ストーンヘンジの祭壇石の産地(追記有)
ストーンヘンジ(Stonehenge)の祭壇石の産地に関する研究(Clarke et al., 2024)が公表されました。ストーンヘンジはイングランドのウィルトシャーのソールズベリー平原に位置する、イギリスにおける最大級の後期新石器時代~青銅器時代にかけての墓地遺跡で、世界的に有名な観光地にもなっています。ストーンヘンジに関しては、建造物だけではなく被葬者の研究も進んでおり、同位体分析による被葬者の出身地推定(関連記事)や古代ゲノム解析(関連記事)が行なわれています。新石器時代のヨーロッパでは広範に、巨石文化が見られます(関連記事)。
ストーンヘンジの、新石器時代の環状列石(ストーンサークル)に用いられている巨石の起源を解明することは、先史時代ブリテンの文化と接続性に関する知見をもたらします。ストーンヘンジの構造物はおもに2種類の石から構成されており、一方はマールボロ近郊から約25km離れた場所に由来するサーセン石、もう一方はウェールズに由来するブルーストーンです。しかし、ストーンヘンジで最大となる中心に横置きされた重量6トンの砂岩の巨石である祭壇石の産地はこれまで不明で、最近の研究でアングロウェルシュ(Anglo-Welsh)盆地起源は否定されています。
本論文は、祭壇石の砕片の内部から得た砕屑性のジルコン粒子、燐灰石(アパタイト)粒子、金紅石(ルチル)粒子の年代と化学的性質を報告します。祭壇石の破片に含まれる砕屑性ジルコンは大部分が中原生代(約16億~10億年前)および太古代(約40億~25億年前)のものから構成されているのに対して、金紅石と燐灰石は中期オルドビス紀(約4億7000万~4億5800万年前)のものが支配的でした。これらの粒子年代は、グランピアン(約4億6000万年前)の火成活動によってオーバープリントされたローレンシアの根源的な結晶化地域に由来することを示しています。
ブリテン島およびアイルランド島全域の堆積物パッケージに対する砕屑年代の比較からは、スコットランド北東部のオルカディアン盆地(Orcadian Basin)の旧赤色砂岩との顕著な類似性が明らかになりました。こうした起源は、重さ6トンに達する成形岩塊であるこの祭壇石が、現在地から少なくとも750km離れた場所に産したことを意味しています。そうした巨大な積み荷を、スコットランドから地形的な障壁を乗り越えて長距離にわたり陸上輸送することは困難であるため、この巨石は海上輸送されたと考えられます。そうした経路決定は、新石器時代のブリテン島内の輸送を伴う、高度な社会組織を示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
考古学:ストーンヘンジの祭壇石はスコットランドを起源としているかもしれない
ストーンヘンジの祭壇石(アルターストーン)は、スコットランド北東部から出土した可能性があることを示唆する分析結果を報告する論文が、Nature に掲載される。この発見は、先史時代のイギリスの文化とつながりについてさらなる洞察を与え、高度な社会組織を示唆している。
イングランド南西部にある新石器時代のストーンヘンジ遺跡のこれまでの分析から、ストーンサークルの建設に使われた石材は主に2種類であることが判明している。サーセン石はマールボロ近くのウエスト・ウッズ(約25キロメートル離れている)から供給され、また、ウェールズが起源のものを含むブルーストーンが使用されている。祭壇石は、ブルーストーン巨石の中で最も大きなもので、その起源は不明だが、これまでの研究ではアングロ・ウェールズを起源とする説は否定されている。
Anthony Clarkeらは、祭壇石の2つの破片から採取したジルコン、アパタイト、ルチルの粒子の年代と化学組成を分析した。破片のジルコンの大部分は、中原生代(Mesoproterozoic;約16億-10億年前)と太古代(Archaean;約40億-25億年前)に由来するものであったが、アパタイトとルチルの大部分は中期オルドビス紀(mid-Ordovician;4億7,000万-4億5,800万年前)に由来するものであった。さらに、イギリスとアイルランドの堆積物と年代を比較したところ、スコットランド北東部のオルカディアン盆地(Orcadian Basin)の旧赤色砂岩(Old Red Sandstone)との著しい類似性が見られ、祭壇石の起源である可能性があると著者らは提案している。このことは、祭壇石が最終的に配置された場所から750キロメートルほど離れた場所で産出されたことを示唆している。著者らは、当時の地形やイギリスの森林地帯の性質から、陸上輸送は困難であっただろうと指摘している。また、著者らは、石はスコットランド北東部からいイギリス南部へ海路で運ばれた可能性があると提案している。
これらの発見は、新石器時代のイギリスにおいて、長距離輸送を可能にする高度な社会組織が存在したことを示唆している、と著者らは結論づけている。
考古学:ストーンヘンジの祭壇石のスコットランド起源
Cover Story:巨石の移動:ストーンヘンジの祭壇石のスコットランド起源から示唆される新石器時代ブリテンの社会組織
ストーンヘンジの歴史には多くの疑問があるが、とりわけ、全ての石がどこから来たのか、そしてどのようにしてそこに運ばれたのかという謎がある。この新石器時代の構造物は、主に2種類の石から構成されている。1つは、マールボロ近郊から約25 km離れた場所に由来するサーセン石、もう1つは、ウェールズに由来するブルーストーンである。しかし、この遺跡にあるブルーストーンの中で最大のものは重さ6トンの祭壇石だが、これだけは例外で、ウェールズ由来でないことが示されている。今回A Clarkeたちは、この祭壇石が、はるばるスコットランドからおよそ750 kmもの距離を移動してきた可能性が高いことを明らかにしている。彼らは祭壇石の2つの破片を分析し、スコットランド北東部のオルカディアン盆地の旧赤色砂岩との顕著な類似性を発見した。研究チームは、この巨石が海路で運ばれた可能性があると提案しており、これは、新石器時代のブリテンには相当なレベルの社会組織が存在していたことを示唆している。
参考文献:
Clarke AJI. et al.(2024): A Scottish provenance for the Altar Stone of Stonehenge. Nature, 632, 8025, 570–575.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07652-1
追記(2024年8月19日)
ナショナルジオグラフィックで報道されました。
ストーンヘンジの、新石器時代の環状列石(ストーンサークル)に用いられている巨石の起源を解明することは、先史時代ブリテンの文化と接続性に関する知見をもたらします。ストーンヘンジの構造物はおもに2種類の石から構成されており、一方はマールボロ近郊から約25km離れた場所に由来するサーセン石、もう一方はウェールズに由来するブルーストーンです。しかし、ストーンヘンジで最大となる中心に横置きされた重量6トンの砂岩の巨石である祭壇石の産地はこれまで不明で、最近の研究でアングロウェルシュ(Anglo-Welsh)盆地起源は否定されています。
本論文は、祭壇石の砕片の内部から得た砕屑性のジルコン粒子、燐灰石(アパタイト)粒子、金紅石(ルチル)粒子の年代と化学的性質を報告します。祭壇石の破片に含まれる砕屑性ジルコンは大部分が中原生代(約16億~10億年前)および太古代(約40億~25億年前)のものから構成されているのに対して、金紅石と燐灰石は中期オルドビス紀(約4億7000万~4億5800万年前)のものが支配的でした。これらの粒子年代は、グランピアン(約4億6000万年前)の火成活動によってオーバープリントされたローレンシアの根源的な結晶化地域に由来することを示しています。
ブリテン島およびアイルランド島全域の堆積物パッケージに対する砕屑年代の比較からは、スコットランド北東部のオルカディアン盆地(Orcadian Basin)の旧赤色砂岩との顕著な類似性が明らかになりました。こうした起源は、重さ6トンに達する成形岩塊であるこの祭壇石が、現在地から少なくとも750km離れた場所に産したことを意味しています。そうした巨大な積み荷を、スコットランドから地形的な障壁を乗り越えて長距離にわたり陸上輸送することは困難であるため、この巨石は海上輸送されたと考えられます。そうした経路決定は、新石器時代のブリテン島内の輸送を伴う、高度な社会組織を示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
考古学:ストーンヘンジの祭壇石はスコットランドを起源としているかもしれない
ストーンヘンジの祭壇石(アルターストーン)は、スコットランド北東部から出土した可能性があることを示唆する分析結果を報告する論文が、Nature に掲載される。この発見は、先史時代のイギリスの文化とつながりについてさらなる洞察を与え、高度な社会組織を示唆している。
イングランド南西部にある新石器時代のストーンヘンジ遺跡のこれまでの分析から、ストーンサークルの建設に使われた石材は主に2種類であることが判明している。サーセン石はマールボロ近くのウエスト・ウッズ(約25キロメートル離れている)から供給され、また、ウェールズが起源のものを含むブルーストーンが使用されている。祭壇石は、ブルーストーン巨石の中で最も大きなもので、その起源は不明だが、これまでの研究ではアングロ・ウェールズを起源とする説は否定されている。
Anthony Clarkeらは、祭壇石の2つの破片から採取したジルコン、アパタイト、ルチルの粒子の年代と化学組成を分析した。破片のジルコンの大部分は、中原生代(Mesoproterozoic;約16億-10億年前)と太古代(Archaean;約40億-25億年前)に由来するものであったが、アパタイトとルチルの大部分は中期オルドビス紀(mid-Ordovician;4億7,000万-4億5,800万年前)に由来するものであった。さらに、イギリスとアイルランドの堆積物と年代を比較したところ、スコットランド北東部のオルカディアン盆地(Orcadian Basin)の旧赤色砂岩(Old Red Sandstone)との著しい類似性が見られ、祭壇石の起源である可能性があると著者らは提案している。このことは、祭壇石が最終的に配置された場所から750キロメートルほど離れた場所で産出されたことを示唆している。著者らは、当時の地形やイギリスの森林地帯の性質から、陸上輸送は困難であっただろうと指摘している。また、著者らは、石はスコットランド北東部からいイギリス南部へ海路で運ばれた可能性があると提案している。
これらの発見は、新石器時代のイギリスにおいて、長距離輸送を可能にする高度な社会組織が存在したことを示唆している、と著者らは結論づけている。
考古学:ストーンヘンジの祭壇石のスコットランド起源
Cover Story:巨石の移動:ストーンヘンジの祭壇石のスコットランド起源から示唆される新石器時代ブリテンの社会組織
ストーンヘンジの歴史には多くの疑問があるが、とりわけ、全ての石がどこから来たのか、そしてどのようにしてそこに運ばれたのかという謎がある。この新石器時代の構造物は、主に2種類の石から構成されている。1つは、マールボロ近郊から約25 km離れた場所に由来するサーセン石、もう1つは、ウェールズに由来するブルーストーンである。しかし、この遺跡にあるブルーストーンの中で最大のものは重さ6トンの祭壇石だが、これだけは例外で、ウェールズ由来でないことが示されている。今回A Clarkeたちは、この祭壇石が、はるばるスコットランドからおよそ750 kmもの距離を移動してきた可能性が高いことを明らかにしている。彼らは祭壇石の2つの破片を分析し、スコットランド北東部のオルカディアン盆地の旧赤色砂岩との顕著な類似性を発見した。研究チームは、この巨石が海路で運ばれた可能性があると提案しており、これは、新石器時代のブリテンには相当なレベルの社会組織が存在していたことを示唆している。
参考文献:
Clarke AJI. et al.(2024): A Scottish provenance for the Altar Stone of Stonehenge. Nature, 632, 8025, 570–575.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07652-1
追記(2024年8月19日)
ナショナルジオグラフィックで報道されました。
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