ヨーロッパ東部のネアンデルタール人のミトコンドリアDNA
ヒト進化研究ヨーロッパ協会第14回総会で、ヨーロッパ東部のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析結果を報告した(Picin et al., 2024)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P135)。ヨーロッパの最終氷期は、温暖なエーミアン(Eemian)気候に続くネアンデルタール人の人口再編の重要な期間で、長期のより寒冷な気候および氷期の気候悪化へと移行しました。再構築された完全なミトコンドリアゲノムとゲノム規模データの両方を用いた最近の研究は、海洋酸素同位体ステージ(Marine Isotope Stage、略してMIS)の6・5d・5b・4の終わりと一致する、ネアンデルタール人における明らかな年代と関連した区分を示唆してきました(関連記事1および関連記事2および関連記事3)。
これらの人口変化の動態とネアンデルタール人の放散事象のあり得る起源、つまり、ネアンデルタール人はヨーロッパ南部さまざまなネアンデルタール人集団の拡散もしくはレヴァントに由来するのかどうかは、まだ不明です。したがって、ネアンデルタール人の地理的および時間的範囲全体にまたがるネアンデルタール人からのゲノムデータ回収と、そのゲノムデータを考古学と年代学と古気候学のデータとともに共同分析することは、ネアンデルタール人の人口動態におけるこれら退避地域の潜在的役割の解明に重要です。
この研究では、MIS5a~3となるヨーロッパ中央部および東部のミコッキアン(Micoquian)の人類(関連記事)、および前期オーリナシアン(Aurignacian、オーリニャック文化)の人類(関連記事)の短期の居住によって特徴づけられる遺跡である、ポーランドのスタイニヤ洞窟(Stajnia Cave)のネアンデルタール人の歯9点のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析が提示されます。通常、ミコッキアンはカイルメッサーグループ(Keilmessergruppen、略してKGM)とともにネアンデルタール人の、前期オーリナシアンは現生人類(Homo sapiens)の所産とされます。
これらネアンデルタール人の歯は、層序学的にMIS3と相関する単位Dから回収されました。DNAは8~29.8mgの象牙質の粉末から抽出され、1本鎖DNAライブラリへと返還されました。各ライブラリの一定分量は、イルミナ(Illumina)構築基盤上での配列決定の前に、mtDNA断片で濃縮されました。スタイニヤ洞窟の8点の歯のうち7点から完全なミトコンドリアゲノムが再構築され、それらは以前に刊行されたネアンデルタール人個体(スタイニヤS5000)のミトコンドリアゲノム(関連記事)、およびネアンデルタール人42個体や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)4個体や、現代人54個体や、確実に放射性炭素年代測定された現生人類(Homo sapiens)54個体や、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(略してSH)の人類1個体や、チンパンジー1個体のミトコンドリアゲノムとともに分析されました。
スタイニヤ19415の歯から部分的なmtDNA配列が再構築され(全体の54.93%)、これが既知のネアンデルタール人のmtDNA多様性内に収まる、と判断されました。最大節約および最尤分析の両方を利用することによって、スタイニヤ洞窟のネアンデルタール人のミトコンドリアゲノムは、116000年前頃(ただ、信頼区間は大きく、152515~83101年前です)となるネアンデルタール人個体スタイニヤS5000(関連記事)を含めて、すべてのスタイニヤ洞窟のネアンデルタール人のミトコンドリアゲノムはともにクラスタ化する(まとまる)、と分かりました。
スタイニヤ洞窟のネアンデルタール人の歯3点(S19417とS4619とS16066)は同一のミトコンドリアゲノムを示したので、これらは同一個体か母系で親族関係にある個体群に由来するかもしれません。スタイニヤS23310のミトコンドリアゲノムはスタイニヤS5000ともっとも近く、違いはわずか6ヶ所です。再構築されたミトコンドリアゲノムに基づくと、スタイニヤ洞窟の合計9点のネアンデルタール人の歯は、少なくとも6人の異なる個体を表しています。注目すべきことに、スタイニヤ洞窟のネアンデルタール人の歯のミトコンドリアゲノムはすべて、コーカサス北部のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)洞窟のネアンデルタール人個体(メズマイスカヤ1号)のミトコンドリアゲノムと、最少数の違いしかなくて最も近く、スペインの彫像坑道(Galería de las Estatuas、略してGE)の堆積物標本から回収されたmtDNA配列(関連記事)とクレード(単系統群)を形成します。
他のヨーロッパの遺跡からの堆積物DNAの結果を統合したさらなる研究が、「後期ネアンデルタール人」型への移行前のユーラシア西部全域にわたる、スタイニヤS5000/メズマイスカヤ1号のmtDNAハプロタイプの分布の根底にある過程を解明するでしょう。現在のドイツで発見されたネアンデルタール人と関連づけられそうな遺跡の比較からは、ネアンデルタール人集団が移住・撤退もしくは絶滅・(孤立した集団の退避地からの)再移住といった過程を繰り返していたことが窺えるので(関連記事)、古代DNA研究の進展によって、ネアンデルタール人の複雑な人口史がじょじょに解明されていくのではないか、と期待されます。
参考文献:
Picin A. et al.(2024): The Micoquian Neanderthals from Stajnia Cave, Poland. The 14th Annual ESHE Meeting.
これらの人口変化の動態とネアンデルタール人の放散事象のあり得る起源、つまり、ネアンデルタール人はヨーロッパ南部さまざまなネアンデルタール人集団の拡散もしくはレヴァントに由来するのかどうかは、まだ不明です。したがって、ネアンデルタール人の地理的および時間的範囲全体にまたがるネアンデルタール人からのゲノムデータ回収と、そのゲノムデータを考古学と年代学と古気候学のデータとともに共同分析することは、ネアンデルタール人の人口動態におけるこれら退避地域の潜在的役割の解明に重要です。
この研究では、MIS5a~3となるヨーロッパ中央部および東部のミコッキアン(Micoquian)の人類(関連記事)、および前期オーリナシアン(Aurignacian、オーリニャック文化)の人類(関連記事)の短期の居住によって特徴づけられる遺跡である、ポーランドのスタイニヤ洞窟(Stajnia Cave)のネアンデルタール人の歯9点のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析が提示されます。通常、ミコッキアンはカイルメッサーグループ(Keilmessergruppen、略してKGM)とともにネアンデルタール人の、前期オーリナシアンは現生人類(Homo sapiens)の所産とされます。
これらネアンデルタール人の歯は、層序学的にMIS3と相関する単位Dから回収されました。DNAは8~29.8mgの象牙質の粉末から抽出され、1本鎖DNAライブラリへと返還されました。各ライブラリの一定分量は、イルミナ(Illumina)構築基盤上での配列決定の前に、mtDNA断片で濃縮されました。スタイニヤ洞窟の8点の歯のうち7点から完全なミトコンドリアゲノムが再構築され、それらは以前に刊行されたネアンデルタール人個体(スタイニヤS5000)のミトコンドリアゲノム(関連記事)、およびネアンデルタール人42個体や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)4個体や、現代人54個体や、確実に放射性炭素年代測定された現生人類(Homo sapiens)54個体や、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(略してSH)の人類1個体や、チンパンジー1個体のミトコンドリアゲノムとともに分析されました。
スタイニヤ19415の歯から部分的なmtDNA配列が再構築され(全体の54.93%)、これが既知のネアンデルタール人のmtDNA多様性内に収まる、と判断されました。最大節約および最尤分析の両方を利用することによって、スタイニヤ洞窟のネアンデルタール人のミトコンドリアゲノムは、116000年前頃(ただ、信頼区間は大きく、152515~83101年前です)となるネアンデルタール人個体スタイニヤS5000(関連記事)を含めて、すべてのスタイニヤ洞窟のネアンデルタール人のミトコンドリアゲノムはともにクラスタ化する(まとまる)、と分かりました。
スタイニヤ洞窟のネアンデルタール人の歯3点(S19417とS4619とS16066)は同一のミトコンドリアゲノムを示したので、これらは同一個体か母系で親族関係にある個体群に由来するかもしれません。スタイニヤS23310のミトコンドリアゲノムはスタイニヤS5000ともっとも近く、違いはわずか6ヶ所です。再構築されたミトコンドリアゲノムに基づくと、スタイニヤ洞窟の合計9点のネアンデルタール人の歯は、少なくとも6人の異なる個体を表しています。注目すべきことに、スタイニヤ洞窟のネアンデルタール人の歯のミトコンドリアゲノムはすべて、コーカサス北部のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)洞窟のネアンデルタール人個体(メズマイスカヤ1号)のミトコンドリアゲノムと、最少数の違いしかなくて最も近く、スペインの彫像坑道(Galería de las Estatuas、略してGE)の堆積物標本から回収されたmtDNA配列(関連記事)とクレード(単系統群)を形成します。
他のヨーロッパの遺跡からの堆積物DNAの結果を統合したさらなる研究が、「後期ネアンデルタール人」型への移行前のユーラシア西部全域にわたる、スタイニヤS5000/メズマイスカヤ1号のmtDNAハプロタイプの分布の根底にある過程を解明するでしょう。現在のドイツで発見されたネアンデルタール人と関連づけられそうな遺跡の比較からは、ネアンデルタール人集団が移住・撤退もしくは絶滅・(孤立した集団の退避地からの)再移住といった過程を繰り返していたことが窺えるので(関連記事)、古代DNA研究の進展によって、ネアンデルタール人の複雑な人口史がじょじょに解明されていくのではないか、と期待されます。
参考文献:
Picin A. et al.(2024): The Micoquian Neanderthals from Stajnia Cave, Poland. The 14th Annual ESHE Meeting.
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