言語理解時の意味の符号化

 言語理解時の意味の符号化を単一細胞分解能で追跡した研究(Jamali et al., 2024)が公表されました。ヒトは、言語音や文字の列から、言語を介して豊かで微妙な差異を含む意味を抽出できます。この能力は、ヒトの意思疎通に必須です。しかし、言語や意味の処理を支える脳領域についての理解が進んだ今でも、細胞水準かつ活動電位の時間規模で言語の意味が神経組織内で抽出される様子は、ほとんど分かっていません。

 この研究は、実験参加者が多様な意味の文章や写実的な物語を聴いているさいに、左側の言語優位前頭前皮質の単一細胞から記録を採取しました。自然な言語の処理中に神経細胞活動を追跡することで、個々の神経細胞による意味情報についての精細な皮質神経表現が見つかりました。これらの神経細胞は、特定の単語の意味に対して選択的に応答し、単語と非単語を確実に識別しました。また、これらの神経細胞の活動は、固定された記憶表現として単語に応答するのではなく、ひじょうに動的で、音声形式に関係なく、特定の文章の文脈に基づいたその単語の意味を反映していました。

 本論文はこれらをまとめて、こうした細胞集団が、音声の受容中に即時に聴きとった単語の広範な意味上の分類をどのように正確に予測するのか、およびその単語の使われた文章をどのように追っていくのか、示します。また本論文は、これらの意味の神経表現の階層的構造がどのように符号化されているのか、そうした表現が細胞集団上でどのように地図化されているのかも示します。今回の知見を総合すると、ヒトにおける意味の神経表現についての詳細な皮質構造が神経細胞規模で明らかになり、言語理解時の細胞水準での意味の処理の解明が始まりました。進化の観点からも注目される研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


認知神経科学:言語理解時の意味の符号化を単一細胞分解能で追う

認知神経科学:言葉の意味を符号化するニューロン

 今回Z Williamsたちは、言語理解の際の言語の意味の神経表現を、個々のニューロンのレベルで明らかにしようとする研究を報告している。



参考文献:
Jamali M. et al.(2024): Semantic encoding during language comprehension at single-cell resolution. Nature, 631, 8021, 610–616.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07572-0

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