現代日本人における縄文時代集団からの遺伝的影響
現代日本人集団における縄文時代集団からの遺伝的影響に関する研究(Yamamoto et al., 2024)が公表されました。本論文は、現代日本人集団の遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)が、縄文時代の狩猟採集民的構成要素とアジア東部(East Asia、略してEAS)的構成要素とアジア北東部(Northeast Asia、略してNEA)的構成要素の三重構造であることを、現代人と古代人のゲノムデータを用いて改めて示しています。現代人のゲノムデータはBBJ(Biobank Japan、生物銀行日本)やUKB(United Kingdom Biobank、イギリス生物銀行)から得られ、独立した日本人コホート(特定の性質が一致する個体で構成される集団)である長浜コホートのデータも参照されました。こうした検証から、縄文祖先系統が肥満指数(body mass index、略してBMI)上昇の遺伝的基盤にあることも分かりました。古代ゲノムデータが蓄積されていけば、現代日本人の大規模なゲノムデータを参照したGWAS(genome-wide association study、ゲノム規模関連研究)によって、日本列島やユーラシア東部地域の現生人類(Homo sapiens)の進化史の解明が大きく進展するのではないか、と期待されます。なお、[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。
●要約
三重祖先構造は現代日本人の遺伝的起源について最近提案されたモデルで、先住の縄文時代狩猟採集民とアジア北東部および東部からの追加の二つの大陸祖先から構成されます。現在の遺伝的および表現型の差異への三重構造の影響を調べるため、BBJ(171287個体)を日本およびユーラシア古代人(22個体)のゲノムと統合することによって、生物銀行規模の分析が実行されました。本論文は日本列島全域の日本人集団への三重モデルの適用性を論証し、個体間の縄文祖先系統とゲノム差異との間のきわめて強い相関があります。縄文祖先系統の遺伝的遺産がBMI上昇の基盤にあることも分かりました。地理と祖先の下部構造についての厳密な調整のあるゲノム規模関連分析は、個体の縄文祖先系統の予測に情報をもたらす、132個の多様体を特定します。この予測モデルは、独立した日本人コホートである、長浜コホート2993個体(BBJ第二コホートは72695個体)を用いて確証されました。さらに、UKBのアジア東部個体群を用いて、縄文祖先系統とBMIとの間の表現型的関連が確証されます。25万人以上の参加者を含む古代人および現代人のゲノムの広範な解析は、現在の人口集団における古代の狩猟採集民の遺伝的遺産への貴重な洞察を提供します。
●研究史
アフリカ起源の解剖学的現代人【現生人類】は、一連の移住と定着と混合を通じて、6万~5万年前頃に世界中への拡散を始めました[1、2]。アジア東部における解剖学的現代人の到来は少なくとも5万~4万年前頃にたどることができ、次第にこの地域に広がりました[3]。ヒトの歴史における重要な出来事は、在来の狩猟採集民と移住してきた農耕民との間の遭遇で、これはその後で生活様式の顕著な変化につながりました[4]。農耕へのこの移行は世界規模で起きましたが、その時期と過程は地域によって異なり、大陸部ユーラシア東部における農耕革命は1万年前頃にさかのぼります[5]。
考古学的証拠から、ヒトはユーラシア東部の島嶼地域である日本列島に早ければ更新世の38000年前頃に居住していた、と示唆されています。依然として、現代人集団とのそうした祖先のつながりに関する理解は、古代DNAデータの不足によって制約されています[7]。日本でよく研究されている祖先集団は、日本列島に16500年前頃にまでさかのぼって居住していた、狩猟採集民の文化的集団である「縄文人」です[8、9]。「縄文人」は土器の先駆的使用で有名であり、これは世界でも最古級の事例です。縄文時代は、弥生時代に大陸からの移民が稲作をもたらした3000年前頃まで続き、弥生時代の期間は3000~1700年前頃です。この農耕革命は社会政治的発展を促進し、1700年前頃に始まり、200~300年間続いた古墳時代における日本国家の成立につながりました。
日本人集団の起源に関する長年のモデルは二重祖先構造です。このモデルでは、現代日本人はアジア南東部由来の先住の縄文時代狩猟採集民とアジア北東部由来の移住農耕民の混合とされます。しかし、古代DNA研究は、日本人集団の遺伝的起源が三つの異なる祖先で構成されている、という説得力のある証拠を提供しており(つまり、三重祖先構造)、それは、(1)古代の狩猟採集民である「縄文人」、(2)農耕期間の弥生時代にもたらされたアジア北東部祖先系統、(3)国家形成段階の古墳時代にもたらされたアジア東部祖先系統[14]です【最近の弥生時代の人類遺骸の研究(Kim et al., 2024)に基づくと、アジア東部祖先系統は弥生時代中期には日本列島に定着していた可能性が高そうです】。古墳時代に確立したこの三重構造は、現在の人口集団でも存続しています[14~16]。日本人集団は、ゲノム差異の北方から南方への勾配でよく特徴づけられています。しかし、三重モデルの適用性と日本列島全域での三つの異なる祖先構成要素の変異性は、先行研究[14、15]で用いられた現代の個体群の標本と地理的代表性の限界のため不明なままです。したがって、包括的で人口集団規模のゲノムデータを用いてのこの祖先構造のモデル化が重要です。
古ゲノミクスにおける最近の進歩によって、多様な遺伝的祖先の特定[20~23]だけではなく、局所的および世界的に両方での、現在の人口集団における健康と疾患への影響の解明も可能となり、たとえば、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)からの遺伝子移入を通じた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の悪化と耐性[24、25]や、草原地帯祖先系統によってもたらされた多発性硬化症の遺伝的傾向[26]です。しかし、ヒトの過去が表現型の差異を形成した程度は現在、とくにヨーロッパ以外の状況では充分には理解されていないままです。本論文は、狩猟採集の縄文時代が島嶼環境において1万年以上続き、この古代狩猟採集民の祖先系統が現在の人口集団に存続している日本列島に焦点を当てます。
本論文では、古代人(22個体)と現代日本人のゲノムの統合された分析が提示され、非ヨーロッパ人集団では最大級の人口集団にもとづくコホートの一つで、日本列島の全地域の参加者を網羅する、BBJの第一コホート(171287個体)が活用されます。本論文の手法には重要な5段階が含まれます。第一に、地理もしくは遺伝的クラスタ(まとまり)によって定義されるさまざまな下部人口集団への、三重祖先モデルの適用性が評価されます。第二に、日本人個体間の表現型の差異への縄文祖先系統の影響が定量化されます。第三に、地理と遺伝の下部構造の堅牢な調整および検定統計量のゲノム膨張の制御のあるGWAS手法の使用によって、縄文関連の遺伝的多様体が特定されます。第四に、独立した日本人コホート(2993個体の長浜コホートおよび72695個体のBBJの第二コホート)を用いて、個体の縄文祖先系統の推定における縄文関連多様体の予測力が論証されます。最後に、縄文予測モデルがUKB内のアジア東部(EAS)の個体群(2286個体)に適用され、縄文祖先系統の表現型の影響が再現されます。本論文は、日本列島全域の現在の子孫における古代狩猟採集民の遺伝的遺産の包括的理解を提供し、現在の表現型の差異への影響を浮き彫りにします。
●BBJデータセットにおける三重祖先構造の推測
現在の人口集団における三重モデルの適合性を評価するため、日本の7ヶ所の地理的地域の病院からの参加者で構成される、BBJのGWASデータが用いられました(図1a)。参加者の総数は171287人で、地域は日本列島全域の北東部から南西部にまで分布しており、北海道が7955人、東北が11013人、関東甲信越が94981人、中部北陸が9489人、近畿が25200人、九州が15962人、沖縄が5804人です。本論文の主成分分析(principal component analysis、略してPCA)は明確なクラスタを定義し(図1b)、おもに沖縄の個体を含む琉球クラスタが、先行研究で報告されたように残りの人口集団から分離します。東北と関東甲信越と近畿と九州でそれぞれ観察される、地域的クラスタもあります。PCAの結果に基づくと、日本人集団において五つの異なる遺伝的クラスタが定義され、それは、アジア東部_混合(EA_混合、1019人)、本土(159642人)、琉球_混合(640人)、北海道_下部(139人)です(図1c)。人口集団階層化は琉球諸島内においてさらに明らかで、この局所的な島嶼状況における地理的類似性を反映しています(図1d・e、八重山諸島は431人、奄美諸島は1531人、喜界島は561人、徳之島は476人、与論島は167人、沖縄本島は4795人、宮古島は827人)。以下は本論文の図1です。
次に、日本人個体群のこの多様な一式が日本およびユーラシア大陸の古代人のゲノムデータと統合されました[14]。BBJから得られた配列型ゲノムデータと古代人から得られた疑似二倍体データの両方に存在する部位を見つけるため、高度に正確なBBJ補完量データが遺伝子型データへと変換されました。この変換によって、2038260ヶ所の共有多様体が得られました(BBJの171287個体と古代人22個体のゲノム)。その後、先行研究[14]で定義された供給源人口集団一式に基づいて、AdmixToolsのqpAdm[31]が適用されて、混合モデルの適合性が評価され、生物銀行における人口集団および個体の両方の水準で混合割合が推定されました。日本人集団の地理的および遺伝的多様性を包括的に把握するため、三重モデルが日本列島と琉球諸島全域の地理的に定義された人口集団(図1b・e)、および遺伝的に定義された人口集団(図1c)とBBJデータセット全体に当てはめられました。この分析では、全ての可能性のある二重祖先構造モデルと比較すると、三重構造は全人口集団について広範および局所的両方の規模でより優れた適合性を提供する、と論証されます。唯一の例外はEA_混合で、この人口集団はアジア北東部とアジア東部の祖先系統間の2方向混合によって充分に説明できます。
BBJデータセット全体では、異なる3祖先構成要素の割合は先行研究[14]で報告された割合とおおむね一致します(縄文が12.4%、アジア北東部が21.2%、アジア東部が66.4%)。しかし、縄文祖先系統は地域的差異を示しており、その割合は近畿の9.8%から沖縄の26.1%までの範囲となります(図2a)。琉球諸島内では縄文祖先系統の水準増加があり、最高の割合は与論島で観察されます(図2b)。縄文祖先系統は遺伝的に定義された人口集団の一つである北海道下部集団(北海道_下部)においてさらに高く(31.6%、図2c)、この下部集団にはおもに北海道の個体群の部分集合が含まれています。対照的に、EA_混合はおそらくアジア東部の大陸部の個体群を表しており、縄文祖先系統がほとんどなく、これは縄文祖先系統なしの混合モデルが選好される理由を説明できるかもしれません。本土クラスタはBBJ全体の割合を反映しており、それはデータにおいて大半の標本が含まれているからです(171287個体のうち159642個体)。地理的起源(つまり、標本収集が行なわれた場所)に基づいてこのクラスタから個体群を分離しても、この割合はさまざまな地域にわたって比較的一貫したままです。琉球クラスタは沖縄の祖先組成を表していますが、琉球_混合クラスタにおける割合は本土と琉球クラスタの間に収まります。以下は本論文の図2です。
次に、縄文祖先系統が日本人集団において固有に存在するのかどうか、あるいは、大陸部人口集団でも観察されるのか、f₄形式(ムブティ人、縄文人;漢人、X)のf₄統計を用いて調べられました。本論文の対象人口集団には、サイモンズゲノム多様性計画(Simons Genome Diversity Project、略してSGDP)パネルおよび1KG(1000 Genomes project、1000人ゲノム計画)の人口集団とBBJ内の下部人口集団が含まれます。先行研究[8、9、14]で示されるように、SGDPのウリチ人(Ulchi)もしくは1KG内のアジア東部人(EAS)を除いて、「縄文人」集団と検証された他の人口集団との間に余分な遺伝的類似性はありません。1KGのEAS人口集団では、東京の日本人(Japanese in Tokyo、略してJPT)のみが「縄文人」との有意な類似性を示します。BBJ参加者内では、北海道_下部と琉球下部人口集団が、本論文の混合モデル化(図2)や先行研究[8、9]におけるより高い割合の縄文祖先系統と一致して、「縄文人」とのひじょうに強い類似性を示します。本論文の分析は全体的に、日本列島全域の三重祖先構造における地域的差異の詳細な状況を提供します。
●個体間の三重構造における差異
本論文の混合モデル化では、琉球と北海道_下部の2下部人口集団が他の下部人口集団と比較してより高い割合の縄文祖先系統を有している、と明らかになります(図2)。古代と現在の人口集団間の遺伝的距離を視覚化するため、現代日本人集団の三重構造の根底にある異なる3祖先を表している古代もしくは現代の個体群が、追加の古代日本の個体群(つまり、弥生時代と古墳時代)とともにPCA図に投影されました。古墳時代個体群は現在の日本人集団における差異内に含まれますが、「縄文人」は琉球と北海道_下部から延びる場所でクラスタ化します。形態学的に「縄文人」と考えられているものの、縄文祖先系統と大陸部祖先系統の間で遺伝的に混合している弥生時代の2個体[14]は、縄文時代と現在の人口集団の間に位置します。
人口集団に基づく混合モデル化が個体群の集団での平均的パターンを反映していることを考慮して、次に三重モデルがBBJの各参加者へと適用されました。このモデルは171287個体のうち154339個体(90.1%)に適合し、これら3祖先構成要素の割合はさまざまでした。これら3祖先の割合は相互と負に相関しており、アジア北東部とアジア東部の大陸部の2祖先は日本列島に独立して到来した、との以前に提案された筋書き[14]を裏づけます【最近の弥生時代の人類遺骸の研究(Kim et al., 2024)に基づくと、もっと複雑な状況を想定できるかもしれません】。約5%の個体(8932個体)は三重モデルと一致せず、縄文祖先系統とアジア東部祖先系統もしくはアジア北東部祖先系統とアジア東部祖先系統のどちらかを含む2方向混合に、より高い適合性を示します。しかし、28個体はその後の分析から除外され、それは入れ子型p値<0.05で示唆されるように、三重祖先系統モデルに対して二重祖先系統モデルの方での不充分な裏づけのためです。少ない例外もあり、あらゆる二重構造モデルではなく、アジア東部祖先系統のみのモデルが10個体で選好されました。ほぼ5%(7962個体)を構成する残りの個体に充分に適合できるモデルはなかった、と注目することが重要です。これは、データに固有の変動性を占める、5%の判定境界末端確率の使用に起因する可能性が高そうで、それは、すべての検証の定義された割合が検証されたモデルから逸脱すると予想されるからです。
縄文祖先系統の割合をPCA図に組み込むことによって、第1および第2主成分に沿って縄文祖先系統の割合に顕著な勾配がある、と明らかになります(図3a)。じっさい、縄文祖先系統の割合には最初の2主成分と顕著に強い相関があります(図3b)。相関の同様のパターンはアジア北東部もしくはアジア東部祖先系統と主成分(PC)との間でも観察されますが、相関の強さは縄文祖先系統で観察されたほど顕著ではありません。縄文祖先系統とPCとの間の相関は、本土もしくは琉球クラスタの個体のみに焦点を当てても、依然として明らかです。これらの調査結果から、縄文祖先系統は、PCAの水準において日本人個体間のゲノム差異の形成に重要な役割を果たした、と示唆されます。さらに、これらの個体に基づく推定値は、その平均の観点で人口集団に基づくパターンを反映しているだけではなく、日本列島全域の縄文祖先系統における顕著な差異も浮き彫りにします(図3c・d)。以下は本論文の図3です。
●日本人集団における表現型の差異への縄文祖先系統の影響
次に、縄文祖先系統が現在の人口集団に表現型の影響を及ぼしたのかどうか、調べられました。遺伝的祖先系統をモデル化できたBBJの163243個体では、縄文構成要素の平均割合は12.5±6.3%です。年齢もしくは性別(ジェンダー)間で縄文祖先系統の割合に実質的な違いはありません。その後で、遺伝的および地理的下部人口集団について堅牢な調整によって、80点のさまざまな複雑な形質との縄文祖先系統の換券が検証されました。1型誤差を考慮して、ボンフェローニ相関に基づき、P < 0.05/80 = 6.3 × 10⁻⁴で、統計的有意性の閾値が設定されました。この閾値は負の制御で10個の偽遺伝性表現型の模擬実験によって較正されたことが、確証されます。全BBJ参加者での分析は、BMIの増加との有意な関連を特定します(図4a)。しかし、他地域と比較しての沖縄におけるより高いBMIなど、この地域的多様性が、共変数としての地理的要因を調整した場合でさえ、この関連を混乱させているかもしれないことへの注目が重要です。この懸念に対処するため、分析が本土クラスタに含まれる個体群に制限されました。BMIとの関連は、統計的に有意なままです(図4b)。性別もしくは年齢に関係なく、BMIトの関連の有意性がさらに確証されました。以下は本論文の図4です。
本論文の手法は控えめとの主張があるかもしれませんが、本論文は人口階層化に由来する関連兆候の増加の可能性への対処を優先します。したがって、ある程度は個体間での縄文祖先系統の差異に由来する階層化にも関わらず、共変数としてのPCの取り込みによる効果を考慮することが重要です。この問題を軽減するため、縄文祖先系統との関連についての検証の前に、表現型がすべての共変数での測定値の回帰によって修正される、代替的手法が採用されました。BMIでは有意な相関が観察されましたが、他の形質は統計的有意性に達しませんでした。全結果をまとめると、本論文の分析は一貫して、人口階層化の修正のため用いられた手法に関係なく、MBI兆候の堅牢性を論証します(図4)。
BMIへの縄文祖先系統の影響を評価するため、BMIについて本論文のGWAにおける共変数として、縄文祖先系統の割合が組み込まれました。目印となるSNPの大半は一貫したままですが、BMIの多遺伝子得点(polygenic score、略してPGS)への縄文祖先系統の影響における減少が観察されました。この影響がある程度持続していることは注目に値し、縄文祖先系統とBMI-PGSとの間の機能的相関が示唆されます。それでも、縄文祖先系統がGWAS で考慮されない場合には、PGSは増加傾向にあり、増改の程度は縄文祖先系統の割合と弱い相関になっています。これらの調査結果から、共変数として縄文祖先系統を含めないGWASから推定された有効規模は、残余交絡のため偏っているかもしれない、と示唆されます。
本論文の分析には身長も含まれており、慎重は日本人集団において南北の勾配を示す、と明らかになっています。身長低下との縄文祖先系統の関連は、PCが検証で考慮される場合のみ観察され、この関連が人口階層化によって混乱している可能性を示唆しています。これらの結果から全体的に、縄文時代の古代狩猟採集民の遺伝的遺産は、地理的違いに関係なく現在の人口集団にわたってBMIを有意に増加させている、と示唆され、これは結果として肥満の危険性増加に寄与しているかもしれません。さらに、BMIについてPGSの予測能力への縄文祖先系統の割合の使用の影響が検証されました。増加する予測性能は、−2.8 × 10⁻³の程度に限られます。
●縄文祖先系統の差異の根底にある遺伝的多様体の特定
個体間の縄文祖先系統における差異と関連する多様体の、ゲノム規模調査が実行されました。この分析では、縄文祖先系統の個々の割合が代理表現型とみなされます。しかし、標準的な遺伝子型と表現型の関連研究で用いられるじゅうらいの帰無仮説は、ゲノムデータから推測されるので、この表現型に直接的には適用できません。ゲノムおよび地理的下部人口集団について堅牢な補正を確保し、検定統計量のゲノム増加を制御するため、二重ゲノム制御補正手法と、共変数としてPCを含む混合線形モデル(mixed linear model、略してMLM)が採用されました。さらに、本土および琉球クラスタ内それぞれの個体について関連検定のメタ解析が実行され、それは、この2集団間で縄文祖先系統の割合が顕著に異なるからです。縄文祖先系統で豊富な遺伝的兆候への生物学的洞察を得るため、層序化連鎖不平衡得点回帰(stratified linkage disequilibrium score regression、略してS-LDSC)が実行されました。本論文のS-LDSCは、主要な細胞群全体で骨格筋肉細胞において遺伝的の有意な濃縮が特定されました(図5a)。以下は本論文の図5です。
関連分析に基づいて、Z得点が正で、厳密な制御測定後にゲノム規模の有意性に達する場合に、多様体が縄文関連と分類されます。これによって、LD(連鎖不平衡)塊から特定された132個の独立した多様体が得られました。これら縄文関連多様体の進化的背景を調べるため、縄文関連多様体を含むゲノム領域のハプロタイプ構造が調査されました。これらのハプロタイプ構造をアレル(対立遺伝子)頻度の一致する非縄文関連多様体のハプロタイプ構造と比較すると、縄文関連多様体は非縄文関連多様体よりも有意に長いハプロタイプを示す、と分かりました(図5b・c)。これはこうした拡張ハプロタイプの縄文起源を裏づけ、おそらくは縄文時代人口集団内の高い遺伝的均一性と小さな有効人口規模(1000個体未満)に起因する、ゲノム全体の強い連鎖不平衡によって裏づけられます[14、37]。さらに、現在の人口集団におけるこれら長い縄文由来ハプロタイプの存続は、ハプロタイプを分解する組換えに不充分な時間とともに、大陸からの祖先との比較的新しい混合に起因するかもしれません。過去約100世代にわたる選択を検出する、シングルトン密度得点(singleton density score、略してSDS)に基づく選択検査結果を活用して、縄文由来ハプロタイプにおける選択の兆候の濃縮がさらに観察されます。これらの結果は、縄文関連多様体が、縄文祖先系統の定量化の指標として機能し、縄文由来ハプロタイプを分類表示でき、最近の選択圧にさらされたかもしれない、との見解を裏づけます。
これら縄文関連多様体は、1KGデータセット内の他のアジア東部人口集団と比較して、JPTにおいて顕著により高頻度です。BBJ人口集団内でさえ、琉球集団は本土集団よりも高頻度のこれらの多様体を示しており、縄文関連断片との強い関連が裏づけられます。日本人集団における特異性を評価するため、132個の縄文関連多様体について、Fₛₜ(fixation index、2集団の遺伝的分化の程度を示す固定指数)が測定されました。アジア東部人口集団ではFₛₜに大きな違いはありませんが、4p12(4番染色体短腕領域1バンド2)のrs536618と1q31(1番染色体長腕領域3バンド1)のrs2871660は日本人集団において比較的高いFₛₜ値を示します。とくに、首位多様体であるrs13017060は神経芽細胞腫増幅配列(Neuroblastoma amplified sequence、略してNBAS)遺伝子イントロン領域に位置しており、現代日本人集団におけるBMIおよび体重の増加への多面発現性の影響を示しています。rs13017060は、遺伝子型・組織発現(Genotype-Tissue Expression、略してGTEx)データで証明されているように、心筋のNBASのeQTL(expression quantitative trait loci、発現量的形質座位)としても機能しています。さらに、同じ多様体はUKBにおける脚の脂肪量増加と関連しています。これらの調査結果は、縄文祖先系統とBMIとの間の関連を裏づける証拠をさらに提供します。
●独立した日本人コホートを用いての三重モデルと縄文関連多様体の検証
三重構造の混合モデル化を検証するため、2点の独立した日本人コホートである、長浜コホートとBBJの第2コホートが活用されました。長浜コホートには近畿地方内の滋賀県長浜市の参加者が含まれており、1549個体の長浜Aと1444個体の長浜Bから構成されます。BBJの第2コホートは追加の独立したコホートで、BBJの第1コホートとは異なっており、日本列島の全体さまざまな地域を表しています(72695個体)。
本論文の検証過程は異なる2手法で構成されており、それは、(1)個体水準での縄文祖先系統の割合の推定と、(2)PGS形式としての縄文祖先系統予測得点の導出です。BBJの第2コホートのPCAは、BBJの第1コホートで観察されるように(図3a)、最初の2主成分との縄文祖先系統の有意な相関を確証します(図6a)。次に、BBJの第1コホートから特定された縄文関連多様体132個を用いて、縄文祖先系統の予測得点が導出されました。人口階層化の堅牢な調整下で、予測得点によって説明される縄文祖先系統の分散は、長浜Aの0.14、長浜Bの0.12、BBJの第2コホートの0.13です。注目すべきことに、観察された縄文祖先系統の割合は、得点が十分位数に分類されると、異なるコホートにわたる予測得点と一致して、次第に増加します(図6b)。以下は本論文の図6です。
縄文関連多様体の予測能力は、判定境界が5.0 × 10⁻⁸から1.0 × 10⁻³へと緩和されると増加を示し、その分散は、遺伝的多様体によって説明される縄文祖先系統について、長浜Aでは0.27、長浜Bでは0.26、BBJの第2コホートでは0.24となります。しかし、この凝集および閾値化手法は、とくにp値判定境界を緩和すると、データに過剰適合するかもしれない、と論証されてきたことへの注目が重要です。したがって、本論文はその後の分析において、縄文祖先系統の予測では5.0 × 10⁻⁸のp値判定境界を固守します。
●UKBのアジア東部個体群を用いての縄文祖先系統とBMIとの間の関連の再現
完全に独立したコホートを用いて、縄文祖先系統とBMI増加との間の関連についての本論文の調査結果の再現が試みられました。本論文の焦点は、UKB内のアジア東部個体群(UKB-EAS)です。まず、PCA図に基づいてUKB-EASの個体が選択されました(2286個体)。f₄形式(ムブティ人、縄文人;漢人、UKB-EAS)のf₄検定から、「縄文人」は漢人およびUKB-EASと対称的に関連する、と示されます。次に、UKB-EASをその自己申告の民族的背景に基づいてさまざまな集団に区分し、各集団について個別にf₄検定が実行されました。この分析は、Z得点5.4で漢人よりも「縄文人」の方と高い遺伝的類似性を示す、民族集団(Ethnic Group、略してEG)6を特定します。他のEGは、中国人と自己申告した個体群で構成されるEG5を含めて、「縄文人」との有意な類似性を裏づけません。これらの結果から、EG6の参加者は縄文祖先系統を有しており、本論文の再現分析に適した下部人口集団と示唆されます。
UKB-EASコホート(2286個体)に混合モデルを当てはめることによって、566個体について縄文祖先系統を定量化できました。132個の縄文関連多様体に基づく得点の予測能力は、観察された縄文祖先系統の割合において総分散の約2%を占めます(図7a)。縄この予測能力は、UKB-EAS内のEG6のみに焦点を当てると、かなり増加します。対照的に、この予測能力はEG5では有効性が低下するようになり(図7c)、この集団における縄文祖先系統の明らかな少なさと一致します。以下は本論文の図7です。
最後に、UKB-EASにおけるBMIへの縄文祖先系統の影響が検証されました。UKB-EAS全体もしくはUKB-EASのEG5のどちらかで、有意な関連はありません(図7d)。しかし、より高い「縄文人」からの遺伝的影響を示すEG6に焦点を当てると、縄文祖先系統とBMI像との間の有意な関連が特定されます。全体的にこれらの結果は、イギリスと日本で観察されたように、生活環境の違いに関係なく、現在の人口集団における肥満の危険性への縄文祖先系統の影響の可能性を浮き彫りにします。
●考察
本論文は、日本とアジア東部大陸部の古代人のゲノムを25万個体以上の現代日本人のゲノムデータと組み合わせることによって、日本列島の古代の狩猟採集民の遺伝的遺産への包括的洞察を提供します。本論文ではこの広範な生物銀行規模のデータセットを活用して、三重祖先系統構造として知られる現代日本人集団の遺伝的起源について最近提案されたモデルが、日本列島全域で二重構造モデルよりも一貫して良好に適合する、と論証されます。この異なる3祖先の組成は、日本内のさまざまな地理的および遺伝的下部人口集団間で異なります。これらの祖先構成要素では、古代の狩猟採集民である「縄文人」が現在の個体群におけるBMI増加や、個体と人口集団両方の水準でのゲノム差異の形成に最も影響している点で際立っています。本論文の新たなGWAS手法は、ゲノム上昇要因の厳密な制御と組み合わせて、現代日本人が有する縄文祖先系統と関連する遺伝的多様体を効率的に特定します。個体の縄文祖先系統予測のための遺伝的標識として、132個の独立した多様体一式が特定されました。これらの遺伝的標識の予測能力は、日本人集団の独立したコホートで確証されます。さらに、イギリスに居住する人々の遺伝的祖先として縄文構成要素を有する個体群のコホートの研究によって、縄文祖先系統の表現型の影響の再現に成功しました。
本論文の分析は、日本列島全体の三重構造の最初の詳細な特徴づけを提示します。この分析は縄文祖先系統の割合におけるかなりの差異を明らかにし、それは現在の人口集団で観察される遺伝的祖先系統の連続を反映しています。この割合は、先行研究[8、9]で示唆されているように、琉球および北海道_下部クラスタの個体群においてひじょうに高くなっています。大陸部の祖先(つまり、アジア北東部とアジア東部)は、沖縄の個体群でも観察されます。しかし、これら大陸部構成要素は大陸から直接的にもたらされたのではなく、すでに三重祖先を有していた日本本土からの移民によってもたらされたことへの注目が重要です。この移住は11世頃に起きたと推定されてきており、沖縄地域における先史時代の終焉を示しています。この移行まで、縄文的な遺伝的特徴を有する人々が少なくとも数千年にわたって沖縄地域に居自由し続けたことは、広く受け入れられていまするしたがって、沖縄における縄文祖先系統の水準上昇は、この歴史的出来事に起因するかもしれません。
琉球もしくは北海道_下部クラスタとは対照的に、近畿地域は比較的低水準の縄文祖先系統を示します。歴史的記録は、この地域における政治的中心地の持続的存在を示しており、他地域よりもアジア大陸部から到来した人々とのより頻繁な相互作用が示唆されます。本論文の生物銀行規模の分析は、広範および局所的両方の規模での日本列島全域の人々の遺伝的構成の洗練された全体像を提供します。
縄文祖先系統の増加とBMI増加との間の有意な関連に関する調査結果は、沖縄の人々が本土集団と比較して、BMI水準の増加だけではなく、肥満傾向もある、との観察と一致します。現在の人口集団における肥満を引き起こす環境は、進行中の肥満流行への大きな誘因です。それにも関わらず、縄文祖先系統のこの表現型の影響は、個体がさまざまな程度の肥満誘発環境に曝されている、日本やイギリスの人口集団において特定されます。したがって、古代の狩猟採集民の祖先系統は、日本ではBMI増加に重要な役割を果たし、それは西洋諸国に居住するアジアの人口集団における肥満発生の不均衡と関連しているかもしれません。BMIについてGWASにおける交絡因子として縄文祖先系統を組み込むことの重要性の強調によって、この分析はヒトの過去を現在の健康上の課題と結びつける研究のための概念実証を提供します。
縄文祖先系統の割合と関連する遺伝的多様体一式は「縄文人」から継承されたゲノム断片を付加している可能性が高いことを考えると、そうした多様体は祖先情報遺伝標識(Ancestral Informative Marker、略してAIM)として機能するかもしれず、個体の縄文祖先系統の予測に便利な手段を提供します。本論文は、3点の追加の検証コホートの活用によって、これらの標識の予測能力を論証します。さらに、縄文関連多様体は骨格筋肉細胞において活性機能で顕著に濃縮されており、その一部はBMIや体重や身長の増加とも関連しています。これらの調査結果は、首位多様体が骨の無機物密度増加と関連している、と示す「縄文人」における選択検査によって裏づけられるように、狩猟および採集生活様式で要求される高い身体活動と関連する適応の可能性を示唆しています。しかし、この選択の遺伝的遺産は今や、現代の環境との相互作用を通じたBMI水準増加の危険因子を引き起こしています。本論文は、自然選択の過去の作用が、食性と社会的生活様式における急速な変化におもに起因する、現在の疾患危険性をどのように形成してきたのかについて、証拠を提供します。生活様式が狩猟および採集から農耕へと移行するにつれて、「縄文人」断片が子孫にどのように継承されたのか解明するためには、縄文時代後(つまり、弥生時代もしくは古墳時代)の人類のゲノムでのさらなる分析が肝要であることへの注目は重要です。
それにも関わらず、この研究にはいくつかの注意点があります。まず、補完されたゲノム規模配列データから返還された、現代人のゲノムデータが作用されました。その結果、本論文の現代人のデータは確認されたままで、大規模なゲノム配列データの使用は、分析のための多様体の偏っていない一式を提供できるかもしれません。古代人のゲノムデータに関しては、本論文で用いられたすべての「縄文人」のデータは、捕獲配列決定ではなく、ショットガン配列決定されました[8、9、14、48]。依然として、このデータの大半は低網羅率で、現代人のデータセットとともに疑似半数体データとして分析されました。これは、より精細な解像度での現代人と古代人のゲノム間の関連の確証能力を制約するかもしれません。しかし、古代人のゲノムの新たな遺伝子型補完は、そうした低網羅率のデータに由来する遺伝子型特性の深度を高める、革新的解決を提供できるかもしれません[37、51]。
まとめると、現代人と古代人のゲノムの本論文の統合分析は、現在の人口集団における古代の狩猟採集民【縄文時代人類集団】の遺伝的遺産と、表現型の差異への影響を明らかにし、遺伝的起源の追跡だけではなく、GWASにおける交絡効果の制御のための、個人の遺伝的祖先系統の理解の重要性に光を当てます。古代ゲノミクスの分野は急速に発展しており、さまざまな期間と地理的地位にわたる多様な範囲の古代人を含む将来の研究は、ヒトの過去が現在の人口集団におけるゲノムと表現型の差異をどの程度形成してきたのかについて、より包括的な理解の提供に置いて不可欠となるでしょう。
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●要約
三重祖先構造は現代日本人の遺伝的起源について最近提案されたモデルで、先住の縄文時代狩猟採集民とアジア北東部および東部からの追加の二つの大陸祖先から構成されます。現在の遺伝的および表現型の差異への三重構造の影響を調べるため、BBJ(171287個体)を日本およびユーラシア古代人(22個体)のゲノムと統合することによって、生物銀行規模の分析が実行されました。本論文は日本列島全域の日本人集団への三重モデルの適用性を論証し、個体間の縄文祖先系統とゲノム差異との間のきわめて強い相関があります。縄文祖先系統の遺伝的遺産がBMI上昇の基盤にあることも分かりました。地理と祖先の下部構造についての厳密な調整のあるゲノム規模関連分析は、個体の縄文祖先系統の予測に情報をもたらす、132個の多様体を特定します。この予測モデルは、独立した日本人コホートである、長浜コホート2993個体(BBJ第二コホートは72695個体)を用いて確証されました。さらに、UKBのアジア東部個体群を用いて、縄文祖先系統とBMIとの間の表現型的関連が確証されます。25万人以上の参加者を含む古代人および現代人のゲノムの広範な解析は、現在の人口集団における古代の狩猟採集民の遺伝的遺産への貴重な洞察を提供します。
●研究史
アフリカ起源の解剖学的現代人【現生人類】は、一連の移住と定着と混合を通じて、6万~5万年前頃に世界中への拡散を始めました[1、2]。アジア東部における解剖学的現代人の到来は少なくとも5万~4万年前頃にたどることができ、次第にこの地域に広がりました[3]。ヒトの歴史における重要な出来事は、在来の狩猟採集民と移住してきた農耕民との間の遭遇で、これはその後で生活様式の顕著な変化につながりました[4]。農耕へのこの移行は世界規模で起きましたが、その時期と過程は地域によって異なり、大陸部ユーラシア東部における農耕革命は1万年前頃にさかのぼります[5]。
考古学的証拠から、ヒトはユーラシア東部の島嶼地域である日本列島に早ければ更新世の38000年前頃に居住していた、と示唆されています。依然として、現代人集団とのそうした祖先のつながりに関する理解は、古代DNAデータの不足によって制約されています[7]。日本でよく研究されている祖先集団は、日本列島に16500年前頃にまでさかのぼって居住していた、狩猟採集民の文化的集団である「縄文人」です[8、9]。「縄文人」は土器の先駆的使用で有名であり、これは世界でも最古級の事例です。縄文時代は、弥生時代に大陸からの移民が稲作をもたらした3000年前頃まで続き、弥生時代の期間は3000~1700年前頃です。この農耕革命は社会政治的発展を促進し、1700年前頃に始まり、200~300年間続いた古墳時代における日本国家の成立につながりました。
日本人集団の起源に関する長年のモデルは二重祖先構造です。このモデルでは、現代日本人はアジア南東部由来の先住の縄文時代狩猟採集民とアジア北東部由来の移住農耕民の混合とされます。しかし、古代DNA研究は、日本人集団の遺伝的起源が三つの異なる祖先で構成されている、という説得力のある証拠を提供しており(つまり、三重祖先構造)、それは、(1)古代の狩猟採集民である「縄文人」、(2)農耕期間の弥生時代にもたらされたアジア北東部祖先系統、(3)国家形成段階の古墳時代にもたらされたアジア東部祖先系統[14]です【最近の弥生時代の人類遺骸の研究(Kim et al., 2024)に基づくと、アジア東部祖先系統は弥生時代中期には日本列島に定着していた可能性が高そうです】。古墳時代に確立したこの三重構造は、現在の人口集団でも存続しています[14~16]。日本人集団は、ゲノム差異の北方から南方への勾配でよく特徴づけられています。しかし、三重モデルの適用性と日本列島全域での三つの異なる祖先構成要素の変異性は、先行研究[14、15]で用いられた現代の個体群の標本と地理的代表性の限界のため不明なままです。したがって、包括的で人口集団規模のゲノムデータを用いてのこの祖先構造のモデル化が重要です。
古ゲノミクスにおける最近の進歩によって、多様な遺伝的祖先の特定[20~23]だけではなく、局所的および世界的に両方での、現在の人口集団における健康と疾患への影響の解明も可能となり、たとえば、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)からの遺伝子移入を通じた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の悪化と耐性[24、25]や、草原地帯祖先系統によってもたらされた多発性硬化症の遺伝的傾向[26]です。しかし、ヒトの過去が表現型の差異を形成した程度は現在、とくにヨーロッパ以外の状況では充分には理解されていないままです。本論文は、狩猟採集の縄文時代が島嶼環境において1万年以上続き、この古代狩猟採集民の祖先系統が現在の人口集団に存続している日本列島に焦点を当てます。
本論文では、古代人(22個体)と現代日本人のゲノムの統合された分析が提示され、非ヨーロッパ人集団では最大級の人口集団にもとづくコホートの一つで、日本列島の全地域の参加者を網羅する、BBJの第一コホート(171287個体)が活用されます。本論文の手法には重要な5段階が含まれます。第一に、地理もしくは遺伝的クラスタ(まとまり)によって定義されるさまざまな下部人口集団への、三重祖先モデルの適用性が評価されます。第二に、日本人個体間の表現型の差異への縄文祖先系統の影響が定量化されます。第三に、地理と遺伝の下部構造の堅牢な調整および検定統計量のゲノム膨張の制御のあるGWAS手法の使用によって、縄文関連の遺伝的多様体が特定されます。第四に、独立した日本人コホート(2993個体の長浜コホートおよび72695個体のBBJの第二コホート)を用いて、個体の縄文祖先系統の推定における縄文関連多様体の予測力が論証されます。最後に、縄文予測モデルがUKB内のアジア東部(EAS)の個体群(2286個体)に適用され、縄文祖先系統の表現型の影響が再現されます。本論文は、日本列島全域の現在の子孫における古代狩猟採集民の遺伝的遺産の包括的理解を提供し、現在の表現型の差異への影響を浮き彫りにします。
●BBJデータセットにおける三重祖先構造の推測
現在の人口集団における三重モデルの適合性を評価するため、日本の7ヶ所の地理的地域の病院からの参加者で構成される、BBJのGWASデータが用いられました(図1a)。参加者の総数は171287人で、地域は日本列島全域の北東部から南西部にまで分布しており、北海道が7955人、東北が11013人、関東甲信越が94981人、中部北陸が9489人、近畿が25200人、九州が15962人、沖縄が5804人です。本論文の主成分分析(principal component analysis、略してPCA)は明確なクラスタを定義し(図1b)、おもに沖縄の個体を含む琉球クラスタが、先行研究で報告されたように残りの人口集団から分離します。東北と関東甲信越と近畿と九州でそれぞれ観察される、地域的クラスタもあります。PCAの結果に基づくと、日本人集団において五つの異なる遺伝的クラスタが定義され、それは、アジア東部_混合(EA_混合、1019人)、本土(159642人)、琉球_混合(640人)、北海道_下部(139人)です(図1c)。人口集団階層化は琉球諸島内においてさらに明らかで、この局所的な島嶼状況における地理的類似性を反映しています(図1d・e、八重山諸島は431人、奄美諸島は1531人、喜界島は561人、徳之島は476人、与論島は167人、沖縄本島は4795人、宮古島は827人)。以下は本論文の図1です。
次に、日本人個体群のこの多様な一式が日本およびユーラシア大陸の古代人のゲノムデータと統合されました[14]。BBJから得られた配列型ゲノムデータと古代人から得られた疑似二倍体データの両方に存在する部位を見つけるため、高度に正確なBBJ補完量データが遺伝子型データへと変換されました。この変換によって、2038260ヶ所の共有多様体が得られました(BBJの171287個体と古代人22個体のゲノム)。その後、先行研究[14]で定義された供給源人口集団一式に基づいて、AdmixToolsのqpAdm[31]が適用されて、混合モデルの適合性が評価され、生物銀行における人口集団および個体の両方の水準で混合割合が推定されました。日本人集団の地理的および遺伝的多様性を包括的に把握するため、三重モデルが日本列島と琉球諸島全域の地理的に定義された人口集団(図1b・e)、および遺伝的に定義された人口集団(図1c)とBBJデータセット全体に当てはめられました。この分析では、全ての可能性のある二重祖先構造モデルと比較すると、三重構造は全人口集団について広範および局所的両方の規模でより優れた適合性を提供する、と論証されます。唯一の例外はEA_混合で、この人口集団はアジア北東部とアジア東部の祖先系統間の2方向混合によって充分に説明できます。
BBJデータセット全体では、異なる3祖先構成要素の割合は先行研究[14]で報告された割合とおおむね一致します(縄文が12.4%、アジア北東部が21.2%、アジア東部が66.4%)。しかし、縄文祖先系統は地域的差異を示しており、その割合は近畿の9.8%から沖縄の26.1%までの範囲となります(図2a)。琉球諸島内では縄文祖先系統の水準増加があり、最高の割合は与論島で観察されます(図2b)。縄文祖先系統は遺伝的に定義された人口集団の一つである北海道下部集団(北海道_下部)においてさらに高く(31.6%、図2c)、この下部集団にはおもに北海道の個体群の部分集合が含まれています。対照的に、EA_混合はおそらくアジア東部の大陸部の個体群を表しており、縄文祖先系統がほとんどなく、これは縄文祖先系統なしの混合モデルが選好される理由を説明できるかもしれません。本土クラスタはBBJ全体の割合を反映しており、それはデータにおいて大半の標本が含まれているからです(171287個体のうち159642個体)。地理的起源(つまり、標本収集が行なわれた場所)に基づいてこのクラスタから個体群を分離しても、この割合はさまざまな地域にわたって比較的一貫したままです。琉球クラスタは沖縄の祖先組成を表していますが、琉球_混合クラスタにおける割合は本土と琉球クラスタの間に収まります。以下は本論文の図2です。
次に、縄文祖先系統が日本人集団において固有に存在するのかどうか、あるいは、大陸部人口集団でも観察されるのか、f₄形式(ムブティ人、縄文人;漢人、X)のf₄統計を用いて調べられました。本論文の対象人口集団には、サイモンズゲノム多様性計画(Simons Genome Diversity Project、略してSGDP)パネルおよび1KG(1000 Genomes project、1000人ゲノム計画)の人口集団とBBJ内の下部人口集団が含まれます。先行研究[8、9、14]で示されるように、SGDPのウリチ人(Ulchi)もしくは1KG内のアジア東部人(EAS)を除いて、「縄文人」集団と検証された他の人口集団との間に余分な遺伝的類似性はありません。1KGのEAS人口集団では、東京の日本人(Japanese in Tokyo、略してJPT)のみが「縄文人」との有意な類似性を示します。BBJ参加者内では、北海道_下部と琉球下部人口集団が、本論文の混合モデル化(図2)や先行研究[8、9]におけるより高い割合の縄文祖先系統と一致して、「縄文人」とのひじょうに強い類似性を示します。本論文の分析は全体的に、日本列島全域の三重祖先構造における地域的差異の詳細な状況を提供します。
●個体間の三重構造における差異
本論文の混合モデル化では、琉球と北海道_下部の2下部人口集団が他の下部人口集団と比較してより高い割合の縄文祖先系統を有している、と明らかになります(図2)。古代と現在の人口集団間の遺伝的距離を視覚化するため、現代日本人集団の三重構造の根底にある異なる3祖先を表している古代もしくは現代の個体群が、追加の古代日本の個体群(つまり、弥生時代と古墳時代)とともにPCA図に投影されました。古墳時代個体群は現在の日本人集団における差異内に含まれますが、「縄文人」は琉球と北海道_下部から延びる場所でクラスタ化します。形態学的に「縄文人」と考えられているものの、縄文祖先系統と大陸部祖先系統の間で遺伝的に混合している弥生時代の2個体[14]は、縄文時代と現在の人口集団の間に位置します。
人口集団に基づく混合モデル化が個体群の集団での平均的パターンを反映していることを考慮して、次に三重モデルがBBJの各参加者へと適用されました。このモデルは171287個体のうち154339個体(90.1%)に適合し、これら3祖先構成要素の割合はさまざまでした。これら3祖先の割合は相互と負に相関しており、アジア北東部とアジア東部の大陸部の2祖先は日本列島に独立して到来した、との以前に提案された筋書き[14]を裏づけます【最近の弥生時代の人類遺骸の研究(Kim et al., 2024)に基づくと、もっと複雑な状況を想定できるかもしれません】。約5%の個体(8932個体)は三重モデルと一致せず、縄文祖先系統とアジア東部祖先系統もしくはアジア北東部祖先系統とアジア東部祖先系統のどちらかを含む2方向混合に、より高い適合性を示します。しかし、28個体はその後の分析から除外され、それは入れ子型p値<0.05で示唆されるように、三重祖先系統モデルに対して二重祖先系統モデルの方での不充分な裏づけのためです。少ない例外もあり、あらゆる二重構造モデルではなく、アジア東部祖先系統のみのモデルが10個体で選好されました。ほぼ5%(7962個体)を構成する残りの個体に充分に適合できるモデルはなかった、と注目することが重要です。これは、データに固有の変動性を占める、5%の判定境界末端確率の使用に起因する可能性が高そうで、それは、すべての検証の定義された割合が検証されたモデルから逸脱すると予想されるからです。
縄文祖先系統の割合をPCA図に組み込むことによって、第1および第2主成分に沿って縄文祖先系統の割合に顕著な勾配がある、と明らかになります(図3a)。じっさい、縄文祖先系統の割合には最初の2主成分と顕著に強い相関があります(図3b)。相関の同様のパターンはアジア北東部もしくはアジア東部祖先系統と主成分(PC)との間でも観察されますが、相関の強さは縄文祖先系統で観察されたほど顕著ではありません。縄文祖先系統とPCとの間の相関は、本土もしくは琉球クラスタの個体のみに焦点を当てても、依然として明らかです。これらの調査結果から、縄文祖先系統は、PCAの水準において日本人個体間のゲノム差異の形成に重要な役割を果たした、と示唆されます。さらに、これらの個体に基づく推定値は、その平均の観点で人口集団に基づくパターンを反映しているだけではなく、日本列島全域の縄文祖先系統における顕著な差異も浮き彫りにします(図3c・d)。以下は本論文の図3です。
●日本人集団における表現型の差異への縄文祖先系統の影響
次に、縄文祖先系統が現在の人口集団に表現型の影響を及ぼしたのかどうか、調べられました。遺伝的祖先系統をモデル化できたBBJの163243個体では、縄文構成要素の平均割合は12.5±6.3%です。年齢もしくは性別(ジェンダー)間で縄文祖先系統の割合に実質的な違いはありません。その後で、遺伝的および地理的下部人口集団について堅牢な調整によって、80点のさまざまな複雑な形質との縄文祖先系統の換券が検証されました。1型誤差を考慮して、ボンフェローニ相関に基づき、P < 0.05/80 = 6.3 × 10⁻⁴で、統計的有意性の閾値が設定されました。この閾値は負の制御で10個の偽遺伝性表現型の模擬実験によって較正されたことが、確証されます。全BBJ参加者での分析は、BMIの増加との有意な関連を特定します(図4a)。しかし、他地域と比較しての沖縄におけるより高いBMIなど、この地域的多様性が、共変数としての地理的要因を調整した場合でさえ、この関連を混乱させているかもしれないことへの注目が重要です。この懸念に対処するため、分析が本土クラスタに含まれる個体群に制限されました。BMIとの関連は、統計的に有意なままです(図4b)。性別もしくは年齢に関係なく、BMIトの関連の有意性がさらに確証されました。以下は本論文の図4です。
本論文の手法は控えめとの主張があるかもしれませんが、本論文は人口階層化に由来する関連兆候の増加の可能性への対処を優先します。したがって、ある程度は個体間での縄文祖先系統の差異に由来する階層化にも関わらず、共変数としてのPCの取り込みによる効果を考慮することが重要です。この問題を軽減するため、縄文祖先系統との関連についての検証の前に、表現型がすべての共変数での測定値の回帰によって修正される、代替的手法が採用されました。BMIでは有意な相関が観察されましたが、他の形質は統計的有意性に達しませんでした。全結果をまとめると、本論文の分析は一貫して、人口階層化の修正のため用いられた手法に関係なく、MBI兆候の堅牢性を論証します(図4)。
BMIへの縄文祖先系統の影響を評価するため、BMIについて本論文のGWAにおける共変数として、縄文祖先系統の割合が組み込まれました。目印となるSNPの大半は一貫したままですが、BMIの多遺伝子得点(polygenic score、略してPGS)への縄文祖先系統の影響における減少が観察されました。この影響がある程度持続していることは注目に値し、縄文祖先系統とBMI-PGSとの間の機能的相関が示唆されます。それでも、縄文祖先系統がGWAS で考慮されない場合には、PGSは増加傾向にあり、増改の程度は縄文祖先系統の割合と弱い相関になっています。これらの調査結果から、共変数として縄文祖先系統を含めないGWASから推定された有効規模は、残余交絡のため偏っているかもしれない、と示唆されます。
本論文の分析には身長も含まれており、慎重は日本人集団において南北の勾配を示す、と明らかになっています。身長低下との縄文祖先系統の関連は、PCが検証で考慮される場合のみ観察され、この関連が人口階層化によって混乱している可能性を示唆しています。これらの結果から全体的に、縄文時代の古代狩猟採集民の遺伝的遺産は、地理的違いに関係なく現在の人口集団にわたってBMIを有意に増加させている、と示唆され、これは結果として肥満の危険性増加に寄与しているかもしれません。さらに、BMIについてPGSの予測能力への縄文祖先系統の割合の使用の影響が検証されました。増加する予測性能は、−2.8 × 10⁻³の程度に限られます。
●縄文祖先系統の差異の根底にある遺伝的多様体の特定
個体間の縄文祖先系統における差異と関連する多様体の、ゲノム規模調査が実行されました。この分析では、縄文祖先系統の個々の割合が代理表現型とみなされます。しかし、標準的な遺伝子型と表現型の関連研究で用いられるじゅうらいの帰無仮説は、ゲノムデータから推測されるので、この表現型に直接的には適用できません。ゲノムおよび地理的下部人口集団について堅牢な補正を確保し、検定統計量のゲノム増加を制御するため、二重ゲノム制御補正手法と、共変数としてPCを含む混合線形モデル(mixed linear model、略してMLM)が採用されました。さらに、本土および琉球クラスタ内それぞれの個体について関連検定のメタ解析が実行され、それは、この2集団間で縄文祖先系統の割合が顕著に異なるからです。縄文祖先系統で豊富な遺伝的兆候への生物学的洞察を得るため、層序化連鎖不平衡得点回帰(stratified linkage disequilibrium score regression、略してS-LDSC)が実行されました。本論文のS-LDSCは、主要な細胞群全体で骨格筋肉細胞において遺伝的の有意な濃縮が特定されました(図5a)。以下は本論文の図5です。
関連分析に基づいて、Z得点が正で、厳密な制御測定後にゲノム規模の有意性に達する場合に、多様体が縄文関連と分類されます。これによって、LD(連鎖不平衡)塊から特定された132個の独立した多様体が得られました。これら縄文関連多様体の進化的背景を調べるため、縄文関連多様体を含むゲノム領域のハプロタイプ構造が調査されました。これらのハプロタイプ構造をアレル(対立遺伝子)頻度の一致する非縄文関連多様体のハプロタイプ構造と比較すると、縄文関連多様体は非縄文関連多様体よりも有意に長いハプロタイプを示す、と分かりました(図5b・c)。これはこうした拡張ハプロタイプの縄文起源を裏づけ、おそらくは縄文時代人口集団内の高い遺伝的均一性と小さな有効人口規模(1000個体未満)に起因する、ゲノム全体の強い連鎖不平衡によって裏づけられます[14、37]。さらに、現在の人口集団におけるこれら長い縄文由来ハプロタイプの存続は、ハプロタイプを分解する組換えに不充分な時間とともに、大陸からの祖先との比較的新しい混合に起因するかもしれません。過去約100世代にわたる選択を検出する、シングルトン密度得点(singleton density score、略してSDS)に基づく選択検査結果を活用して、縄文由来ハプロタイプにおける選択の兆候の濃縮がさらに観察されます。これらの結果は、縄文関連多様体が、縄文祖先系統の定量化の指標として機能し、縄文由来ハプロタイプを分類表示でき、最近の選択圧にさらされたかもしれない、との見解を裏づけます。
これら縄文関連多様体は、1KGデータセット内の他のアジア東部人口集団と比較して、JPTにおいて顕著により高頻度です。BBJ人口集団内でさえ、琉球集団は本土集団よりも高頻度のこれらの多様体を示しており、縄文関連断片との強い関連が裏づけられます。日本人集団における特異性を評価するため、132個の縄文関連多様体について、Fₛₜ(fixation index、2集団の遺伝的分化の程度を示す固定指数)が測定されました。アジア東部人口集団ではFₛₜに大きな違いはありませんが、4p12(4番染色体短腕領域1バンド2)のrs536618と1q31(1番染色体長腕領域3バンド1)のrs2871660は日本人集団において比較的高いFₛₜ値を示します。とくに、首位多様体であるrs13017060は神経芽細胞腫増幅配列(Neuroblastoma amplified sequence、略してNBAS)遺伝子イントロン領域に位置しており、現代日本人集団におけるBMIおよび体重の増加への多面発現性の影響を示しています。rs13017060は、遺伝子型・組織発現(Genotype-Tissue Expression、略してGTEx)データで証明されているように、心筋のNBASのeQTL(expression quantitative trait loci、発現量的形質座位)としても機能しています。さらに、同じ多様体はUKBにおける脚の脂肪量増加と関連しています。これらの調査結果は、縄文祖先系統とBMIとの間の関連を裏づける証拠をさらに提供します。
●独立した日本人コホートを用いての三重モデルと縄文関連多様体の検証
三重構造の混合モデル化を検証するため、2点の独立した日本人コホートである、長浜コホートとBBJの第2コホートが活用されました。長浜コホートには近畿地方内の滋賀県長浜市の参加者が含まれており、1549個体の長浜Aと1444個体の長浜Bから構成されます。BBJの第2コホートは追加の独立したコホートで、BBJの第1コホートとは異なっており、日本列島の全体さまざまな地域を表しています(72695個体)。
本論文の検証過程は異なる2手法で構成されており、それは、(1)個体水準での縄文祖先系統の割合の推定と、(2)PGS形式としての縄文祖先系統予測得点の導出です。BBJの第2コホートのPCAは、BBJの第1コホートで観察されるように(図3a)、最初の2主成分との縄文祖先系統の有意な相関を確証します(図6a)。次に、BBJの第1コホートから特定された縄文関連多様体132個を用いて、縄文祖先系統の予測得点が導出されました。人口階層化の堅牢な調整下で、予測得点によって説明される縄文祖先系統の分散は、長浜Aの0.14、長浜Bの0.12、BBJの第2コホートの0.13です。注目すべきことに、観察された縄文祖先系統の割合は、得点が十分位数に分類されると、異なるコホートにわたる予測得点と一致して、次第に増加します(図6b)。以下は本論文の図6です。
縄文関連多様体の予測能力は、判定境界が5.0 × 10⁻⁸から1.0 × 10⁻³へと緩和されると増加を示し、その分散は、遺伝的多様体によって説明される縄文祖先系統について、長浜Aでは0.27、長浜Bでは0.26、BBJの第2コホートでは0.24となります。しかし、この凝集および閾値化手法は、とくにp値判定境界を緩和すると、データに過剰適合するかもしれない、と論証されてきたことへの注目が重要です。したがって、本論文はその後の分析において、縄文祖先系統の予測では5.0 × 10⁻⁸のp値判定境界を固守します。
●UKBのアジア東部個体群を用いての縄文祖先系統とBMIとの間の関連の再現
完全に独立したコホートを用いて、縄文祖先系統とBMI増加との間の関連についての本論文の調査結果の再現が試みられました。本論文の焦点は、UKB内のアジア東部個体群(UKB-EAS)です。まず、PCA図に基づいてUKB-EASの個体が選択されました(2286個体)。f₄形式(ムブティ人、縄文人;漢人、UKB-EAS)のf₄検定から、「縄文人」は漢人およびUKB-EASと対称的に関連する、と示されます。次に、UKB-EASをその自己申告の民族的背景に基づいてさまざまな集団に区分し、各集団について個別にf₄検定が実行されました。この分析は、Z得点5.4で漢人よりも「縄文人」の方と高い遺伝的類似性を示す、民族集団(Ethnic Group、略してEG)6を特定します。他のEGは、中国人と自己申告した個体群で構成されるEG5を含めて、「縄文人」との有意な類似性を裏づけません。これらの結果から、EG6の参加者は縄文祖先系統を有しており、本論文の再現分析に適した下部人口集団と示唆されます。
UKB-EASコホート(2286個体)に混合モデルを当てはめることによって、566個体について縄文祖先系統を定量化できました。132個の縄文関連多様体に基づく得点の予測能力は、観察された縄文祖先系統の割合において総分散の約2%を占めます(図7a)。縄この予測能力は、UKB-EAS内のEG6のみに焦点を当てると、かなり増加します。対照的に、この予測能力はEG5では有効性が低下するようになり(図7c)、この集団における縄文祖先系統の明らかな少なさと一致します。以下は本論文の図7です。
最後に、UKB-EASにおけるBMIへの縄文祖先系統の影響が検証されました。UKB-EAS全体もしくはUKB-EASのEG5のどちらかで、有意な関連はありません(図7d)。しかし、より高い「縄文人」からの遺伝的影響を示すEG6に焦点を当てると、縄文祖先系統とBMI像との間の有意な関連が特定されます。全体的にこれらの結果は、イギリスと日本で観察されたように、生活環境の違いに関係なく、現在の人口集団における肥満の危険性への縄文祖先系統の影響の可能性を浮き彫りにします。
●考察
本論文は、日本とアジア東部大陸部の古代人のゲノムを25万個体以上の現代日本人のゲノムデータと組み合わせることによって、日本列島の古代の狩猟採集民の遺伝的遺産への包括的洞察を提供します。本論文ではこの広範な生物銀行規模のデータセットを活用して、三重祖先系統構造として知られる現代日本人集団の遺伝的起源について最近提案されたモデルが、日本列島全域で二重構造モデルよりも一貫して良好に適合する、と論証されます。この異なる3祖先の組成は、日本内のさまざまな地理的および遺伝的下部人口集団間で異なります。これらの祖先構成要素では、古代の狩猟採集民である「縄文人」が現在の個体群におけるBMI増加や、個体と人口集団両方の水準でのゲノム差異の形成に最も影響している点で際立っています。本論文の新たなGWAS手法は、ゲノム上昇要因の厳密な制御と組み合わせて、現代日本人が有する縄文祖先系統と関連する遺伝的多様体を効率的に特定します。個体の縄文祖先系統予測のための遺伝的標識として、132個の独立した多様体一式が特定されました。これらの遺伝的標識の予測能力は、日本人集団の独立したコホートで確証されます。さらに、イギリスに居住する人々の遺伝的祖先として縄文構成要素を有する個体群のコホートの研究によって、縄文祖先系統の表現型の影響の再現に成功しました。
本論文の分析は、日本列島全体の三重構造の最初の詳細な特徴づけを提示します。この分析は縄文祖先系統の割合におけるかなりの差異を明らかにし、それは現在の人口集団で観察される遺伝的祖先系統の連続を反映しています。この割合は、先行研究[8、9]で示唆されているように、琉球および北海道_下部クラスタの個体群においてひじょうに高くなっています。大陸部の祖先(つまり、アジア北東部とアジア東部)は、沖縄の個体群でも観察されます。しかし、これら大陸部構成要素は大陸から直接的にもたらされたのではなく、すでに三重祖先を有していた日本本土からの移民によってもたらされたことへの注目が重要です。この移住は11世頃に起きたと推定されてきており、沖縄地域における先史時代の終焉を示しています。この移行まで、縄文的な遺伝的特徴を有する人々が少なくとも数千年にわたって沖縄地域に居自由し続けたことは、広く受け入れられていまするしたがって、沖縄における縄文祖先系統の水準上昇は、この歴史的出来事に起因するかもしれません。
琉球もしくは北海道_下部クラスタとは対照的に、近畿地域は比較的低水準の縄文祖先系統を示します。歴史的記録は、この地域における政治的中心地の持続的存在を示しており、他地域よりもアジア大陸部から到来した人々とのより頻繁な相互作用が示唆されます。本論文の生物銀行規模の分析は、広範および局所的両方の規模での日本列島全域の人々の遺伝的構成の洗練された全体像を提供します。
縄文祖先系統の増加とBMI増加との間の有意な関連に関する調査結果は、沖縄の人々が本土集団と比較して、BMI水準の増加だけではなく、肥満傾向もある、との観察と一致します。現在の人口集団における肥満を引き起こす環境は、進行中の肥満流行への大きな誘因です。それにも関わらず、縄文祖先系統のこの表現型の影響は、個体がさまざまな程度の肥満誘発環境に曝されている、日本やイギリスの人口集団において特定されます。したがって、古代の狩猟採集民の祖先系統は、日本ではBMI増加に重要な役割を果たし、それは西洋諸国に居住するアジアの人口集団における肥満発生の不均衡と関連しているかもしれません。BMIについてGWASにおける交絡因子として縄文祖先系統を組み込むことの重要性の強調によって、この分析はヒトの過去を現在の健康上の課題と結びつける研究のための概念実証を提供します。
縄文祖先系統の割合と関連する遺伝的多様体一式は「縄文人」から継承されたゲノム断片を付加している可能性が高いことを考えると、そうした多様体は祖先情報遺伝標識(Ancestral Informative Marker、略してAIM)として機能するかもしれず、個体の縄文祖先系統の予測に便利な手段を提供します。本論文は、3点の追加の検証コホートの活用によって、これらの標識の予測能力を論証します。さらに、縄文関連多様体は骨格筋肉細胞において活性機能で顕著に濃縮されており、その一部はBMIや体重や身長の増加とも関連しています。これらの調査結果は、首位多様体が骨の無機物密度増加と関連している、と示す「縄文人」における選択検査によって裏づけられるように、狩猟および採集生活様式で要求される高い身体活動と関連する適応の可能性を示唆しています。しかし、この選択の遺伝的遺産は今や、現代の環境との相互作用を通じたBMI水準増加の危険因子を引き起こしています。本論文は、自然選択の過去の作用が、食性と社会的生活様式における急速な変化におもに起因する、現在の疾患危険性をどのように形成してきたのかについて、証拠を提供します。生活様式が狩猟および採集から農耕へと移行するにつれて、「縄文人」断片が子孫にどのように継承されたのか解明するためには、縄文時代後(つまり、弥生時代もしくは古墳時代)の人類のゲノムでのさらなる分析が肝要であることへの注目は重要です。
それにも関わらず、この研究にはいくつかの注意点があります。まず、補完されたゲノム規模配列データから返還された、現代人のゲノムデータが作用されました。その結果、本論文の現代人のデータは確認されたままで、大規模なゲノム配列データの使用は、分析のための多様体の偏っていない一式を提供できるかもしれません。古代人のゲノムデータに関しては、本論文で用いられたすべての「縄文人」のデータは、捕獲配列決定ではなく、ショットガン配列決定されました[8、9、14、48]。依然として、このデータの大半は低網羅率で、現代人のデータセットとともに疑似半数体データとして分析されました。これは、より精細な解像度での現代人と古代人のゲノム間の関連の確証能力を制約するかもしれません。しかし、古代人のゲノムの新たな遺伝子型補完は、そうした低網羅率のデータに由来する遺伝子型特性の深度を高める、革新的解決を提供できるかもしれません[37、51]。
まとめると、現代人と古代人のゲノムの本論文の統合分析は、現在の人口集団における古代の狩猟採集民【縄文時代人類集団】の遺伝的遺産と、表現型の差異への影響を明らかにし、遺伝的起源の追跡だけではなく、GWASにおける交絡効果の制御のための、個人の遺伝的祖先系統の理解の重要性に光を当てます。古代ゲノミクスの分野は急速に発展しており、さまざまな期間と地理的地位にわたる多様な範囲の古代人を含む将来の研究は、ヒトの過去が現在の人口集団におけるゲノムと表現型の差異をどの程度形成してきたのかについて、より包括的な理解の提供に置いて不可欠となるでしょう。
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この記事へのコメント
北海道サブの縄文祖先平均0.3というと琉球平均とさほど変わらないので正直(以前から斉藤・篠田らが主張していた数値よりも)低いかなという印象です
ただ図3を見る限り、縄文祖先率に大きな個体差がありますね
図3dの箱ひげで、外れ値の個体が見られます
北海道サブ(アイヌ)で0.6弱、琉球で0.4〜0.5弱、本土日本人で0.4近くの個体がいます
しかし北海道サブの最大外れ値である0.6も、先行研究で覚張ら金沢大チームが報告した下本山弥生3号と同程度です
オホーツク文化系と思われるNEAが若干高いのは琉球との差異ですが
(外れ値はともかく)実際現代アイヌだとこんなものでしょうか
琉球のNEA祖先率も低いですね
いずれにせよ北海道サブ・琉球および本土日本の外れ値を含み個体差がかなり大きいようです
特に本土日本人のゲノムと言えば、篠田らの言う様に縄文祖先10〜20%前後で纏まる単調な集団だと思っていましたが、弥生〜古墳時代遺骸の様に個体ごとであれば縄文祖先率の大きな幅がある事実は新たな視点です
この問題の解明には歴史的展開の詳細な把握が必要ですが、残念ながら、奈良時代以降の古代ゲノム研究が大きく遅れているので、今後の研究の進展に期待します、と言って楽観視できる状況ではないように思います。
歴史時代の古代ゲノム研究でも中国に大きく遅れており、政治的に中国との共同研究が難しくなる状況も考えられるので、欧米との共同研究が少しずつでも進めばよいのですが。
>この問題の解明には歴史的展開の詳細な把握が必要ですが、残念ながら、奈良時代以降の古代ゲノム研究が大きく遅れているので、今後の研究の進展に期待します、と言って楽観視できる状況ではないように思います
私も同感です
大量に人骨出土がある関東の中〜近世人のゲノム解析などは今後行われると思いますが、
現代日本人の地域多様性を理解するにはそれだけでは全く不十分でしょう
下本山岩陰や磯間岩陰の様な山間部・島嶼部などでの歴史時代遺跡人(一つの地域でなく列島の全て)の古代ゲノム解析が必要でしょうが、人骨も予算も人員も少なく難しいかと
同一地域でも集落が違うだけで大きく遺伝的に差異が見られる場合もあると思いますが、その様なケースも当然埋没するでしょう
私はもはや遅々として進まない歴史時代ゲノム解析より、今回の様な現代人対象のバイオインフォマティクスに期待しているところです
>歴史時代の古代ゲノム研究でも中国に大きく遅れており、政治的に中国との共同研究が難しくなる状況も考えられるので、欧米との共同研究が少しずつでも進めばよいのですが。
基本的に古代東アジア人の良いサンプルは管轄する中国政府が所有していますので、中国の研究者との連携は必須と思いますが、難しいのでしょうか
地政学対立が今より悪化(台湾有事など)する前にやってもらわないと、日本人のNEAの起源を辿るどころか、EAすらどこから来たのかよく分からないままになります
そうした研究には偏りが生じる懸念もあるというか、今でも古代ゲノム研究の受け取り方には注意すべきだとは思いますが。