野生アフリカゾウの「名前」での呼びかけ

 野生アフリカゾウ(Loxodonta africana)の「名前」での呼びかけに関する研究(Pardo et al., 2024)が公表されました。個体名はヒト系統の普遍的特徴ですが、他の種には類例がほとんど存在しません。非ヒト動物では、イルカやオウムは相手の呼びかけを模倣して同種に呼びかけるのに対して、ヒトの名前は名指しされた個体が通常発する音の模倣ではありません。対象が発する音の模倣に依拠せず対象もしくは個体を分類することは、言語の表現力を根本的に拡大します。したがって、他種で模倣ではない名前の類似体が発見されれば、これは言語の進化を理解するうえで重要な意味を有するかもしれません。

 本論文は、野生アフリカゾウがおそらくは受け手の模倣に依拠せず、個々に特有の呼びかけで互いに呼び合う、という証拠を提示します。本論文は、1986~2022年にケニアのアンボセリ国立公園とサンブル国立保護区とバッファロー・スプリングス国立保護区において、野生のアフリカゾウの雌と仔の群れで発せられた「ランブル」と呼ばれる長い重低音の呼び声の録音469件に基づき、機械学習を用いて、呼びかけの受け手が、呼びかけが受け手の発声にどれだけ類似しているのかに関わらず、呼びかけの音響構造から予測できる、と論証します。機械学習モデルは、これらの呼び声の27.5%の受け手を正しく特定しており、これはモデルに対照音声を供給した場合に受け手が検出される割合を上回っていました。ゾウは呼び掛ける相手が発する音声の模倣に依拠しない、個体特有の呼び方を使って、互いに呼び合っている可能性があります。

 さらに、17頭の野生のゾウでは、ゾウは自分への呼びかけの再生に対して、異なる個体への呼びかけとは異なる反応をしました。より具体的には、もともと自分に向けて発せられた呼び声の録音が再生されると、他個体に向けて発せられた呼びかけの場合と比べて、より俊敏にスピーカーへと接近し、音声による応答も多い、と示されました。本論文の調査結果は、ゾウにおける同種の個体への呼びかけの証拠を提起します。さらに、他の非ヒト動物とは異なり、ゾウはおそらく、相互の呼びかけのため受け手の呼びかけの模倣に依拠しない、と示唆されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


動物学:アフリカゾウは名前のような呼び方で互いを呼び合う

 野生のアフリカゾウ(Loxodonta africana)はヒトが使う個人の名前のような呼び方で互いを呼び合っているとみられ、これは呼び掛ける相手が発する音声を真似たものではなさそうであることを示した新たな論文が、Nature Ecology & Evolutionに掲載される。

 イルカやオウムのような非ヒト動物種は、呼び掛ける相手が発する音声を真似て互いに呼び合うことが観察されているが、名前を使って互いに呼び合うことが知られているのはヒトだけである。

 今回、Michael Pardoらは、1986~2022年にケニアのアンボセリ国立公園、サンブル国立保護区、およびバッファロー・スプリングス国立保護区において、野生のアフリカゾウの雌と仔の群れで発せられた「ランブル」と呼ばれる長い重低音の呼び声の録音469件を、機械学習法を用いて解析した。機械学習モデルは、これらの呼び声の27.5%の受け手を正しく特定しており、Pardoらによれば、これはモデルに対照音声を供給した場合に受け手が検出される割合を上回っていたという。Pardoらは、ゾウは呼び掛ける相手が発する音声の模倣によらない、個体特有の呼び方を使って、互いに呼び合っている可能性があると示唆している。

 Pardoらはまた、17頭の野生のゾウについて、もともと自分に向けて発せられた呼び声か他個体に向けて発せられた呼び声のいずれかの録音に対する反応を比較した。その結果、ゾウは、もともと自分に向けて発せられた呼び声の録音が再生されると、他個体に向けて発せられた呼び声の場合と比べて、より俊敏にスピーカーへと接近し、音声による応答も多いことが明らかになった。このことは、ゾウが自分に向けて発せられる個体別の呼び方を認識していることを示唆している。

 Pardoらは、ゾウが名前のような呼び方を使う状況を調べるためには、さらなる研究が必要であることを示唆するとともに、それが分かれば、ヒトとゾウの両種におけるこうした呼び方の起源を明らかにするのに役立つのではないかという考えを示している。



参考文献:
Pardo MA. et al.(2024): African elephants address one another with individually specific name-like calls. Nature Ecology & Evolution, 8, 7, 1353–1364.
https://doi.org/10.1038/s41559-024-02420-w

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