無人航空機によるライダーで明らかになったアジア中央部の大規模な中世都市

 無人航空機によるライダー(light detection and ranging、略してLiDAR、光による検出と測距)で明らかになったアジア中央部の大規模な中世都市を報告した研究(Frachetti et al., 2024)が報道されました。航空機によるLiDARは、とくに密な植生で遺跡の視認性が損なわれている場所において、考古学的な都市景観を地図化するための強力な技術として登場しました。近年では、無人航空機やドローンに搭載されたライダーによる走査において三次元点群の解像度が飛躍的に向上しており、大規模な考古学遺跡にわたって、構造的特徴のわずかな痕跡を数cmの精度で検出可能となりました。この方法は、急速な堆積や侵食によって考古学的な遺構や遺物が不規則に埋没したり露出したりする、山地のような場所では特に有用です。

 本論文は、アジア中央部のウズベキスタン南東部で最近発見された、タシュブラク(Tashbulak)およびトゥグンブラク(Tugunbulak)という2ヶ所の考古学遺跡で実施された無人航空機ライダー調査の結果を報告します。海抜約2000~2200mに位置するこれらの遺跡は、中世アジア(6~11世紀)のシルクロード(絹の道)の山岳地域の交差路に沿って存在する、新たに発見された大規模な高地都市の地理を明らかにします。都市の中心部が海抜2000mを超えることは稀であり、その高度に居住している人口は地球上の人口のわずか3%で、この高度に位置する考古学上の都市は、その高度での定住や農業には技術的な限界があるため、独特なものと考えられています。

 数世紀にわたる地表面過程によって隠されていたものの、きわめて高解像度の地表面モデル化と半自動的な特徴検出を組み合わせることによって、トゥグンブラク遺跡の120haにわたって広がる巨大な要塞と、30~4300m²の広さの建築物の詳細な地図が得られました。一方、タシュブラク遺跡の面積は12~15 haで、トゥグンブラク遺跡と類似した形状と規模の、少なくとも98ヶ所の居住地が確認されました。これによって、前近代のアジア中央部で最大規模の高地都市群の一部が明らかになりました。トゥグンブラク遺跡とタシュブラク遺跡は、防衛のため、また、高地地域が提供する豊富な鉱石や牧草地を利用するために、周辺の山岳地帯を開発して建設されたのではないか、と推測されています。

 シルクロード交易網のきわめて重要な連結地であったアジア中央部山岳地域において、中世の地域社会の大規模な都市社会資本と技術的産物が実証されたことで、中世ユーラシアの経済的・政治的・社会的形成への高地集団の参加に関する新たな視点が得られました。こうした高地に大規模な都市を築いたのがどのような人類集団だったのか、まだ明らかではなく、学際的研究によって解明されていくことが期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


考古学:中央アジアにあった2つの中世都市の物語

 ウズベキスタンの山岳地帯にある標高2,000メートル以上に位置する2つの遺跡が、主要な都市であったことが、新たな分析結果で明らかにする論文が、Natureに掲載される。アジアの中世のシルクロード沿いに位置する辺境の遺跡の発見は、シルクロードにおける貿易や政治的相互作用の形成における周辺コミュニティーの役割について再考する必要性を示唆しているかもしれない。

 都市の中心部は、海抜2,000メートルを超えることはまれであり、その高度に居住している人口は地球上の人口のわずか3%である。この高度に位置する考古学上の都市は、その高度での定住や農業には技術的な限界があるため、独特なものと見なされている。Tashbulak(タシュブラク)とTugunbulak(トゥグンブラク)は、ウズベキスタンの山岳地帯に5キロメートル離れて位置する2つの古代都市であり、それぞれ2011年と2015年に発見された。両都市はともに、中世(6-11世紀)を通じて活発に利用されていたアジアの中世シルクロード沿いに位置しているが、これまでの研究では、このような高地に大規模な恒久的なコミュニティーが存在したことを示す証拠はほとんど発見されていない。

 Michael Frachettiらは、2022年7月にタシュブラクとトゥグンブラク上空で実施された22回のライダー(lidar:light detection and ranging〔光による検知と測距〕、リモートセンシング手法)飛行のデータを分析した。著者らは、トゥグンブラクが約120ヘクタール(1.2平方キロメートル)を占め、30-4,300平方メートルの広さを持つ300以上の独特な建造物の跡があることを発見した。さらに具体的には、研究者らは尾根に沿って壁でつながれた見張り塔、段々畑の跡、そして石と日干し煉瓦でできた壁に囲まれた中央の要塞を確認した。

 一方、タシュブラクは12-15ヘクタール(0.12-0.15平方キロメートル)の面積を占めている。Frachettiらは、より小さな都市でも、密集した建築物と城壁に囲まれた高台の中心部城塞を含む、中世中央アジアの同時代の都市と類似した都市計画に従っていると指摘している。著者らは、トゥグンブラクのものと類似した形状と規模を持つ、少なくとも98の居住地を確認しており、両都市は防衛のため、また、高地地域が提供する豊富な鉱石や牧草地を利用するために、周辺の山岳地帯を開発して建設されたのではないかという仮説を立てている。

 著者らは、ライダー飛行によって、2つの古代都市についてより包括的な見解が得られたと結論づけ、タシュブラクやトゥグンブラクのような山岳都市のさらなる調査が、当時の社会構造や政治構造に与えた影響を解明する手助けになるだろうと指摘している。


考古学:中央アジアの高地で無人航空機ライダーにより明らかになった大規模な中世都市

考古学:高地にも達していたシルクロードの交易網

 今回、航空機ライダーによる調査で、ウズベキスタンの海抜2000 mを超える高地に2つの中世都市が発見された。これは、シルクロードが基本的に低地の都市を結ぶ交易網であったという従来の見方を変えるものとなる。



参考文献:
Frachetti MD. et al.(2024): Large-scale medieval urbanism traced by UAV–lidar in highland Central Asia. Nature, 634, 8036, 1118–1124.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08086-5

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