『卑弥呼』第133話「風聞」
『ビッグコミックオリジナル』2024年7月20日号掲載分の感想です。前回は、馬韓の蘇塗(ソト)の邑で、ヤノハがゴリに、公孫淵がいかに嘘の上手い人物としても、自分ほどではないだろうと自負したところで終了しました。今回は、山社国(ヤマトノクニ)の聖地である山社(ヤマト)で、ヤノハが韓(カラ、朝鮮半島)国に発ってから70日を経過し、ミマト将軍とその子供であるイクメおよびミマアキが、ヤノハを案じている場面から始まります。三人には、ヤノハに関する報告が届いていました。津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)から戻ったククリは、ヤノハが津島国のアビル王を倒し、韓国の加羅(伽耶)に上陸した、との報告がありました。ヤノハ一行が弁韓を通過して馬韓に入った、とのその後のヤノハの動向も山社に報告されており、数日前に加羅より戻った者からは、馬韓の湖南(コナム)国の王を討った、との情報が伝えられていました。ミマト将軍は、ヤノハが戦を好まないことから、単なる噂だろうと考え、イクメも同意します。韓国に住む倭人は幾度も叛乱を起こしており、湖南国で倭人集団が首尾よく王を討った、という話に尾ひれがついたのだろう、とイクメは推測します。ミマアキは、ヤノハがどこまで進むのか、案じていました。このまま魏まで進むのではないか、というわけです。ヤノハとトメ将軍なら不可能ではないだろうが、そこまでやらないだろう、とミマト将軍は考えています。暈(クマ)国の大夫である鞠智彦(ククチヒコ)が新たな日見子(ヒミコ)もしくは日見彦(ヒミヒコ)を選ぼうとしている、とミマアキは情報を得ており、ヤノハにはいち早く帰還してもらいたい、と考えています。イクメは、大陸の冬が厳しいと聞いていることから、ヤノハの身を案じます。
日下(ヒノモト)国の軽(カル)では、新王のビビ(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)が、叔母のモモソおよび吉備津彦(キビツヒコ)と名乗っている叔父のイサセリを呼び出していました。ビビ王は二人に、春日の率川(イザカワ)に都を移そうと考えている、と提案します。イサセリは、軽の都がまだ完成していないのに遷都することに困惑します。するとビビ王は、父親のクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)が妙な死に方をしたので、軽は縁起が悪いのではないか、と理由を説明します。モモソは笑顔で、ビビ王の遷都案に同意します。ビビ王は、山社の日見子(ヤノハ)の噂が自分にも届いており、山社軍が弁韓と馬韓と辰韓を統一した、との噂が本当なのか、モモソとイサセリに尋ねます。するとイサセリは、それはあり得ず、おそらくヤノハとは関係のない韓国の倭人の仕業だろう、と答えて、モモソも同意します。しかし、根も葉もないうわさなどないだろう、とビビ王は指摘します。少なくとも、ヤノハが韓国で何か行動を起こし、首尾よくいったことは疑いようがないのではないか、とイサセリに問いかけ、イサセリも同意します。ヤノハが海外で落命すればよいのに、と願うビビ王に対して、ヤノハが無事帰還した場合、日下にとってますます捨て置けない存在になる、と懸念します。ビビ王は、そうなると、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)と日下の間に立ちはだかる出雲をどうするかが喫緊の課題になる、と思案します。つまり、事代主(コトシロヌシ)を殺すか、和議を結ぶか、というわけですが、イサセリは自分にまかせてもらいたい、と要請し、ビビ王は認めます。ビビ王はさらに、山社の日見子が魏と呉と蜀のどこかと同盟を結んだ場合、倭国情勢はどう変化するのか、とイサセリおよびモモソに尋ねます。するとイサセリは、倭は中土(中華地域のことでしょう)に千年遅れた国なので、同盟はあり得ない、と答え、モモソも、山社にできることはせいぜい、魏か呉か蜀の属国になることだ、と指摘します。三国のいずれも日見子(ヤノハ)訪問の返礼として、倭に使者を派遣することなどないだろう、とのイサセリの判断を聞いたビビ王は、山社に三国のどこかが援軍を贈ることは絶対にないのだな、とイサセリに念押しし、イサセリは同意します。するとビビ王は、では、山社の日見子(ヤノハ)があがいている間に、倭国統一に励もう、との方針を示し、イサセリとモモソは同意したようです。
金砂(カナスナ)国の聖地である出雲では、吉備津彦(イサセリ)から届けられた文を、シラヒコが事代主に渡していました。事代主は、どうせモモソとの縁談話で、従わなければ挙兵する、と脅しているのだろう、と言って、もっと面白い話はないのか、とシラヒコに尋ねます。するとシラヒコは、数日前に加羅より帰還したものから聞いた話では、日見子様(ヤノハ)は本当に渡海したようで、数日で馬韓を征服した、と答えますが、事代主は、渡海ならやりそうだが、馬韓の征服には懐疑的です。シラヒコは、噂にすぎないかもしれないが、ヤノハは戦上手なので、つい信じてしまう、と言います。事代主は、ヤノハがやがて中土に使節を贈るつもりなのだろう、と推測します。ヤノハは、倭王の称号を得て、三国のどこかを後ろ盾につけ、日下を牽制するつもりなのだろう、というわけです。するとシラヒコは、そんな大層な計画は、いかにヤノハでも成功するとはおもえない、と懸念しますが、ヤノハ着々と事を運ぶので、少なくとも一歩目、つまり中土と馬韓の間に立ちはだかる公孫淵に会い、その顔を見ることは成し遂げるだろう、と予測します。
馬韓では、雪が降り積もる厳しい寒さの中を、ヤノハ一行が進んでおり、ゴリも同行していました。月支(ゲッシ)国に近づくと、ヤノハはゴリに、辰国(シンノクニ)の王は月支国の王でもあるのか、と尋ねます。するとゴリは、月支国の王は別におり、辰王とは、馬韓と弁韓と辰韓がかつて辰という一国だった時の王家の血筋だ、と答えます。各国の王の上に立ちながら、政治には口を出さない立場だ、とゴリから聞いたヤノハは、そういう統治方法もあるのか、と関心を抱いたようです。月支国に入り、ゴリがヤノハに月支国の王の住居を示し、その向こうにあるのが辰王の宮殿だ、と説明します。この住居は中土の高貴な者の館と同じ造りのようで、公孫一族がわざわざ大工を差し向けて辰王に賜ったらしい、とゴリから聞いたヤノハが、公孫一族と辰王は良好な関係なのだな、と言うと、皆がそう思っているが、辰王は賢い人なので、公孫淵の三韓征服の野望を見抜き、密かに阻止しようと考えている、とゴリはヤノハに伝えます。その辰王の強力な隠し刀の一人が倭人のゴリで、湖南王を追放した手腕には感服した、とヤノハはゴリに語り掛けます。辰王は日見子様(ヤノハ)のことも、何をしたいのかも知っており、通行手形を渡されるときに良い助言も得られるだろう、とゴリはヤノハに説明します。賢人の話を聞くのは自分の最大の喜びだ、とヤノハが語るところで今回は終了です。
今回は、ヤノハの朝鮮半島での動向と、それをめぐる山社と日下と出雲の思惑が描かれました。山社はもちろん出雲でも、ヤノハの身を案じつつ、その知恵と勇気と大胆な行動から、大きな成果があるのではないか、との期待が窺え、一方で日下にとっては、ヤノハに対する認識は基本的に同じであるものの、敵対しており、妥当しなければならない相手だけに、その動向を警戒しています。ただ、日下ではヤノハのことは直接的には知られていないため、結果論では、魏か呉か蜀のいずれかが山社に使者を派遣することはないだろう、との予測は希望的観測だった、と言えるかもしれません。まあ、ヤノハによる魏への遣使と、魏から倭国への使者の派遣が描かれるのは、随分先になりそうですが。ヤノハが、各国の王の上に立ちながら、政治には口を出さない立場について関心を抱いたと思われることも注目され、これは、日見子としてのヤノハの立場が、筑紫島の暈国を除く諸国の上にあることと似ているからでしょう。ヤノハは、賢人とされる辰王と面会し、公孫一族への対処や魏との通交だけではなく、山社連合の統治についても、有用な助言を得るのかもしれません。辰王がどのような人物で、ヤノハが辰王から何を学ぶのか、たいへん楽しみです。
日下(ヒノモト)国の軽(カル)では、新王のビビ(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)が、叔母のモモソおよび吉備津彦(キビツヒコ)と名乗っている叔父のイサセリを呼び出していました。ビビ王は二人に、春日の率川(イザカワ)に都を移そうと考えている、と提案します。イサセリは、軽の都がまだ完成していないのに遷都することに困惑します。するとビビ王は、父親のクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)が妙な死に方をしたので、軽は縁起が悪いのではないか、と理由を説明します。モモソは笑顔で、ビビ王の遷都案に同意します。ビビ王は、山社の日見子(ヤノハ)の噂が自分にも届いており、山社軍が弁韓と馬韓と辰韓を統一した、との噂が本当なのか、モモソとイサセリに尋ねます。するとイサセリは、それはあり得ず、おそらくヤノハとは関係のない韓国の倭人の仕業だろう、と答えて、モモソも同意します。しかし、根も葉もないうわさなどないだろう、とビビ王は指摘します。少なくとも、ヤノハが韓国で何か行動を起こし、首尾よくいったことは疑いようがないのではないか、とイサセリに問いかけ、イサセリも同意します。ヤノハが海外で落命すればよいのに、と願うビビ王に対して、ヤノハが無事帰還した場合、日下にとってますます捨て置けない存在になる、と懸念します。ビビ王は、そうなると、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)と日下の間に立ちはだかる出雲をどうするかが喫緊の課題になる、と思案します。つまり、事代主(コトシロヌシ)を殺すか、和議を結ぶか、というわけですが、イサセリは自分にまかせてもらいたい、と要請し、ビビ王は認めます。ビビ王はさらに、山社の日見子が魏と呉と蜀のどこかと同盟を結んだ場合、倭国情勢はどう変化するのか、とイサセリおよびモモソに尋ねます。するとイサセリは、倭は中土(中華地域のことでしょう)に千年遅れた国なので、同盟はあり得ない、と答え、モモソも、山社にできることはせいぜい、魏か呉か蜀の属国になることだ、と指摘します。三国のいずれも日見子(ヤノハ)訪問の返礼として、倭に使者を派遣することなどないだろう、とのイサセリの判断を聞いたビビ王は、山社に三国のどこかが援軍を贈ることは絶対にないのだな、とイサセリに念押しし、イサセリは同意します。するとビビ王は、では、山社の日見子(ヤノハ)があがいている間に、倭国統一に励もう、との方針を示し、イサセリとモモソは同意したようです。
金砂(カナスナ)国の聖地である出雲では、吉備津彦(イサセリ)から届けられた文を、シラヒコが事代主に渡していました。事代主は、どうせモモソとの縁談話で、従わなければ挙兵する、と脅しているのだろう、と言って、もっと面白い話はないのか、とシラヒコに尋ねます。するとシラヒコは、数日前に加羅より帰還したものから聞いた話では、日見子様(ヤノハ)は本当に渡海したようで、数日で馬韓を征服した、と答えますが、事代主は、渡海ならやりそうだが、馬韓の征服には懐疑的です。シラヒコは、噂にすぎないかもしれないが、ヤノハは戦上手なので、つい信じてしまう、と言います。事代主は、ヤノハがやがて中土に使節を贈るつもりなのだろう、と推測します。ヤノハは、倭王の称号を得て、三国のどこかを後ろ盾につけ、日下を牽制するつもりなのだろう、というわけです。するとシラヒコは、そんな大層な計画は、いかにヤノハでも成功するとはおもえない、と懸念しますが、ヤノハ着々と事を運ぶので、少なくとも一歩目、つまり中土と馬韓の間に立ちはだかる公孫淵に会い、その顔を見ることは成し遂げるだろう、と予測します。
馬韓では、雪が降り積もる厳しい寒さの中を、ヤノハ一行が進んでおり、ゴリも同行していました。月支(ゲッシ)国に近づくと、ヤノハはゴリに、辰国(シンノクニ)の王は月支国の王でもあるのか、と尋ねます。するとゴリは、月支国の王は別におり、辰王とは、馬韓と弁韓と辰韓がかつて辰という一国だった時の王家の血筋だ、と答えます。各国の王の上に立ちながら、政治には口を出さない立場だ、とゴリから聞いたヤノハは、そういう統治方法もあるのか、と関心を抱いたようです。月支国に入り、ゴリがヤノハに月支国の王の住居を示し、その向こうにあるのが辰王の宮殿だ、と説明します。この住居は中土の高貴な者の館と同じ造りのようで、公孫一族がわざわざ大工を差し向けて辰王に賜ったらしい、とゴリから聞いたヤノハが、公孫一族と辰王は良好な関係なのだな、と言うと、皆がそう思っているが、辰王は賢い人なので、公孫淵の三韓征服の野望を見抜き、密かに阻止しようと考えている、とゴリはヤノハに伝えます。その辰王の強力な隠し刀の一人が倭人のゴリで、湖南王を追放した手腕には感服した、とヤノハはゴリに語り掛けます。辰王は日見子様(ヤノハ)のことも、何をしたいのかも知っており、通行手形を渡されるときに良い助言も得られるだろう、とゴリはヤノハに説明します。賢人の話を聞くのは自分の最大の喜びだ、とヤノハが語るところで今回は終了です。
今回は、ヤノハの朝鮮半島での動向と、それをめぐる山社と日下と出雲の思惑が描かれました。山社はもちろん出雲でも、ヤノハの身を案じつつ、その知恵と勇気と大胆な行動から、大きな成果があるのではないか、との期待が窺え、一方で日下にとっては、ヤノハに対する認識は基本的に同じであるものの、敵対しており、妥当しなければならない相手だけに、その動向を警戒しています。ただ、日下ではヤノハのことは直接的には知られていないため、結果論では、魏か呉か蜀のいずれかが山社に使者を派遣することはないだろう、との予測は希望的観測だった、と言えるかもしれません。まあ、ヤノハによる魏への遣使と、魏から倭国への使者の派遣が描かれるのは、随分先になりそうですが。ヤノハが、各国の王の上に立ちながら、政治には口を出さない立場について関心を抱いたと思われることも注目され、これは、日見子としてのヤノハの立場が、筑紫島の暈国を除く諸国の上にあることと似ているからでしょう。ヤノハは、賢人とされる辰王と面会し、公孫一族への対処や魏との通交だけではなく、山社連合の統治についても、有用な助言を得るのかもしれません。辰王がどのような人物で、ヤノハが辰王から何を学ぶのか、たいへん楽しみです。
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