大河ドラマ『光る君へ』第36回「待ち望まれた日」

 今回は、彰子の妊娠をめぐる人間模様が中心に描かれました。藤原道長(三郎)の娘である彰子は一条帝の中宮となり、ついに妊娠します。懐妊から出産にかけての彰子の様子は『紫式部日記』に詳細に書かれており、道長が紫式部(まひろ、藤式部)に命じたのではないか、と推測されています。本作でも、道長が紫式部に、彰子の懐妊から出産までの様子を記録するよう命じていました。彰子の成長が本作後半の見どころの一つと考えていましたが、すでに敦康親王の養育を通じて成長していたように見える彰子は、妊娠したことでさらに成長したようで、紫式部から漢籍も学ぼうとします。難産を乗り越えて皇子(敦成親王、後一条帝)を出産した彰子はさらに強くなったようで、次第に後の「国母」としての貫禄をつけていくのではないか、と注目しています。

 花山院の崩御は会話で語られ、これで冷泉院の皇子は自分だけになった、と居貞親王(三条帝)が嘆いていましたが、冷泉院は本作で未登場のみならず、これまでその存在が言及さえされていなかったように記憶しているので(序盤で言及されていたのを私が見落としているのかもしれませんが)、やや意外でした。冷泉院は彰子の懐妊時点ではまだ存命なのですが、さすがに今更登場することはないでしょうか。居貞親王は相変わらず野心的で腹黒いところを見せており、即位後の道長との軋轢がどのように描かれるのか、楽しみです。居貞親王の息子で、後に皇太子に立てられたものの辞退することになった敦明親王は今回が初登場となり、粗暴な人物だったと伝わっていることを踏まえた人物造形になるようです。

 道長と源倫子との間の娘である妍子は今回が成人役での初登場となり、後に三条帝の中宮となって禎子内親王を産みます。この時、生まれたのが皇子ではなかったため、道長はたいそう不機嫌だったそうですが、本作の道長の人物造形からは想像しにくい反応なので、本作ではどう描かれるのか、あるいは描かれないのか、注目しています。禎子内親王は、一条帝と彰子との間に生まれた後朱雀帝の皇后となって尊仁親王を産み、この尊仁親王が後に即位し(後三条帝)、摂関政治にとって大打撃となるわけです。藤原頼通に冷遇されていた禎子内親王と尊仁親王を支えたのが、道長と源明子との間の息子である藤原能信で、今回も示された明子の倫子への敵愾心というか競争意識が能信の生き様に大きく影響した、との設定かもしれませんが、さすがに本作ではそこまでは描かれないでしょうか。

 清少納言(ききょう)は久々の登場となりますが、現在は定子と一条帝との間に生まれた脩子内親王に仕えている設定のようで、藤原伊周から、紫式部の書いた物語が一条帝の心を掴んだと聞いて、その物語を読みたい、と伊周に頼み込みます。本作では紫式部と清少納言の関係はこれまで良好でしたが、彰子の懐妊を知り、一条帝が定子を忘れたのではないか、と被害妄想を募らせた感のある清少納言の紫式部への感情が大きく悪化し、それによって、紫式部が日記で清少納言を腐すような関係に変わっていくのかもしれず、両者の今後の関係には注目しています。

 紫式部と道長との関係が周囲に察知されるようになり、藤原公任が紫式部に語りかけた有名な逸話を用いた道長の行動によって、多くの人に両者の関係への疑念が深まる展開となりました。本作の道長は紫式部との関係となると冷静さを欠き、情動に流されるところがあるので、公任と紫式部のやり取りを見て嫉妬に駆られた反応は、これまでの描写と整合的ではあり、やはり本作の中核は紫式部と道長の関係である、と改めて思いました。これによって、すでに紫式部と道長の関係が怪しいのではないか、と聞かされて疑念を抱いていた赤染衛門は両者の関係をさらに疑ったようで、紫式部に道長との関係を直接的に問い質しましたが、今後、感の鋭い倫子がどう反応するのか、楽しみでもあり怖くもあります。

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