クロアチアのネアンデルタール人のゲノムデータ
ヒト進化研究ヨーロッパ協会第14回総会で、クロアチアで発見されたネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のゲノムデータを報告した研究(Sümer et al., 2024)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P169)。ネアンデルタール人の詳細な遺伝的歴史もしくはさまざまなネアンデルタール人の集団内および集団間の人口関係については、ほとんど知られていません。この研究は、古代DNAの保存状態についてクロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija Cave)の骨格遺骸19点が検査され、そのうち15点でネアンデルタール人のDNAが検出されました。この研究では、較正年代で49500~42000年前頃と直接的に年代測定されたこれらの標本から、新たなゲノム規模データが提示されます。
炭素および窒素の安定同位体値に基づくと、これらの個体はおもに陸生草食動物に由来するタンパク質摂取の食性で、ヨーロッパ全域の他の後期ネアンデルタール人と一致します。1本鎖DNAライブラリの溶液内捕獲を用いて、核とミトコンドリアとY染色体のデータが得られ、これら15点の標本は合計で少なくとも11個体を表しており、そのうち9個体は女性だった、と分かりました。核DNAデータに基づくと、これらヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人は全員、他のネアンデルタール人とよりもヴィンディヤ33.19号の方と密接に関連しています。
母親と娘の1組が見つかり、そのうち1個体は他の2個体と2親等の近縁性を有していて、これらの個体の少なくとも一部は同じ時代に生きていた、と示されます。シベリア南部のアルタイ山脈のチャギルスカヤ洞窟(Chagyrskaya Cave)地域の6万年前頃に暮らしていたネアンデルタール人の1集団(関連記事)と比較すると、ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人は高いミトコンドリア多様性を示しており、この多様性は10万年前頃にまでさかのぼり、ヨーロッパの他の後期ネアンデルタール人で見られる多様性の多くを網羅しています。
合着(合祖)模擬実験を用いて、ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人の多様性はヴィンディヤ33.19号の高網羅率のゲノム(関連記事)から得られた人口規模推定値と一致する、と示され、これらの個体は単一の人口集団に由来する、と示唆されます。高いミトコンドリア多様性と一致して、標本のうち1点(ヴィンディヤ33.29号)は、ベルギーのスピ(Spy)洞窟の45330年前頃となるネアンデルタール人1個体(スピ94a号)とよりも、ロシア南部のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)洞窟の43500年前頃のネアンデルタール人1個体(メズマイスカヤ2号)の方と類似しています(関連記事)。
ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人と他の西方ネアンデルタール人で見られるより高いミトコンドリア多様性は、シベリアのネアンデルタール人で観察される低い多様性とは際立って対照的で、ネアンデルタール人集団の遺伝的多様性はユーラシア全体では異質だった、と示唆されます。これは恐らく、ネアンデルタール人の起源地はヨーロッパで、ネアンデルタール人はヨーロッパからアルタイ山脈などシベリアへと何度か拡散したこと(関連記事)を反映しているのでしょう。現生人類(Homo sapiens)の遺伝的多様性が、起源地のアフリカよりもアフリカ外の地域で低いことと同じ要因だろう、というわけです。
参考文献:
Sümer AP. et al.(2024): The genetic history of the Vindija Neandertals. The 14th Annual ESHE Meeting.
炭素および窒素の安定同位体値に基づくと、これらの個体はおもに陸生草食動物に由来するタンパク質摂取の食性で、ヨーロッパ全域の他の後期ネアンデルタール人と一致します。1本鎖DNAライブラリの溶液内捕獲を用いて、核とミトコンドリアとY染色体のデータが得られ、これら15点の標本は合計で少なくとも11個体を表しており、そのうち9個体は女性だった、と分かりました。核DNAデータに基づくと、これらヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人は全員、他のネアンデルタール人とよりもヴィンディヤ33.19号の方と密接に関連しています。
母親と娘の1組が見つかり、そのうち1個体は他の2個体と2親等の近縁性を有していて、これらの個体の少なくとも一部は同じ時代に生きていた、と示されます。シベリア南部のアルタイ山脈のチャギルスカヤ洞窟(Chagyrskaya Cave)地域の6万年前頃に暮らしていたネアンデルタール人の1集団(関連記事)と比較すると、ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人は高いミトコンドリア多様性を示しており、この多様性は10万年前頃にまでさかのぼり、ヨーロッパの他の後期ネアンデルタール人で見られる多様性の多くを網羅しています。
合着(合祖)模擬実験を用いて、ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人の多様性はヴィンディヤ33.19号の高網羅率のゲノム(関連記事)から得られた人口規模推定値と一致する、と示され、これらの個体は単一の人口集団に由来する、と示唆されます。高いミトコンドリア多様性と一致して、標本のうち1点(ヴィンディヤ33.29号)は、ベルギーのスピ(Spy)洞窟の45330年前頃となるネアンデルタール人1個体(スピ94a号)とよりも、ロシア南部のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)洞窟の43500年前頃のネアンデルタール人1個体(メズマイスカヤ2号)の方と類似しています(関連記事)。
ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人と他の西方ネアンデルタール人で見られるより高いミトコンドリア多様性は、シベリアのネアンデルタール人で観察される低い多様性とは際立って対照的で、ネアンデルタール人集団の遺伝的多様性はユーラシア全体では異質だった、と示唆されます。これは恐らく、ネアンデルタール人の起源地はヨーロッパで、ネアンデルタール人はヨーロッパからアルタイ山脈などシベリアへと何度か拡散したこと(関連記事)を反映しているのでしょう。現生人類(Homo sapiens)の遺伝的多様性が、起源地のアフリカよりもアフリカ外の地域で低いことと同じ要因だろう、というわけです。
参考文献:
Sümer AP. et al.(2024): The genetic history of the Vindija Neandertals. The 14th Annual ESHE Meeting.
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