現代人の遺伝子発現の差異

 現代人の遺伝子発現の差異に関する研究(Taylor et al., 2024)が公表されました。遺伝子発現やスプライシングに影響を及ぼす遺伝的多様性は、表現型の多様性の重要な要因です。これらの結びつきをヒトにおいて調べる研究はひじょうに貴重ですが、参加者がヨーロッパ系に大きく偏っているため、これが一般化の制約となり、進化研究を妨げています。本論文は、これらの制約に対処するために、1000人ゲノム計画の731人(5大陸集団に含まれる26人口集団にまたがります)に由来するリンパ芽球様細胞株についての、公開RNA塩基配列解読データセットであるMAGEを開発しました。

 遺伝子発現(92%)とスプライシング(95%)の大部分の多様性は、集団間よりも集団内に分布しており、これはDNA塩基配列の多様性を反映していました。本論文は、遺伝的多様体と、近傍遺伝子の発現、つまりシスのeQTL(expression quantitative trait loci、発現量的形質座位)や、スプライシング、つまりシスのスプライシングQTL(sQTL)との間の関連をマッピングした。その結果、15000を超える推定の原因eQTLと、16000を超える推定の原因sQTLが特定され、これらには関係するエピゲノム痕跡が豊富に見られました。

 これらのうち、1310のeQTLsと1657のsQTLsは、おもに過小評価集団に固有のものです。本論文のデータはさらに、原因eQTL効果の規模と方向性が集団間でひじょうに一貫していることを示しています。また、これまでの研究で観察された見かけの「集団特異的」効果の大部分は、検出されなかった同一遺伝子内の、低解像度または別の独立したeQTLによっておもに駆動されていました。まとめると、本論文はヒト遺伝子発現の多様性についての理解を深め、ヒトゲノムの進化と機能を研究するための包括的な情報資源となります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


遺伝学:世界的に多様なヒトコホートにおける遺伝子発現の多様性の要因

遺伝学:複数の祖先系集団での世界的な遺伝子発現解析のオープンアクセスデータセット

 今回、1000ゲノムプロジェクトの731人について、RNA塩基配列解読(RNA-seq)データの情報資源であるMAGE(Multi-ancestry Analysis of Gene Expression)が、遺伝子発現における祖先系依存的な多様性の解析結果と共に報告されている。



参考文献:
Taylor DJ. et al.(2024): Sources of gene expression variation in a globally diverse human cohort. Nature, 632, 8023, 122–130.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07708-2

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