上部旧石器時代後期ヨーロッパ南東部人類の学際的研究

 ヒト進化研究ヨーロッパ協会第14回総会で、上部旧石器時代後期ヨーロッパ南東部人類の学際的研究(Borić et al., 2024)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P17)。

 ルーマニアのドナウ峡谷地域のクリメンテ2(Climente II)遺跡の1ヶ所の続グラヴェティアン(Epigravettian、続グラヴェット文化)埋葬を唯一の例外として、ヨーロッパ南東部において後期氷期最盛期および更新世の最終段階の、他のグラヴェティアン(Gravettian、グラヴェット文化)および/もしくは続グラヴェティアンの年代の関節のつながった埋葬はありません。この証拠の欠如は、ヨーロッパの南部と中央部と西部と東部のさまざまな他地域とは際立って対照的です。

 ヨーロッパのこの地域における最終氷期採食民の遺伝的歴史の理解における間隙を修正するため、クリメンテ2遺跡の関節のつながった埋葬とは別に、同じ遺跡の他の2個体のゲノム規模データが分析されました。これら2個体のうち1個体は、ZooMS(Zooarchaeology by Mass Spectrometry、質量分光測定による動物考古学)として知られているコラーゲン・ペプチドフィンガープリンティングに基づいて、ヒトと確証されました。ZooMSは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのバダンジュ(Badanj)およびイタリア南部のロマネッリ洞窟(Grotta Romanelli)の続グラヴェティアンで以前に発掘された骨群のヒト遺骸の回収においても適用されました。

 DNAが10.1~34.8mgの微細標本から発掘され、一本鎖のDNAライブラリへと返還されました。各ライブラリの一部はその後、ミトコンドリアDNA(mtDNA)で濃縮され、ゲノム全体の部位は、他の現在および古代の現生人類(Homo sapiens)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)および種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)との集団関係について情報をもたらしました。

 クリメンテ2遺跡とバダンジュ遺跡とロマネッリ洞窟の個体群からの確実な古代DNAの抽出に成功し、63~319倍の網羅率で完全なmtDNAゲノムが再構築されました。これら再構築されたmtDNA配列は、それぞれヒトmtDNAハプログループ(mtHg)U5bとK1内に収まります。上述の標本は直接的に加速器質量分析法(accelerator mass spectrometry、略してAMS)放射性炭素年代測定も行なわれ、その較正年代は16500~13000年前頃の期間に収まりました。

 炭素(C)と窒素(N)の安定同位体値が分析され、平均δ¹³C値が–18.9±0.7パーミル(最小値は–18.2パーミル、最大値は–19.7パーミル)だったのに対して、平均δ¹⁵N値は14.7±3.1パーミル(最小値は11.1パーミル、最大値は18.67パーミル)でした。これらのデータは、ヨーロッパ南東部のさまざまな上部旧石器時代後期採食民集団間の、ゲノム祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)と集団類似性、およびこれらの集団がヨーロッパ全域の他集団とどのように関連しているのかについて、情報を初めて提供します。


参考文献:
Borić D. et al.(2024): First genome-wide aDNA data for Late Upper Palaeolithic individuals in southeastern Europe. The 14th Annual ESHE Meeting.

この記事へのコメント