アメリカ合衆国大統領選挙結果

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、上院選と下院選の大勢もほぼ判明したので、アメリカ合衆国大統領選挙の結果について言及します。世界情勢が混迷する中で、アメリカ合衆国に限らず世界中の今後の動向にも強い影響を及ぼすことから、世界的に注目されたアメリカ合衆国大統領選挙の一般投票が今月(2024年11月)5日に行なわれました。民主党はハリス副大統領、共和党はトランプ前大統領が候補者となり、アメリカ合衆国における深刻な分断を反映してか、ずっと接戦が報道されてきましたが、直前の一部情勢調査からは、トランプ前大統領勝利の可能性が高いように思えました。当初は、バイデン大統領が民主党の大統領候補にほぼ決まっていましたが、トランプ前大統領とのテレビ討論があまりにも悲惨な内容だったので、民主党の大物から圧力を受けたバイデン大統領が大統領戦から撤退し、ハリス副大統領が大統領候補者となって、一時はトランプ前大統領に対して全国規模の支持率で数ポイント程度の差をつけていました。大統領候補者がバイデン大統領から一気に若返ったことで、多くの人に新鮮な印象を与えたことが大きかったのでしょう。

 しかし、終盤になると、全国規模の支持率でもトランプ前大統領の優勢を伝える情勢調査もあり、ハリス副大統領が失速したというか、伸び悩んでいる感がありました。そもそも、バイデン大統領はすでに就任時点においてアメリカ合衆国大統領としては史上最高齢で、当ブログの前回のアメリカ合衆国大統領選挙の記事でも述べたように、1期での退任を確実視していた人は多かったように思います。それなのにバイデン大統領が再選を目指したのは、バイデン政権でのハリス副大統領の政治家としての評価が高くなく、ハリス副大統領ではトランプ前大統領に勝てない、との判断があったからで、ハリス副大統領に大統領候補者としての魅力が欠けていたことは否めないでしょう。大統領選終盤での失速というか伸び悩みは、仕方のないところもあるかな、とは思います。

 正直なところ、トランプ前大統領はあまりにも自己愛が強く、政治を不動産業と同じように考えているところも見られ、大統領としてはまったく支持できませんでした。2016年の大統領選の直後だったと記憶していますが、現実主義者(気取り)がトランプ大統領の頭の良さを褒め、優れた大統領になる、と予想していました。しかし、率直に言って、トランプ大統領は頭が良いとはいっても、それは詐欺師・扇動者としての才能で、政治家にそうした才能が不要とは言いませんが、トランプ大統領のようにそうした才能に特化した人が世界最強の国の政治面での最高指導者では困ります。トランプ政権の同盟国軽視は懸念された通りでしたし、2020年の大統領選では敗北を認めず、ついには議会襲撃に至りました(トランプ前大統領はこの点に関して自身の責任を認めていないでしょうし、その支持者も同様なのでしょう)。偽情報を流すのは低負担、それを検証して否定するのは高負担という人間社会の嫌な真理を悪用し、騙せる奴だけ騙せればよい、と考えているとしか思えない言動を繰り返す人物が、一国、それも世界最強国の最高政治指導者に相応しいとはまったく考えていないので、政治家としてのトランプ前大統領への私の印象はきわめて悪く、その大統領復帰をずっと懸念していました。

 一方で、ハリス副大統領も、政治家としての手腕に疑問が残り、大統領に相応しくなさそうなことや、「woke」に肯定的なこと(これはハリス副大統領に限らず、近年の民主党全体でその傾向が強くなっているように思いますが)から、まったく支持できない大統領候補者です。反「woke」の点で私はハリス副大統領よりもトランプ前大統領の方にずっと近いでしょうが、まあそれでも、トランプ前大統領よりはハリス副大統領の方がアメリカ合衆国の大統領としてはましかな、と考えていました。しかし、上述のように、直前の一部情勢調査では、全国規模の支持率でトランプ前大統領がハリス副大統領を上回った、と伝えられていましたし、アメリカ合衆国大統領選挙は獲得した選挙人の数で当選が決まり、選挙人は基本的に州ごとの勝者総取りという特異な選挙制度なので、全国規模の支持率よりも接戦州の支持率の方が重要になるわけですが、こちらも僅差ながらトランプ前大統領が優勢と伝えられており、トランプ前大統領勝利の可能性がかなり高いように思えたため、ほぼ諦めながら開票状況を見ていました。

 結果は、終盤の情勢調査を反映して、トランプ前大統領が選挙人の獲得数で上回って事実上当選を決め、総得票数でもハリス副大統領を上回るようです。焦点の激戦州も、すべてトランプ前大統領が制しました。1992年から2020年までの8回のアメリカ合衆国大統領選挙において、共和党の候補者が民主党の候補者を総得票数で上回ったのは2004年の1回だけでしたが、その総得票数でもハリス副大統領はトランプ前大統領を下回り、ハリス副大統領には大きな醜聞報道もなかったように思われますから、いかにハリス副大統領が大統領としては魅力に欠ける候補だったのか、よく示されているように思います。まあ、ハリス副大統領は「黒人系」で「アジア系」で女性ですから、「黒人系」の大統領はすでに実現しているものの、女性と「アジア系」の大統領はまだ実現していないことを考えると、この点での不利は小さくなかったのかもしれません。

 それにしても、投票直前には私も、トランプ前大統領の返り咲きとなりそうだな、と予想はしていましたが、総得票数でトランプ前大統領が300万票以上、得票率でも2.2ポイントほど上回り、予想以上の差となりました。トランプ前大統領の得票率は50.3%、ハリス副大統領の得票率は48.1%でした。上述のように、終盤戦でハリス副大統領が失速した感はありましたが、意外なほどの伸び悩みでした。直近8回のアメリカ合衆国大統領選挙において、唯一共和党の候補者が総得票数で民主党の候補を上回った2004年では、共和党側の得票率が50.73%で、その後は総得票数で共和党の候補者が民主党の候補者を上回ったことは一度もなかったことを考えると、今回は共和党にとって大勝利と言えるでしょう。

 ハリス副大統領の敗因としては、経済状況というか物価高によるバイデン政権への不満が決定的だったのでしょうが、これまで民主党の票田だった「黒人系」と「ヒスパニック系」、とくに「ヒスパニック系」が共和党側に流れたことを挙げた指摘も見かけました。どこで読んだのか忘れましたが、「黒人系」と「ヒスパニック系」において民主党から共和党への支持の移行が見られる、との指摘を今回のアメリカ合衆国大統領選挙の前に見かけました。「woke」に傾倒する民主党に、カトリック信者の多い「ヒスパニック系」が違和感を抱くようになった、との見解だったように記憶していますが、そうした側面は確かにあるのでしょう。一方でこれは、「人種」など先天的な属性によって投票先を決めていたのが、個人の信条や世界観に従って投票先を決めるようになった、とも言えるわけで、ある意味では肯定的に評価すべきなのかもしれません。ハリス副大統領が敗れた背景については、専門家の深い指摘があり、教えられるところが多々ありました。

 トランプ前大統領の当選で数少ないよさそうなところを挙げるならば、2021年の議会襲撃事件のような事態に至る可能性は低そうなことです。ハリス副大統領がトランプ前大統領に大差をつけて勝つ可能性はほぼなかったので、ハリス副大統領が接戦で勝っていたとしたら、トランプ前大統領の支持者のうち過激派が、議会襲撃かそれ以上の事件を起こしても不思議ではなかったように思います。これで、アメリカ合衆国の分断がさらに進むのか、あるいはそうした分断の時代は終焉に向かい始めつつあり、私のような凡人は派手な動きに惑わされているだけなのか、判断できませんが、日本に限らず、多くの国と人々にとってトランプ前大統領の勝利は多くの点で悪い結果をもたらすだろう、と懸念しています。上院は共和党が多数派を奪還し、下院も共和党が多数派を維持しそうで、トランプ次期大統領への制約がさらに小さくなったことから、なおのこと不安が募ります。とくに、ウクライナと台湾の情勢は懸念しており、トランプ次期大統領は中間選挙までに色々と仕掛けてくるでしょうから、強い警戒が必要です。それでも、絶望せずに自分ができる範囲で日々暮らしていくしかない、と覚悟を決めるしかないでしょう。なお、過去のアメリカ合衆国大統領選挙に関する記事は以下の通りです。

2008年
https://sicambre.seesaa.net/article/200811article_6.html

2016年
https://sicambre.seesaa.net/article/201611article_11.html

2020年
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_13.html

米国大統領選の世論調査の検証
https://sicambre.seesaa.net/article/201707article_8.html

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