氷河の後退で出現した陸上生態系の発達

 氷河の後退で出現した陸上生態系の発達に関する研究(Ficetola et al., 2024)が公表されました。氷河の全球的な後退は山岳および高緯度地域の景観を劇的に変化させつつあり、一見不毛な土地から新たな生態系が発達しています。こうした新たに出現した生態系に関する研究は、気候変動が微小生息地や生物群集とどのように相互作用し、氷の消えた地域の未来をどのように決定づけるのか、理解するのに不可欠です。

 本論文は、世界各地の46ヶ所の氷河前縁景観にわたる生態系の網羅的特性評価(土壌特性、微気候、生産力、環境DNAメタバーコーディングによる生物多様性)を用いることにより、全ての環境特性が氷河の後退以降に経時的に変化すること、および、温度が土壌栄養素の蓄積を調節していることを明らかにしました。細菌や菌類や植物や動物の豊富さは、退氷以降に経時的に増加しますが、それらの時間的パターンは一様ではありませんでした。

 微生物の定着は氷河後退後の最初の数十年で最も急速であったのに対して、その他の生物(維管束植物および動物)では、その大半が定着により長い時間を要しました。生息地の適性の向上と生物の相互作用の複雑化と経時的に進行する定着はいずれも、経時的な生物多様性の増大に寄与していました。また、こうした過程はあらゆる生物群の群集組成を変化させ、植物群落は他の全ての生物多様性要素と正の関係を示し、生態系の発達で重要な役割を担っていました。

 こうした統一的なパターンは、退氷を受けた地域の初期の動態に関して新たな知見をもたらすとともに、それらのさまざまな環境特性に関する統合的な調査の必要性を浮き彫りにしています。本論文は、現在進行中の温暖化への対策の基礎的知見を提供するとともに、氷期と間氷期の繰り返しを経てきた人類の拡散と絶滅と進化に関する研究にも重要な知見をもたらすかもしれず、人類進化の観点からも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


生態学:氷河の後退で出現した陸上生態系の発達

生態学:退氷後に出現する新たな生態系が発達する仕組み

 今回、世界各地の46の氷河前縁景観を分析した研究で、好適な生息地の増加を原動力として動植物や微生物の生物多様性が経時的に高まることが示され、氷河後退後の生物定着に関する統一的なパターンが明らかになった。



参考文献:
Ficetola GF. et al.(2024): The development of terrestrial ecosystems emerging after glacier retreat. Nature, 632, 8024, 336–342.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07778-2

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