吉村武彦編『新版 古代史の基礎知識』
角川選書の一冊として、角川学芸出版より2017年11月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書では、年代は縄文時代から摂関政治期まで、分野は政治史から文化史や生活史などまで、広範に扱われているので、もう20年ほど勉強が進んでいない古代史の新知見を得るとともに、復習にもなると思い、読みました。本書は広範な分野を扱っているだけに、一読しただけではどれだけ身についたのか怪しいため、今後も何回か再読していかねばならないでしょう。本書は網羅的な辞典というよりは、広範な分野を扱った読み物として工夫されており、この点では通読がさほど困難ではありませんでした。以下、とくに印象に残った指摘を備忘録として述べていきます。
「河内王朝論」など古墳の所在地を政治的中心地とする見解について本書は、政治的中枢はあくまでも王宮にある、と指摘します。いわゆる倭の五王の時代である5世紀については、近年ではまだ単一の男系による世襲王権は確立していなかった、との見解が有力なように思われますが、本書は、倭の五王が全て倭姓を称していることから、同じ姓を有する父系的氏族だろう、と推測しています。「大王」については、5世紀に王から大王へと称号が変わった、との見解もありますが、本書は、大王は正式な称号ではなく、倭国王への配下の尊称だろう、と推測しています。
律令制以降については、律令制下の口分田は「私田」と認識されており「私地」だったので、律令法では口分田を「公田」・「公地」とする法意識が存在しなかったことから、当時の歴史意識と「公地公民制」の学術用語は乖離しており、「公地公民制」の使用は避けるのが望ましい、と本書は提言します。桓武天皇が政治的主導権を掌握し、専制君主として君臨できた主因として、本書は藤原氏の永手や百川や魚名、大伴家持、中臣清麻呂、石上宅嗣など有力貴族が相次いで失脚するか没したことを挙げます。つまり、遷都など桓武天皇主導の改革を、その個人的資質にのみ還元してはならない、というわけです。平安時代では、昇殿制の成立や蔵人所の整備や儀式の整備など、宇多天皇の画期性が指摘されています。
本書では、律令制国家は古代専制国家の一類型とされます。この場合の専制主義とは、共同体の意思が成員相互間ではなく首長により体現される仕組みで、独裁と同じ意味ではありません。律令制国家は、郡司など地域の首長による社会を基礎に運営されていますが、実際に政治を動かしているのは貴族と呼ばれる支配階級だった、というわけです。日本の古代律令制においては、三位以上が貴、五位以上が通貴と呼ばれ、学術用語ではこれらの官人が「貴族」とされます。なお、大宝元年から奈良時代末まで、三位以上を輩出した氏族は藤原氏など21氏、五位以上では100~150氏になるそうです。
「河内王朝論」など古墳の所在地を政治的中心地とする見解について本書は、政治的中枢はあくまでも王宮にある、と指摘します。いわゆる倭の五王の時代である5世紀については、近年ではまだ単一の男系による世襲王権は確立していなかった、との見解が有力なように思われますが、本書は、倭の五王が全て倭姓を称していることから、同じ姓を有する父系的氏族だろう、と推測しています。「大王」については、5世紀に王から大王へと称号が変わった、との見解もありますが、本書は、大王は正式な称号ではなく、倭国王への配下の尊称だろう、と推測しています。
律令制以降については、律令制下の口分田は「私田」と認識されており「私地」だったので、律令法では口分田を「公田」・「公地」とする法意識が存在しなかったことから、当時の歴史意識と「公地公民制」の学術用語は乖離しており、「公地公民制」の使用は避けるのが望ましい、と本書は提言します。桓武天皇が政治的主導権を掌握し、専制君主として君臨できた主因として、本書は藤原氏の永手や百川や魚名、大伴家持、中臣清麻呂、石上宅嗣など有力貴族が相次いで失脚するか没したことを挙げます。つまり、遷都など桓武天皇主導の改革を、その個人的資質にのみ還元してはならない、というわけです。平安時代では、昇殿制の成立や蔵人所の整備や儀式の整備など、宇多天皇の画期性が指摘されています。
本書では、律令制国家は古代専制国家の一類型とされます。この場合の専制主義とは、共同体の意思が成員相互間ではなく首長により体現される仕組みで、独裁と同じ意味ではありません。律令制国家は、郡司など地域の首長による社会を基礎に運営されていますが、実際に政治を動かしているのは貴族と呼ばれる支配階級だった、というわけです。日本の古代律令制においては、三位以上が貴、五位以上が通貴と呼ばれ、学術用語ではこれらの官人が「貴族」とされます。なお、大宝元年から奈良時代末まで、三位以上を輩出した氏族は藤原氏など21氏、五位以上では100~150氏になるそうです。
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