『卑弥呼』第141話「ヒルメの弟子」

 『ビッグコミックオリジナル』2024年12月20日号掲載分の感想です。前回は、暈(クマ)国の夜萬加(ヤマカ)で、チカラオ(ナツハ)が実子のニニギ(ヤエト)に、近いうちに自信があると伝え、ニニギが実父(ニニギはそれを知りませんが)のチカラオを地震神(アイノカミ)様と崇めるところで終了しました。今回は、夜萬加にて、ニニギが前回自分を新参者として虐めていた子供たちに、大きな地震(なゐ)のため邑は山崩れで埋まるため、邑長を説得して逃げ場を確保するよう、頼み込む場面から始まります。ニニギは川下の川筋から少し離れた広い野原に逃げるよう指示し、そこなら土石流は来ないだろう、というわけです。しかし、年長の子供は、そんな大それた話を邑長が信じてくれるだろうか、と懐疑的です。するとニニギは、山のお婆(ヒルメ)のお告げと言ってくれ、と指示し、チカラオが統率している志能備(シノビ)イヌの1頭で、以前からチカラオの命でニニギを見守っているヤノハとともに、各地で、山のお婆のお告げと称して、近いうちに大地震があるので、山崩れや皮の氾濫から安全なひろばを確保し、そこに水や食糧を備蓄するよう、指示します。ヒルメはこの件について配下のクエビトから報告を受けると、天照様はそんなことを自分には告げていないと言って、止めさせるよう、指示します。ニニギのイヌ(ヤノハ)を始末したのか、とヒルメに問われたクエビトは、イヌのヤノハがニニギの側を離れないのでまだ始末できていない、と答えます。すると、ニニギの見ている前で殺せばよい、とヒルメは指示します。それでは、ヒルメの指示と分かってしまう、と案じるクエビトに対してヒルメは叱責し、姿を見られないよう、吹き矢や弓で始末しろ、と命じます。

 暈国の鞠智(ククチ)の里(現在の熊本県菊池市でしょうか)では、暈国の大夫で実質的な最高権力者である鞠智彦(ククチヒコ)が、配下のウガヤから、この一帯で大地震がある、との噂を小童が邑々で流している、と報告を受けていました。世を乱す噂を流す者なので、捕縛しようと思う、と言うウガヤに対して、捕らえるのはよいが絶対に殺すな、と鞠智彦は命じます。どんな小童なのか、顔が見たい、というわけです。

 夜萬加では、ニニギがイヌのヤノハとともに、地震でも被害の少なそうな野原に来ていました。すると、イヌのヤノハが吠え始めます。草陰からクエビトが吹き矢で自分を狙っていたことに感づいたようですが、クエビトの背後に他のチカラオ配下と思われるイヌも接近し、クエビトは包囲されます。クエビトは木の上に逃げ、野犬(クエビトはチカラオ配下のイヌとは気づいていないようです)がなぜ自分を囲むのか、疑問に思います。すると、クエビトの背後からチカラオが現れ、クエビトを殺害し、チカラオは、ニニギとイヌのヤノハが野原から立ち去るのを見守ります。ニニギとイヌのヤノハが早朝にある邑に来ると、朝餉の時間にも関わらず邑人は誰も起きている様子がなく、ニニギは鐘で叩き起こそうとします。そこへウガヤとその配下が現れ、ウガヤはニニギを捕らえるよう、指示します。イヌのヤノハは抵抗しようとしますが、ニニギは、自分は大人しく縄につくので、イヌは見逃すよう、懇願します。

 夜萬加の洞窟では、ヒルメが配下から、那(ナ)や伊都(イト)や末盧(マツラ)や穂波(ホミ)や都萬(トマ)では、地震に備えるよう、山社(ヤマト)の日見子(ヒミコ)、つまりヤノハから触れが出ている、と報告を受けていました。ヤノハの指示と知って、ヒルメは忌々し気な表情を浮かべますが、そこに、ニニギが鞠智彦に捕らえられた、との報告を受けて、ヒルメは嘆息します。鞠智の里では、ニニギが尋問されており、ヒルメの弟子か、と問われたニニギは、世話になっているだけで、弟子ではない、と答えます。鞠智彦様相手に口の利き方に気をつけよ、と注意するウガヤを鞠智彦は制し、ヒルメは地震が来るとは言っていないが、本当に地震が来るのか、と問い質します。それでも地震は来る、と言い張るニニギに、なぜそれほど確信があるのか、と鞠智彦は尋ねます。するとニニギは、地震神(アイノカミ)様をこの目で見たからだ、と答えます。すると鞠智彦はウガヤに、ニニギを解放するよう命じます。困惑するウガヤに、ニニギの面構えは誰かに似ていると思わないか、と鞠智彦は言いますが、ウガヤには思い浮かびません。

 山社では、ヤノハ(日見子)がイクメから、すべての邑で食糧や水の備蓄や避難場所の確保を終えた、と報告を受けていました。地震はいつ頃来て、どのくらいの大きさなのか、イクメに問われたヤノハは、自分はこの程度の日見子なので、来ないかもしれない、と答えて、イクメは困惑します。夜萬加の洞窟では、ニニギがヒルメに、自分を信じて触れを出してくれたのか、と喜んでいました。この洞窟にいれば生き埋めになる、と警告するニニギに対してヒルメは、つけあがるな、と一喝します。自分は鞠智彦からニニギを救うため信じた振りをしたまでだ、というわけです。ヒルメは、占いの骨のヒビにも地震の兆候はない、と言います。するとヒルメは、もし地震が来れば、自分は天照様に見放された哀れな都市よりなので、ここで死ぬことに悔いはない、と言います。それでもニニギは食い下がり、両親(養父母のホデリとタマヨリ)を亡くし自分は、これ以上誰にも死んでほしくないので、自分の願いを聞いてくれ、とヒルメに懇願します。その直後、地震が起きたところで今回は終了です。


 今回は、主人公のヤノハがほとんど登場せず、暈国でのニニギとヒルメと鞠智彦の動向が中心に描かれました。ヒルメは死にかけたところをチカラオに救われ、ヤノハへの恨みだけで生きてきたところがありますが、自分が予言できない地震をヤノハが予言できるのならば、もう死んでも仕方ない、との諦めもあるようです。それでも、ニニギは知らないとはいえ、その両親を殺したにも関わらず、ニニギが自分のみを案じてくれていることに、ヒルメの心境は変わったようです。ただ、その直後に地震が起きたため、ニニギは今後重要な役割を果たしそうなので生き残るとしても、ヒルメはここで死ぬかもしれません。ヒルメの策略によって、ニニギは実母のヤノハが両親(養父母)を殺した、と思っているようですから、この地震を生き残ったニニギがどう成長していくのか、注目されます。

 鞠智彦はニニギを見て、実の両親であるヤノハとチカラオのどちらかを思い浮かべたようです。ヒルメは、チカラオにヤノハを強姦させようと計画しており、その間に生まれたのがニニギと考えているようです(第95話)。ヒルメは、ニニギがヤノハの息子とまでは鞠智彦に伝えていないかもしれませんが、かつて鞠智彦に殺されそうになった時、鞠智彦に自分の策略を伝えたようなので(第52話)、鞠智彦はニニギがヤノハとチカラオの間の子供と気づいているかもしれません。これは、処女であることが条件と思われる日見子としては致命的なので、鞠智彦はこれを利用しそうです。ヤノハの最期がどう描かれるのか分かりませんが、ヤノハが日見子就任後に息子を産んだことは、その死の原因となるかもしれません。それが描かれるのは終盤でしょうから、まだ魏への遣使も行なわれていない現時点からは随分と先になりそうですが、本作の結末への道がわずかながらも見えてきたように思える点でも、今回は重要となりそうです。

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