綾辻行人『Another』シリーズ

 『Another』と『Another エピソードS』と『Another 2001』はいずれも角川書店からそれぞれ、2009年10月と2013年7月と2020年9月に刊行されました。近年、小説を読むことが本当に少なくなり、小説に限らず映像作品も以前より楽しむ回数が激減し、ゲームは『ウイニングポスト』の体験版を数時間程度やったくらいですから、とくに新作の創作ものに触れる回数が本当に少なくなりました。昔楽しんだ映像作品を再度視聴することは多少あるので、やはり加齢によって新たな創作を楽しむ気力が失われてきたのでしょうか。

 そこで、たまには小説を読もうと思い、好きな分野は伝奇なので、伝奇小説で面白い作品を検索していたら、『Another』シリーズを見つけ、読むことにしました。『Another』はアニメ化も実写映画化もされていますが、検索するまでまったく知らず、自分が世事に疎くなってしまったことを痛感しました。まあ、世事に疎いというか、観測範囲が限定的で偏っていることこそ問題なのかもしれません。この20年間ほど歌番組もほとんど視聴していないため、新曲や新しい歌手もほとんど知らず、昨年(2023年)大晦日に紅白歌合戦を視聴したさいには、知らない歌手が多くて困惑しました。地上波の娯楽番組もほぼ全く視聴しなくなったため、昨年の紅白歌合戦にはお笑い芸人が結構出演していたそうなのですが、その多くを知りませんでした。これも、加齢による気力と体力の衰えのためなのでしょうか。

 本題に戻ると、『Another』シリーズは期待していたような伝奇小説ではありませんでしたが、謎解き要素が多いところは私好みで、ひじょうに楽しめました。読み始めて止まらなくなり、翌日早いのに日付が変わる直前まで読み進めてしまったくらいです。『Another』シリーズは、ホラーとミステリーとサスペンスの性格を合わせ持つ小説と一般的には評価されているようですが、3作とも中学生が主人公ですから、「ジュブナイル小説」的性格が強いように思いました。まあ今では、「ジュブナイル小説」はほぼ死語になっているかもしれませんが。

 『Another』シリーズは、ある中学の3年3組でその昔、優秀で人気のある男子生徒が不慮の事故で死亡し、嘆いた同級生と担任が卒業式までずっと、その男子生徒が生きているかのように振舞っていたことから、その中学の3年3組の生徒と担任およびその近親者(2親等以内)は死に「近づく」、つまり死にやすくなる、という設定になっています。これは恨みによるものではなく、「自然現象」のような「災厄」だ、と作中の人物が推測していますが、過去の3年3組の死者が年度の開始から卒業式まで蘇り、その間は、関連する記録も周囲の人物の記憶もその人物が生きているかのように改竄される、との設定は、単なる恨みや呪いとは違う、新鮮なものだとは思います。この「改竄」の及ぶ範囲がその町に限定されることから、強引に多少なりとも「合理的に」解釈しようとすると、記録自体は改竄されておらず、3年3組の生徒と担任とその関係者にはそう「見えてしまっている」ということでしょうか。

 第1作の『Another』では、この「災厄」の法則を見つけ、対策を取ることに3年3組の生徒と担任とその関係者が試行錯誤し、ついにある「解決作」を見つけ、それが意外な結末につながるわけですが、この結末に関しては随所で伏線があり、上手く構成されているとは思います。しかし、そうした伏線を疑問に思いつつも、「正解」には至りませんでした。ミステリー小説を読み慣れていて勘の鋭い人なら、「正解」に早々とたどり着いたのかもしれませんが。この結末は、小説であればこそ成り立つところもあり、検索したところ、アニメではある人物を演じた声優が別名義でも演じているそうで、結末への配慮がなされているようですが、実写映画ではこの問題をどう演出したのでしょうか。

 『Another エピソードS』は『Another』の本筋から外れたある出来事を描いた作品であるとともに、『Another』と『Another 2001』をつなぐ作品にもなっています。『Another 2001』は、『Another』で判明した「自然現象」の「解決作」に主人公が途中で気づき、それが実現したため、「災厄」が止まったように見えたわけですが、まだ半分程度しか進んでいなかったため、どうなるのかと思っていたら、実は「解決」されておらず、『Another』でも明らかになっていなかった「法則」があると分かり、「災厄」が続き、それをどう解決するのかが、後半の主題となっています。『Another』シリーズはたいへん楽しめましたが、続編の構想もあり、すでに続編の主人公は登場しているようですから(『Another 2001』の主人公である比良塚想の担当精神科医の娘の碓氷希羽でしょうか)、刊行されることを期待しています。

この記事へのコメント