恐竜の消化物の分析

 恐竜の消化物の分析結果を報告した研究(Qvarnström et al., 2024)が公表されました。化石記録によると、恐竜は三畳紀中期(約2億4700万~2億3,700万年前)に進化していた、と分かっています。しかし、恐竜が陸上生態系を支配するようになったのは、その約3000万年後のジュラ紀初期以降で、この間に恐竜以外の四肢動物(四肢を持つ脊椎動物)の多くが駆逐されましたが、恐竜がなぜ生態系を支配するようになったのかは依然として謎のままで、恐竜の初期放散は複雑で理解が進んでいない進化的事象です。

 本論文は、ポーランド盆地(ヨーロッパ中部)の三畳紀からジュラ紀への移行期の地層に由来する、この事象を記録した5つの脊椎動物群の栄養動態について、摂食の直接証拠がある数百点の消化物(糞便や嘔吐物など)化石を用いて比較しました。この移行期において、ブロマライト(bromalite、糞化石・腸管内容物化石・嘔吐物化石などの消化に関する化石)はサイズと多様性が増大しており、これは、新たな摂食パターンのより大型の恐竜相の出現を示しています。

 保存状態の良好な食物残渣、およびブロマライトと分類群の関連によって、栄養相互作用の広範な推定が可能になりました。得られた結果を気候および植物のデータと組み合わせたところ、この地域における恐竜の多様性と生態空間(ecospace)占有度が段階的に高まった、と示されました。この移行過程では、(1)同じギルドに属する非恐竜種が日和見的な雑食性の恐竜の祖先種によって置き換えられ、それに続いて(2)昆虫食性および魚食性の獣脚類と小型の雑食性恐竜が出現しました。

 三畳紀末に起きた気候変化は植生の大きな変化につながり、これが草食動物の生態空間の拡大を可能にして、偽鰐類や草食性獣弓類が、焼けた植物まで含むさらに多様な食物を摂取する大型の竜脚形類および初期の鳥盤類によって置き換えられた(移行過程3および4)。最終的に、(5)新たな草食ギルドの出現に対応して、獣脚類が急速に進化して巨大化を遂げました。このポーランドのデータで示されたような過程は全球的なパターンを説明すると考えられ、白亜紀末の大量絶滅まで続いた恐竜の優勢と巨大化の起こりが環境に支配されていた、と浮き彫りになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:糞便の科学捜査が恐竜の台頭を記録する

 糞便や嘔吐物の化石サンプルを使用し、恐竜が地球の古代生態系で優勢な生物へと進化する過程を再現したことを報告する論文が、今週のNature に掲載される。

 化石の記録によると、恐竜は三畳紀中期(2億4,700万年前から2億3,700万年前)に進化していたことが分かっている。しかし、恐竜が陸上生態系を支配するようになったのは、それから約3,000万年後のジュラ紀初期になってからだった。この間、恐竜以外の四肢動物(四肢を持つ脊椎動物)の多くが駆逐されたが、恐竜がなぜ生態系を支配するようになったのかは依然として謎のままである。

 Martin QvarnströmとGrzegorz Niedźwiedzkiらは、ポーランド盆地から発見されたブロマライトと呼ばれる、500以上の消化物(糞便や嘔吐物など)の化石を用いて食物網を再構築し、この移り変わりを調査した。ブロマライトは、後期三畳紀から前期ジュラ紀にまたがるものである。これらの化石(消化されなかった食物の内容物を明らかにするための内部構造の3D画像を含む)の分析結果は、気候や植物のデータとともに、既存の化石記録と比較され、この期間における脊椎動物のサイズと個体数の変化が推定された。

 これらのデータは、非恐竜の四肢動物が初期の恐竜の雑食性の祖先によって駆逐され、三畳紀の終わり頃には最初の肉食恐竜や草食恐竜へと進化していったことを示している。この時点で、著者らは、火山活動の活発化に伴う環境の変化が、より多様な植物を餌とすることを可能にし、それに続いて大型で多様な草食恐竜の登場につながった可能性があることを示唆している。そして、ジュラ紀の始まりまでに大型の肉食恐竜が進化し、生態系における恐竜の支配への移行が完成した。

 この分析は、ポーランド盆地の生態系における恐竜の支配の台頭に光を当てている。この手法を用いたさらなる研究は、世界の他の地域におけるこの進化の歴史を解明するのに役立つと考えられる。


古生物学:消化内容物と食物網に記録された恐竜支配の到来

Cover Story:消化の痕跡:化石化した糞と嘔吐物が明かす、恐竜が古代の生態系を支配するに至った過程

 最初の恐竜が化石記録に登場するのは約2億3000万年前だが、ジュラ紀の始まりである約2億年前には、恐竜は古代の生態系を支配する存在となっていた。今週号ではM Qvarnströmたちが、この変化がどのように起こったかについて論じている。彼らは、消化物(つまり糞や嘔吐物)の化石を用いて、古代の食物網を再構築した。これにより、脊椎動物の生態、サイズ、個体数の変化を推定することができ、これによって、火山活動の増加と気候変動が、餌となる植物の多様性を増大させ、それが草食恐竜の多様化を促進した可能性が示唆された(表紙の想像図)。その結果、大型肉食種の進化が進み、ジュラ紀の初頭には恐竜が生態系を支配するようになった。



参考文献:
Qvarnström M. et al.(2024): Digestive contents and food webs record the advent of dinosaur supremacy. Nature, 636, 8042, 397–403.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08265-4

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