッパ中央部に特徴的な祖先系統にまたがる勾配を形成する、と示唆されます(図4e)。デンマークの祖先系統における観察された変化が、オーストリアやフランスやドイツの鉄器時代供給源集団へのそれ以前に起きたかもしれない未知の遺伝子流動によって混乱する可能性はありませんが、そうした遺伝子流動は正確な祖先系統の割合に影響を及ぼすかもしれません。以下は本論文の図4です。
これらのパターンは祖先系統の北方への拡大と一致しており、それはヴァイキング期に始まり、ユトランド半島やシェラン島やスウェーデン南部へと広がったかもしれません。この祖先系統の地理的起源は、鉄器時代ヨーロッパ中央部の利用可能な標本がまだ少ないので、現時点では解明困難です。この拡大の時期は利用可能な標本によってのみ制約され、この祖先系統はデンマークのコペンハーゲン地域(100~300年頃)[6]や、スウェーデンの南端の1個体(500年前頃)[16]や、スウェーデンのエーランド島のサンドビーボルグ(Sandby Borg)大虐殺遺跡(500年頃)[7]や、おそらくはスウェーデン中央部起源だった現在のエストニアの8世紀半ば頃となるサルメ(Salme)舟の埋葬[6]では観察されません。したがって、この祖先系統の変容は、各特定地域のこれらの個体群の跡のことだった可能性が最も高く、おもに千年紀後半に置きました。
スカンジナビア半島へのこの祖先系統の影響の完全な程度を評価するため、次にヴァイキング期のスカンジナビア半島における個体群の祖先系統の理解が目指されました。先行研究では、この期間のスカンジナビア半島には祖先系統の多様性があった、と示唆されており[6、7]、それは海上の移動性増加のためですが、先行する祖先系統に基づく個体単位の祖先系統推定は報告されていませんでした。各個体の祖先系統が回転qpAdm体系を用いて分析され(図4a)、この手法はTwigstatsで近い過去の合着に限定するとモデルの区別で検出力の増加を示します(Twigstatsで許容された1供給源モデルの80%以上は全SNPを用いての強要された1供給源モデルでもあり、逆の場合を比較すると、17%未満です)。
スカンジナビア半島全域の非局所的祖先系統における地域差が調べられました。デンマークでは、ヴァイキング期の53個体のうち25個体に、その最適に許容されたqpAdmモデルにおいて検出可能なヨーロッパ中央部関連祖先系統(ヨーロッパ中央部.鉄器時代ローマもしくはポルトガル.鉄器時代ローマ)がありました。スウェーデンでは、62個体のうち20個体に検出可能なヨーロッパ中央部関連祖先系統があり、ほぼ完全に南部地域に集中しています(図4a・d)。対照的にノルウェーでは、この祖先系統は24個体のうち2個体でしか観察されず、スカンジナビア半島南部における侵入してきた祖先系統の広範な影響が示唆され、ノルウェーとスウェーデン北部におけるEIAからのより多くの連続性が提案されます(図4a)。全体的に考えると、ヨーロッパ中央部関連祖先系統の証拠を示す個体はおもに、歴史的にデンマーク圏の影響と支配内の地域で観察されます。たとえば現時点では、スベア人(Svear)の地域的勢力の中心だったスウェーデン東部中央では、そうした個体が確認されていません。分布の違いから、ヨーロッパ中央部関連祖先系統は歴史的なイェタール人(Götar)およびデンマーク王国の国境の土地に暮らす集団が支配する地域でより一般的だった、と示唆されるかもしれません。
祖先系統の差異がどの程度個体の生涯の移動性もしくは確立した集団の移動性と一致しているのか、検証するために、祖先系統の肖像を再構築できた23個体に関連するストロンチウム同位体データもある、スウェーデン南東部のエーランド島に焦点が当てられました。歯のエナメル質から得られたストロンチウム同位体データは、個体が成熟まで成長した地域の地質を反映しており、エーランド島とヨーロッパ北部の多くの他地域との間では予測にかなりの違いがあります。109個体におけるストロンチウム同位体比の全範囲は二つの様相を示しており、多数派群は低い比率を、第二の少数派群は地元の動物相の予測範囲外に位置する高い比率を有しています(図4b)。本論文のデータでゲノムが解析されている23個体のうち、ヨーロッパ中央部と関連する祖先系統を100%有している5個体(ブリテン島と関連する祖先系統を有する1個体も含まれます)は全員、多数派のストロンチウム値の一部で、地元で育ったことと一致します。対照的に、安定同位体に基づくとほぼ明らかに地元出身ではない6個体は全員、50%以上のEIAスカンジナビア半島関連する祖先系統を有していますが、完全にスカンジナビア半島関連祖先系統の3個体も、地元の値を有していました。これはヨーロッパ中央部関連祖先系統の存在が一時的な減少ではなく、エーランド島のサンドビーボルグ要塞の大虐殺遺跡の個体群の年代である500年頃以後のある時点で起きた、祖先系統の変換だったことを示唆しておれ、これらの個体は全員、厳密にEIAスカンジナビア半島関連祖先系統を有しています。じっさい、ある仮説では、サンドビーボルグにおける大虐殺は、その後の祖先系統の変化に寄与した人々の移動と関連する紛争を表している、とされていますが、他の仮定的状況の可能性もあり、この仮説の検証には、生体分子および考古学的データのさらなる統合が必要です。
●スカンジナビア半島へのヴァイキング期の移動性
先行研究[6、7]は、ヴァイキング期スカンジナビア半島へのブリテン島と関連する祖先系統の大きな流入を示唆しました。この祖先系統は、その祖先系統が鉄器時代ブリテン島に完全に由来するように見える個体を含めて、一部の個体(ノルウェーの7個体、デンマークの14個体、スウェーデンの14個体)で検出されますが、その全体的な影響は、以前の報告と比較して減少したようです。本論文の分析は、ノルウェー北部における鉄器時代ブリテン島の祖先系統の相対的により大きな影響を示唆しており、スカンジナビア半島南部はおもに大陸部ヨーロッパ中央部祖先系統の影響を受けています(図4d)。本論文では、ブリテン島の祖先系統の推定値が先行研究と比較して減少しているのか、ブリテン島および大陸部ヨーロッパ中央部と関連する祖先系統が区別できなかったからである、と仮定されます。これは、標準的な手法でのこうした密接に関連する供給源を区別する統計的検出力の不足に起因していたり、その後の遺伝子流動(ブリテン島へり遺伝子流動など)に影響を受けた現代人の代理人口集団の使用によってもたらされた潜在的な偏りのためだったりするかもしれません。本論文は、以前に報告された分析[6、7]を再現することによって、これを説明します。
同様に、先行研究[6]では、スウェーデン南部のケルダ(Kärda)などの遺跡の個体がヨーロッパ南部祖先系統を有していた、と示唆されました。本論文のモデルでは、ケルダ遺跡個体群はヨーロッパ中央部関連祖先系統と一致しますが、ヨーロッパ南部供給源と関連する祖先系統をかなりの割合で有している個体はいません。代わりに、スカンジナビア半島の3個体のみにおいて、比較的低い割合でヨーロッパ南部供給源由来の祖先系統が検出されます(図4a)。
興味深いことに、スウェーデン南部、とくにゴットランド島に集中する、ヨーロッパ東部(現在のリトアニアとポーランド)の青銅器時代および鉄器時代供給源の祖先系統が14個体で検出されました(図4a)。これは、以前の遺伝学的研究と一致します[6、7]。この祖先系統は男性個体で多いと分かり、男性に偏った移動性および/もしくは埋葬が示唆されます。最も近い一致は、バルト人と関連するローマ鉄器時代のリトアニア個体のゲノムの傾向があり、これはバルト海全域の移動性と一致するでしょうが、利用可能なゲノムのり地理的代表性が依然として限られていることに要注意です。
●スカンジナビア半島からのヴァイキング期の拡大
伝統的に、今ではヴァイキングの離散と呼ばれることが多い事象に関する歴史的観点は、スカンジナビア半島のさまざまな地域からの人口集団の移動と定住を強調しました。本論文のMDS分析はスカンジナビア半島EIAと関連する混合祖先系統を再び示唆しており、さまざまな局所的混合を示す地域差があります(図4e)。
ブリテン島では、2ヶ所のヴァイキング後期の集団墓地から回収された個体のほとんどは、リッジウェイ丘とドーセット(Dorset)とオクスフォードのセント・ジョンズ・カレッジで特定されており、ヴァイキング期スカンジナビア半島南部で見せられる典型的な祖先系統を示します(図4f)。さらに西方では、フェロー諸島とアイスランドとグリーンランドの北大西洋のヴァイキング期の個体群はスカンジナビア半島由来の祖先系統を有しており、数個体はスカンジナビア半島南部で見られる大陸部ヨーロッパ中央部関連祖先系統(図4f)や、鉄器時代ブリテン島とかなり共有されている祖先系統の兆候を示します。以前の仮説とは対照的に、男性でブリテン島およびアイルランド島と関連する祖先系統の濃縮が見つかり、鉄器時代もしくはローマ期ブリテン島を供給源として含む少なくとも一つの許容モデルがあるのは、男性では17個体のうち15個体、女性では6個体のうち3個体です。しかし、初期イングランドとノルウェーの関連祖先系統間の区別をより明確にする追加の個体群の標本抽出が、この仮説の完全な検証には必要となるでしょう。
ヨーロッパ東部では、ウクライナのヴァイキング期の1ヶ所の埋葬でEIAスカンジナビア半島祖先系統が観察され、これらの祖先系統は現在のロシアのヴァイキング期の埋葬で大きな比率を占めます。ロシア西部のスタラヤ・ラドガ(Staraya Ladoga)遺跡では、EIAスカンジナビア半島関連祖先系統を有する数個体が観察され、少なくとも1個体は年代が11世紀で、鉄器時代ブリテン島と関連する明らかな祖先系統を有しています。したがって、ヴァイキング期にはスカンジナビア半島南部にほぼ限定されていた鉄器時代ヨーロッパ中央部祖先系統の相対的な不足は、これらの個体の起源が、ヴァイキング期の個体群がスウェーデンの中央部/北部もしくはノルウェーと最も類似した祖先系統を示す、スウェーデンの中央部/北部もしくはノルウェーにあるかもしれない、と示唆しています。
●まとめ
本論文の手法であるTwigstatsは、ハプロタイプに基づく手法の検出力の利点を完全に、f統計に適用でき、以前には利用できなかった、混合の偏りがなく時間階層化された分析を可能とする、時間的な枠組みに移植します。本論文では、Twigstatsは祖先系統の割合の微細規模の定量的モデル化を可能として、鉄器時代とローマ期とヴァイキング期においてヨーロッパの北部および中央部に影響する、広範な祖先系統の変化を明らかにする、と論証されました。おそらくはゲルマン語派言語を話しており、千年紀前半にスカンジナビア半島関連祖先系統を有していた個体群の、南方および/もしくは東方への拡大の証拠が明らかになります。この文脈における「スカンジナビア半島関連」は利用可能な古代人のゲノムと関連しているので、これらの過程が、たとえばヨーロッパ北部および中央部の地域から推進された可能性が充分あることに要注意です。これは、ローマのすぐ近くの隣人で高まる傾向にあり、ローマの境界を越えて暮らしていたヨーロッパの共同体への内部の移住の方向に大きな役割を果たしたかもしれない、より大きな富の魅力と一致するかもしれません。その後、遺伝子流動は北方へと向かったようで、鉄器時代ヨーロッパ中央部祖先系統はスカンジナビア半島へと拡大しました。まとめると、本論文の手法は、世界中の新たな高解像度の遺伝的歴史の再構築に使用できます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:古代ヨーロッパの祖先に関する洞察
新たな手法を用いることで、鉄器時代からバイキング時代後期までの北ヨーロッパおよび中央ヨーロッパの遺伝的歴史の高解像度再構築を示す論文が、Nature に掲載される。この手法により、この地域の遺伝的歴史に関するさらなる洞察がもたらされる。
古代ゲノムの分析により、最近の過去からの移住や拡散の出来事を再構築し、それらが今日の遺伝学にどのような影響を与えたかを調査することが可能になる。しかし、異なる家系間の類似性により、現在の方法ではそれらを区別することが難しいため、遺伝学を用いて歴史をたどることは困難である。その一例が、紀元前500年頃の鉄器時代初期からの北ヨーロッパおよび中央ヨーロッパである。紀元後3世紀と4世紀の移住や地中海沿岸の人口への影響、そしてバイキング時代(西暦750年–1050年)の後の移動パターンなど、未解決の問題が数多く残っている。
Leo SpeidelとPontus Skoglundらは、現在の方法よりも正確に時代を超えた遺伝的系譜を再構築できる手法「Twigstats」を開発した。著者らは、この手法をヨーロッパの1,556の古代ゲノムに適用し、紀元前500年から西暦1000年の間のヨーロッパの人口の歴史を推定した。分析の結果、西暦1000年までの前半期には、スカンジナビア系祖先の系統が西、中央、および東ヨーロッパの3地域に2つの流れで広がっていたことが明らかになった。しかし、後半期にはこの系統が地域的に消滅し、他の系統と大幅に混ざり合ったことが示唆された。また、著者らは、西暦800年までに、バイキング時代の個人の多くが中央ヨーロッパのグループからの遺伝的祖先を保有していたことを指摘しているが、これは初期の鉄器時代には観察されなかったことである。
著者らは、自身らの手法により、異なる集団の遺伝的歴史について、より詳細な洞察が得られる可能性があると示唆している。
ゲノミクス:中世初期ヨーロッパの高分解能のゲノム史
Cover Story:北欧の暗号:祖先のつながりが中世初期ヨーロッパのゲノム史を解き明かす
ヒトの祖先系統は多くの地域で比較的似ており、集団間や集団同士を区別するのが難しいため、遺伝的祖先を用いて歴史を遡り、過去の出来事を探ることは困難である。今週号では、L SpeidelとP Skoglundたちが、祖先の微妙な違いを高解像度で再構築できる新たな手法「Twigstats」を報告している。研究チームはこの手法を用いて、中世初期ヨーロッパのゲノム史を調べた。その結果、スカンジナビア系の祖先を持つ2つの流れがヨーロッパ大陸全域に拡大した様子や、ヴァイキング時代(約750~1050年)以前にスカンジナビア内へ拡大した、別の流れを追跡することが可能になった。表紙は、ヴァイキング時代のルーン石に見られる蛇紋岩の彫刻に着想を得たもので、DNAのヌクレオチド(A、T、G、C〔K〕)のエルダーフサルクのルーン文字が描かれている。
参考文献:
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