パン用コムギの進化史

 パン用コムギの進化史に関する研究(Cavalet-Giorsa et al., 2024)が公表されました。パンコムギ(Triticum aestivum)は世界的な主要作物で、ヒトの食餌における重要なカロリー源およびタンパク質源となっています。現在のパンコムギは、倍数化や栽培化や育種のボトルネック(瓶首効果)に起因して、野生祖先種よりも遺伝的多様性が低下しています。コムギの野生近縁種は遺伝的なリザーバーであり、パンコムギにこれまで取り入れられていない多様性や有益な対立遺伝子を有しています。

 本論文は、パンコムギDゲノムのドナーであるタルホコムギ(Aegilops tauschii)について、大規模なゲノム情報資源を確立し、解析しました。タルホコムギの46例のゲノムを解析することで、1つの病害抵抗性遺伝子のクローン化と、1つの複雑な病害抵抗性座位の全体にわたるハプロタイプ解析の実施が可能になり、アレル(対立遺伝子)とパラロガスな遺伝子コピーを識別できました。また、パンコムギDゲノムの複雑な遺伝的構成と歴史も明らかになり、これには遺伝的および地理的に異なるタルホコムギ亜集団の寄与が関わっていました。総合的にこれらの知見は、パンコムギDゲノムの複雑な歴史を明らかにするとともに、作物の改良における野生近縁種の可能性を示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


ゲノミクス:パンコムギDゲノムの起源と進化

ゲノミクス:パンコムギDゲノムの成り立ちを探る

 今回、パンコムギDゲノムのドナーであるタルホコムギ(Aegilops tauschii)の大規模なゲノム解析が行われ、パンコムギDゲノムは、複数のタルホコムギ亜集団が寄与する複雑な遺伝的構成を有することが示された。



参考文献:
Cavalet-Giorsa E. et al.(2024): Origin and evolution of the bread wheat D genome. Nature, 633, 8031, 848–855.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07808-z

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