オーロックスの進化史

 古代ゲノムデータを用いたオーロックス(Bos primigenius)の進化に関する研究(Rossi et al., 2024)が公表されました。オーロックスは現在地球上の哺乳類の生物量の約1/3を占めていると推定されている家畜ウシ(Bos taurus)の祖先で、野生種としては17世紀に絶滅した、と考えられています。本論文は、ユーラシアの47000年前頃以降のオーロックス38個体のゲノムに基づいて、オーロックスの進化史と時空間的な差異を示しています。こうした知見は、現代の家畜ウシの特性や回復力の解明への貢献が期待されました。なお、[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。


●要約

 現在は絶滅しているオーロックスは、先史時代のユーラシアおよびアフリカ北部の生態系における中枢種で、数千年にわたり人類に食料と労働力を提供してきた家畜ウシの祖先でした。本論文は、オーロックス38個体の古代ゲノムを解析し、オーロックスにはヨーロッパとアジア南西部とアジア北部とアジア南部の異なる4個体群の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を見つけ、その各系統には、気候の変化およびヒトからの影響に応答してきた動的な軌跡がありました。ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)と同様に、オーロックスが初めてヨーロッパに移動したのは65万年前頃でしたが、初期の個体群は祖先系統にわずかな痕跡しか残さず、アジア北部とヨーロッパ両方のオーロックスのゲノムの合着(合祖)は最終氷期のことでした。アジア北部とヨーロッパの個体群はその後、初期完新世の気候改善後に交雑するまで、分断されていたようです。ヨーロッパのオーロックスは最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)により深刻なボトルネック(瓶首効果)を耐えて、南方の退避地に撤退した後で、イベリア半島から再定着しました。家畜化はアジア南西部のオーロックス個体群からの少数個体の捕獲と関わっており、その後、家畜化個体が原産地を越えて拡散した後に、オーロックスの各祖先の系統を含む、雄を介した初期の広範な混合がありました。


●研究史

 現在では絶滅したオーロックスは、ユーラシアとアフリカ北部に広く生息していました。ヨーロッパにおけるその化石の存在は65万年前頃以降ですが、その最古の祖先と考えられる痕跡は、すべての野生のウシが属するウシ族の多様性の中心地に近いアジア南部で検出されています。完新世には、オーロックスは温帯の肥沃な地域に存在する最大の哺乳類で、その放牧は森林と草原の混合の存続に役立ちました。ヒトは同様の生態系で繁栄したので、オーロックスは上部旧石器時代以降ヒトの文化および社会と絡み合ってきました。まず、オーロックスはヒトにとって狩猟対象の獲物で、象徴的表現形式の豊富な情報源でもあり、それはマグダレニアン(Magdalenian、マドレーヌ文化)の洞窟芸術からギョベクリ・テペ(Göbekli Tepe)遺跡の彫刻およびチャタルヒュユク(Çatalhüyük)遺跡のウシの頭部を模した装飾にまだ至ります。この関係は、ポーランドで1627年に最後の雌ウシの死による絶滅まで続きました。最後の雄ウシはその7年前に射殺され、その角は他の多くの雄ウシのように王室の狩猟角もしくは儀式用の酒器に加工されました。現在、オーロックスの子孫である家畜ウシは、地球上の哺乳類の生物量の約1/3を構成しています。

 オーロックスは古代DNA研究の最初期の成功した対象の1種で、初期の研究では、ヨーロッパのオーロックスと家畜ウシのミトコンドリアDNA(mtDNA)は異なっていた、と示されました。もっと最近では、4点の常染色体ゲノムの解析は、ヨーロッパとレヴァントとアフリカにおけるオーロックスとウシとの間の交雑の推測を裏づけました[10]。本論文では、ユーラシア全域で標本抽出された38点(そのうち33点は新たに報告されます)のオーロックス標本(較正年代で47000~4000年前頃、ゲノム深度は0.06~22.47倍で、平均深度は3.9倍)とさらにアジア中央部の古代のウシの8個体のゲノム(較正年代で6400~3800年前頃、ゲノム深度は0.44~2.43倍で、平均深度は1.17倍)が報告されます。


●オーロックスの動的な遺伝地理

 ゲノム類似性を要約した図(図1c)は、オーロックスの多様性の3極を浮き彫りにします。左上はヨーロッパのオーロックスのゲノム(緑色)、右側の3個体は上部更新世(後期更新世)の年代のアジア北部の異なるゲノム(桃色)、左下は古代の家畜ウシおよびアフリカ北部のオーロックスとクラスタ化する(まとまる)アジア南西部のオーロックス2個体(茶色)です。コブウシ(Bos indicus)はより異なっており、図示されていません。これらのクラスタに埋め込まれた個体群の祖先系統の軌跡は動的で、気候変化および家畜化後のヒトの管理の両方に対応していました。以下は本論文の図1です。
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 ヨーロッパでは、LGM(27000~18000年前頃)前のヨーロッパのオーロックス2個体(46000年前頃と47000年前頃以前)がその後のオーロックスのゲノムとクラスタ化することは、ある程度の時間的連続性を示唆しています(図1c)。しかし、LGMにおいて、ヨーロッパ中央部の大半は永久凍土層のツンドラ(凍原、凍土帯)に覆われており、オーロックスの生息地はフランコ・イベリアやイタリアやバルカンの南方の退避地に縮小しました。これら3ヶ所の地域のゲノムは、アジア南西部のオーロックス個体群とのわずかな混合のさまざまな水準によって区別できる集団に区分されます。とくに、他の標本抽出されたヨーロッパ(ヨーロッパ中央部とスカンジナビア半島とイギリス)のオーロックスのゲノムの大半は、イベリア半島集団と密にクラスタ化します(図1)。このパターンが示唆するのは、退避地間の遺伝的区別、フランコ・イベリア退避地に由来するヨーロッパ西部の氷期後の再定着、アルプスがイタリア半島の退避地から北方への遺伝子流動の障壁を形成した可能性が高いことです。

 より広い規模では、アフリカ北部と命名された最も異なるクラスタは、更新世のオーロックスの標本3点から構成されます(図1)。この集団の起源は時空間的に広範で、ロシア西部(41500年前頃)とアルメニア(13900年前頃)から東方のバイカル湖(12200年前頃)に至ります。その後の完新世において、アジア中央部のオーロックスのゲノムは図の中心へと動き(図1)、これが示唆するのは、アジア中央部のオーロックスがより西方のオーロックス個体群との混合を経たことで、qpAdmを用いた混合モデル化とNGSadmix分析での教師なし祖先系統構成要素推定値によって確証される主張です(図2b)。以下は本論文の図2です。
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 第三の極には、トルコ中央部(7600年前頃)とアルメニア(7100年前頃)のアジア南西部のオーロックスが含まれます。これらは時空間的に、紀元前11千年紀半ばまでに肥沃な三日月地帯で起きた家畜化過程に近くなっています。さらに、起源地が遠いにも関わらず、アフリカの単一のオーロックス(モロッコで発見された8800年前頃の個体)はこのクラスタと類似性を共有しています。これは系統発生分析によって確証され、地中海南部沿岸の生態学的連続性を示唆しています。アフリカのオーロックスは完新世に規模と頑強さで縮小を経ており、おそらくはレヴァントからのより小さな家畜との置換を反映しています。古代の家畜ウシ個体群も、広く標本抽出されたもののこのアジア南西部クラスタの近くに図示され、11000年前頃のその地域における野生群体からの最初の調達と、移住してきた新石器時代農耕民とのその後の拡散を反映しています[10]。この類似性は、NGSadmix祖先系統モデル化からも明らかで、それは、家畜ウシ標本がおもにアジア南西部のオーロックスの構成要素(黄色、図2b・c)でモデル化されるからです。


●ヨーロッパの古代の遺伝子移入

 オーロックスはヨーロッパにおいて最初に65万年前頃に出現し、これはヨーロッパにおけるホモ・ハイデルベルゲンシスとアシューリアン(Acheulian、アシュール文化)技術の到来の頃です。しかし、本論文の標本抽出された全ゲノムのずっと新しい合着が、広範な分析によって推定されます(図3)。これらは、放射性炭素(¹⁴C)年代測定されたmtDNAのベイズ分析(図3b)と、個体群間分析ゲノム規模合着および観察されたウシ属の変異率を用いた疑似二倍体X染色体分析の両方です。これらは、標本抽出されたウシ属ゲノム内の2系統の深い分岐を明らかにします。一方は、オーロックスとアジア南部のオーロックスであるアジア原牛(Bos namadicus)の代理として用いられたコブウシで、そのゲノムは30万~166000年前頃に、mtDNAは217000~155000年前頃に分岐し、X染色体の合着からX染色体は少なくとも20万年前頃には分岐し始めたことが明らかになりました。もう一方はオーロックス内で、アジア北部のオーロックスのゲノムは、ヨーロッパおよびアジア南西部のオーロックスのゲノムと89000~63000年前頃に分岐しました。これは、101000~85000年前頃に分岐し始めたX染色体の分岐に反映されています。同様に、アフリカ北部のオーロックスのmtDNAの差異は2系統の姉妹ハプログループ(mtHg)であるCとKによって特徴づけられ、この両ハプログループは他の主要なオーロックスのハプログループ(P、Q、T、E、R)とは96000~72000年前頃に分岐しました(図3b・c)。以下は本論文の図3です。
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 注目すべきは、ずっと古い化石記録の存在にも関わらず、ヨーロッパとアジア北部とアジア南西部のオーロックス(その子孫である家畜ウシも含まれます)は過去10万年以内の共通の1祖先個体群に由来することです。しかし、ゲノム規模分析とmtDNAは、より早い古代のヨーロッパ個体群は後期更新世のオーロックスのゲノムにわずかに寄与した、という証拠を明らかにします。第一に、系統樹の完全性の全ゲノム解析F₄検定は、単純な分岐系統発生がオーロックスの祖先系統の不完全なモデルであることを示唆しています。したがって、図3aはAdmixtureGraphを用いて推定された最適モデルを要約しており、混合端を許容します。ドイツから得られた本論文の最古級のオーロックスのゲノム(46000年以上前)はその後のヨーロッパのオーロックスのゲノムとクラスタ化するものの、このモデルは標本抽出されていない個体群からのこれらLGM前のオーロックスのゲノムへの追加のわずかな(3%)流入を必要とします。第二に、これらの個体は外来でひじょうに異なるウシ属のmtDNA(mtHg-G)も有しており(図3b)、コブウシを含めてすべての標本抽出されたオーロックスとウシのmtHgに対して外群であり、共通祖先との結合は39万年前頃までさかのぼります。


●最終氷期における分離

 アジア北部とヨーロッパおよびアジア南西部のオーロックスの最終共通祖先の推定値は、海洋酸素同位体ステージ(Marine Isotope Stage、略してMIS)5の後半と重なっており、この期間には、より温暖な間氷期段階5aおよび5cが含まれ、その期間には東西のつながりが促進されたかもしれません。東方と西方の個体群間のその後の分岐は、71000年前頃から完新世まで続いた寒冷で乾燥した亜氷期と一致します。アジア北部のオーロックス3個体はこの寒冷期内の41500~12200年前頃に標本抽出され、混合していない祖先系統特性を示し(図2)、これはおそらくヨーロッパへの生態学的障壁に起因します。この期間には、温帯ヨーロッパの森林は開けた植生と草原地帯に置換され、それがオーロックスの範囲縮小を引き起こし、たとえば、オーロックスは寒冷適応のステップバイソン(Bison priscus)が優勢だったウラル南部には存在しませんでした。

 これら寒冷期のオーロックスのゲノムの混合していない祖先系統特性は、混合が祖先系統特性と西方のmtDNAハプロタイプPおよびQの遺伝子移入の両方で明らかな、中期完新世のコーカサスおよびアジア中央部のその後のオーロックスとは対照的です(図2b、図3c)。この遺伝子流動はおそらく、完新世におけるより好適な条件によって可能となりました。


●オーロックスの異なる個体群動態

 有効個体群規模の減少が、アルプスアイベックス(Capra ibex)やヒグマ(Ursus arctos)やクビワレミング(Dicrostonyx)などいくつかの種で観察されてきており、おそらくは最終氷期におけるより過酷な気候と関連しています。高網羅率(平均網羅率が8倍以上)の標本とPSMC(pairwise sequentially Markovian coalescent、対での逐次マルコフ合着)を用いて、ウシ属の古代9個体と現代20個体のゲノムで経時的な個体群動態の軌跡が推定されました(図4)。その結果、コブウシの祖先は著しい推定個体数増加を経た、と観察されます。これらの群は、オーロックスと他の関連するウシ族種両方の起源の可能性があるアジア南部の中心地に生息していました。この最盛期はより恵まれた生息地を反映しているかもしれませんが、特定されていない姉妹種との古代の混合によってもたらされた多様性の結果かもしれません。アジア南部および南東部の野生ウシの近縁種のゲノム解析から、第二の遺伝子移入がウシ族の歴史の特徴だった、と示唆されます。D統計(スイギュウ、ウシ族種;コブウシ、オーロックス)による混合検定では、コブウシと外群のウシ族の有意なアレル(対立遺伝子)共有が繰り返し見られ、そうした祖先の混合と一致します。以下は本論文の図4です。
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 アジア北部の高網羅率のオーロックス2個体のゲノムは、類似したPSMC特性を共有しています。しかし、10万年前頃以降、これらはヨーロッパのオーロックス3個体と初期家畜ウシ1個体によって共有される軌跡と分岐し、おもに4万年前頃まで顕著により大きな個体群規模を有していました。LGMにおいて共通の急激な個体数減少があり、同様の退避地生物量へのヒト集団の類似性によって悪化したかもしれない生息地縮小と比例しています。

 本論文の古代ゲノムのうち43点(野生25点と家畜18点)は平均網羅率が0.5倍以上で、数百万のゲノム規模遺伝子型呼び出しを生成するための補完を使って、これらのデータが活用されました。これによって、同型接合連続領域(runs of homozygosity、略してROH)の個々の特性の特定を通じて、過去の個体群動態への追加の高感度枠が可能となりました。ゲノム内のROHの範囲における明確な地域的パターンが観察されます。短いROH下のゲノムの同様の割合が、LGMの前後両方で標本抽出されたアジア北部のオーロックスで観察されます(図4c)。対照的に、LGMの前から後にかけてのヨーロッパのオーロックスにおいてROHが次第に高水準になることは、西方におけるより限定された氷期の個体群規模と一致します。コブウシとその交雑個体はひじょうに低いROHの範囲を示し、大きな個体群規模と一致します。

 本論文の野生のウシのデータセット内の長いROHの大きな割合を有するのはわずか3個体のゲノムで、近縁個体間の近親交配を示唆しており、そのうち2個体は島嶼部(シチリア島と北ユトランド島)に由来します。これはオーロックスがおもに密接な近縁個体と交配したわけではなかったことを示唆しており、野生のウシ属では雄の拡散行動が多く、それが近親交配を最小限としています。


●オーロックスの家畜化

 本論文で記載される野生のオーロックスのゲノムは、ウシの家畜化過程の2点の重要な要素も明らかにしており、それは、11000年前頃までのオーロックスの最初の捕獲と、家畜化されたウシ属個体群をさらに形成した繰り返しの二次的な遺伝子移入です。新石器時代のウシ7個体のROH特性は、最高水準の短い(100万~400)ROH断片を示しており、家畜化と関連する個体数制限を示唆していますが、長いROHが欠如しており、おそらくは牧畜民による雄ウシの選択を通じての近親交配の回避が示唆されます。

 年代表示のあるmtDNA系統発生(図3b)から、かなりの多様性が野生では存在しており、家畜化はこの遺伝的差異の限定的な部分集合しか捕らえておらず、古代と現代のウシの配列は密で梳櫛のようなクラスタを形成し、それぞれ最近の共通祖先を有していた、と示されます。注目すべきは、標本抽出された古代と現代の家畜ウシのmtDNAの98%以上がわずか2系統のそうしたクレードに収まることで、その2系統TおよびQと分類表示されました。これらのクラスタの両方の内部で、わずか1もしくはごく少数の母系祖先の合着が11000年前頃に観察され、この頃に人々が初めてウシ属の飼育を試み始めました(図4b)。オーロックスが古代アジア南西部において最大級の動物の一部だったことを考えると、最初の捕獲と雌の官吏された繁殖は、困難な課題だった可能性が高そうです。本論文の結果から、オーロックスのゲ捕獲と隔離は非所に稀な機会にしか達成されず、限られた歴史的期間内で実現され、少数の個体が関わっていた、と示唆されます。この調査結果は、受動的で漸進的な過程ではなく、意図的な飼料供与を含むヒト主導の直接的なウシ属の飼育と一致します。対称的に、コブウシ2個体のクラスタはそれぞれ、8000年前頃のインダス川流域での家畜化の年代と合着します。

 家畜化後に、オーロックスと駆り集められたウシは多くの地域で数千年間共存しました。トルクメニスタンのモンジュクリ・デペ(Monjukli Depe)遺跡(6400年前頃)とカザフスタンのアルタイ山脈(4000年前頃)の古代のウシから、アジア北部のオーロックスからの遺伝子移入はウシが東方へ移動してきた時に起きた、と推測されます(図2c)。この過程はヨーロッパとレヴァントのウシ個体群へのオーロックスからの遺伝子移入を反映しており、これは以前に全ゲノム解析から推測されました[10]。これらと合わせて、ウシとのオーロックスの交配はユーラシアの多様な地形と文化にまたがるウシの飼育の最初期の拡大において普及していた、と推測されます。この混合は適応を促進したかもしれず、野生個体からの遺伝子流動は、家畜化のより広範な見解の一部として、以前に強調されてきました。この遺伝子移入は雄に偏っており、本論文の分析から、X染色体と比較して常染色体でより多くの野生的なアレルが共有されている、と示され、オーロックスの雌からの相対的な寄与の減少が示唆されます。これは起源地のアジア南部地域を越えた、コブウシの家畜化された祖先系統のその後の拡大を反映しており、これも雄が媒介した、と推測されています[10]。

 野生のウシと家畜化されたウシはY染色体に基づく系統発生では相互に単系統性ではなく、その接続形態は家畜ウシ内の少なくとも6系統の別々の起源を示唆しています(拡張図7)。オーロックスのY染色体(Y1)の遺伝子移入は以前にヨーロッパのウシで示唆されており、本論文はそれに応じて新石器時代のブルガリアで発見されオーロックスにおいてY1ハプロタイプを検出し、このY1は現代の差異で観察されるハプロタイプの外群です。オーロックスからの遺伝子移入の母系の寄与も検出されますが、低頻度で存続します。異なるmtDNAクラスタPおよびR(図3b)はその内部の合着から、3700年前頃と1900年前頃に遺伝子移入された、と推測され、これは最初の家畜化の数千年後のことです。以下は本論文の拡張図7です。
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●まとめ

 古代と現代のウシ属のゲノム内では、常染色体とmtDNA両方の差異によって示される、主要な4個体群の祖先系統が検出されます。これらにはそれぞれ、気候変化と家畜化に異なって影響された個体群動態の軌跡があります。最も異なるのはコブウシで、ウシ族の多様性の熱帯のアジア南部の中心地におけるアジア原牛の子孫です。オーロックス内では、アジア北部の個体群がヨーロッパおよびアジア南西部の個体群と最終氷期(9万年前頃)に分岐しました。このアジア北部祖先系統は13900年前頃までコーカサスにおいて混合していない形態で存続しましたが、7000年前頃まで、その地域のオーロックスのゲノムは混合し、おそらくは完新世開始後に生息地回廊が開けたことを反映しています。ヨーロッパの野生ウシのゲノムは、10万年前頃に共通のオーロックスの祖先を有しているにも関わらず、ずっと古い古代ヨーロッパのオーロックスからの祖先系統の痕跡を含んでいます。

 ヨーロッパの野生ウシのゲノムは、氷期の個体数縮小の最も強い兆候を有しており、イベリア半島やイタリア半島やバルカン半島の退避地個体群とは異なる、近隣のアジア南西部型との混合の勾配も示します。注目すべきことに、ヨーロッパの大半はアジア南西部から再定着されましたが、過去5万年間のヨーロッパのオーロックスのより密な時間的標本抽出が、退避地の動態のより高い解像度を提供できるかもしれません。オーロックスの遺産は家畜化されたウシで存続し、これは、高水準の新石器時代のROHおよび少数の初期母系から、アジア南西部のオーロックスの限定的な捕獲の結果だった、と推測されます。しかし、この多様性は初期の広範な雄を媒介とした野生ウシ属からの遺伝子移入によって増大されており、それは、現在の家畜ウシに存続している氷期前の別々のオーロックスの4祖先系統のそれぞれによる寄与から明らかです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


進化:古代の牛の遺伝的歴史を解明する

 畜牛の野生の祖先であるオーロックスの遺伝的歴史は、気候変動と人類の活動によって形作られた、ユーラシア大陸と北アフリカにまたがる複雑な起源と移動を明らかにしている。独自の遺伝的軌跡を持つ4つの異なるオーロックス集団が発見され、家畜化に関する新たな洞察をもたらす研究は、Natureに掲載される。

 オーロックスは、最大で65万年前まで生息していた大型の野生の牛で、約400年前に絶滅した。オーロックスは、先史時代のユーラシアおよび北アフリカの生態系において重要な役割を果たしており、その子孫である畜牛は、何千年もの間、人間に食料と労働力を提供してきた。 現在、地球上の哺乳類のバイオマスの約3分の1を牛が占めている。しかし、その古代の祖先のゲノムの歴史については、依然として疑問が残っている。

 Daniel Bradleyらは、ヨーロッパ、西南アジア、北アジア、および南アジアの47,000年にわたる人口の進化の過程をたどるため、38の古代オーロックスのゲノムを分析した。その結果、これらの祖先はそれぞれ気候変動や人類の圧力に対して異なる反応を示していることが分かった。例えば、ヨーロッパのオーロックスは、約20,000– 26,000年前の最終氷期最盛期に深刻な人口減少に直面し、イベリア半島から大陸の西側へ再移住する前に南ヨーロッパに限定されていた。南西アジアのオーロックスは、初期の新石器時代における家畜化の試みの後、畜牛の品種に最も遺伝的に貢献しており、これは、現代の牛のほとんどが南西アジアのオーロックスの初期の狭い範囲での捕獲に由来することを示唆している。

 この発見は、これらの古代の生き物の遺伝的起源に光を投げかけている。今後の研究では、これらの遺伝的遺産が現代の畜牛の特性や回復力にどのような影響を与えているのかを解明できる可能性があると、著者らは示唆している。


古代ゲノミクス:オーロックスのゲノム自然史

古代ゲノミクス:オーロックスとウシの系譜の解明

 今回、家畜ウシの祖先である絶滅種のオーロックスについて、ヨーロッパ、近東、北アジア、南アジアの標本に由来する古代ゲノム38例に基づき、ゲノムの進化史が明らかにされた。



参考文献:
Rossi C. et al.(2024): The genomic natural history of the aurochs. Nature, 635, 8037, 136–141.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08112-6

[10]Verdugo MP. et al.(2019):Ancient cattle genomics, origins, and rapid turnover in the Fertile Crescent. Science, 365, 6449, 173–176.
https://doi.org/10.1126/science.aav1002
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