現生オランウータンの鳴き声から推測される初期のヒトの言語発達
取り上げるのが遅れてしまいましたが、現生オランウータンの鳴き声から初期のヒトの言語発達を推測した研究(Gannon et al., 2023)が公表されました。中新世の中期から後期(1600万~530万年前頃)にかけてのアフリカの古気候変動では、森林が広大な平原に置き換わり、おもに樹上で生活していた古代のヒト科が地上での生活に移行しましたが、こうした景観の変化がヒト科の発声にどのような影響を与えたかについては、化石記録の中に発声に必要な軟組織が保存されていないため解明されておらず、音声言語の進化的時系列に沿った「生態学的暗箱」を表しています。そこから、音声を話すヒト科の動物が侵入し、数百万年後に言葉を話すヒトになりました。森林性の密生した生息地から、より乾燥した開けた生息地への変化が、言語能力の進化の段階を準備したかもしれない、ヒト科の音声意思伝達に影響を及ぼしたのかどうか、あるいはどのように影響を及ぼしたのか、不明です。
樹上での祖型的母音と祖型的子音が地上での新たな生態系とどのように相互作用していたのか再現するため、一連のオランウータンの無声子音的鳴き声と有声母音的鳴き声がサバンナをどのように伝わったのか、評価されました。オランウータンは、口腔を通過する空気によって生じる無声子音的鳴き声と、声帯の振動によって生じる有声母音的鳴き声の両方を発し、それらを複雑につなぎ合わせることができるので、現存する唯一の樹上性の大型類人猿として、この樹上生活から地上生活への移行を調べるための動物の理想的な候補です。
本論文は、南アフリカ共和国のラジュマにあるサバンナで、ボルネオ島とスマトラ島で録音されたオランウータンの鳴き声がどのくらいよく聞き取れるのか、調べた結果を報告します。分析されたのは、スマトラ種とボルネオ種のオランウータン集団に属する20個体の487例の鳴き声です。これらには、母音的鳴き声は子音的鳴き声と比較して低い成果となりました。これらの鳴き声には、子音様の「kiss-squeak(突き出した唇の間から息を吸い、ちゅうちゅうと音を立て)」と母音様の「grumph(ぶーぶー鳴く)」の両方が含まれていました。鳴き声は、再生する地点から25m刻みで最長400m離れた地点までの各地点で鳴き声を再録音し、それぞれの地点で鳴き声がどのくらいよく聞こえるのか、調べられました。
その結果、125m以上離れた地点では、母音的な鳴き声は子音的な鳴き声よりも可聴性が有意に低くなり、子音的な鳴き声は250m以上離れると、可聴性の低下が緩やかになりました。さらに、400m離れた地点で聞き取れた母音的な鳴き声は全体の20%未満であったのに対して、子音的な鳴き声は約80%でした。子音的鳴き声のみが繰り返しを必要とせずに100m超の効果的な認知を可能としているわけで、これは通常母音的鳴き声により構成される非ヒト霊長類における大声での鳴き声行動の特徴です。この結果から、ヒトの祖先における祖型的子音は樹冠から地面までの移行帯で遠距離の有声意思伝達の認知を増加させていたかもしれない、と示されます。ヒトの祖先が経てきた生態学的環境と音声景観は、音声言語の出現と形成に以前に認識されていたよりも大きな影響を及ぼしたかもしれません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古生物学:広大な平原が初期ヒト科の言語発達を助長したかもしれない
現生オランウータンの鳴き声の研究から、中新世に古代のヒト科の鳴き声が母音ベースの鳴き声から子音ベースの鳴き声に切り替わったことには、生息環境が密林から広大な平原に変わったことによる進化圧の影響があったという考えが示された。このことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の知見は、初期ヒト科のコミュニケーションが進化の過程でどのように発達したかについての洞察をもたらす。
中新世の中期から後期(1600万~530万年前)に気候の変化が生じて、アフリカでは森林が広大な平原に置き換わり、主に樹上で生活していた古代のヒト科が地上での生活に移行した。このような景観の変化がヒト科の発声にどのような影響を与えたかについては、化石記録の中に発声に必要な軟組織が保存されていないため、解明されていない。オランウータンは、口腔を通過する空気によって生じる無声子音のような鳴き声と、声帯の振動によって生じる有声母音のような鳴き声の両方を発し、それらを複雑につなぎ合わせることができる。オランウータンは、現存する唯一の樹上性の大型類人猿として、この樹上生活から地上生活への移行を調べるための動物の理想的な候補だ。
今回、Charlotte Gannon、Russell Hill、Adriano Lameiraは、南アフリカ共和国のラジュマにあるオランウータンのサバンナ生息地で、オランウータンの録音した鳴き声がどのくらいよく聞き取れるかを調べた。オランウータンの鳴き声は特に複雑で、音節に類似した鳴き声もある。著者らは、スマトラ種とボルネオ種のオランウータン集団に属する20個体の487例の鳴き声を再生した。これらの鳴き声には、子音様のkiss-squeak(突き出した唇の間から息を吸い、ちゅうちゅうと音を立て)と母音様のgrumph(ぶーぶー鳴く)の両方が含まれていた。そして、鳴き声を再生する地点から25メートル刻みで最長400メートル離れた地点までの各地点で鳴き声を再録音して、それぞれの地点で鳴き声がどのくらいよく聞こえるかを調べた。
その結果、125メートル以上離れた地点では、母音ベースの鳴き声は、子音ベースの鳴き声よりも可聴性が有意に低くなり、子音ベースの鳴き声は、250メートル以上離れると可聴性の低下が緩やかになった。さらに、400メートル離れた地点で聞き取れた母音ベースの鳴き声は全体の20%未満であったのに対し、子音ベースの鳴き声は約80%だった。全体として、以上の結果は、広大な土地では子音ベースの鳴き声の方が非常に聞き取りやすいことを示している。著者らは、現代のヒトの言語において子音が重要であることから、広大な平原へ移動したことがヒト科の音声コミュニケーションの発達に重要な役割を果たした可能性があるという考えを示している。
参考文献:
Gannon C, Hill RA, and Lameira AR.(2023): Open plains are not a level playing field for hominid consonant-like versus vowel-like calls. Scientific Reports, 13, 21138.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-48165-7
樹上での祖型的母音と祖型的子音が地上での新たな生態系とどのように相互作用していたのか再現するため、一連のオランウータンの無声子音的鳴き声と有声母音的鳴き声がサバンナをどのように伝わったのか、評価されました。オランウータンは、口腔を通過する空気によって生じる無声子音的鳴き声と、声帯の振動によって生じる有声母音的鳴き声の両方を発し、それらを複雑につなぎ合わせることができるので、現存する唯一の樹上性の大型類人猿として、この樹上生活から地上生活への移行を調べるための動物の理想的な候補です。
本論文は、南アフリカ共和国のラジュマにあるサバンナで、ボルネオ島とスマトラ島で録音されたオランウータンの鳴き声がどのくらいよく聞き取れるのか、調べた結果を報告します。分析されたのは、スマトラ種とボルネオ種のオランウータン集団に属する20個体の487例の鳴き声です。これらには、母音的鳴き声は子音的鳴き声と比較して低い成果となりました。これらの鳴き声には、子音様の「kiss-squeak(突き出した唇の間から息を吸い、ちゅうちゅうと音を立て)」と母音様の「grumph(ぶーぶー鳴く)」の両方が含まれていました。鳴き声は、再生する地点から25m刻みで最長400m離れた地点までの各地点で鳴き声を再録音し、それぞれの地点で鳴き声がどのくらいよく聞こえるのか、調べられました。
その結果、125m以上離れた地点では、母音的な鳴き声は子音的な鳴き声よりも可聴性が有意に低くなり、子音的な鳴き声は250m以上離れると、可聴性の低下が緩やかになりました。さらに、400m離れた地点で聞き取れた母音的な鳴き声は全体の20%未満であったのに対して、子音的な鳴き声は約80%でした。子音的鳴き声のみが繰り返しを必要とせずに100m超の効果的な認知を可能としているわけで、これは通常母音的鳴き声により構成される非ヒト霊長類における大声での鳴き声行動の特徴です。この結果から、ヒトの祖先における祖型的子音は樹冠から地面までの移行帯で遠距離の有声意思伝達の認知を増加させていたかもしれない、と示されます。ヒトの祖先が経てきた生態学的環境と音声景観は、音声言語の出現と形成に以前に認識されていたよりも大きな影響を及ぼしたかもしれません。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古生物学:広大な平原が初期ヒト科の言語発達を助長したかもしれない
現生オランウータンの鳴き声の研究から、中新世に古代のヒト科の鳴き声が母音ベースの鳴き声から子音ベースの鳴き声に切り替わったことには、生息環境が密林から広大な平原に変わったことによる進化圧の影響があったという考えが示された。このことを報告する論文が、Scientific Reportsに掲載される。今回の知見は、初期ヒト科のコミュニケーションが進化の過程でどのように発達したかについての洞察をもたらす。
中新世の中期から後期(1600万~530万年前)に気候の変化が生じて、アフリカでは森林が広大な平原に置き換わり、主に樹上で生活していた古代のヒト科が地上での生活に移行した。このような景観の変化がヒト科の発声にどのような影響を与えたかについては、化石記録の中に発声に必要な軟組織が保存されていないため、解明されていない。オランウータンは、口腔を通過する空気によって生じる無声子音のような鳴き声と、声帯の振動によって生じる有声母音のような鳴き声の両方を発し、それらを複雑につなぎ合わせることができる。オランウータンは、現存する唯一の樹上性の大型類人猿として、この樹上生活から地上生活への移行を調べるための動物の理想的な候補だ。
今回、Charlotte Gannon、Russell Hill、Adriano Lameiraは、南アフリカ共和国のラジュマにあるオランウータンのサバンナ生息地で、オランウータンの録音した鳴き声がどのくらいよく聞き取れるかを調べた。オランウータンの鳴き声は特に複雑で、音節に類似した鳴き声もある。著者らは、スマトラ種とボルネオ種のオランウータン集団に属する20個体の487例の鳴き声を再生した。これらの鳴き声には、子音様のkiss-squeak(突き出した唇の間から息を吸い、ちゅうちゅうと音を立て)と母音様のgrumph(ぶーぶー鳴く)の両方が含まれていた。そして、鳴き声を再生する地点から25メートル刻みで最長400メートル離れた地点までの各地点で鳴き声を再録音して、それぞれの地点で鳴き声がどのくらいよく聞こえるかを調べた。
その結果、125メートル以上離れた地点では、母音ベースの鳴き声は、子音ベースの鳴き声よりも可聴性が有意に低くなり、子音ベースの鳴き声は、250メートル以上離れると可聴性の低下が緩やかになった。さらに、400メートル離れた地点で聞き取れた母音ベースの鳴き声は全体の20%未満であったのに対し、子音ベースの鳴き声は約80%だった。全体として、以上の結果は、広大な土地では子音ベースの鳴き声の方が非常に聞き取りやすいことを示している。著者らは、現代のヒトの言語において子音が重要であることから、広大な平原へ移動したことがヒト科の音声コミュニケーションの発達に重要な役割を果たした可能性があるという考えを示している。
参考文献:
Gannon C, Hill RA, and Lameira AR.(2023): Open plains are not a level playing field for hominid consonant-like versus vowel-like calls. Scientific Reports, 13, 21138.
https://doi.org/10.1038/s41598-023-48165-7
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