大河ドラマ『光る君へ』第45回「はばたき」

 今回は、紫式部(まひろ、藤式部)の旅立ちと、紫式部の娘である賢子(大弐三位、越後弁)の彰子への出仕が描かれました。賢子の実父は藤原道長(三郎)ですが、道長はこれまで気づいておらず、何度か気づく機会もあったので、本作の道長はこうした機微に疎いままなのでしょう。紫式部は、ついに後世『源氏物語』と呼ばれる物語を完結させ、賢子が宮仕えの覚悟を決めたことから、彰子に賢子を推薦し、旅に出ます。道長は嫡妻である源倫子の前では、紫式部の旅立ちを認めますが、その後に一人で紫式部を訪ね、旅に出ないよう説得します。道長は紫式部に対しては本当に未練がましいところがありますが、紫式部は今後再会するとしても、二人の関係はこれで終わりだ、と道長に告げます。紫式部と道長の関係が本作の主軸となってきましたが、最終回までにこの変わらないのでしょうか。道長はここで初めて、賢子の実父が自分であることを紫式部から知らされます。

 道長は体調不良もあり、出家の意思を倫子に伝えますが、倫子は反対します。それでも出家の意思を変えない道長に、紫式部が旅立ったからか、と倫子は問い質します。すでに紫式部と夫の道長との深いつながりに気づいている倫子ですが、さすがにその誇りからか、道長に直接的に紫式部との関係を尋ねることはありませんでしたが、我慢の限界ということでしょうか。ただ、倫子が、道長との結婚前から道長と紫式部は深い関係にあったことを気づいているのかどうか、まだはっきりしていないように思います。本作の倫子は勘の鋭い人物ですから、おそらく気づいているとは思いますが。

 旅に出た紫式部は、大宰府で周明と再会します。周明は後半で再登場しそうだな、とは予想していましたが、おそらくは史実ではなかった紫式部の大宰府行きでの二人の再会となりました。次回は刀伊の入寇が描かれ、予告を見ると紫式部は遭遇するようです。大河ドラマで事績のよく伝わっていない主人公が有名な歴史的事件に遭遇することは、ご都合主義的と批判されることが多いものの、本作ではそこまで多用されているとも思いませんし、紫式部の宋への憧れが前半から描かれてきたので、ご愛嬌の範囲内でしょうか。

 一条帝と皇后の定子との間の皇子だった敦康親王は、今回で退場となります。敦康親王の娘でまだ幼い嫄子も登場しましたが、嫄子の母親が藤原頼通の妻である隆姫女王の妹であることから、嫄子は頼通の養女となり、すでに登場している一条帝と彰子との間の次男で東宮である敦良親王が即位後(後朱雀帝)に、中宮に立てられます。嫄子が皇子を出産し、その皇子が無事に成長すればおそらく即位したのでしょうが、皇女しか生まれず、本作でもすでに登場している、三条帝と道長の娘である妍子との間に生まれた禎子内親王が後朱雀帝の皇后に立てられて尊仁親王を産み、後に即位し(後三条帝)、摂関政治にとって大打撃となります。まあ、そこまでは本作で言及されないでしょうが。

 前回、道長の嫡妻である源倫子は紫式部に、『枕草子』に対抗して道長の物語を書くよう依頼していましたが、紫式部は、人間の闇に惹かれるのであって、『枕草子』のよう栄光のみを描く物語は無理だと言って断り、倫子は赤染衛門に物語の執筆を依頼し、これが後の『栄花物語』になるようです。おそらく、赤染衛門の没後にも書き継がれて、現在伝わるような『栄花物語』が成立したのでしょう。今回冒頭で、前回の道長の「望月の歌」について、一条朝の「四納言(藤原公任と藤原斉信と藤原行成と源俊賢)」が道長の意図を語っており、確かに、色々と意図を推測できる歌ではありましたから、なかなか上手く構成されていると思います。

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