大河ドラマ『光る君へ』第37回「波紋」

 今回も、宮中の人間模様を中心に話が展開しました。前回、多くの人が紫式部(まひろ、藤式部)と藤原道長(三郎)との特別な関係を疑うようになったでしょうが、赤染衛門は紫式部に、道長の妻で彰子の母親である源倫子を傷つけないよう忠告します。彰子はすっかり紫式部に傾倒し、明るくなって自己主張できるようになっており、倫子はその点でも紫式部に対して複雑な想いをいだいているようです。母親である自分が娘を「救えなかった」のに、旧知の紫式部が娘を「救った」ばかりか、夫の心も捕えたとなると、倫子の心中は穏やかではないでしょう。ただ、倫子は彰子の入内よりずっと前から道長には自分でも源明子でもない特別な女性がいると気づいているものの、それが紫式部だと確信しているのかは、まだ明示されていないように思います。倫子がそのことに気づいた時にどのような反応を見せるのかは、楽しみでもあり恐ろしくもあります。

 道長は、次の東宮を一条帝と彰子との間に生まれた敦成親王とする、と既定路線であるかのように紫式部に語り、紫式部も驚きます。現時点の東宮は居貞親王(三条帝)で、居貞親王の即位後に誰が東宮となるのかが貴族にとって重要な問題となるわけですが、道長が、一条帝とすでに亡くなった皇后である定子との間の皇子である敦康親王ではなく、自身の孫で敦康親王より年少である敦成親王を次の東宮とすでに決めているのは、これまで権勢欲が強くなく清らかな政治家として描かれてきた道長の変貌を示唆しているのでしょうか。まあこれは、敦康親王が東宮となることで、政治的手腕に欠ける定子の兄である藤原伊周が権勢を得て、政治が乱れることを道長は懸念している、との解釈なのかもしれず、そうならば、これまでの道長の人物造形と整合的ですが。

 紫式部は生家に戻り、娘の賢子と再会しますが、賢子は、母親に見捨てられたとの恨みもあってか、母親への対応は冷ややかです。この親子関係がどうなるのかも、本作終盤の見どころの一つとなりそうです。今回、武者である双寿丸は初登場となりますが、演じた伊藤健太郎氏がクレジットで連名だったのは意外で、以前の不祥事が影響しているのでしょうか。清少納言(ききょう)は、紫式部が執筆して後に『源氏物語』と呼ばれるようになった物語を、藤原伊周に頼んで入手して読み、紫式部と久しぶりに再会します。これまで、紫式部と清少納言は親しく、後に紫式部が日記で清少納言を腐すことはどう描かれるのか、注目していました。表面的な解釈ではなくひねりがあり、両者の友情は本質的に変わらない、といった仕掛も想定していましたが、次回描かれるだろう紫式部と清少納言のやり取りは、両者の関係に大きな溝が生じる契機になるかもしれず、どのような話になるのか、たいへん楽しみです。

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