農耕によるアミラーゼ関連遺伝子の進化

 農耕によるアミラーゼ関連遺伝子の進化に関する研究(Bolognini et al., 2024)が公表されました。農耕の採用は、ヒト集団においてデンプンに富む食餌への急激な変化を引き起こしました。アミラーゼ遺伝子はデンプンの消化を促進し、デンプン摂取量の多い一部の現代人集団ではアミラーゼ遺伝子のコピー数の増加が観察されていますが、選択が最近起きたことを示す証拠は不足しています。

 本論文は、ハプロタイプが明らかにされている94のロングリードアセンブリと、約5600個体の現代人および古代人から得られたショートリードデータを用いて、アミラーゼ座位における構造バリアントの多様性および進化史を明らかにしました。その結果、農耕を行なう集団は、漁労や狩猟や牧畜を行なう集団よりもアミラーゼ遺伝子のコピー数が多い、と明らかになりました。

 また、アミラーゼの構造的な構成が28種類見つかり、ほぼ同一の構造群が最近の人類史において異なるハプロタイプ状況で反復的に出現した、と示されました。AMY1遺伝子とAMY2A遺伝子は、それぞれ複数回の重複/欠失事象を経ており、変異率は最高で一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、略してSNP)の変異率の1万倍以上に達しますが、AMY2B遺伝子の重複は単一の起源を共有していました。パンゲノムに基づく手法を用いて、数千人の構造ハプロタイプを推定したところ、広範な重複が見られるハプロタイプが現代の農耕集団において高頻度で見つかりました。

 さらに、533例の古代人ゲノムを利用することで、重複を含むハプロタイプ(祖先型のハプロタイプより遺伝子コピーが多い)の頻度が過去12000年にわたってユーラシア西部の人類集団において急激に増加した、と明らかになり、正の選択が示唆されました。まとめると、本論文は、農業革命がヒトゲノムに与えた可能性のある影響、およびヒトの適応における構造多様体の重要性を明らかにしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化遺伝学:反復的な進化と選択がアミラーゼ座位の構造多様性を形作る

進化遺伝学:農耕がもたらしたアミラーゼ遺伝子の変化

 今回、ヒトのパンゲノム情報資源と古DNAデータを利用することで、構造バリアントがアミラーゼ遺伝子の進化に与えた影響が突き止められた。



参考文献:
Bolognini D. et al.(2024): Recurrent evolution and selection shape structural diversity at the amylase locus. Nature, 634, 8034, 617–625.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07911-1

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