ハイギョ類の進化

 ゲノム解析によるハイギョ類の進化についての研究(Schartl et al., 2024)が公表されました。現生ハイギョ類のゲノムは、デボン紀における肉鰭類魚類から四肢類への移行の分子発生的な基盤に関して情報をもたらすことができます。この研究は、アフリカハイギョの一種であるプロトプテルス・アネクテンス(Protopterus annectens)とミナミアメリカハイギョ(Lepidosiren paradoxa)について、ゲノム塩基配列の新規変異(de novo変異、親の生殖細胞もしくは受精卵や早期の胚で起きた変異)解読を行ないました。

 ミナミアメリカハイギョのゲノムは約910億塩基対(91Gb)でヒトゲノムの約30倍となり、はこれまでに塩基配列が解読された動物ゲノムの中で最大で、オーストラリアハイギョ(Neoceratodus forsteri)およびアフリカハイギョのゲノム規模の2倍以上でした。この巨大なゲノム規模は、反復配列の多い(約90%)、大きな遺伝子間領域およびイントロンに起因します。いずれのハイギョのゲノムも、一部の転移性遺伝因子(transposable element、略してTE)が現在も活性を保持していて、拡大を続けている、と示されました。

 とくに、ミナミアメリカハイギョのゲノムは過去1億年間に急速に拡大しており、1000万年ごとにヒトゲノム1セットに相当する量が追加されていました。この大規模なゲノム拡大は、TEの拡大を抑制する、PIWI結合RNA(piRNA)や、C2H2ジンクフィンガーとKRAB(Krüppel-associated box)ドメインを含むタンパク質の遺伝子の減少に関連する、と考えられます。大量のTEは染色体再編成を促進しますが、ハイギョ類の染色体は依然として祖先的な四肢類の核型を保存していました。

 オーストラリアハイギョの肢様の鰭は絶滅した近縁動物と類似しており、その表現型は約1億年にわたり変化していません。本論文、ミナミアメリカハイギョとアフリカハイギョ類の祖先における肢様の付属肢の二次的な喪失が、おそらくソニックヘッジホッグ(sonic hedgehog、略してSHH)の肢特異的エンハンサーの喪失に起因したことを示します。ハイギョは肉鰭類に属しており、肉鰭類の一部から陸上脊椎動物が進化したと考えられているので、現代人にとっては魚類の中でも比較的近縁となります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化遺伝学:ハイギョ全系統のゲノムから得られた、ゲノムの拡大と四肢類の進化に関する情報

進化遺伝学:ハイギョ類ゲノムで探る四肢類の進化

 今回、ハイギョ類の全3系統(アフリカハイギョ、ミナミアメリカハイギョ、オーストラリアハイギョ)のゲノムを比較した研究で、ハイギョ類のゲノムの巨大化と四肢類の進化の基盤となる機構について、貴重な手掛かりが得られた。



参考文献:
Schartl M. et al.(2024): The genomes of all lungfish inform on genome expansion and tetrapod evolution. Nature, 634, 8032, 96–103.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07830-1

この記事へのコメント