変動する選択から明らかになる適応の繊細さ

 変動する選択から適応の繊細さを明らかにした研究(Bitter et al., 2024)が公表されました。時間的に変動する環境条件は、自然生息地に普遍的な特徴です。しかし、自然個体群が、集団内に存在する遺伝的多様性の変化を通して、変動する選択圧に対してどの程度の細かさで適応的に追従しているのかは不明です。この研究は、大規模に複製された野外メソコスム(生態系を模擬実験できる人工的環境)において、6月下旬から12月中旬にわたり(約12世代に相当する期間)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の遺伝的に多様な個体群から1~2世代ごとにゲノム規模の対立遺伝子頻度データを収集しました。

 その結果、個体群の拡大やピーク密度や崩壊といった、基本的な生態学的段階の全期間にわたる適応は、いずれの複製群でもゲノム多様性のきわめて急激な並行的変化によって支えられている、と分かりました。しかし、選択の主要な方向性は、これらの生態学的段階内でも繰り返し変動していました。アレル(対立遺伝子)頻度の変化のパターンを同じ実験系から得られた別のデータセットと比較すると、選択の標的は異なる年でも予測可能と示されました。

 まとめると、これらの結果は集団内に存在する遺伝的多様性の適応的関連性を明らかにしており、これはおそらく、静的な個体群標本抽出や分解能の不充分な時系列データに基づく推論法では、隠れている可能性が高そうです。このような微細規模の時間的に変動する選択は、自然個体群の機能的な遺伝的多様性の維持に寄与する重要な力であり、遺伝子のヒッチハイク効果に類似の、連鎖した中立的部位における多様性のゲノム規模のパターンに影響を与える、重要な確率論的力かもしれない、と本論文は提唱します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:絶えず変動する選択が明らかにする適応の微細さ

進化学:緻密なサンプリングで環境への適応の細かさを検討する

 今回、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の個体群において、適応的追従が詳細に調べられ、遺伝子型や表現型の変化が短期間で大きく変動することが明らかになった。



参考文献:
Bitter MC. et al.(2024): Continuously fluctuating selection reveals fine granularity of adaptation. Nature, 634, 8033, 389–396.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07834-x

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