池田雅雄『大相撲史入門』

 角川ソフィア文庫の一冊として、KADOKAWAから2020年9月に刊行されました。 電子書籍での購入です。本書は、著者の生前のさまざまな媒体に掲載された相撲に関する記事を編集した日本相撲史です。私が相撲を見るようになって40年以上経ちましたが、相撲史についてさまざまな本や雑誌の記事で断片的に得てきただけで、体系的な本を読んだことがなかったので、本書で日本相撲史を総合的に把握しようと考えました。以下、本書の興味深い見解を備忘録としてまとめます。

 本書が強調しているのは、世界中で相撲のような格闘技は珍しくない、ということです。確かに、相撲の原形となった格闘技は太古より世界中にあり、各地域で独自な発展を遂げ、日本の相撲やモンゴル相撲やレスリングやボクシングなどに発展し、日本の柔道も起源は相撲と同じ太古の格闘技なのでしょう。とはいえ、相撲が日本独特に発展した競技で文化であることも、間違いないでしょう。

 本書は、日本における相撲の確実な記録が飛鳥時代までさかのぼることを指摘します。本書は、相撲飛鳥時代以降に農耕儀礼の神事相撲が朝廷に取り込まれていった可能性を指摘します。奈良時代には朝廷において相撲はますます盛んになり、平安時代には相撲節会という独立した儀式が成立します。江戸時代以降の相撲との大きな違いとして、節会相撲には土俵も行司も存在せず、出場者以外は庶民と無関係だったことが挙げられます。

 相撲節会は平安時代末に途絶えてしまいますが、武士の間では鍛錬および娯楽として盛んになっていきます。ただ、武士の上層でも鎌倉時代中期以降には相撲節会的な儀式は衰退し、一方で下層武士や農村では相撲が盛んに行なわれ、相撲は庶民的性格が強くなっていきます。こうした社会中層〜下層における相撲の盛行が、江戸時代の勧進(職業)相撲、さらには近代の大相撲の隆盛へとつながっていきます。江戸時代には、各地に相撲渡世集団が存在しました。ただ、江戸時代初期の勧進相撲はしばしば喧嘩沙汰をもたらしたので、幕府相撲禁令を出したこともありました。

 江戸時代初期には相撲の中心は大坂と京都でしたが、次第に江戸へと移り、18世紀後半には現在の日本相撲協会の前身でもある相撲会所の制度組織も整い始めます。江戸時代の相撲には、庶民の娯楽としての側面とともに、各大名が力士を召し抱えて支えた側面もありました。江戸時代に隆盛を誇った相撲は近代化の過程で危機に陥ります。「文明開化」の時代に「野蛮な」相撲は相応しくない、というわけです。相撲会所の幹部は明治政府に訴えて、力士が消防や日清戦争などで貢献することにより、相撲廃止論を鎮静化していきました。近代化と第二次世界大戦での敗戦は全国規模の相撲興行にとって大きな危機でしたが、それを乗り越えたことで、その後も浮沈はありつつも、現在に続く相撲隆盛の基礎が確立しました。

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