初期ホモ属の成長速度

 初期ホモ属の成長速度に関する研究(Zollikofer et al., 2024)が公表されました。本論文は、ジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)遺跡で発見された、遅くとも177万年前頃となる前期更新世人類の歯の分析から、初期ホモ属の成長速度を検証しています。この初期ホモ属の歯の成長速度は現生大型類人猿と同程度ですが、前歯と比較して奥歯の成長が遅い点は現代人など後のホモ属と類似していました。本論文は初期ホモ属の歯の成長に関するこうした独特な組み合わせから、初期ホモ属が生活史の全般的な減速の前に、おそらく脳の成長よりもむしろ生物文化的再生産(生物学的側面と文化的側面の両方)に関連した、長期にわたる成長段階を進化させたかもしれない、と指摘しています。なお、[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。歯の略称は、第一大臼歯(M1)、第二大臼歯(M2)、第三大臼歯(M3)、第一切歯(I1)、第二切歯(I2)、犬歯(C)、第一小臼歯(M1)、第二小臼歯(M2)、第三小臼歯(M3)、第四小臼歯(M4)です。


●要約

 ヒトの生活史は長い未成熟期によって特徴づけられ、この期間には脳と身体の成長速度に不一致があります。体発生のこの様式は、脳が依然として成長し続けながら、複雑な社会環境において高度な認知能力を獲得するのに不可欠と考えられています。このパターンはいつどのように進化したのかに関する重要な情報は、化石人類の歯から収集でき、それは、歯の発達が生活史の速度に関する情報をもたらすからです。本論文では、成長期の延長へと向かう初期段階が、脳の大きさの顕著な拡大の前となる、少なくとも177万年前頃のホモ属において起きていた、と示されます。本論文はシンクロトロン微小断層撮影を用いて、ジョージアのドマニシ遺跡の初期ホモ属の亜成体個体の歯列の微細構造を調べました。この個体は歯の成熟に達する直前の11.4±0.6歳で死亡しました。歯の成長速度は速く、現生大型類人猿と同等の速度です。しかし、このドマニシ個体は前歯と比較して奥歯のヒト的な形成の遅れと、全体的な歯列の遅い成長率上昇を示しました。歯の個体発生の大型類人猿的な特徴とヒト的な特徴から、初期ホモ属は生活史において全体的な減速の前に成長期延長を進化させており、それはおそらく脳の成長ではなく生物文化的繁殖と関連していた、と示唆されます。


●分析

 ヒトは、無力な新生児、早期の離乳と無共同養育者による乳児の世話、出生後の脳の成長期間の延長、身体成熟の遅延、繁殖の遅い開始、世代を超えた協力、長い繁殖後の生活【最近の研究(Wood et al., 2023)では、チンパンジーにも現代人ほど長くなくとも閉経期間があるかもしれない、と示されています】など、大型類人猿とは異なる生活史のいくつかの側面を示します。とくにヒトには、離乳後で栄養面での自立達成前となる子供期(2~3歳から6~7歳頃)と呼ばれる長い未熟期間があり、これは親(共同養育者)の世話と社会的学習の充分な機会によって特徴づけられます。しかし、これらの特徴は化石化しないので、ヒトの生活史の進化に関する推測は、人類化石に保存されている発達の代理から導かねばなりません。

 歯は、歯冠と歯根がそれぞれエナメル質と象牙質の層の毎日の増分堆積によって成長するので、個体の咀嚼器官の成熟の時間的経過について詳細な情報を保存するため、とくに関連しています。ヒトは大型類人猿と比較して、霊長類全体で脳の発達および身体成熟とよく相関している、歯、とくに永久歯の大臼歯の成熟で顕著な減速を示します。化石人類の歯の増分成長データからは、未成熟標本の死亡年齢の信頼できる推定値が得られ、研究者は歯の成長年表を用いて、脳と頭蓋と身体の発達を較正できるようになります。たとえば、エチオピアのアファール(Afar)地域のディキカ(Dikika)で発見された未熟なアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)から、PPC-SRµC(propagation phase-contrast synchrotron microtomography、伝搬位相差シンクロトロン微小断層撮影)を用いて得られた微細構造の歯の証拠は、この個体が基本的には類人猿的な歯の発生過程に従っていたことを示唆しています[13]。しかし、その死亡時(2.4歳)のECV(endocranial volume、頭蓋内容量)は、大型類人猿の成体のECVより低い割合で、これは出生後の脳の成長の延長の最初の証拠として解釈されました。

 初期ホモ属における歯の発生の正確な時期に関して、利用可能な情報は相対的には少ないままです。160万~150万年前頃となるケニアのナリオコトメ(Nariokotome)で発見された少年化石個体(KNM-WT 15000)は、ヒト的な歯の発生の時間的経過ではなく、大型類人猿の方をたどっていた、と考えられていますが、これらの推測は歯の微細構造の成長の直接的測定ではなく、推定に基づいています。したがって、ホモ属の進化において特徴的な生活史の減速が正確にはいつ起きたのか、未解決の問題です。

 本論文は、ドマニシ遺跡の初期ホモ属における歯の発達の包括的で非破壊的な微細構造分析を提示し、初期ホモ属の生活史の進化に関する推測を導き出します。ドマニシ遺跡の年代は185万~177万年前頃で[18]、下顎やさまざまな頭蓋後方(首から下)要素と関連する、よく保存された5点の頭蓋が得られました[22、23]。動物遺骸および石器の豊富な記録とともに、ドマニシ遺跡の全体は、アフリカ外の初期ホモ属人口集団の古生物学や生活史や社会組織や認知能力への独特な洞察を提供してきました[25]。本論文は、頭蓋D2700と下顎D2735とさまざまな頭蓋後方要素によって表される亜成体個体[22]に焦点を当てます。

 この個体の永久歯の歯列はよく保存されており、各種の歯は少なくとも一方の対称部分によって表され、例外は下顎第一切歯(I1)です(図1)。第一大臼歯(M1)は広範な摩耗痕を示し、象牙質咬頭が露出しています。第二大臼歯(M2)は中程度の摩耗しか示しません。下顎右側第三大臼歯(LRM3)は遊離状態で発見されましたが、歯槽腔によく収まっています。下顎左側第三大臼歯(LLM3)の対応する歯槽は存在せず、LLM3の発育不全を示唆しています。上顎右側第三大臼歯(URM3)は過剰咬頭を示し、その対称部分は正常な形態なので、データの一貫性を維持するため、さらなる微細構造分析から除外されました。M3はすべて、すでにある程度の摩耗面を示しながら、よく発達しているものの、完全には形成されていない歯根を示しています。したがって、この個体は歯の成熟前に死亡し、それによって、歯のエナメル質と象牙質に保存されている増分の成長構造の定量化を通じて、この個体の死亡時年齢の正確な決定が可能となります。以下は本論文の図1です。
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 PPC-SRµCT仮想組織学を用いて、この個体の最良の保存状態の上顎および下顎の歯の発達が追跡されました(図1)。歯の発達の完全な記録を得るため、より保存状態の良好な歯から得られた比較データを用いて、摩耗した歯冠の咬頭が再構築されました。M1の咬頭は通常、その最も先端の領域に新生児線(周産期ストレス標識)を構成します。この情報は歯の摩耗を通じて失われるので、すべての以下の分析は、M1歯冠の始まる時期が現代人および現生大型類人猿と同様だった、つまり出生直前か出生前後である、という過程に基づいています。この準備作業に続いて、以下のように全ての歯の発達特性が再構築されました。

(1)主要なストレス標識(発達中の個別の前身ストレス事象を示唆します)が特定され、これは歯の成長線の順序の発育不全の不連続として見えます(図2a)。ストレス線はすべての歯で一致しており、歯の発達の相対的な年代順が得られます(図2b)。
(2)保存状態最良のエナメル質および象牙質の領域を通じた高解像度の仮想断面は、長期のレッチウス(Retzius)/アンドレーゼン(Andresen)成長線が6日であること(化石人類と現代人と大型類人猿の差異の最速です)と、1日あたり4.28μmの平均象牙質分泌速度を明らかにします。
(3)象牙質の保存状態良好な長期の成長線(アンドレーゼン線)が数えられ、この情報が長期線間隔および歯の分泌速度データと組み合わされ、主要なストレス事象および萌出から完了までの歯根の絶対時期が確証されました。
(4)これらのデータはエナメル質のストレス標識情報と組み合わされ、象牙質のアンドレーゼン線の数で較正され、萌出から完了までの歯冠形成が再構築されました。
(5)最後に、すべての歯の歯冠と歯根の形成の時間的経過が誕生から死までの歯の発生の混合記録に集約されました(図2b)。以下は本論文の図2です。
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 本論文のデータから、個体D2700/D2735は11.36±0.65歳(誤差範囲は、ストレス標識間の距離における歯間差異、摩耗咬頭の再構築における差異、仮定されたM1歯冠の萌出開始における差異、毎日の象牙質分泌速度の差異から得られます)で死亡した、と示唆されます。第三大臼歯の歯根尖閉鎖の時期は、1.3~1.5歳と推定されました。したがって、D2700/D2735は完全な歯の成熟(12.0~13.5歳)の直前に死亡しました。

 この個体の永久歯のほぼ完全な増分成長記録によって、誕生から歯の成熟までの歯列の長期の発生の軌跡の再構築が可能となりました(図3および図4)。誕生から死亡まで6ヶ月間隔のD2700/D2735の歯列の発生が記録され、これが現代人や大型類人猿や化石人類の対応するデータと比較されました。分類群固有の歯の発生形態を特徴づけるため、永久歯の歯列形成のパターンと速度が区別されました。パターンは、8種類の歯(I1、I2、C、P3、P4、M1、M2、M3)が相互と比較してどのように成熟するのか(図3)、説明するのに対して、速度は熾烈が全体として加齢とともにどのように成熟するのか(図4)、説明します。定量的には、パターンは1個体の歯列の全種類の歯のDMS(dental maturation scores、歯の成熟得点)によって示されるのに対して、速度は個体の年齢の関数として歯列全体のDMSによって示されます。

 図3aは、ヒトとチンパンジーとドマニシ遺跡人類における主要な歯の発生事象の時期を要約しています。歯冠の萌出および完了と歯の出現と歯根の完了における種内差異は、かなりのものです。しかし、8種類の歯(I1、I2、C、P3、P4、M1、M2、M3)のDMSの主成分分析(principal component analysis、略してPCA)では、ヒトはすべての大型類人猿(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン)と比較して、歯の発生の明確に異なるパターンを有している、と示されました(図3b)。注目すべきことに、ドマニシ遺跡人類のパターンは発生の差異では、ヒトの範囲内にあり、大型類人猿の範囲外にあります(図3b)。以下は本論文の図3です。
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 図4aは歯列全体の成熟の分類群固有の軌跡を示しています。チンパンジーの歯列は生後数年間で急速に成熟し、11~13歳頃に完全な成熟に達します。年齢の分かるゴリラとオランウータンの標本から得られたデータは、それぞれチンパンジーの差異の上限と下限の軌跡を示唆します。対照的に、ヒトの歯列は生後初期の遅い成熟によって特徴づけられ、18~22歳頃に完全な成熟に達します。ドマニシ遺跡個体の歯列は当初、4歳まで遅いヒトのような速度の軌跡をたどり、その後で追いついて8歳頃にチンパンジーのような軌跡に達し、最終的に12.0~13.5歳で歯の成熟に達します。以下は本論文の図4です。
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 図4bは、軌跡に沿って推定された瞬間成熟速度(1年あたりの総DMS)を示しています。チンパンジーの歯列では、速度は生後最初の2年間において最高で、その後では成体期に向かって低下します。対照的に現代人では、速度は出生初期には比較的遅く、その後で増加して7.0歳頃に最高速度に達し、その後では成熟に向かって着実に低下します。この最高速度は、DGS(dentition growth spurt、歯列成長率上昇)と呼ばれます。注目すべきことに、ドマニシ遺跡の個体もDGSを示しますが、これは5.3歳頃に起きており、チンパンジー(出生直後)よりも有意に遅く、現代人のDGS(6.0~8.5歳の範囲)の下限に近くなっています(図4b)。


●考察

 ドマニシ遺跡個体の歯の発生は、相対的および絶対的両方の時間規模において、派生的なヒトのような特徴と祖先的な大型類人猿のような特徴の組み合わせとして現れています。ドマニシ遺跡個体の発生のパターンはヒトの差異内にあり(図3b)、前歯(I1とI2とC)と比較して奥歯(M1を除くP3とP4とM2とM3)の萌出が遅くなっており、大型類人猿と比較してM1とM2とM3の萌出時期の間隔は広くなっています(図3a)。結果として、ドマニシ遺跡個体の歯列は全体的に、生後約5年はゆっくりと成熟し、遅いDGSを示しました(図4)。しかし、ドマニシ遺跡個体の歯固有の成熟率は、いくつかの点でヒトとは異なっていました。小臼歯とM2とM3の歯冠形成が始まると、形成速度は例外的に速く、ドマニシ遺跡個体はチンパンジーのような成熟の軌跡に追いつき(図4a)、大臼歯の推定萌出時期(M1は3.8歳頃、M2は7.6歳頃、M3は10.6歳頃)は、ヒトよりも野生チンパンジーの方での観察とより類似しています。また、歯の成熟の予測年齢(12.0~13.5歳頃)は、現代人(18~22歳)とよりもチンパンジーおよび他の大型類人猿(11~13歳)の方と類似しています。

 歯の発生のドマニシ遺跡個体的形態はどのように進化したのでしょうか?本論文のデータは、化石人類と現生大型類人猿の分類群両方での歯の発生パターン及び速度の多様性を示唆しています。大型類人猿は発生の共通パターンを示しますが(図3b)、速度では分類群固有の違いがあります(図4a)。アウストラロピテクス・アファレンシス(ディキカで発見された330万年前頃のAL 333-10標本)とアウストラロピテクス・アフリカヌス(Australopithecus africanus)と南アフリカ共和国のタウング(Taung)で発見された280万年前頃の標本(Sts 24)に代表されるアウストラロピテクス・アフリカヌス(Australopithecus africanus)のデータから、これらの種の歯の発生がおそらく現生大型類人猿で見られる発生のパターンおよび速度の範囲内だったのに対して、200万~180万年前頃の標本(DNH 107、SK 63)に代表されるパラントロプス属は現生分類群では見られない歯の発生形態を示す、と示唆されます(図3bおよび図4a)。アフリカの初期ホモ属を表す化石(180万~160万年前頃となる、ナリオコトメで発見されたKNM-WT 15000や、KNM-ER 1590)は、ドマニシ遺跡個体/ヒトの発生パターンと一致しており(図3bおよび図4a)、このパターンはホモ属の進化的特徴である、との見解を裏づけます。

 人類の生活史の進化には、どのような意味があるでしょうか?歯は咀嚼機能の中心なので、その成熟の時間的経過における変化は、咀嚼の生体力学と、母乳から固形食料および栄養の依存から自立への個体の生涯における食性移行の時期における変化を反映している傾向にあります。これらの変化は同様に、代謝資源の脳や身体や繁殖の成熟への割り当てにおける、したがって生活史における変化を反映している、と考えられています。ドマニシ遺跡個体では、大型類人猿と比較して、前方永久歯の歯列の特徴として遅い成熟と遅いDGSは乳歯大臼歯の長い使用を示唆しています。これはおそらく、長い栄養依存期間を示唆しています。

 ヒトにおける長い子供期は、脳の成長および成熟と比較して遅い歯および身体の成熟によって特徴づけられます。このパターンは通常、大きなヒトの脳は成人の大きさに成長するのに大型類人猿よりもかなり多くの代謝エネルギーを必要とするので進化した、と考えられています。同様に、身体の成熟で生じた遅延は、未熟な個体にとって、脳が成長および成熟しながらも、複雑な社会的環境において高度な認知技能習得の新たな機会を提供してきたでしょう。

 しかし、この進化の筋書きは初期ホモ属には当てはまらず、それは、ドマニシ個体とナリオコトメ個体のそれぞれの死亡時年齢における発達した歯と身体の成熟は、現代人より大型類人猿の方と類似しているからです。さらに、ドマニシ遺跡の初期ホモ属の脳の大きさ(ECVの範囲は546~730 cm³)は、大型類人猿よりわずかに大きいだけなので、おそらくは脳の成長と身体の成長との間には代謝の相殺への中程度の影響がありました。

 したがって、本論文は初期ホモ属について、歯の発生の多様性に反映されているように、先進性~更新世の人類における生活史戦略の多様性を仮定する、代替的な筋書きを提案します。アウストラロピテクス属はおそらく、歯の発生の祖先的な類人猿のような形態を示しました(図3および図4)。しかし、未成熟のアウストラロピテクス属個体群は、大型類人猿と比較して出生後の脳の成長および成熟の長い期間の証拠を示しており、このパターンは脳の顕著な進化的拡大の前に現れた、と示唆されます。

 この筋書きによると、初期ホモ属では、成長段階の延長は、脳拡大および関連する資源割り当ての相殺の結果として進化したわけではありません。むしろ、観察された変化の根底にある選択圧は、他に探さねばなりません。ドマニシ遺跡の古人類学的および考古学的背景は、これに関して貴重な情報を提供します。様式1の石器(関連記事)と動物の骨における解体痕の存在は、ドマニシ遺跡個体群における道具による肉消費を示唆しています。したがって、歯の発生の初期ホモ属のパターンの進化が、全体的な咀嚼負荷の減少を意味する、道具による肉の消費への移行を反映しているのかどうか、まだ調べられていません。さらに、社会文化的状況とその生活史および繁殖への潜在的影響が検討されねばなりません。ドマニシ遺跡で発見された成熟した4個体[22、23]は、成体の初期から後期まで年齢範囲があり、歯がなく数年間生存した老年の1個体を含んでいます。ドマニシ遺跡の古人口集団において繁殖後の個体が存在した可能性は、生物文化的繁殖の文脈で考えることができ、世代間の強力が共同養育の提供によって維持される成長期間の延長を促進し、最終的には繁殖成功の増加に寄与した、と示唆されます。

 これは、初期ホモ属の推測された生活史の特徴が、かなりの脳の拡大および再編成の前[25]および生活史の一般的な減速の前に、繁殖戦略における進化的変化を反映しているのかどうか、との問題を提起します。これらの仮説を検証するためには、ナリオコトメ個体など重要な初期ホモ属化石、およびアウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)[53]やホモ・ナレディ(Homo naledi)など小さな脳の化石人類分類群のさらなる歯の微細構造分析が必要です。全体的に本論文の分析は、人類の生活史の進化は単線的軌跡をたどったのではなく、多様な選択圧と適応的反応を含めて、分岐しており組み立て単位の(モジュール的)過程だった、という増えつつある証拠に加わります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


進化:ホミニンの歯から初期のヒトの成長が長期にわたっていたことが明らかに

 ジョージア州ドマニシ(Dmanisi)で発見された177万年前のホミニンの化石歯の分析によると、初期のホミニンは、類人猿のような早期成熟と、ヒトのような遅延された発育を併せ持っていたかもしれないことを報告する論文が、Nature に掲載される。この発見は、私たちの遠い親戚の成長過程についての洞察を提供している。

 ヒトの生活は、最も近縁の大型類人猿と比較して、長期にわたる幼年期と成熟の遅れなど、いくつかの独特な特徴がある。歯は、進化の変化の歴史を理解する上で重要な役割を果たしている。なぜなら、歯は増分的な成長パターンを保存しており、そのパターンから発育速度や時期を推測することができるからである。ヒトの歯は大型類人猿の歯よりもゆっくりと成熟することが知られており、特に永久臼歯は、霊長類の脳の発達と身体成熟のペースと相関している。177万年前のドマニシ化石は、アフリカ以外の地域におけるホモ(Homo)属の最も初期のメンバーの一部を表しており、初期のヒトの成長過程を調査する機会を提供している。

 Christoph Zollikoferらは、高度な画像処理技術を用いて、歯の成熟期に達する直前の11歳で亡くなった、ドマニシの初期のホモ属個体の歯の微細構造を分析した。その結果、歯の成長速度は大型類人猿とほぼ同程度に速いことが判明した。しかし、この個体は、前歯に比べて奥歯の成長が遅く、歯の成長が遅れて始まるというヒトに似た特徴を示していた。歯の発育における大型類人猿的な特徴とヒト的な特徴のユニークな組み合わせは、初期のホモ属が生活史の全般的な減速の前に、おそらく脳の成長よりもむしろ生物文化的再生産(生物学的側面と文化的側面の両方を含む)に関連した、長期にわたる成長段階を進化させたことを示唆している。

 この発見は、私たちの祖先の成長パターンは、これまで考えられていたよりも多様であった可能性があることを示唆している。


進化学:ドマニシの初期ヒト属の成長期が長くなっていたことを示す歯の証拠

進化学:成長期の延長は初期のヒト属で始まった

 今回、ジョージアのドマニシで発見された177万年前のヒト属個体の歯列において、大型類人猿様の早い成熟とヒト様の遅れた奥歯の形成という異なる特徴の独特な組み合わせが見いだされ、この段階のヒト族には生活史の初期に成長期が長くなったような期間があったことが示唆された。



参考文献:
Wood BM. et al.(2023): Demographic and hormonal evidence for menopause in wild chimpanzees. Science, 382, 6669, eadd5473.
https://doi.org/10.1126/science.add5473
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Zollikofer CPE. et al.(2024): Dental evidence for extended growth in early Homo from Dmanisi. Nature, 635, 8040, 906–911.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08205-2

[13]Gunz P. et al.(2020): Australopithecus afarensis endocasts suggest ape-like brain organization and prolonged brain growth. Science Advances, 6, 14, eaaz4729.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaz4729
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[18]Ferring R. et al.(2011): Earliest human occupations at Dmanisi (Georgian Caucasus) dated to 1.85–1.78 Ma. PNAS, 108, 26, 10432-10436.
https://doi.org/10.1073/pnas.1106638108
関連記事

[22]Lordkipanidze D. et al.(2007): Postcranial evidence from early Homo from Dmanisi, Georgia. Nature, 449, 7160, 305-310.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08205-2
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[23]Lordkipanidze D. et al.(2013): A Complete Skull from Dmanisi, Georgia, and the Evolutionary Biology of Early Homo. Science, 342, 6156, 326-331.
https://doi.org/10.1126/science.1238484
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[25]Ponce de León MS. et al.(2021): The primitive brain of early Homo. Science, 372, 6538, 165–171.
https://doi.org/10.1126/science.aaz0032
関連記事

[51]Zink KD, and Lieberman DE.(2016): Impact of meat and Lower Palaeolithic food processing techniques on chewing in humans. Nature, 531, 7595, 500–503.
https://doi.org/10.1038/nature16990
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[53]Irish JD. et al.(2013): Dental Morphology and the Phylogenetic “Place” of Australopithecus sediba. Science, 340, 6129, 1233062.
https://doi.org/10.1126/science.1233062
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