大河ドラマ『光る君へ』第32回「誰がために書く」

 今回は、紫式部(まひろ)が藤原道長(三郎)の長女で一条帝の后である彰子に仕えることになり、全48回だとすると、今回で全体の2/3まで到達したことになるわけで、当初の予想より展開が遅いわけですが、紫式部の没年は不明なので、本作がどこまで描くか分かるまで、判断の難しいところです。紫式部が執筆を開始した物語は道長を介して一条帝に献上され、道長を牽制するため、失脚した藤原伊周を再び復権させようと考えている一条帝は道長に、関心を抱かなかったかのように言いますが、実は道長の思惑通り、一条帝は後に『源氏物語』と呼ばれるこの物語に興味を抱き、続きを読みたいと伝えます。道長は一条帝が作者の紫式部にも興味を抱いていると知って、紫式部に彰子に仕えるよう要請します。紫式部に物語を書かせれば、一条帝が続きを読むため、彰子を訪れるのではないか、と考えたわけです。

 紫式部は彰子に仕えることになり、紫式部と彰子の関係は定子と清少納言(ききょう)の関係とは異なる関係になりそうで、注目しています。これまで一条帝からほとんど相手にされていなかった彰子は、火事を契機に一条帝との距離を多少は詰めたようです。ただ、それでもまだ両者の間の溝は深いようで、紫式部が彰子に仕えることで、両者の関係がどのように変わっていくのかも注目されます。火事は伊周を陣定に復帰させたことが原因だ、と公卿は噂するようになり、東宮の居貞親王(三条帝)は、一条帝が失政の責任を取って早く退位するよう願い、道長にもそれを隠そうとしません。居貞親王はこれまで出番が少ないものの、野心家なところを度々見せており、なかなか強烈な人物造形になっていると思います。終盤は、道長と三条帝の対立を中心に政治劇が展開するのかもしれません。

 安倍晴明は今回で退場となります。本作の安倍晴明は、初回冒頭から登場するなど重要な役割を担っており、胡散臭さ全開でした。安倍晴明は死期を悟り、道長を呼び、今後の道長の栄光を伝えるとともに、光が強くなれば、それだけ闇が深くなる、と忠告します。これが今後の展開でどのような意味を有するのか、まだ分かりませんが、伊周による道長に対する呪詛など、道長を深く恨む者による復讐に限らず、道長自身やその近親が「暗黒面」に陥り、権力や栄達をひたすら望むようになるのでしょうか。

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