アジア中央部および南東部集団と非現生人類ホモ属との遺伝的混合

 ヒト進化研究ヨーロッパ協会第14回総会で、アジア中央部および南東部現代人の祖先集団と、非現生人類(Homo sapiens)ホモ属であるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)との遺伝的混合に関する研究(Antoine et al., 2024)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P4)。

 ヒト種が10万~7万年前頃にアフリカを去ると、すでにユーラシアで何万年も定着していた他の人類、つまりネアンデルタール人やデニソワ人(関連記事)と遭遇しました。古遺伝学によって今では、混合事象がこれらの種と現生人類との間で起き、現在のユーラシア人口集団の祖先のゲノムへの古代型【非現生人類ホモ属型】ハプロタイプの遺伝子移入につながった、と分かっています。

 現生人類と古代型人類【非現生人類ホモ属】との間の混合を対象としたほとんどの研究は、ヨーロッパ西部とアジア東部とオセアニアの人口集団に焦点を当てました。これらの研究では、ヨーロッパ西部とアジア東部とオセアニアの人口集団はそのゲノムの1~3%をネアンデルタール人から継承した、と示されました。アジア東部およびオセアニアの人口集団は、別の古代型人類【非現生人類ホモ属】であるデニソワ人のゲノムの一部も継承しました。デニソワ人祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)はアジア東部人口集団では1%未満ですが、オセアニア人口集団では4%に達します。

 しかし、アジア中央部および南東部人口集団については、とくにアジア東部およびオセアニア人口集団との地理的近さを考えると、古代型人類【非現生人類ホモ属】との混合と関連する問題への取り組みにおける重要性にも関わらず、古代型人類【非現生人類ホモ属】集団との混合の水準はほぼ不明なままです。さらに、ネアンデルタール人もしくはデニソワ人と思われる古代型人類【非現生人類ホモ属】化石が、現在のアジア中央部および南東部人口集団が暮らす地域で発掘されました。

 したがって、この計画では、ネアンデルタール人およびデニソワ人と、現在のアジア中央部およびアジア南東部大陸部人口集団の祖先との間の混合の痕跡が調べられました。その結果、ネアンデルタール人とアジア中央部および南東部人口集団【の祖先集団】との間で遺伝子流動が起きた、と示されます。アジア中央部人口集団がそのゲノムの約1.8%をネアンデルタール人から継承した一方で、アジア南東部人口集団はゲノムの約2.1%をネアンデルタール人から継承しました。この遺伝子流動は、クロアチアのヴィンディヤ(Vindija)洞窟のネアンデルタール人と遺伝的に密接な独特なネアンデルタール人集団と、アジア中央部および南東部人口集団すべての祖先における混合の特有事象の結果のようです。

 アジア中央部および南東部人口集団がデニソワ人からそのゲノムのごく一部(1%未満)を継承したことも、浮き彫りになります。ネアンデルタール人からの遺伝的遺産とは対照的に、デニソワ人からの遺伝的遺産はさまざまなデニソワ人集団との複数回の混合事象の結果のようで、そうしたデニソワ人集団では、アルタイ地域のデニソワ人のゲノムからの遺伝的距離がさまざまなようです。


参考文献:
Antoine AB. et al.(2024): Investigation of admixture between Neanderthal, Denisova and Central and Southeast Asian populations. The 14th Annual ESHE Meeting.

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