大相撲九州場所千秋楽

 先場所全休だった横綱の照ノ富士関が出場してくるのか、注目していましたが、照ノ富士関は全休となりました。今年(2024年)照ノ富士関が皆勤したのは初場所と名古屋場所だけで、その2場所とも優勝したのはさすがですが、こうも休場が多いと、やはり問題とは思います。ただ、稀勢の里関(現在の二所ノ関親方)の悪例があるので、今場所後に横綱審議委員会から引退勧告が出されることには反対です。とはいえ、来年初場所も春場所も皆勤できないようだと、さすがに横綱審議委員会から何らかの勧告は必要でしょう。

 今場所最も注目されていたのは新大関の大の里関でしょうが、棒立ちになるところや土俵際の詰めの甘さなど欠点が出てしまい、後半になって優勝争いから脱落し、勝ち越しを決めたのは12日目でした。優勝争いから脱落した大の里関が、優勝争いを引っ張る豊昇龍関と琴櫻関の両大関相手にどのような相撲を取るのか、注目していましたが、大の里関は13日目に豊昇龍関、14日目に琴櫻関と対戦し、豊昇龍関には押し込みながら土俵際で逆転されて負け、琴櫻関にも土俵際で逆転されて負け、けっきょく、二桁勝利に届かず、9勝6敗で場所を終えました。今場所の大の里関は色々と欠点を露呈してしまいましたが、新大関で色々な行事に駆り出されるなど疲労もあったでしょうから、仕方のないところもあるとは思います。過去の大横綱でも新大関の場所では、大鵬関と北の湖関と朝青龍関は10勝、千代の富士関と貴乃花関は11勝ですから、大の里関にとっては来場所が重要となりそうです。大の里関は対応力というか修正力がひじょうに高そうなので、来場所巻き返して優勝しても不思議ではありません。ただ、大関に昇進して色々と悩み、来場所も一桁の勝利か10勝程度で終わるようだと、横綱昇進にはかなり時間を要するというか、大関止まりで終わる可能性も考えられます。

 千秋楽結びの一番で琴櫻関と豊昇龍関の両大関が対戦することは場所前から予測されており、13日目終了時点で、1敗が琴櫻関と豊昇龍関のみで、2敗もいなくなったことから、優勝争いは実質的に琴櫻関と豊昇龍関に絞られました。上述のように14日目に琴櫻関は大の里関に勝ち、豊昇龍関は霧島関に完勝し、千秋楽結びの一番は琴櫻関と豊昇龍関の1敗同士の相星決戦となり、盛り上がりの点ではよかったように思います。琴櫻関と豊昇龍関は先場所ともに8勝7敗と不振でしたが、新大関の大の里関に横綱昇進への期待が高まる中で、先輩大関として奮起したのでしょう。とくに豊昇龍関は、大関昇進後に攻め込まれて逆転する相撲が目立ち、大関として迷走している感がありましたが、今場所は積極的に前に出る相撲を心がけているようで、こういう相撲を取り続けられるならば、横綱に最も近いのではないか、とも思いました。

 結びの一番は、激しい突き合いとなり、豊昇龍関が上手を取って投げにいこうとしたところ、体勢を崩してしまい、琴櫻関が叩き込みで勝ち、初優勝を果たしました。豊昇龍関は強引に上手投げにいったのが敗因のように思いますが、強烈な投げが豊昇龍関の強みであることも確かで、突き切れないと判断した時点で、上手を取ったので投げにいった判断自体は、間違いではなかったように思います。ただ、琴櫻関は今場所安定しており、豊昇龍関の上手投げに耐えたのは見事でした。琴櫻関と豊昇龍関は来場所横綱昇進に挑むことになりますが、ともに先場所は8勝7敗でしたから、とくに優勝を逃した豊昇龍関には、14勝以上での高水準での優勝が求められそうです。一方、優勝した琴櫻関は、照ノ富士関の復帰が危ぶまれるだけに、12勝以上で優勝もしくは14勝1敗での優勝同点か「準優勝」ならば横綱昇進でしょうか。来場所は大の里関が巻き返してくるでしょうから、琴櫻関と豊昇龍関のどちらかが横綱昇進を決める可能性はさほど高くないようにも思います。

 霧島関は場所前に好調が伝えられており、私も優勝候補の一人と考えていたくらいですが、初日から5連敗となり、その後で巻き返したものの、14日目に負け越しが決定し、6勝9敗で場所を終えました。霧島関は初日に若隆景関に敗れたものの、動きは悪くなかったように見えたので、優勝争いに絡んでいくだろうな、と思いましたが、予想外の不振でした。どうも、初日の取り組みで手を負傷したようで、それが不振につながったのでしょう。霧島関の大関復帰は振り出しに戻りましたが、状態を立て直せば、大関に復帰しても不思議ではないように思います。東前頭2枚目まで番付を戻してきた若隆景関は10勝5敗で場所を終え、来場所は、関脇が大栄翔関と若元春関、小結が若隆景関と阿炎関になりそうで、実力者がそろい、このうち3人は優勝経験があるだけに、その意味でも琴櫻関と豊昇龍関の横綱昇進は容易ではないでしょう。

 今場所11日目の終了後に、長年NHKで相撲解説を担当していた元横綱の北の富士勝昭氏(元九重親方)が、今場所3日目に亡くなっていた、と報道されました。お悔やみ申し上げます。元大関(元尾車親方)で、再雇用後に任期満了前に相撲協会を退職した琴風浩一氏が、今場所からNHKの相撲解説者となりました。琴風浩一氏が再雇用の任期満了前に相撲協会を退職したさい、NHKの相撲解説者になるのではないか、との憶測もありましたが、北の富士勝昭氏の解説復帰が難しそうとの判断がNHKにあったのでしょうか。北の富士勝昭氏の解説は、昨年初場所が最後となりました。私が子供の頃は北の富士勝昭氏が親方の九重部屋の全盛期で、九重勢が嫌いな私は、北の富士勝昭氏のことも嫌っていましたし、北の富士勝昭氏は現役時代に素行面でも色々と言われた人でしたが、その巧みな話術による解説に魅了された人は多かったでしょうし、私も、北の富士勝昭氏が定年前に相撲協会を退職し、NHKの相撲解説者となってからは、その解説を楽しみにしていました。私が子供の頃には、まだ玉の海梅吉氏と神風正一氏がNHKの相撲解説を担当しており、名解説者と言われていましたが、北の富士勝昭氏も後々まで名解説者として語り継がれることでしょう。しかも、玉の海梅吉氏と神風正一氏の現役時代の最高位が関脇だったのに対して、北の富士勝昭氏は元横綱で、優勝回数は10回ですし、親方としては横綱二人も含めて多くの関取を育て、相撲協会の理事も務めましたから、相撲の解説者としては得難い人材だった、と言えるでしょう。相撲に関わった人としては稀有なほど幸せな一生だった、と言えそうで、もうその解説を聞けないのは寂しい限りです。

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