第50回衆院選結果

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、議席と得票数が確定したので、先日(2024年10月27日)投票が行なわれた衆院選について取り上げます。各党の確定議席数は以下の通りで、()は公示前の議席数です。

自民党:191(247)
立憲民主党:148(98)
日本維新の会:38(44)
公明党:24(32)
国民民主党:28(7)
れいわ新選組:9(3)
共産党:8(10)
参政党:3(1)
保守党:3(0)
社民党:1(1)
無所属・その他:12(22)

 各党の比例選の得票率(%)は以下の通りで、()は前回の得票率です。

自民党:26.73(34.66)
立憲民主党:21.20(20.00)
日本維新の会:9.36(14.01)
公明党:10.93(12.38)
国民民主党:11.32(4.51)
れいわ新選組:6.98(3.86)
共産党:6.16(7.25)
参政党:3.43(─)
保守党:2.10(─)
社民党:1.71(1.77)

 近年の国政選挙では大手マスコミの選挙戦序盤の予想に大きな違いはなく、おおむね予想通りの結果となる傾向にありましたが、今回は序盤と終盤で情勢が大きく変わった、との報道もあり、予想の難しい選挙となったように思います。自民党の議席減は序盤からどの調査でも変わりませんでしたが、序盤には自民党で単独過半数との予想もあり、自民党の単独過半数は難しそうでも、与党の自民党と公明党で過半数は確実との調査だったのが、終盤には与党の過半数割れの可能性も低くない、と報道されるようになりました。

 結果は、おおむね終盤の情勢調査通りで、与党の過半数割れとなりました。今回の衆院解散のさいに、石破首相が目標として掲げた与党での過半数は、ずいぶんと甘い基準に思えましたが、じっさいに与党での過半数割れになるとは、選挙戦序盤にはほぼまったく予想していませんでした。衆院選終了直後の現時点では、次の首相が誰になるのか、確定しているとは言い難いように思います。こうした状況は、私がある程度衆院選を理解し、意識して衆院選の情報を得るようになった1983年以降では、1993年以来です。自民党が政権の維持や奪還で苦しい時に連立相手に取り込んだ政党は、公明党を除き、新自由クラブを初めとして消滅もしくは分裂などで衰退しているので、日本維新の会も国民民主党も自民党との連立政権を選択しないだろう、と予測しています。そうすると、首相指名選挙で石破首相と立憲民主党の野田元首相の決戦投票となり、自民党と公明党と立憲民主党以外は棄権して、第二次石破内閣が成立しそうです。ただ、自民党内で石破首相への退陣要求が高まると、石破首相が辞任に追い込まれるかもしれず、その場合は誰が首相となるのか、現時点では予想の難しいところです。

 自民党大敗の要因として、やはり物価高が大きいのでしょうが、石破首相の迷走も含めて選挙戦略の誤りもあるように思います。石破首相には確たる党内基盤がなく、大衆媒体の報道に右往左往する側面が多分にあり、結果的に「裏金」を論点にしてしまった印象が否めません。岸田前首相も、党内基盤がさほど強くないことから、大衆媒体の報道に振り回されていた感がありますが、石破首相はこの点で岸田前首相以上に迷走していたように思います。これは、石破首相より強固とはいえ、党内基盤が弱い菅義偉元首相にもそうしたところがあり、この点が「一強」と呼ばれた安倍元首相とその後の首相との大きな違いのように思います。尤も、現代日本の大衆民主主義において、安倍元首相といえども、大衆媒体の意向を完全に無視することはとてもできなかった、とは思いますが。

 石破首相がそうして迷走した理由として、政権中枢から長く離れていたことが挙げられるように思います。政権中枢から離れれば、いかに最大与党にいても、政治的機微に関わる本当の重要情報はなかなか得にくいでしょうし、政局観も鈍ってくるのではないか、と思います。石破首相が、現時点でとても現実的ではないどころか、提案事態が東南アジア諸国などに不信感を抱かせることになりかねない、「アジア版NATO」を提唱し、一応は撤回したものの、まだ検討を続けさせていることなどは、政権中枢から長く離れていた悪影響のように思います。もちろん、政権中枢から長く離れていても研鑽を続けている政治家は与党のみならず野党にもいるのでしょうが、正直なところ石破首相はその間、自民党内で責任のない(軽い)立場から責任の重い立場の人を「正論」で批判し、自民党の地方議員や党員や支持者の不満を聞くだけで、「党内野党」の立場にいて一定以上の人気を得ることに安住してしまった印象を受けます。尤も、自民党に限らず、政権中枢から離れていた時代の石破首相のような存在は組織で必要かもしれませんが、組織で責任の重い立場、とくに最高責任者にしてはならないのでしょう。

 石破首相は安倍元首相に批判的な言動で一定の人気を得ていましたが、安倍元首相が在任中に2回行なった、いわゆる憲法7条解散に批判的だったのに、首相就任直後というか直前に憲法7条解散を決断し、安倍元首相の決め台詞とも言うべき「悪夢の民主党政権」を、情勢調査で苦境にあると明らかになってきた選挙戦終盤に使いました。正直なところ、安倍元首相のこうした言動は国民の分断を煽るもので、首相として適切ではなかった、と今でも考えていますが、安倍政権を支えた最大の要因は日本国民の民主党政権への忌避感だったでしょうから、「現実的な」政治家としては「合理的な」振る舞いだった、とも言えるでしょう。気楽な立場からは「正論」や「綺麗ごと」を言えても、いざ責任のある立場に就任すると、「現実的な」振る舞いに終始することは珍しくないかもしれませんが、石破首相の場合はそれで結果を出せなかったわけで、無様というか醜悪でした。正直なところ、「小石河首相」は勘弁して欲しい、と以前からずっと思っており、河野太郎元外相はもう首相への道は実質的に絶たれているでしょうし、石破首相は、第二次石破内閣の発足にこぎつけても、短期政権で終わりそうですが、今回の衆院選敗北の責任を取って、選挙対策委員長をいち早く辞任した小泉進次郎元環境相はさすがに抜け目ない感じで、首相候補として残ったように思われ、今後も警戒すべき政治家の一人と考えています。まあ、石破首相への私の印象は以前よりひじょうに悪く、SNSやブログにてお気楽政治漫談でもやっているのがお似合いで、政治家、ましてや首相の器ではない、と考えていたので、石破首相を過小評価しているというか、実際よりかなり歪んで把握している可能性は否定できませんが。

 公明党は自民党への逆風の煽りで議席を大きく減らし、党首も落選してしまいましたが、これは、創価学会員の高齢化や、昨年創価学会の池田大作名誉会長が死去したことも大きいのでしょう。一方、与党への逆風にも関わらず、野党では日本維新の会と共産党は議席を減らし、比例選での得票率も下がってしまいました。日本維新の会の不振は、所属議員の不祥事や兵庫県の前知事の問題や大阪万博の迷走も大きかったのでしょうが、「鮮度」が下がり、「既成勢力」の一員と考える有権者が増えてきたこともあるように思います。日本維新の会に投票するつもりは全くなく、危険視してきたので、この退潮にはやや安堵していますが、他の野党の迷走によって今後再浮上する可能性もあると考えているので、油断は禁物です。

 共産党も不振で、公明党のように支持者の高齢化が大きいのでしょうが、除名問題などでの権威主義的対応が忌避されたところもあり、立憲民主党やれいわ新選組などに強固ではない支持者が流れたのでしょう。共産党の調査能力や追及能力は今でも優秀なので、過去に共産党が他の野党と基本的には連携せず、独自路線を歩んでいた頃には、国政選挙で共産党に投票したこともありましたし、近年も地方選では共産党の候補に投票することがあるだけに、議席数と比例選での得票率でれいわ新選組を下回ったのは衝撃的で、たいへん残念です。私はかなり保守的なので、共産党の調査および追及能力の優秀さとともに、その保守的体質というか、現在の日本社会(の少なくとも一部)に取り込まれていること(それが、「新左翼」の批判するところなのでしょうが)も評価して、以前には国政選挙で共産党に投票したこともありましたが、そうした共産党の体質が若い世代には忌避されている側面も大きいのかもしれません。

 野党では、立憲民主党と国民民主党とれいわ新選組と参政党と保守党が躍進しましたが、本当に躍進したと言えるのは国民民主党とれいわ新選組だけのように思います。参政党の比例選での得票率は2022年の参院選(3.33%)と比較してさほど変わりませんし、保守党は知名度の高い名古屋市長を擁立して議席獲得に至りましたが、両党ともまだ本格的に警戒すべきところまでは至っていないように思います。立憲民主党は比例選の得票率が、2022年の参院選(12.77%)よりもかなり盛り返しましたが、衆院選では前回とさほど変わらず、今回の投票率(53.85%)が前回(55.93%)をやや下回ったこともあり、比例選での得票数は前回を7万票ほど上回っただけでした。小選挙区制では第一党だけではなく第二党にも有利に作用する傾向にあり、立憲民主党は今回、自民党の自滅や第二党の競合相手としての日本維新の会の不振もあってその恩恵を最大限に受け、議席数を大きく増やした、と言うべきでしょう。民主党政権の崩壊後、責任の軽い立場で自民党を攻撃してきた立憲民主党に、政権を担うだけの準備ができているとはとても思えず、まずないとは思いますが、立憲民主党の現党首である野田元首相が来月の臨時国会で首相に選出されたならば、第二次野田内閣は第一次野田内閣よりも短期間で崩壊し、立憲民主党自体が分裂して消滅する可能性は高いように思います。

 野党で本当に躍進した国民民主党は、自民党のみならず、立憲民主党や日本維新の会も忌避する有権者に支持されたのかな、と思います。ただ、この大躍進に相応しいだけの人材が揃っているかとなると、かなり疑問が残りますし、選挙戦最終日の演説をめぐる迷走など、党首の軽さも気になります。何よりも、「尊厳死の法制化」など、政策面でも危うさがありますが、こうした点を克服して、自民党に対峙できる政党に成長できるのか、注目しています。れいわ新選組の躍進は本当に脅威で、さすがにこれはまずい状況だと思います。とはいえ、あまりにも深刻に考えて過大評価に陥らないよう、注意すべきなのでしょう。れいわ新選組に限らず、自民党や立憲民主党や日本維新の会などが躍進すると、すぐに日本は終了したとか崩壊するとか言う人もいますが、そうした人の多くは、内心では日本がまだ簡単には終了・崩壊しないと思っているから、安心して娯楽としてそのように放言しているように思います。日本の保守的な一国民としては、そうした無責任な発言に惑わされず、自分のできることを地道にやっていくしかなく、政治に「劇場」や「派手な」やり取りは不要と考えています。

 立憲民主党について言及したさいにも指摘しましたが、現在の衆議院の選挙制度では、比例選で得票率に差がなくとも、議席数に大きな違いが生じる場合もあります。自民党の今回の比例選での得票率26.73%は、政権に復帰した2012年の衆院選での27.62%とさほど変わりませんが、議席数は今回の方が100議席以上少なくなっています(非公認で自民党に復帰しそうな議員を含めると、もう少し差は小さくなりますが)。小選挙区制が導入された1990年代より、死票の多さは問題とされており、完全比例代表制を主張する人もそれなりにいるとは思います。一方で、完全比例代表制にも小政党乱立の問題があり、オランダでは長期間組閣で合意できなかったり、インドやイスラエルなどでは小政党が国民からの支持よりもずっと大きな影響力を有してしまったりするなど(インドでは最近、インド人民党が強いので、この問題は以前ほど深刻ではないようにも思えます)、弊害もあることはとても否定できません。日本のような二院制の国では、どちらか一方を完全比例代表制にして、もう一方を完全小選挙区制にするなど、色々と考えられますが、現時点では思いつき程度のことしか言えず、選挙制度の問題は時間をかけて議論していくしかないのでしょう。なお、過去の衆院選の記事は以下の通りです。

第45回(2009年)
https://sicambre.seesaa.net/article/200908article_31.html

第46回(2012年)
https://sicambre.seesaa.net/article/201212article_19.html

第47回(2014年)
https://sicambre.seesaa.net/article/201412article_17.html

第48回(2017年)
https://sicambre.seesaa.net/article/201710article_27.html

第49回(2021年)
https://sicambre.seesaa.net/article/202111article_5.html

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